AKABAKO   作:万年レート1000

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あけましておめでとうございます。
去年の正月に暇だから始めた作品がまさか一年続くとは……。



星13

「いーやーだー! いーくー! 壊世区域いくー!」

 

 ゲートエリアに、少女の悲鳴じみた声が響く。

 

 まるで駄々をこねる子供のようなその声の主――シズクを押さえつけながら、リィンもまた叫ぶ。

 

「無理に決まってるでしょ! 私たちにはまだ許可が降りてないの!」

「いーやー! 行く! 絶対行く! マザーシップのデータベースにハッキングしてでも行くー!」

「それこそ不可能でしょうに……よしんば行けたとしても、エネミーに殺されるだけよ!」

「星13が……レア度13が……あたしを、待ってるんだー! うばー!」

 

 さて、何故シズクがこんなにもエキサイトしているのか語らなければなるまい。

 

 時は、遡る。

 

 等と大袈裟に言っては見たものの、事が起こったのはほんの三分前である。

 

 ゲートエリア・チームカウンター前。

 

「はい。これで【ARK×Drops】のチーム登録が完了致しました」

「ありがとうございます」

 

 チームカウンター職員のファーマの一言と共に、シズクとリィンの二人へメールが一通届いた。

 

 内容は、チーム結成完了の通知とチームルームの番号だ。

 これにて正式に、チーム【ARK×Drops】の結成が完了したことになる。

 

「シズク、終わったわよ」

「…………」

「シズク?」

 

 チームリーダーは、暫定的にだがリィンになった。

 ので、シズクはチーム設立の申請をしている間背後で待機していた筈だが、返事がない。

 

「……うばー」

「なんだ、いるじゃない、返事くらいしなさいよ」

 

 振り替えると、シズクは普通に背後にいた。

 なにやら両手に、雑誌型のデータを持って。

 

「何それ……『レアドロマニア特別号』? コレクター用の雑誌ってやつ?」

「じゅうさん……」

「13?」

 

 シズクの開いているページを覗き込む。

 そこは13ページではなく、3ページ目。

 

 つまりは巻頭の、目玉特集のコーナーだ。

 

「星13のレア武器が、壊世区域で目撃されたって……」

「…………貴方、まさか」

「行こう」

 

 クエストカウンターへと歩みを始めようとしたシズクの腕を掴み、止める。

 

 何処へ、など問うまでもないだろう。

 

「ちょ、ちょっとシズク! 待ちなさい! 今日はウォパル行く筈だったでしょう!?」

「止めないでリィン……! あたしは、あたしは壊世区域に行くんだー!」

 

 とまあ、こんな感じで冒頭に戻るのであった。

 

 壊世区域は、エクストラハードすら超える化け物たちの巣窟。

 あのハドレッドを超えるようなエネミーたちがうじゃうじゃと居るのだ。

 

 勿論シズクが行って生きて帰ってこれる場所じゃないし、そもそも渡航許可が出るわけも無い。

 

「騒がしいわね」

 

 公共の場でそんな風に騒ぐ少女二人に、近づく影が一つ。

 

 リィンと同じ色の、青い髪を持った美麗の女性――そう、つまりは。

 

 リィンの姉。

 ライトフロウ・アークライトが声をかけてきた。

 

「うば? 貴女は……」

「ここは公共の場よ。騒がしくするのはマナーが悪いわね」

「…………」

 

 至極当然で常識的なことを説かれているのに、リィンは彼女を睨みつける。

 この姉妹には(一方的にだが)、酷く深い溝があるのだ。

 

「うばば、ごめんなさい……」

「いえ、分かって貰えればいいのよ。ええと……リィンのチームメイトの……」

「……シズクです」

 

 若干、警戒しながらもシズクは答える。

 

 海色の瞳で彼女を見つめてみるも、その意図は分からない。

 

 リィンやハドレッド並みに、この人は『分かり難い』。

 

「シズクちゃんね……(ちまっこくて可愛いわね)」

「?」

「壊世区域に行きたがっていたようだけど、やめといた方がいいわ」

 

 何気安く話しかけてきてるの? と思うリィンであったが、どうやらシズクが壊世区域に行くことを止めようとしてくれているっぽいので口を閉じる。

 

「うば。貴方に指示されるような憶えは無いんですが」

「二人死んだわ」

 

 シズクの言葉を遮って、ライトフロウは言った。

 

「【大日霊貴】のメンバーが、二人。油断も慢心も無く、隙すら無く。ただ正面からエネミーとの戦闘に敗れ二人のメンバーを私たちは失ったの」

「…………!」

 

 シズクとリィンは、驚いたように目を見開く。

 

 【大日霊貴】は、言わずと知れた有名チームである。

 かなり老舗のチームで、一定以上の実力を持つ者しか入隊は許されていない程の強豪チームなのだ。

 

 チームメンバー一人ひとりの実力は、あの【銀楼の翼】すら寄せ付けないだろう。

 

 その、【大日霊貴】のメンバーが、二人壊世区域で殺された。

 

「それ、は……」

「だからやめときなさい、シズクちゃん。貴方が行っても、何もできずに殺されるだけよ」

 

 良く見れば、ライトフロウの服装は以前と違っていた。

 

 黒い――まるで喪服のようなコスチュームに身を包んでいる。

 これから、葬式にでも行くのだろうか。

 

「ほらシズク、この人も言ってるでしょ? 壊世区域にはもっと強くなってから挑めばいいじゃない」

「うばー……」

「じゃ、私はウォパルのクエスト受けてくるから、この人とはなるべく話さず目を合わさず待っててね」

 

 そう言って、リィンはシズクから手を離してクエストカウンターに向かっていった。

 

 徹底して姉には塩対応である。

 善意での接触ですらこれなのだから、さぞやショックだろうとシズクはちらりと姉の表情を伺った。

 

「はぁ……」

 

 彼女は、クエストカウンターに向かって歩く妹を見ながら、ため息を吐いた。

 

 右手を頬に添え、悩ましい吐息を吐いて、光悦の表情を浮かべる。

 

 光悦の表情を、浮かべる。

 

「拙いわね……最近、妹に冷たくされるのが逆に快感になってきたわ……」

「…………」

 

 呟きを聞こえなかったことにして、シズクはゆっくりと彼女から目を逸らす。

 

 するともうクエストの受注は完了したようで、リィンが手招きしているのが目に入った。

 

「それじゃ、失礼します」

 

 ぺこりと一つ礼をして、シズクはリィンの元へ駆けていく。

 

「…………」

 

 その後ろ姿と、目すら合わせようとしない妹を見て、ライトフロウは呟く。

 

「……あの子が、戦技大会の時のパートナーかな?」

 

 さっきまでとは打って変わって、真面目な表情だ。

 こうしていると、絶世の美女にしか見えないのに……残念な姉である。

 

「ふーん……どの戦技大会準優勝の特集記事でもまるで情報が隠蔽されているんじゃないかってくらいリィンのパートナーについては何も書いてなかったけど……」

 

 普通の可愛い女の子にしか見えなかったなぁ、と。

 

 疑問符を浮かべながらその場を立ち去った。

 




短めっ。

次回ウォパル編です。
久々に二人きりでのクエストだなぁ……。

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