違和感あったらごめんなさいね。
家族のためなら死んでも良い。
ずっと、そう思っていた。
だって、
*****
『リミットブレイク』。
ファイタークラスをメインクラスにしている時のみ使用できる、ファイターのスキルである。
限界を越える――等と言えば聞こえはいいが、実際の所本当に使用者の限界を越えているわけではない。
普段使用者が防御や生存に回しているフォトンを、全て攻撃に回すという、それだけのスキルだ。
だから、使用中は信じられない程の身体能力と攻撃力を得ることができるという点では、限界突破と言って差し付えは無いだろう。
だが当然、欠点はある。
一つ。防御と生存に回しているフォトンが無くなるので、非常に耐久力が弱くなる。
一つ。効果時間は、もって一分と非常に短い。
特に前者はリミットブレイクを扱うアークス全員が頭を悩ませるほどに、軟くなる。
例えば、もし発動中にメイがファルス・ヒューナルの拳に
即死は免れないだろう。
「く……くはっ、くはははははははは!」
リミットブレイク発動中の証である、橙色のオーラが立ち昇るのを見て、ヒューナルは突如高笑いしだした。
「良い覚悟だ! そうだ! 闘いとは
「…………」
「脆弱なる者よ! さあ、猛き闘争を始めようではないか!」
リミットブレイクを使おうと、メイの実力はファルス・ヒューナルには遠く及ばない。
それでも、ヒューナルはメイを倒すべき敵だと見定めた。
脆弱なる者だと断定しつつも、拳を構える。
その真意は、メイには計り知れないが……まあ、彼女にとってはどうでもいい話だ。
「シンフォニック――ドライブ!」
先に動いたのは、メイだった。
飛び上がり、稲妻のような飛び蹴りを放つ。
先ほどと同じように、顔面に命中したそれは、今度は大きくヒューナルをよろめかせた。
「ぬぉ……!」
「――ブラッディサラバント!」
数多の斬撃が、衝撃波となってヒューナルを襲う。
さっきより、数段上のフォトンが乗った攻撃に、ヒューナルの外殻が僅かに削れた。
「効いてる……!」
「ふはははは! 良い攻撃だ。そのスキルを使ったから――だけではないな?」
「…………」
「フォトンの力は、感情の力。さっきまでとはまるで別人のフォトンよ」
死ぬ覚悟の出来た人間は、強い。
だからこそ、我が敵に相応しい。
そう言って、ファルス・ヒューナルは背中に仕舞ってあった刀を手に取った。
「……それは違うぜ、ファルス・ヒューナル」
「……ほう?」
「強い奴っていうのは、『死なない覚悟』が出来ている人間だ。死ぬ覚悟なんか、弱さの言い訳にすらならない」
ちらり、とアヤを見る。
まだ彼女は逃げていない。
確かに、大切なヒトを見捨てて逃げるのは辛いことだ。
それでも、その決断ができるまでメイは時間を稼がなくてはいけない。
「では、何が貴様を強くする? よもや我が剣を前にして、死なない覚悟とやらが出来ているわけではあるまい?」
「決まっている。ウチの胸にある感情は、唯一つ」
アヤに聞こえるように、大きな声で。
メイは叫びながら、フォトンアーツを発動させた。
「愛するヒトに――『生きて欲しい』という、願いだ!」
レイジングワルツ。
相手の懐に飛び込み、手に持ったダガーで打ち上げるというコンボの初動に最適なフォトンアーツである。
だが、その剣閃は、受け止められた。
ファルス・ヒューナルの持った、その歪な形をした大剣に。
「……ふ。ふ、はははははは! 『生きて欲しい』か! そうかそうか!」
「……何がおかしい?」
「いや何、貴様は『この男』と良く似ていると思ってな」
「……?」
笑い続けるヒューナルを奇異の瞳で見ながら、メイは大きく後ろに跳ぶ。
さっきから見た感じ、ヒューナルは近距離戦が得意のようだ。
ツインダガーも近接武器とはいえ、時間を稼ぐことが目的な以上、不用意な接近は避けるべきだろう。
「『生きて欲しい』と願う女と、『生きて欲しかった』と悔やむ男か……くふ、ふはは! 面白い!」
「……さっきから、何言って……」
「そのスキルを解くなよ小娘。ダークファルス【巨躯】が、全力を持って貴様を
今、言葉とルビの関連性がおかしかったような。
なんて、思う間も無く、ファルス・ヒューナルは背中に剣を仕舞い、両拳を握って振り上げた。
その両拳に、一目でやばいと判る程のエネルギーが溜まっていく。
「応えよ深淵、我が力に!」
拳が地面に、叩きつけられた。
瞬間、無数の衝撃波が円を描くように走り出す!
「くっ……!」
当たったら死ぬ。
いや、今の状態じゃ別にこんな大技に限らず掠れば死ぬのだが。
それでもこの広範囲攻撃は、やばい。
何故なら、範囲内にアヤがいる。
「アーヤ!」
「め、メーコ!」
空を翔け、アヤを半ば体当たりのような形で肩に抱えこむ。
そのまま走り、飛び、何とか二人は攻撃範囲外まで逃れた。
雪の上に、滑り込むように着地する。
「メーコ、私は……」
「アーヤ、逃げてくれ」
何かを話そうとしたアヤの言葉に聴く耳を持たず、メイは彼女に背を向ける。
「もう引き返せない。ウチはあいつと戦うしかない。だから、もうすぐ死ぬウチに言える言葉は、それだけだ」
「…………」
リミットブレイクも、もう少しで切れてしまう。
そうなれば一分半は経たないと再使用できないし、素のメイなどヒューナルの手にかかれば五秒で殺すことができるだろう。
そしたら次はアヤが殺される番だ。
「……嫌よ」
呟きは、届かなかった。
もう既に、メイは飛び立ってファルス・ヒューナルへと正面から戦っている。
「嫌に、決まってるじゃない……私だって、貴方に生きていて欲しいんだから……」
ぎゅうっと杖を握り締める。
分かっている、この杖を振るっても意味の無いことを。
それでも、逃げようという気持ちは一切起きなかった。
「――スケアフーガ!」
「ぬん!」
双小剣と大剣が、ぶつかり合う。
質量的に攻撃した方だろうとメイが弾き飛ばされそうなものだが、そこは流石のリミットブレイク。
攻撃力に関しては、普段の比ではない。
それでも、ヒューナルの防御を崩すことは難しいのだが。
「ぜぇ……もう時間が無い……!」
「どうした? もう限界か?」
「うん」
ヒューナルの挑発に、素直にメイは頷いた。
もう限界だ。息は荒いし、身体が重い。
だから……。
「だから、次の攻撃で最後にする」
「!」
メイは、飛んだ。
真上に向けて、空高く。
「全身全霊魂込めて――いくぞ、ファルス・ヒューナル!」
「ふはははは! ならば! 我とて全力で応えねばならんな!」
ファルス・ヒューナルの持つ、歪な大剣から『闇』が放出された。
黒き刃は、巨大な剣を模して形を成す。
ソードのフォトンアーツ、『オーバーエンド』にそっくりな技だ。
だが威力は言うまでも無く、この黒き刃の方が上だろう。
「…………」
上空から、そんな自分にとってはオーバーキルにオーバーキルを四つ以上重ねたような大技を見て、メイは静かに目を閉じた。
思い出すのは、【コートハイム】の皆。
アヤ。シズク。リィン。
本当に皆には、感謝しかない。
目を開けると、手首に付いたブレスレットが目に付いた。
家族の、証。
「フォール……」
思わず、笑みが零れる。
微笑みながら、空を蹴る。
最高速度で、落下していく。
「――ノクターン!」
落下しながら、敵を切りつけるフォトンアーツ。
空から地に。
最後に放つフォトンアーツとして、これ以上彼女に相応しいモノは無いだろう。
「ぬぅうううううん!」
ヒューナルもまた、掛け声と共に黒きオーラを纏った大剣を振り被る。
双小剣と、大剣が激突する――――。
「――え?」
激突する直前。
メイが纏っていたリミットブレイクのオーラが掻き消えた。
時間、切れである。
一瞬にして、メイのフォトンは通常通りの配分へと戻っていった。
勿論そんな状態じゃ、メイはどうあがいてもヒューナルに傷一つ負わせることはできないだろう。
「――――それでも」
それでも、退けない。
一瞬たりとも、躊躇わない。
リミットブレイクなんか無くても、限界ぐらい超えてやる――!
「お、ぉおおおおおおおおおおおおおお!」
「くはっ、ふははははははははは!」
双小剣が、ヒューナル目掛けて突き刺すように振るわれる。
大剣が、黒きオーラを放ちながらメイに向かって切り裂くように振るわれる。
刹那。
『闘い』は、終わりを告げた。
*****
雪が、血で染まっていく。
全身から、力が抜けていく。
走馬灯、見えなかったなと小さく呟きながら。
ふぅ……。
ちょっと遺跡AD行ってファルス・ヒューナルぶっ殺してきます(雷サイコウォンドを持ちながら)。
それはそうと、あと二話でEP1外伝終わる予定です。
案外短かった。