土日に投稿できないなら金曜日に投稿すればいいじゃない。
時間的にもう土曜日だけど。
エピソード1外伝・アークス戦技大会。
開始です。
歪みの始まり
「……やはり、間違いない」
アークスシップ・市街地。
一際高いビルの屋上に、漆黒の衣装を身に纏った者が一人。
ダークファルス【
『リン』――キリン・アークダーティの、未来に於ける可能性の一つである。
「私の記憶では……アヤ・サイジョウは【巨躯】戦で無能な現場指揮の所為で死亡」
手元の端末を弄りながら、彼女は呟く。
ちなみに端末はアークスだった頃の物だ。
「そして、メイ・コートは孤独に耐えられずに自殺……だった筈だ」
「何度周っても、その歴史は変わらなかった……いや、変えられたのかもしれなかったが……私は変えなかった」
今回も、変えなかった筈だ。
そもそも、彼女たちに関する記憶は磨耗して消えかけていた。
思い出すのに苦労したものである。
「私と奴以外にも、歴史の改変者がこの時間軸に居るのは間違いない――そしてそれは……」
この二人のどちらかに、間違いない、と。
【仮面】はモニターに二枚顔写真を浮かべた。
「『シズク』、……『リィン・アークライト』。この二人はどちらも記憶に無い」
既に遠い過去になった最初の時間軸でも。
繰り返し続けた時間遡行の旅路にも。
彼女ら二人の姿を見ることは無かった。
そんな存在が、死ぬはずだったメイ・コートとアヤ・サイジョウのチームと同じチームに入っている。
ただの偶然とは言い辛いだろう。
「それに、『シズク』の方は私の正体を見破った……只者では無いことは確かだ」
独り言を終え、【仮面】は立ち上がり手で顔を覆う。
瞬間、彼女の頭は仮面に包まれた。
ダークファルスの名に恥じぬ、歪な仮面に。
「今日は……A.P.238/4/13か。次に起こる事象は何だったか――」
まあ尤も、この時間軸の歴史は既に大きく変わっている。
【巨躯】戦後に現れた『アレ』の事もあるし、下手に既存の知識に頼ると危うい気もするが――。
――と、【仮面】がそこまで思考を進めたところで、ぴたりと動きを止めた。
忘れている。
何かを忘れている。
確か、【巨躯】戦後の直後に、『何かが』あった筈。
『はっはっは! 聞こえるか? 聞こえるだろう! オレの高らかな叫びが!』
瞬間、【仮面】の居るビルの向かいに建っているビルの壁に付けられたモニターに、暑苦しいを体現したような男が映し出された。
六芒均衡の六。
ヒューイが、重大発表と称してモニターをジャックしたのだ。
「そうだ……思い出した」
『アークス戦技大会』。
ダークファルス【巨躯】撃退後に、六芒均衡ヒューイが提案したアークスの祭り。
「…………」
【仮面】の記憶が、確かなら。
今モニターに映し出されている開催予告の放送は【巨躯】撃退後の三日後。
A.P.238/4/4に起きる筈だった事で、戦技大会本番は4/9に実施される筈だった。
事象が、狂っている。
最早、既存の時間軸など当てにならない。
「…………さて、どうしたものか」
呟いて、【仮面】はモニターから目を離す。
彼女の姿が赤黒い闇に包まれたと思った次の瞬間、もうビルの屋上には誰もいなかった。
*****
「……っと、言うわけで、【深遠なる闇】? に関しての情報は何一つ手に入りませんでした」
「そっか……」
アークスシップ・ショップエリアにあるカフェの一席。
そこに、三人の少女が座っていた。
青髪ポニーテールのリィン。
それと情報屋姉妹のパティエンティアだ。
「ホント、不自然なくらい何も分からなかったねー」
「不自然?」
パティの物言いに違和感を覚え、リィンは首を傾げた。
不自然とは?
「うん、『○○について調べて』とか、『○○の情報を頂戴』とかの依頼はたまに来るんだけど、本当に何も分からなかったっていうことは今まで無かったんだよね」
「そもそも依頼自体が少ないけどね……でもパティちゃんの言うとおり、ここまで過剰な程何も分からなかったことは初めてなの」
パティエンティアは、(主にパティのせいで)ふざけた雰囲気こそあれどプロの情報屋を名乗るコンビである。
一度調査を始めれば、有用な情報を得るまで危険を顧みずに虎穴に入り込む度胸を持っているのだ。
見た目が少女であることと、パティのふざけた態度。
極め付けに、そもそもアークスは情報を軽んじる脳筋だらけ。
この三点さえ無ければ、もっと重宝されるような人材なのである。
「……つまり?」
「その【深遠なる闇】っていうのは単なる造語で何も意味を持たない……もしくは『記録に残っていない何か』ってことだね」
「アークスの偉い人がこれは残しちゃ拙い! って記録を全部消しちゃったのかもねっ!」
「パティちゃんにしては鋭いことを……でも、消したのなら『消した痕』があってもおかしくないんだけどなぁ」
アークスは決して完全完璧にクリーンで真っ白な組織というわけではない。
それは大抵のアークスが口には出さないまでも理解している事柄だ。
少し前の【巨躯】復活、さらに暴走龍によって噂に過ぎなかった『アークスの暗部』――研究室の存在が明るみに出たことも相まってアークスに疑念を抱くものは多い。
尤も、誰一人それを口にするものはいない。
アークスに謀反の気がある存在を消す、『始末屋』の存在もまたまことしやかに噂されているからだ。
「情報屋として、これ以上この件については調べないことをオススメします」
「そっか……分かったわ、ありがとう」
(……まあ、今回のはルインの悪戯かな。全く、意味も無く意味深なこと言っちゃって)
とまあ、お礼を言いながらも内心そんな風にあたりを付けて、リィンは小さくため息を吐いた。
「あ、そうだ」
と、そこでパティが話題を転換するように声をあげた。
大げさなリアクションで手を叩き、人差し指を上に立てる。
「そういえばリィンはあれでるの? あれ!」
「あれ?」
「もー、パティちゃん。あれじゃ普通伝わらないよ?」
曲がりなりにも双子だからなのか、パティの言わんとしていることがティアには伝わっているようだ。
いや、それとも会う人全員に聞いているだけのことなのか。
……後者の方がありえそうなのは双子として如何なものか。
「『あれ』……とはすなわち『戦技大会』のことだよ!」
「あー、あれね」
一昨日だったか、六芒均衡の男がモニターで言っていた言葉を思い出しながらリィンは頷く。
『アークス戦技大会』。
その名の通りアークス同士が武を競い合うお祭りのような大会である。
とは言ってもアークスとアークスが直接戦うわけではないらしい。
まあアークスの戦う技術は対人戦を想定しておらず、対ダーカー等のエネミー相手が主だ。
アークスとしての強さを競うなら、集団戦闘における総合能力。
すなわちチームを組んでのエネミー掃討戦あるいはタイムアタック!
……に、なるだろうと噂されている。
まだ細かいルールは秘密だそうだ。
「出てみたいけど……どうせ『リン』さんの一人勝ちじゃないの?」
「いやいやいーやいや! やる前から諦めるなんてとんでもない!」
「まああの人は優勝候補だけど……絶対優勝ってわけじゃないと思うよ」
ルールがある以上、絶対は無いだろう。
それに、対エネミー戦だったら参加者の実力ごとに適切な難易度に振り分けられることになる。
つまり、『リン』はスーパーハード級のエネミーと戦うことになるが、リィンらなら精々ハード級が相手だ。
そう考えれば……まあ、勝ち目があるようにも思えてくる。
「それに優勝できなくても折角のお祭り! 騒いでナンボ! 楽しんだもん勝ちだよ!」
「パティちゃん、さっきから声が大きい。ここカフェだからね、もう少し静かにしようね」
テンションがPSEバーストしてきた姉を妹が宥めた。
言われてみれば、パティの大声の所為で周りに座っている人たちから感じる……。
「あ、ありゃりゃ……」
「全く……じゃあ、話すことは話したし私たちはここで……碌に情報渡せなかったしここの御代はパティちゃんが払っておきますね」
「えっ!?」
「あ、うん……ありがと」
ちなみに情報料は前払いで払っている。
こんな良心的な値段で良いのかと不安になる額だったが、そもそもアークスが本職で情報屋は趣味みたいなものらしいので良いのだろう。
「ふーっ」
パティエンティアの姿が見えなくなったのを確認してから、リィンはため息を吐いた。
やはりまだ、人と話すのは苦手だ。
シズクや先輩たちとは普通に話せるから、慣れの問題だとは思うけど……。
「ままならないなぁ……」
呟いて、コップに残っていたジュースを飲み干すまでストローで吸う。
(戦技大会か……)
(参加、してみようかなぁ)
やっぱ組む相手はシズクかな。
先輩たちも出るかな。
あの姉みたいな何かは出ないで欲しいな。
なんて色々なことを考えながら、リィンは席を立った。
アークスたちのお祭り――アークス戦技大会、開催まであと三日。
あ、【仮面】の正体ネタバレ注意です(遅い)。
そして一応念のため万が一に備えて軽く説明すると、
ダークファルス【仮面】は『リン』さんの未来の姿です。
時間遡行で同じ時間を何度も繰り返して『あの子』を救う手段が無いか
色々試したけど「モウダメムリ……」となって諦めてしまった英雄の成れの果て。
『あの子』を救うには『あの子』を殺すしかないという結論に至ったので、
『あの子』と『リン』の命をやたら狙ってます。