あと、エステがあるならシズクのバストサイズもなんとかなるんじゃないかという疑問もあるとは思いますが、そこについては安心してください。
AC消費コンテンツは、基本的に彼女たちが使うことはできません。
それと、チーム名の案を出してくれた方々ありがとうございました。
今回で結果発表です。
「ふぅ……」
ショップエリア・エステ。
その中にある整形用の仮想人体モデリング装置の前で、シズクは額の汗を拭きながら呟く。
「うっばっば……出来てしまった……」
仮想人体モデリング装置。
それは読んで字のごとく人体を仮想空間上で
主な用途は、やはり整形時だろう。
理想の自分を仮想空間上で作り上げ、それに沿って身体を作り変えるのだ。
尤も今回シズクはそういう用途ではなく、サポートパートナーの作成に使っているのだが……、要領は同じである。
理想の、サポートパートナーを作り出す。
そうして出来上がったシズクのサポートパートナーは――。
「――リィンそっくりの、猫耳メイドサポートパートナー!」
装置の画面内。
そこには、頭に猫耳を付け、メイド服を着たリィンの姿があった。
可愛い。控えめに言って可愛い。
半ばネタで作ったというのに思ったより力が入ってしまって空前絶後のリアリティになってしまった。
正直、このまま決定ボタンを押してこれでサポートパートナーの見た目を決定してしまいたい。
だが、これをリィンが見たときどういう反応するかはお察しだろう。
「なんでこう……ノリと勢いの産物って上手くいくのかな……」
せめて写真だけでも残しておこう、と写真を一枚撮り、初期化ボタンに手を伸ばす。
が、直前で指が止まった。
「ぐっ……うばばばばばば」
良い出来だ。
本当に本当に、最高の出来だ。
故に躊躇う。
躊躇って、しまった。
「シズクー?」
「うばっ!?」
遠くから、リィンの声がした。
武器強化が終わったのだろう。
エステ内に入って、こちらを探しているようだ。
「と、とりあえず初期化を……! ……う、うううううしたくないぃいいいい」
「今こっちから声がしたような……」
「ぅううううううう……うばああああああああああ!」
時間も猶予も無い。
心の中で血の涙を流しながら、シズクは指を振り下ろし――。
――決定ボタンを、押下した。
「…………あれ? 押し間違え――」
「あ、いたいたシズク。サポパ作り終わった?」
背後から、リィンがシズクの肩にぽんと手を置いた。
「…………」
「? シズク? どうしたの?」
「……いや、何でもないよ……うん……終わった終わった」
色んな意味で、とリィンに聞こえないように呟いて、シズクは装置の電源を落とした。
これで数日後には猫耳メイドリィンのサポパが届く筈だ。
……届いてしまう、筈だ。
(マジでどうしよう……)
「それじゃあ、行きましょうか」
「え、あ、行くって何処へ?」
「何言ってるの、朝話したでしょう? メイさんのお見舞いと……」
リィンはアイテムパックを開いて、テキストデータを取り出した。
テキストデータのタイトルは、『チーム名案まとめ』。
「……二週間近く経っても決まらないチーム名の、相談よ」
*****
「まだ決まってなかったのかよ!」
病室に、メイの叫び声が響いた。
そう。
【コートハイム】が解散してから二週間。リィンとシズクが二人でチームを新生することを決めてから二週間。
二週間経って、まだチーム名が決まっていないのだ。
「なんか何時まで経ってもチーム設立の報告されないなぁ、とか思ってたらそっかー……チーム名かー……」
「うばば……面目ない」
「何だか私たちのネーミングセンスが噛み合わなくてですね……あ、これ一応候補です」
二人で相談して候補までは出したメモを、メイに手渡す。
「ったく、頼られるのは嬉しいけどさ……えーと、何々……【レッドボックス】、【赤箱求求】【レアドロ恋恋】……この辺はシズク案か」
「良く分かりますね」
「分からいでか。それで、リィンの案が【
やっぱこういうセンスの子なんだなぁ……と生暖かい目で彼女の顔を見る。
リィンは、『どうです、格好良いでしょう』と言わんばかりのどや顔を浮かべていた。
「……成る程ね、確かに二人ともネーミングセンスに関しては溝があるな」
「本当、ここまで乖離してるとは思ってませんでしたよ」
「シズクの考えた名前はレアドロに固執しすぎなのよ」
「それ言ったらリィンのは厨二過ぎでしょ」
「ちゅうに?」
首を傾げるリィン。
是非ともこのまま純粋に育って欲しいものだ。
「あー……それで、ウチにこの中から良いと思うものを選んで欲しいと?」
「それもいいんですけど、いっそのこと新しく考えて欲しいなって思いまして」
「んー……」
そういうのは、時間かけてでも自分たちで考えた方がいいんじゃないかなーっと思うメイだったが、
同時に後輩に頼りにされているのが嬉しくて、期待に応えてあげたいという気持ちが混ざって複雑な心境が彼女を襲っているのであった。
「……じゃ、三人で考えますか」
「はーい」
「うばーい」
ようやっと少しだけ動くようになった腕で、メイは端末を弄る。
宙に浮かぶ白いモニターに、お絵かきができるアプリを開いた。
これをホワイトボード代わりにするのだろう。
「あ、そういえばアヤさんは今日いないんですね」
「アーヤは今日実家に呼ばれてる」
「うばー。まあ、娘がダークファルスに襲われたとあっちゃ親としては心配ですよね」
「ああいや、そうじゃなく。報告に行ったんだよ」
ホワイトボードにアイデアを書き連ねながら、メイは答える。
「アーヤも、アークス辞めるから」
「……え?」
「うば!? 何で!?」
目をまん丸に見開いて、シズクは立ち上がる。
アヤは、無傷だった筈だ。
アークスを辞める必要なんて無い筈だが……。
「……アーヤは、アークスとオペレーターを兼任してたけど、実はオペレーターとしての素質の方が高かったんだよね」
「……?」
「だから、オペレーター業に専念して貴方たちのサポートがしたいんだってさ」
同じアークスとして、隣に立って戦うよりも。
オペレーターとして、後ろからサポートすることを選んだ。
言葉には出さないが、正直英断だろう。
アヤ程度の才能じゃ、アークスとしてでは後輩二人に『追いつけない』だろうから。
「アヤさんが……そっか」
「うばばー、まさかの設立前から専属オペレーターゲット!?」
オペレーターという職業は、アークス以上の素質と才能、それと努力が必要な職業である。
なので絶対数も少なく、大手のチームですら一人居れば御の字といったレベルのレア度なのだ。
「ま、お礼は後で本人にしといて。それより今はチーム名だよチーム名」
「はーい」
「うばーい」
気を取り直して、三人はホワイトボードに向かう。
話は脱線してしまったが、今はチーム名決めの最中なのだ。
「とりあえず全員で一個ずつ案を出してこ」
「はいはいっと……早速できました」
「お、リィン早いね」
リィンの書いていたホワイトボードが拡大され、三人の間にポンと置かれる。
「【
「…………」
「…………」
こ、コメントしづれー!? と全く同じ事を心中で叫ぶシズクとメイであった。
焔色=カーマインだっけとか、そもそも焔色ってどんな色だよ、とか。
せめてシズクの瞳と同じ色の海色にしたほうが、とか。
ツッコミどころが多すぎて、一体全体どうしたらいいのかまるで分からなかった。
「あ、あはは……ちなみに名前の由来は?」
「え? いや特に無いですけど字面が格好良いじゃないですか」
「……な、成る程」
どや顔が眩しすぎて、直視できない。
目が焔色に焼かれてしまいそうだ。
「あ、あたしも書けました!」
変な空気になった場を切り裂くように、シズクが手を上げた。
それに便乗するように、メイはシズクに指を刺す。
「おっ、シズクさんどうぞ!」
「えーっと……【AKABAKO】とかどうでしょうか! シンプルに!」
「それはちょっと……なんていうか無いわ」
「シズク、いくらなんでも安直すぎよ」
「うば!?」
まさかの総攻撃に、即興で考えたアイデアと言えどショックを受けるシズクであった。
「ていうかそもそも、貴方たちの作るチームの『目的』はなんなの?」
分かりやすく椅子の上で体操座りで落ち込んでいるシズクを尻目に、メイは二人に問う。
チームというのは、単なる仲良し集団というだけでは決して無いのだ。
勿論『家族のようなチームを作る』という目標のような、仲良くアークス業をやっていくこと自体を目的とするチームもあるが、実はそんなの稀である。
『一緒に強くなりたい仲間だから』。
『野良パーティを組むことに抵抗があるから』。
『チームツリー目当て』。
『兎に角交流の輪を広げたいから』。
『大型チームとなって有名になりたいから』。
チーム設立理由として多いのは、この辺りだろうか。
「目的……」
「それが無いなら、別に無理してチームを組む必要なんて無いんだよ? 同じチームじゃなくてもパーティは組めるし」
「…………」
「…………」
それは二人とも、分かっている。
それに、実のところチームを組む理由というのは『ある』。
でも……。
「あー……それは、その……」
「なんというか、ですね……」
「……?」
その理由というのは、何を隠そうメイ・コートとアヤ・サイジョウ。
二人の先輩への、『憧れ』から自分たちもチームを設立しようと思い立ったなんて、本人の前では言えるわけも無かった。
「ちゃんと理由も目的もありますけど、メイさんに話すわけにはいきません」
「はい、話せません」
「ええー……? なしてよ」
「「どうしてもです」」
声を揃えてはっきりという後輩二人。
実はそこまで信頼されてないのかな、と割かし深刻な自己嫌悪に浸るメイであった。
「あっ、いや別に先輩が嫌いとか信頼してないとかじゃなくてですね。ただ単に恥ずかしいというか何というか……」
「……いや、いいよ大丈夫。うん、大丈夫」
流石の察し能力でメイが落ち込んだのを察したシズクがフォローを入れたが、とき既に遅し。
メイはすっかり落ち込んでしまったようだ。
「し、シズク、どうしよう」
「うばー……仕方ない」
苦笑いを浮かべながら、シズクは椅子から立ち上がってメイのベッドに手を付いた。
そうしてそのまま、口を彼女の耳元に近づけて、
小声で、チーム設立の理由を述べた。
「…………」
「…………」
「…………な」
一瞬。
一瞬で、メイの表情は孫からプレゼントを貰ったお婆ちゃんのようにだらしなく歪んだ。
「……なんだよもー! 可愛いとこあんじゃんかよもー! いや元々可愛かったわもー!」
「うばー……いいからメイさんも案出してくださいよ」
「あっはっはっは! 照れるな照れるなってー! いやまあ超絶イケ
「いい加減うざいです」
「リンゴ投擲!?」
リィンによって投げつけられたリンゴが、メイの顔面にクリーンヒットした。
ちなみにこのリンゴは、お見舞い品として置かれていたものである。
「いたた……食べ物を投げちゃあかんよリィン」
「すいません。つい」
「許す! 何故なら貴方達なら目に入れても痛くないか――ちょ、リィン! 本当に指を目に入れようとするのやめて!」
尚。
リィンの頬は真っ赤に染まっており、前述の行動は全て照れ隠しである。
こんなやり取りを数分続けた後、ようやく三人は話を戻した。
閑話休題。
メイと話していると会話が逸れまくるのは何とかならないものか。
「――さて、じゃあウチのチーム名の案だけど……」
「…………」
「…………」
「こんなのはどうかな?」
三人の間に、メイのホワイトボードが展開された。
腕がまだ上手く動かないが故に、字は歪んでいたが、どうにか読み取れるレベルだ。
「【
メイの説明に、二人は思わず感嘆の息を零した。
思ったより、マトモというか真面目というか。
絶対一回はふざけてくると思ったのに、驚きだ。
「驚くとこ、そこかよ……」
「いや、でも良い名前だと思いますよ。アルファベットを使うのは私思いつきませんでした」
「うばー……確かに『アークス』や『レアドロップ』にも掛かってて良い名前だとは思いますが……」
スッと、シズクはホワイトボードの中心を指差した。
差した先には、ARK×Dropsの×部分。
「この掛け算って、『そういう』ことですよね?」
「……?」
「…………」
リィンは首を傾げ、メイは黙ってこくりと頷いた。
かあっと、シズクの頬が赤く染まる。
「や、やっぱりふざけてるじゃないですかー!」
「えー? フザケテナイヨー? だって普通なんとも思わないよー? ほら、リィンだって何がなにやらって感じだし」
「え? え?」
「リィンはリィンだからでしょー!? それになんであたしが後ろなんですか!?」
「いやそこは普通に考えて」
「普通に考えて!?」
「ねえ、シズク」
ショックを受けているシズクの袖を、リィンが引っ張った。
純粋無垢で、真っ直ぐな瞳で彼女は疑問を飛ばす。
「さっきから何の話してるの?」
「うぐっ……!」
相変わらずこれは反則だ。
誤魔化すしか方法は無い。
「私はこのチーム名で良いと思うけど、シズクは何か不満があるの?」
「う、うばばばば……いや、不満は無いです……良い名前だと思います」
「何故敬語……」
こうして、リィンとシズクが設立するチームの名前は決まった。
【
目下、チームメンバー募集中である。
と、いうわけで【ARK×Drops】に決定いたしました。
沢山のご応募、本当にありがとうございました。