AKABAKO   作:万年レート1000

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微リョナ注意なのか? これは。
描写は簡素にしてるから大丈夫だと思うけど、
先輩らがボッコボコにされてるのでそういうの苦手な方は注意です。


リミットブレイク

 2mを遥かに越えているであろう、巨大な体躯。

 

 その黒腕は丸太よりも太く、

 その外殻は鋼よりも硬い。

 

 ファルス・ヒューナル。

 ダークファルス【巨躯(エルダー)】の人型戦闘形態。

 

 およそ勝ち目など無い巨大な敵と相対して、メイは――。

 

「――シンフォニック」

 

 咄嗟に、というかほぼ反射的に、跳んだ。

 

 焦っている。

 動揺している。

 

 それでも、身体が動かなければここで終わってしまうことを、メイは知っていた。

 

「――ドライヴ!」

 

 ファルス・ヒューナルの顔面に、メイの蹴りが炸裂した。

 

 シンフォニックドライブという、ツインダガーのPAである。

 フォトンの篭められた蹴撃は、ただの蹴りとは思えない程の速度と威力だったが――。

 

「――ほう、中々威勢が良いな」

 

 ヒューナルは、ぴくりともしなかった。

 ノーダメージ、である。

 

「っ……!?」

「メーコ! 下がって!」

 

 アヤが杖――トワイライトルーンをヒューナルに向けた。

 フォトンの光は収束し、数多の星屑となって降り注ぐ。

 

「イル・グランツ!」

「むっ」

 

 散開し、炸裂。

 着弾したイル・グランツは、眩しいほどの光を放ちながら爆発していく。

 

 ――だが。

 

「……ふん」

 

 ヒューナルは、傷一つ付いていなかった。

 キラキラと周囲に浮かぶイル・グランツの残留フォトンを軽く腕で払い、両拳を打ち鳴らす。

 

「終わりか?」

「チェイントリガー!」

 

 終わりなわけが無い。

 終わりにして良いわけがない。

 

 メイは武器を持ち替え、ツインマシンガンでヒューナルの胴体にチェインの刻印を刻んだ。

 

「ぬ、これは……」

「はぁああああああああああ!」

 

 チェイントリガーは、刻印を刻んだ箇所に通常攻撃を加えることで『チェイン』と呼ばれる特殊なフォトンを溜め、フォトンアーツの威力を高めるスキルだ。

 

 故に、メイはツインマシンガンの引き金をただ引いた。

 

 一発一発は豆鉄砲。

 しかし連射性はピカ一なのが、ツインマシンガンの特徴だ。

 

 凄まじい速度で、チェインが溜まっていく。

 

「……何かと思えば、ただ豆鉄砲を連射するだけか? 下らん」

 

 降り注ぐ弾丸を一身に受けながら、ヒューナルはメイに向けて歩き出した。

 

 当然のように、傷一つ付いていない。

 だが、チェインは確かに溜まっている。

 

「虫けらが、散るがよい!」

「サテライト……エイム!」

 

 空を射抜くかの如く、強烈な射撃が放たれた。

 

 チェイントリガー+サテライトエイム。

 ガンナークラスの基本にして、最強クラスの火力を誇るコンボだ。

 

 言うまでも無く、メイの放てる最高火力でもある。

 これが通じなければ、勝率は間違いなくゼロだろう。

 

「ぬぅ……!」

 

 果たして攻撃は――通じた。

 

 一歩。

 ファルス・ヒューナルを後退させることができた。

 

 ただ、それだけ。

 

 それだけである。

 

「……く、くははははは! 成る程成る程、一寸の虫にも五分の魂とはよく言ったものだ」

 

 メイの全力攻撃を受けて、ヒューナルは笑った。

 

 楽しそうに、嬉しそうに、笑った。

 

 そして。

 

「所詮虫と――侮っていた。此処からは全力を持って御主らを磨り潰すとしよう」

 

 メイとアヤ。

 二人揃って逃げ出して、見逃して貰うという道が、潰えた。

 

 ファルス・ヒューナルが、拳を強く握り、振り上げ。

 

 次の瞬間、ヒューナルはアヤに肉薄していた。

 

「えっ」

「アーヤ!」

 

 拳が振るわれる。

 弾丸よりも早く、砲撃よりも重い拳が。

 

 嫌な、音がした。

 内臓という内臓が潰れ、人が爆発したような音が。

 

「――ぁっ……!?」

 

 悲鳴すら出ない。

 肺が潰されたのだから、当然だろう。

 

 即死しなかったのは、奇跡としか言いようが無い。

 

 アヤの身体は宙に打ち上げられ、そのまま雪原へと落ちた。

 

「む、ムーンアトマイザー!」

 

 金色の光が、辺り一面に広がる。

 言わずと知れた、アークスの超回復アイテムだ。

 

 死にさえしていなければ、大抵の傷を癒し、戦闘続行可能状態まで回復させる劇薬である。

 

「っ……はっ……! 死ぬかと、思ったわ」

 

 むくり、とアヤは起き上がった。

 腹に受けた傷は、完治とはいえないが大分修復している。

 

「でかいのに、何てスピードよ……」

「アーヤ! 大丈夫!?」

 

 アヤが吹っ飛ばされた際に手から離れたトワイライトルーンを回収しながら、メイは地面に降り立った。

 

「どうにか隙を見て逃げ出すしかないわね……」

「そだね。何とか隙を――」

 

 アヤに杖を手渡した瞬間、メイは吹き飛んだ。

 

 わき腹を抉り取るような、ヒューナルの蹴撃によって、サッカーボールのように遥か彼方へと。

 

「かはっ――?!」

「脆弱! 脆弱ゥ!」

 

 錐揉み回転をしながら宙を飛び、やがてメイは岩壁に激突した。

 

 勿論、致命傷である。

 しかもアヤがムーンアトマイザーを使ったところで効果範囲に届かない場所まで飛ばされてしまった。

 

 この状態での、致命傷。

 致命的ではあるが、まだ終わりじゃあ、無い。

 

「……『ハーフ、ドール』」

 

 メイのアイテムパックから、自動的にヒトの形を模したようなアイテムが浮かび上がった。

 

 ハーフドール。

 一つしか持てないが、所持者が戦闘不能になった時自立的に起動して、受けているダメージを半分だけ肩代わりしてくれるというとっておきの回復アイテムである。

 

「……これは、無理だな。……げほっ」

 

 起き上がりながら、呟く。

 

 二人とも、生き残る道はもう無いだろう、と。

 

「……でも」

 

 アヤだけなら。

 自分が犠牲になって隙を作れば、彼女だけなら。

 

 そう呟こうとした瞬間。

 メイの端末が着信音を鳴らした。

 

 発信者は、リィン。

 

 それを確認する間も無く。

 

 ファルス・ヒューナルがメイの目の前まで迫っていた。

 

「ちっ――!」

「弁えよ!」

 

 拳が振りあがっているのを見て、メイは即座にその場を離脱。

 

 ツインダガーを手に、空を舞って攻撃をかわした。

 

「ほう、今のをかわすか!」

「っ――ブラッディサラバント!」

 

 ツインダガーを振るい、斬撃の波を幾重にも放つ。

 

 最早、ヒューナルは動きすら止めなかった。

 斬撃に正面から突っ込み、メイへ拳を振るう。

 

「温い温い!」

「この……化け物ぉ!」

「イル・グランツ!」

 

 遠くから、アヤのテクニックが放たれる。

 だが、そんなもの援護にもならず、ヒューナルに当たった”だけ”だった。

 

 怯まず、ヒューナルは拳と蹴りを飛びながら避けるメイに放っていく。

 

「ちょこまかと!」

「ぜぇ……空中戦だけは、負けない!」

 

 空を飛び、器用にファルス・ヒューナルの攻撃を避けつつ叫ぶ。

 

 如何にメイが空中戦だけは優れていても、攻撃が通用しない以上メイに勝ち目は無い。

 

 だから叫んだのは、殆ど虚勢みたいなものだった。

 

「ほう?」

 

 でもその虚勢は、ヒューナルの気を惹くには十分だったようだ。

 

 明らかにヒューナルの標的はメイに絞られている。

 

 これなら、このままいけば、アヤだけは生き残れる目が出てきた。

 

「はぁ――ん?」

 

 希望が見えてきて、少し余裕が出てきたのか、メイはようやくさっきから鳴り響いている着信音に気がついた。

 

 戦闘中だが、他ならぬ後輩からの通話。

 取るしかないだろう、『リン』とかの助けを呼べるかもしれないし……。

 

 何より、遺言を伝えられるかもしれないし。

 

「……リィン?」

『っ! メイさん!』

 

 通信機から、リィンの嬉しそうな声が響く。

 

 同時に、ヒューナルの拳を紙一重でかわす。

 

「ふっ……! 丁度よかった、今そっちに連絡入れようと思ってたとこ……ぜえ……!」

『……? 息が荒いですね、どうかしました?』

「ああうん、今ファルス・ヒューナルと戦闘中だか――」

 

 ヒューナルの黒腕が、メイの腹部を掠めた。

 

 その拳圧で(・・・・・)、メイは再び吹き飛んだ。

 

「ごふっ……!?」

 

 本日二度目の壁激突に、辟易としながらメイは立ち上がる。

 今度は、致命傷というほどのダメージじゃない。

 

『は? ちょ、メイさん!?』

「げほっ……だ、大丈夫。まだ死んでない。ちょっと掠っただけだから……っ」

 

 追撃として放たれたヒューナルの飛び蹴りを、空に飛ぶことで回避。

 

 勢い余ってヒューナルが激突した壁は、無残に砕け散った。

 

『ぜ、全然大丈夫そうに聞こえないんですけど!? と、兎に角座標を教えてください!』

「っ」

『すぐ助けに……!』

「駄目」

 

 はっきりとした口調で、メイはリィンの提案を断った。

 

 助けを呼ぶ、なら兎も角。

 助けに来る、は絶対駄目だ。

 

 だって、あの子達が来たところで何になる。

 将来有望の人材を、失うだけだろう。

 

『――は? ふ、ふざけてる場合じゃないですよ! ちゃんと座標を……』

「来ちゃ、駄目」

 

 同じ言葉を、繰り返す。

 

 今この場に於いて『最悪』なのは、シズクとリィンが助けに来ることで。

 【コートハイム】が、全滅することだ。

 

 それだけは、絶対に避けなくちゃいけない。

 

 そう。

 例え、後輩に嫌われることになろうとも。

 

「貴方たちが来ても、何も解決しない。だから、帰還しなさい」

『な……!?』

「でもその前に、助けを呼んどいて。『リン』でも、六芒均衡でもリィンのお姉さんでもいい。誰か強い人を、呼んできて」

『…………』

 

 通信を通しているのに、不満げな感じが伝わってくる。

 

 まあ、リィンの性格を考えたら当然だろう。

 もしかしたら本当に軽蔑されたかな、なんて思いながらもメイは子供に言い聞かせるように言葉を選ぶ。

 

「分かった? じゃあ座標を……っ!?」

 

 しまった、と思った。

 通信の方に、意識を割きすぎた。

 

 気づけば宙を舞っていた。

 

 腹部に鈍痛が走る。

 口の中に鉄の味が広がる。

 

 内臓が砕け散ったのだろう。

 

 なんて、何処か冷静に考えながらメイは地面に落下した。

 

「む、ムーンアトマイザー!」

 

 アヤの投げたムーンアトマイザーから、金色の光が降り注ぐ。

 

 傷は塞がり、痛みも少しずつ消えていく。

 何とか一命は取り留めた。

 

 けど……。

 

「メーコ! これで私の持ってるムーンアトマイザーはあと一つしかないわ!」

「マジか……りょーかい! 何とかこれ以上倒れないように注意しなきゃ……」

 

 口元の血を拭い、メイは立ち上がる。

 

 通信機は、壊れてしまったようだ。

 だけど助けを求めることは出来た……これならば上手くいけば二人とも生き残る道も有り得るだろう。

 

(……あ、でも)

(遺言を伝えるのは、出来なかったな)

「……詰まらんな」

 

 不意に、ファルス・ヒューナルが動きを止めた。

 

 上げていた両腕から、ぶらんと力を抜いて。

 

「一方的な虐殺では、意味が無い。それにちょこまかと逃げ回る蝿を落とすだけの作業を、闘争とは呼べぬ」

「…………?」

「貴様らが、戦わぬというのなら――」

 

 ゆっくりと、ヒューナルは腕を振り上げ……岩壁に向かって拳を叩き付ける。

 

 その一撃で、『山』が一つ、粉々になって崩れ落ちた。

 

「早々に終わらせて、次の闘争を捜しに行くとしよう」

 

 ぞくり、と嫌な汗が二人の背を伝う。

 

 おぞましい程の殺気が、ファルス・ヒューナルから放たれた。

 

「…………っ!」

「なん……!?」

 

 今までは、本気じゃなかったのだろう。

 今までは、ほんの遊びだったのだろう。

 

 つくづく桁違いすぎて、嫌になる。

 

 さっきは、二人とも生き残る道があるかもと思ったが……最早それは期待しないほうが、いいだろう。

 

 避けるべきは二人とも死ぬこと。

 最善策はどちらかが囮になってどちらかが生き延びること。

 

「……それならまあ、死ぬのはウチの役目だな」

 

 当然のようにそう呟いて、無理やり口元を歪める。

 歪めて、口角を上げて、笑う。

 

 何故かって?

 そんなの、決まっている。

 

 好きなヒトに残る自分の最後の記憶は、笑顔のほうが良いだろう。

 

「アーヤぁ!」

「っ!? な、何よ突然大声だして……」

「ウチが囮になってどうにか隙を作るから、逃げて!」

「…………はぁ!?」

 

 メイの提案に――当然ながらアヤは怒った。

 目を見開いて、額に青筋を浮かべて、怒った。

 

 でも、メイの決意は変わらない。

 

「そんで、ダークファルス【巨躯(エルダー)】! さっきまではごめんね! ここからは、貴方の望む闘争をしてあげるわ!」

「……ほう?」

「ちょ、ちょっとメーコ! 何言ってるの、私は許さないわ――「アーヤ」」

 

 アヤの台詞を遮って、メイは笑顔で言葉を紡ぐ。

 さっきよりも、自然な笑顔ができた気がした。

 

「愛してるぜ」

 

 だから、生きて欲しい。

 自分よりも少しでも長く。

 

「メー……コ」

「ファイタークラス、『メインスキル』――」

 

 それは、唯一無二のスキル。

 ファイターのみが使える、『限界』を越えるスキル。

 

「『リミットブレイク』」

 

 




限界を越えて――。

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