期間まだまだあるから大丈夫とサボってた結果がこれだよ!
惑星ウォパル。
最近発見された新惑星で、空がベールのような水の膜でおおわれた不思議な惑星だ。
地表の殆どが海で構成されているその星の、海岸エリア。
穏やかな海と、星粒のような砂浜。
さらには程よい日光が照りつけるリゾート地のようなエリアに、シズクとリィンは降り立った。
「海だー!」
まず一声、シズクの叫びが海の向こうまで響き渡る。
アークスシップでは人工物としてしか見ることのできない『海』に、テンションが上がっているのだろう。
その表情はいつもの数倍活き活きとしていて、まるでクーナと初遭遇したときのようだ。
「わぁ、綺麗ね……」
「うばー、水着買っておけばよかったかなぁ」
シズクが自身の服を撫でながら、残念そうに呟いた。
こんな綺麗な海岸を見せられれば泳ぎたくもなるものだ。
だが……。
「綺麗だけど、遊ぶのは無理そうね」
「うん……」
二人同時に、武器を構える。
海から飛び出るように、巨大な背びれを持った鮫と狼が混じったようなエネミーが現れた。
海王種――アクルプス。
そう呼称される、惑星ウォパル特有の小型エネミーだ。
「ぐるる……」
「こんなのが海に沢山住んでるんじゃあ、遊泳は危険ね」
「うばー……残念」
ばしゃっばしゃっ、と水しぶきを上げて次から次へと海王種が海から飛び出してくる。
その数四体。
数が多くとも、所詮は雑魚エネミーである。
油断しない限り、負けるような敵ではないだろう。
「久しぶりのツーマンセルだね、リィン」
「そうね、腕ならしには丁度いいわ」
リィンが前衛、シズクが後衛。
懐かしきフォーメーションで、戦闘開始だ。
「オーバー――!」
開幕から、リィンの新ソード――アリスティンが光刃を纏った。
広範囲をなぎ払った後、強烈な縦切りを叩き込むフォトンアーツ――『オーバーエンド』だ。
「エンド!」
隙は大きいが、範囲も威力も高いソードの主力PAである。
青い刃が左右に二度なぎ払うように振られ、とどめとばかりにフォトンの刃を叩きつける。
そのたった一発のフォトンアーツで、四匹のアクルプスは蒸発して消えた。
跡には、小粒のようなメセタとコモン武器がドロップアイテムとして落ちているのみである。
「…………」
「…………」
「……えっ」
瞬殺である。
シズクの出番すら無かった。
「……うばっはっは、出番なしとな」
「えーと、ごめん?」
「いや別に謝ることじゃないよ……やっぱもうリィンには難易度ハードは簡単すぎるんかな」
二人が受けたクエストは、海岸地域生態調査の難易度ハード。
新惑星であるウォパルに住む海王種を倒してデータを取るという、ようするにいつものクエストポイント形式のクエストなのだが……。
最早、難易度ハードではリィンにとって『温すぎる』ものになってしまったようだ。
「……でもベリーハードはなぁ、あたしがまだちょい実力不足……」
「シズクの直感は凄いけど、評価項目外だしね……」
「…………」
未だに本気であたしのあれを『凄い直感』だと思ってるのリィンくらいなんだろうなぁ……。
とか考えながら、ドロップ品を回収して先に進みだす。
まだクエストは始まったばかりなのだ。
*****
「…………」
「…………」
「……あのさ」
一時間後。
場所は同じく惑星ウォパル。
辺り一面真っ暗に――ようするに夜になった海岸で黙々とエネミーを狩り続けながら、シズクは言う。
「この惑星、すっごいヘンだね」
「うん?」
シズクの言葉に、リィンは足を止めた。
台詞に驚いたというか、黙々と作業していたときに急に話しかけられてびっくりした感じだ。
「ヘン?」
「うん、なんていうかなー……」
月明かりと星明りだけで照らされた暗闇の中で、シズクの瞳が淡く海色に光っていた。
何と言ったら分かりやすいかを、語彙力を振り絞って表現しようと頑張っているようだ。
「まず、昼夜の間隔が短すぎる。さっきまで真昼間だったのにもう夜中じゃん」
「ああ、それは私も思ったわ」
まだ一時間くらいしか経ってないのにねーっと、リィンは月夜を見上げながら言う。
「でも、それくらいならこの星の特色ってだけじゃない?」
「それだけならね……何よりおかしいのは、出てくるエネミー――海王種がおかしい」
「海王種が? 確かにおかしな生物が多い気も……」
「そうじゃなくて……思わない? なんでこいつらこんなに好戦的なんだって」
「それは……」
まあ、ダーカーの影響じゃない? とリィンが思った瞬間、海中からアクルプスが飛び出した。
こちらを睨みつけながら唸り、威嚇するように吼える。
でも、この程度ならダーカー因子に侵食されたナベリウスの原生種にも見られる反応で……。
「確かに、ダーカーの影響もあるだろうけど……」
武器を構え、撃つ。
見事頭を打ち抜いた弾丸はアクルプスを怯ませ、その隙を突いてリィンがとどめを刺した。
「ダーカー因子っていうのは、感染者の理性を奪い破壊衝動を強める効果があるじゃん?」
「うん、だからダーカー因子感染生物は例え同族だろうと……親兄弟だろうと見境無く破壊を尽くす、でしょ?」
「そうそう。
それだけ。
周囲のものを、一切の区別なく、一切の差別なく破壊しつくすだけ。
そう。
わざわざ自身のテリトリーである海中から、弱体化を余儀なくされる地上へ出てくるまでもなく。
破壊するものなんて海中にいくらでもいる筈なのに。
地上が縄張りというわけでも無い筈なのに。
彼らはアークスが地上を通っていると、過剰なまでに反応して攻撃をしてくる。
「あっ……」
「流石に過剰すぎる……ダーカー因子に侵されてるだけじゃここまでの凶暴性は出ないと思うんだけど……あっ」
話している内に、夜が明けた。
本当に、昼夜の間隔が短い星だ。
『そういう』性質の惑星だと言ってしまえばそこまでなんだけど……。
「……あたしの直感が言ってる、この惑星は『おかしい』」
「…………」
「『そういう』星だからで済ますより、ここが『誰か』の『実験用惑星』で弄繰り回されているとか言われた方がまだ納得できるくらい、自然界の法則に逆らいまくってるよ」
ダーカーが出現している以上、全部が全部ダーカーの所為にできそうだけど。
それこそ、『誰か』が「ダーカーの所為だよ」と言い訳しているような感じがする。
「……じゃあ、どうする? 何か変なことに巻き込まれる前にこの星から退散する?」
「いや、そんな今すぐどうこうなるようなことじゃないだろうし……それに」
地面から突然湧き出た鳳仙花を撃ち抜きながら、シズクは言う。
海色の瞳を、閉じて。
開ける。
「もうここは終わった場所って感じもする」
「終わった場所?」
「うん。だからまあ、普通に探索する分には問題ないと思う」
正直、リィンはシズクの言っていることを理解できたわけではない。
元々シズクの感覚的な話……というかシズクにしか分からない話なのだ。
リィンが完全に理解できる方がおかしいといえるだろう。
でもまあシズクが問題ないっていうなら問題ないんだろうっとリィンはあっさり納得した。
「じゃあまあ、クエストを続けましょうか」
「うん。あと何ポイントだっけ」
「30ポイントね。あと少し、頑張りましょう」
話を変えて、二人は歩き出した。
あと少しでクエストは終わり、だが油断なんてしない。
場を盛り上げて、引っ張ってくれる先輩も。
状況を見極めて、支えてくれる先輩も、今は居ないのだ。
(……失ってみて、分かるなぁ)
シズクは手に持ったガンスラッシュ――ブラオレットを眺めながら、思い返す。
さっき、リィンがオーバーエンドの一発で薙ぎ払ったアクルプスを、ヘッドショットしたにも関わらず怯ませただけに留まったことを。
(防御特化のリィンと比較してもこれってことは……やっぱそういうことだよねぇ)
今までは、防御役のリィン一人に対して攻撃役はシズクとアヤとメイの三人居た。
でもこれからは攻撃役もシズク一人だ。
火力の不足という問題が、はっきりと見えてくる。
「…………」
火力不足を改善する方法は、簡単だ。
武器をより強いものに新調すればいい、そもそもブラオレットというのは初期武器も初期武器。
難易度ノーマルですら最序盤にしか普通使わない代物だ。
なので武器さえ変えれば、シズクの火力不足は大分改善されること間違いなしだろう。
でも。
この、武器は。
この、ブラオレットは。
リィンが、くれたものだから。
思い入れのある、ものだから。
(ていうかそもそもガンスラのレア武器が落ちてくれないからー!)
「よし、これで終わりっと」
トルボンと呼ばれる小型海王種を倒して、クエスト完了。
帰還用のテレパイプが出現したので、それに向かって歩き出す。
こうして【ARK×Drops】としての初クエストは、終わりを迎えたのだった。
余談ですがブラオレットはジグさんにお守り化してもらえばずっと持ち歩くことになるので、『思い出の品』や『大事な人の遺品』として使いやすいよね。
ニョイボウだと見た目ネタ武器っぽいし。