エンド・クラスター
時は、少し遡る。
A.P.238/4/1。
【巨躯】との決戦後、アークスシップ残骸上。
「ふ……ふはは……ふはははっ! この我を押し返したか……!」
赤黒い
声の主は、ダークファルス【巨躯】。
今しがた、アークスによって撃退された当事者だ。
「かの惑星で我を押しとどめた者。そして、今……」
視線の先には、復興作業を進めるアークスシップの姿。
好敵手を見つめ、【巨躯】は嬉しそうに、愉しそうに嗤う。
「くふふっ、ふははははっ! いいぞ……楽しいぞアークス! それでこそ、戻ってきた甲斐がある!」
「ようやく戻ってきたと思ったら、いきなりやられちゃった上に、さらにそれで大喜び?」
そんな【巨躯】の背後から、女の声がした。
【巨躯】は悠然と振り返ると、そこには。
毛先が闇色に染まった、金髪の麗人。
『リン』とアフィンが戦技大会で出会った、あのダークファルスの姿があった。
「……誰だ、貴様は。――いや、この感じには覚えがある」
「…………」
「そうか、貴様、【
【若人】と呼ばれたダークファルスが、妖艶に笑った。
「そういうこと。もっとも、新しいって言っても十年は経ってるけどね」
「そちらの気に喰わん二人組は……【
いつの間にか。
薄い紫色に染まった白髪の子供が二人、そこに居た。
左右非対称であることを除けばまるで同じ――まさしく双子のようなダークファルスだ。
【巨躯】が気に喰わないと称したその顔は、無邪気が故の邪悪が溢れている。
「はっ、くははっ! 揃いも揃って我を出迎えとは、感謝感激痛み入る! ……だが」
まるで王様か何かのように偉そうな口上を述べた後、【巨躯】は振り返る。
これまたいつの間にか背後に居た、『仮面』を付けたダークファルスを、睨む。
「ソイツは誰だ」
「…………」
【仮面】は答えない。
代わりに、【若人】がその問いに答えた。
「新参の子。とりあえずあたしは【
馴れ合う気は、無いのだろう。
【仮面】は黙って振り返ると、そのまま歩き出す。
――その、瞬間だった。
「……っ?」
「むっ」
「?」
「ん?」「あれあれ?」
その場にいるダークファルス全員が、一斉に同じ方向へと振り向いた。
まるで、何かを感じ取ったように。
まるで、ダークファルスにしか感じ取れない何かがいきなり生まれたように。
【巨躯】も、【若人】も、【双子】も、【仮面】も。
全員一斉に、まるでダークファルスの本能に惹かれるようにその場を去った。
*****
惑星ナベリウス・森林エリア。
その一角に、巨大な百合の花が咲き誇っていた。
否――百合ではない。あくまで百合に似ているが、別物の禍々しきオブジェクトだ。
そしてこれは当然、ずっとこの場に咲いていたわけではない。
今この瞬間に、突然生まれた『異物』である。
「……妙な感じがした正体は、これ?」
そこに、まずダークファルス【若人】が現れた。
怪訝そうにしながらも、臆することなくそれに近づいていく。
「ふむ……これはこれは……」
「…………」
「……なぁに? これ」「なんだろうね、これ」
続いて、【巨躯】に【仮面】、【双子】もその場に姿を現した。
全員、躊躇うことなくその百合花に近づいていくのは流石というべきか。
「ダークファルス? に似た気配を感じるわね、一体――」
とりあえず壊してみようかしら、なんて物騒なことを考えながら【若人】が花弁に手を伸ばした――。
そのときだった。
『――――』
花弁が、くぱりと割れた。
グロテスクに、赤黒い何かを撒き散らしながら、割れた。
そして、中から。
真っ白な、女の子が姿を現した。
「…………」
絹のような白く長い髪、輝くほど綺麗な白いドレス。
人形と見間違うほどの、白い肌。
そんな少女が、血よりも赤い瞳を開けて、ダークファルスたちを見渡した。
そして、首を傾げて一言。
「……うば? 此処は何処? あたしは誰?」
「…………それはこっちが聞きたいわよ」
【若人】が、白い少女に近づいた。
いつでも武器を取り出せるようにして、警戒しながら。
「あんた、何? 気配はダークファルスみたいだけど、白いわね」
「…………っ!?」
「……?」
近づいた【若人】を視界に入れた途端、白い少女は目を見開いた。
妙な反応をする少女を警戒して、【若人】は一歩後ろに下がる。
「【若人】よ、この娘は記憶喪失のようだ。……出自を問うても無駄であろう」
「……っ、分かってるわよそんなこと。一応訊いただけよ」
「貴女は……」
揚げ足を取られて【巨躯】を睨む【若人】に、白い少女は声をかける。
良く通る、澄んだ声色だ。
「貴女は、何者なの?」
「あたし? あたしはダークファルス【
「
瞬間。
少女の髪の先が、紫色に染まった。
同時に、彼女から発せられるダークファルスの気配が強くなっていく……!
「っ!?」
「これで同属だね♪ 【若人】ちゃん!」
『じゃあ』――などと気軽な感覚でダークファルスに成れる者など居るものか。
居たとしても、それはダークファルス以外の――以上の『何か』でしかない。
なのに屈託の無い笑顔で【若人】に笑いかける少女に、如何にダークファルスといえど一同は戦慄を隠せなかった。
ただ一人――否、二人。
【双子】を除いて。
「おやまあ」「これは凄いね」
などと、意味深に呟いて。
彼と彼女はいつものように邪気たっぷりの無邪気な笑顔を浮かべるだけである。
「……【双子】よ、貴様ら何かに気づいているな?」
「別にー?」「別に別にー?」
「…………ふん」
そんな【双子】の態度に、【巨躯】は気にくわなそうに鼻を鳴らした後、この場を去っていった。
この場に闘争は無い、と判断してのことだろう。
「さぁて、これからどうしようね?」「どうしようね、楽しくしたいね」
続いて、双子もそんなことを言いながら、その場を去った。
最後まで、にやにやとした笑みを崩さずに。
「しかしアプレンティスちゃんって呼びにくいね! アプちゃんって呼んでいい?」
「馴れ馴れしいわね! 殺すわよ!? 何でいきなりこんな懐いてくるのよ!?」
「一目ぼれ! もうね! 金髪ボインの悪役系お姉さんキャラなのに、何処かツンデレっぽい雰囲気を醸し出しているとか……たまらんですよ!」
鼻息を荒くしながら、少女は【若人】に飛びついた。
それを叩き落すように、【若人】は武器を振るう――が、素手で受け止められた。
「……はぁ!?」
「アプちゃーん! あたしと結婚前提に付き合わないかーい?」
「ああもう鬱陶しい! 離れなさい! この! ちょっと【仮面】! こいつ引き剥がすの手伝いなさい!」
「…………」
【仮面】は、黙ってこの場を立ち去った。
関わりたくなかったのだろうか――まあ、なんにせよ。
これでナベリウスに残ったダークファルスは、最早【若人】とダークファルスになった少女だけである。
「うばーっ! 二人っきりだねアプちゃん! もうこれは愛を深めるしかないね! ぺろぺろぺろぺろぺろ」
「ちょっと! 変なところ舐めないでよ!」
「ちゅーっちゅーっ」
「吸うな! くっ、ああもう……殺す!」
少女の首筋目掛けて、【若人】の武器が振り下ろされた。
武器が首に当たった瞬間、何か硬いものにでも当たったような感覚と共に武器は壊れた。
「なっ…………あーもう、何なのよあんた!」
「
とても良い笑顔で、そんなことを言い放つ彼女から。
【若人】に、「確かにこいつはダークファルスだ」と思わせるだけの迫力が放たれた。
「あっぐっ……この……きょ、今日のところはこれで勘弁してあげるわ!」
「あっ!」
一瞬の隙を突いて、【若人】は空間移動でその場を離れた。
ナベリウス森林から、一瞬でリリーパ砂漠まで。
「もうっ、三流の悪役が言うような台詞を躊躇い無く使うアプちゃんも素敵! でも逃がさないよー! うばー!」
それを追うように、白い少女もまた空間移動でリリーパ砂漠へ飛んだ。
それと同時に百合の花のような物体も、罅割れて跡形も無く崩れた。
まるで、少女が居なくなったことで存在意義を無くしたように。
――そう。
これが、戦技大会の開催が延長された理由。
ダークファルス六体分の反応が検出された理由である。
『白い』ダークファルス――ダークファルス【
彼女の存在が、アークスとダークファルスの戦争の結末を著しく変える原因になるのだが――。
それはまだ、『誰も』知らない未来の話である。
『白い』ダークファルス――ダークファルス【百合】参戦です。
『自分が何者かなんてどうでもいい』彼女と、
『自分が何者かをずっと考えている』シズク。
対照的なのに性格はそっくりな彼女らは一体どういう関係なのかというのは……。
EP3でやるのでEP2の間は【若人】と【百合】のイチャイチャを書きまくります。
あ、あとチーム名の募集は締め切ります。決まったので。
ご協力してくれた人ありがとうございました。