AKABAKO   作:万年レート1000

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みじかめー

そして早くも戦技大会終了です。
そんでもって外伝でやりたかったことは、ここからです。


戦技大会終了、そして……

「リィン、次そっちの茂みにあと五秒でダガンが湧くから倒しといて」

「了解ー。あ、別れ道だけどどっち行く?」

「こっち」

「流石即決だわねぇ」

 

 惑星ナベリウス・森林エリア。

 

 シズクとリィンは、二人のレベルでは信じられないほどのスピードでエネミーを倒しながら走っていた。

 

 最短ルートを、最高速で。

 且つ、湧き出る敵は湧き出た瞬間出待ちしていた斬撃と銃撃が不意を突いて降り注ぐ。

 

 まるで攻略本かなにかを見ているんじゃないかと思える程の速さである。

 

 シズクの能力、フル活用中だ。

 

「今日、ホントシズクの直感が調子良いわね」

「うばー。なんかね」

 

 流石に六回目となれば、道も敵の出現位置もタイミングも覚えたみたい。

 

 とは言えずに、シズクはなんか知らんがホント調子良いわーっと笑いながら頭を掻いた。

 

(まあ、実際に体験したとは言いがたい感じみたいだけど……)

「さっきの途中経過発表で上位にも入ってたし、もしかしたら一位狙えるかもしれないわね」

「そうだね……っと」

「あ、森林エリアを抜けたわね」

 

 まるで境界線が引かれているみたいに、景色は唐突に雪景色となった。

 

 あまりにも不自然な気候である。

 一説には、ナベリウスに封印されていた【巨躯】の仕業という噂もあるが……。

 

 その噂が真実であろうと、一般アークスであるシズクとリィンには与り知らぬことであった。

 

 というか、二人ともその辺りはどうでもよさげである。

 学者の素質、ゼロなのだ。

 

「相変わらず不思議ねー。どうする? 小休止ポイントみたいだし少し休んでく?」

「そうだね、リィンも疲れているだろうし……」

「いや、私は平気だけどさっきからシズク肩で息してるじゃない」

「…………」

 

 この体力お化けめ、と内心叫びながら、シズクはその場に座り込んだ。

 

 雪でお尻が少し冷たいが、このくらいフォトンでどうにかなる範囲である。

 むしろ疲れて汗を掻いた身体には心地よい。

 

「うびゃー、しかしまあ、なんというか抜かれちゃったなぁ」

「? 何によ」

「や、リィンに」

 

 抜かれた? 私に? とリィンは首を傾げた。

 

「初めて会ったときは、あたしのほうが強かったのに。いつの間にか抜かれちゃったって言いたいの」

「んぐ、んぐ……そう? まだ抜いてないと思うけど」

 

 飲料水を口に含んで、飲み込んでからリィンは否定の言葉を口に出した。

 

 まだ、と言ってる辺り負けず嫌いな性格が顔を出しているが。

 

「だって、リィン足速いし体力あるし、ジャスガ上手いし……」

「それ言ったらシズクの直感には敵わないし、ヘッドショットの正確さには脱帽ものよ」

「…………まあ、クラスも違うし比べることがもう間違いなのかもしれないね」

 

 若干頬を赤くしながら、シズクは飲料水を口に含み立ち上がる。

 

 あくまで小休止。

 息が整ったならあまりぼやぼやとしないほうがいいだろう。

 

「よし、後半戦も頑張ろっ」

「ええ、頼りにしてるわよ」

 

 二人で並んで、走り出す。

 どうせならばと一位を目指して。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「まーやっぱ、一位は『リン』だったか」

 

 ナベリウス凍土エリア。

 その入り口付近で、メイは右手のツインマシンガンをくるくると回しながら呟いた。

 

「んーっ、まあ残当じゃない?」

 

 疲れた身体をほぐすように伸びをしながら、背後に居たアヤが応える。

 

 ついさっき、戦技大会終了の合図が鳴った。

 

 優勝は『リン』とサラのペア。

 奥地に到達できなかった二位以下のペアは各自解散の運びとなった。

 

 帰還用のテレパイプは既に展開されている。

 いつでも帰還可能だ。

 

「この後どうする? 今日はもう休み?」

「やー、反省会込みでミーティングしたいなぁ」

「そうね。後輩二人は何処まで行ったかし……ら……」

 

 突然、アヤがテレパイプに向けて歩いていた足を止めた。

 

「? どした? アーヤ」

「ちょ、ちょっと……メーコ、もう戦技大会の順位出てるから見てみなさい」

「順位? へー、早いね」

 

 端末を弄り、戦技大会の公式サイトへアクセス。

 新着お知らせの最上段にあった順位表をタップした。

 

「……へ?」

 

 瞬間、メイは間の抜けた声を漏らした。

 

 端末に映し出された、順位表の上から二番目(・・・・・・)

 

 シズクとリィンの名前が、二位の欄に刻まれていた。

 

「え、ちょ、は、え? す……凄いじゃん!」

「感想が月並みね……でも、本当に凄い。私ら二十八位なのに……」

「今日は帰ったらお祝いだな! あの子らに連絡連絡……」

 

 端末を操作して、通話帳の中からシズクを選択。

 

 数秒して、通信は繋がった。

 

『もしもし?』

「もしもしー! いやー! 凄いじゃん二人とも! 二位! 二位だよ!? 『リン』抜けば一位だよ!?」

『うばば、もう順位見れるんですか? いやぁ、なんか今日はやたら直感が冴えて冴えて……』

「それでも凄いよ! 誇るがよい! そしてインタビューされたときは先輩の指導のおかげですと言うがよい!」

「何様よ。そして何キャラよ」

 

 てへぺろ、とメイは舌をぺろりと出した。

 

 可愛い動作のはずなのに、メイがやるとうざくなるのは才能というやつだろう。

 

「それより! 今日はお祝いするよー! ちょっとお高い店でパーティやろう! アーヤの奢りで!」

「別に払うのはいいけど貴方も出しなさいよ」

「えーっ!? しょうがないなぁ、もう」

『あ、そこは素直に出すんですね』

 

 多分ノリとテンションだけで言葉を発している状態なのだろう。

 

 よっぽどシズクとリィンが好成績を残したことが嬉しいようだ。

 

 それこそ自分のことのように――いや。

 メイ・コートという女は、自分のことではここまで喜ばないだろう。

 

 大切な家族のことだからこそ、彼女はこんなにも喜ぶのだ。

 

「うん、うん、じゃあ後でー!」

 

 通信を切り、端末を仕舞う。

 お祝い会の予定はアークスシップに帰還してから決めることになったようだ。

 

 となればもう即座に帰るしかあるまい。

 

 もう既に十メートルほど先に見えるテレパイプに向かってメイとアヤは歩き出す。

 

「しかし何だか、『抜かれちゃった』って感じね」

「ホントホント、出会った頃はプレディガーダに苦戦してたのにねー……」

 

 もうあの頃が懐かしい、とばかりに腕を組んでうんうんと頷くメイ。

 

 本当に、立派になったものだ。

 思わずほろりと目に涙が浮かんでくるほどに。

 

「悔し涙?」

「嬉し涙。いやぁ、歳を取ると涙腺が緩くなっていけねぇべや」

「何キャラよ……」

 

 まるで娘の成長を喜ぶ父親のようである。

 や、本人は本当にそのつもりなのかもしれないが。

 

「じゃ、テレパイプ起動するわね」

 

 アークスシップに帰るべく、アヤがテレパイプに手を伸ばした。

 

 

 ――その時だった。

 伸ばした手に、『何か』の影が差し込んだ。

 

「……ん?」

 

 テレパイプの、丁度真上。

 文字通り雲の上から、『それ』は降ってきた。

 

「っ!? アーヤ! 下がって!」

「え? きゃっ!?」

 

 メイがアヤの首根っこを引っ張って引き寄せた直後。

 

 ずしん、という地鳴りと共に。

 テレパイプは『それ』に踏みつけられ粉々に砕け散った。

 

「――さて」

 

 刺々しい鎧のような外殻。

 黒く輝く大木のような豪腕。

 

 ――鈍く光る、赤い瞳と(コア)

 

「猛き闘争を始めようぞ、アークス!」

 

 『ファルス・ヒューナル』。

 深淵に至りし巨なる躯――ダークファルス【巨躯】の人型戦闘形態が。

 

 祭囃子に導かれて、二人の前に現れた。




――終わりというのは、唐突にやってくる。


なんつって。

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