AKABAKO   作:万年レート1000

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予定は覆すもの。

武器迷彩のダサいダサくないはキャラの主観なので私のセンスとは関係ないです。
あくまで「センスが小学生男子のリィン」と「センスが大人の女性であるリナ」のギャップと葛藤が描きたいだけなので、ネタとして見て頂ければと。


武器迷彩

 エクエスティオー。

 ネイバークォーツ。

 ガードウィング。

 サウザンドリム。

 フィーリングローブ。

 ウィオラマギカ。

 エーデルゼリン。

 

 何の名前かと言うと、女性の新米アークスが支給品として最初に貰える戦闘服のことだ。

 

 戦闘駆動をするうえで、とても動きやすいしデザインも悪くない。

 大気中のフォトンとの感応度なども考えられていて、とても優秀な衣装ばかりなのだが……。

 

 如何せん、新米アークスっぽさが出てしまう。

 上記の服を着ているアークス=新米という風潮が、なんとなくアークスには存在しているのだ。

 

 リィンはネイバークォーツ。

 マコトはエーデルゼリン。

 リナはフィーリングローブ。

 

 シズクはアークス研修生女制服という別の服だが、名前から察せられる通り研修中の見習いアークスが着る制服である。

 見た目が良いので熟練アークスでも愛用している人は居るにはいるが、シズクの(ロリっぽい)見た目だと研修生と間違えられやすいのだ。

 

 もう難易度ハードのクエストを受けることが出来るし、【巨躯】戦でも充分活躍できた。

 そろそろ初心者を脱却しても良い頃だろう。

 

 と、いうわけで一行はコスチュームからアクセサリー、武器迷彩までファッションに関するものならなんでもござれ、

 

 SGNMデパート・ファッションゾーンに足を踏み入れたのであった。

 

「おぉー、服が一杯だー」

 

 目を輝かせながら、シズクは店内を見回す。

 

 右を見れば服、左を見ても服、後ろを見たら流石に服ではなく隣接している武器迷彩ショップだが、兎も角女子としてはテンションの上がる光景だった。

 

 マイショップなどのネットショップでは味わえない感覚だろう。

 こういったところも、このデパートが人気の理由である。

 

「テンション上がるね! リィン!」

「…………」

「……リィン?」

 

 リィンもまた、シズクと同じように目を見開き輝かせていた。

 

 ただしかし、向いている方向はシズクと逆。

 つまり、武器迷彩ショップを見ながら瞳を輝かせていたのだ。

 

「し、シズク! 私武器迷彩が見たい!」

「えー!? 先に服見ようよ!」

「いや服は正直どうでもいいし……」

 

 着れればいいじゃん、と小学生男子のような発言をするリィンであった。

 

「うばー! 単独行動は戦場では命取りだよ!」

「戦場じゃなくてデパートだし」

「うぐ、でも、ほら、服買った後に行けばいいじゃん!」

「いや服買ったら武器迷彩買うお金無くなっちゃうだろうし……」

「うばー……」

「…………」

「あの……」

 

 しばらく口論になると思われた二人の対立だったが、意外なところから助け船が表れた。

 

 巨乳ニューマンことリナが、おずおずと手を挙げたのだ。

 

「私も武器迷彩の方に行きたいなぁ、なんて」

「うば!?」

「ほんと!?」

 

 二人の剣幕に驚きながらも、リナはこくりと頷いた。

 

「じゃあ私とリナは武器迷彩ショップ行ってくるわね、後で集合しましょう」

「うばば……くっ」

 

 何とか二人を引き留める方法は無いものかと考えるシズクだったが、思い付かなかったようで悔しそうに口を閉じた。

 

「リナは服見ないでよかったの?」

「う、うん。前から欲しいなって思ってた武器迷彩があって……でもそれ買ったら多分服買うお金無くなっちゃうから……」

 

 リィンとリナ、二人で会話をしながら、武器迷彩ショップの門をくぐる。

 

 店内は、そこそこ繁盛していた。

 壁と棚に武器迷彩が被さったコモン武器がサンプルとして立て掛けられており、欲しいモノがあったら対象のチケットをレジに持っていくことによって商品を購入できるシステムだ。

 

「わぁ、凄い。色々な武器迷彩で一杯」

「ほ、ホント多いね……、リィンはどういうのがいいの?」

「うーん……格好いいの、かな」

 

 可愛いのは何か似合わない、と言いながらリィンはソードの武器迷彩コーナーに向かった。

 

 その間に、今更ながら武器迷彩について説明しよう。

 

 武器種さえ合っていれば、どんな武器でも被せた武器迷彩の『見た目』にすることができる文字通りの迷彩だ。

 武器の性能自体は変わらないので、性能は良いが見た目の悪い武器や、見た目は悪くなくともコスチュームに似合わない武器等に装着するのが主な使い方となるだろう。

 

 尤も、そうでなくとも好みの武器迷彩があってどんな武器を使おうがその武器迷彩を被せて使う人もいるし、一概に言えないのが現状だ。

 

 何しろ武器迷彩は、基本的にどれもこれも見た目が良い。

 

 まあ、見た目が全てとも言えるアイテムなので当然かもしれないが。

 

「お、これなんていいわね」

 

 リィンが、楽しそうに微笑みながら、一本のサンプルを手に取った。

 

 商品名『*焔龍閃滅刀』。

 炎を思わせる独特のフィルムを持った赤い大剣だ。

 

 格好いいことは格好いいが、リィンの蒼髪には似合わない。

 そしてどうやらリナの好みではないようだ。

 

「えっ」

 

 そんな代物を「いいわね」なんて言いながら手に取ったリィンを見て、リナは思わず驚きの声をあげてしまった。

 

 いやいやまさか。

 そんなまさかと頭を振り払い、再びリィンの様子を見る。

 

 リィンは先ほどの*焔龍閃滅刀を名残惜しそうに戻し、そして傍にあった次のサンプルを手に取った。

 

「これもいいわねー」

「…………」

 

 リィンが手に取ったのは、『*龍鳴剣ヴァンデルホーン』。

 見た目はさっきより大分マトモで、シンプルなアイアンソードと言った感じだ。

 

 しかし名前負けしがちな痛々しい名前は如何ともしづらい。

 

(何でそんな……)

(男子小学生が好きそうなやつばかり……)

 

 少し触ってみては、次へ次へとサンプルに手を出していくリィン。

 しかしさっきから選んでいる基準は『(リィン主観の)格好よさ』らしく、なんというか厨二……というかドン○ホーテに売ってそうな武器迷彩ばかりを手に取っている。

 

 これは、放っておいていいのか? という考えが、リナの頭をよぎる。

 

「リナ! 見てこれ! 『*約束された勝利の剣』って書いてエクスカリバーって読むんだって! かっこいい!」

「う、うん……」

 

 よく、分からない。

 文字列と宛て字の関係性が何一つ分からない。

 

 もしかして、自分がおかしいのだろうか。

 最近の流行はこういうのなのだろうか、というリナのような自分に自信が無い人間にありがちな自問自答が始まった。

 

(どうしよう……どうしよう……!)

(と、とりあえず見守って……どうしようもなくダサいの選んだら止めてみよう!)

「あっ」

 

 リナの焦燥など知る由もないとばかりに、リィンは次のサンプルを手に取った。

 

 瞬間、思わず声をあげた。

 そしてその武器迷彩の、名前を呟く。

 

「『*守護女神ノ太刀』……」

 

 シャープな黒い刀身に、紫色のフォトン刃を持った鍔の無い大太刀。

 何処となく神秘的で、それでいて力強い雰囲気を持った武器迷彩だ。

 

 これだ、とリナは思った。

 名前は兎も角、見た目は今までの中で比較的マトモ。そして何より――。

 

 ――リィンに、とても似合っていた。

 

「そ、それ格好いいですね! とても似合ってます!」

「わっ、え、そ、そう?」

「はいっ」

 

 突然大声で褒められて吃驚しつつも、リィンは照れるように頬を赤くした。

 

 *守護女神ノ太刀を見つめた後、感覚を確かめるように軽く振る。

 二度三度振って、うん、と頷いた。

 

「使い勝手も悪くないし……、これ買うわ」

 

 よし、とリナは見えないようにガッツポーズした。

 

 最悪の展開は防げたといってもいいだろう。

 とりあえずは、ほっと一息……。

 

「あら」

「……はい?」

 

 と、思ったところでリィンがまたも声をあげた。

 視線の先には、*守護女神ノ太刀の値札。

 

 そこには、【大特価】二百万メセタと赤文字で大きく書かれていた。

 

高価(たか)いわね……とてもじゃないけど買えないわ……」

「えっ」

「仕方ない、とりあえず今日は(安いし)*焔龍閃滅刀を……」

「わーっ! 待って! 待ってください!」

 

 よりにもよってリナの感覚で一番リィンに似合わないと思っていた奴を手に取ろうとしたリィンを、必死に止める。

 

 それを選んだら最後、シズク辺りが爆笑しながらからかいそうだ。

 

「リィン、武器迷彩は一つしか装備できないの。だから今それを買ってもいつか*守護女神ノ太刀を買ったら無駄になるのよ」

「え、そうなの?」

 

 何とか、買うのを阻止できないものかと説得を試みる。

 咄嗟に出てきた言葉だったが、意外と効果はあったようでリィンは伸ばした手を止めた。

 

「う、うんうん、いくらそれが安めだからって馬鹿にできる金額じゃないから、今はメセタを貯めるべきだと思うわ」

「うーん、……そうね」

 

 今はお金を貯めるわ、と残念そうにリィンは頷いた。

 

 辛勝……!

 冷や汗をかきながら、リナは再びリィンにばれないようにガッツポーズをした。

 

「それで、リナは何を買うの? 武器種は?」

「え? あ、うん――、私はタリスだから……あっちね」

 

 切り替え早いな、と思いながら、リナはタリスの武器迷彩が売っている棚を指差した。

 

 そっちに向かって、歩きだす。

 

 店内を歩いていると、当然色々な武器種の武器迷彩が目に入った。

 

 格好いいの、可愛いの、変なの。

 こうして見てるだけで楽しくなってくる、良い店だ。

 

 多分シズクは、今頃色んな服に囲まれて同じような気持ちになっているんだろうなぁ、なんて思いながら歩くリィンの瞳に。

 

 一瞬、自分の名前が映り込んだ。

 

「……んん?」

「? どうかした?」

 

 ぴたり、とリィンは足を止めた。

 

 視線の先にはカタナの武器迷彩コーナー。

 その一角を、リィンは指差した。

 

「これ、何?」

「うん? ……わっ」

 

 リィンの指差した先、そこには一本のカタナ武器迷彩があった。

 鍔部分に穴の空いた羽根のような装飾の付いた、紫色の刀。

 

 ()は、『*リィンの太刀』。

 

「……いやまあ、偶然なんだろうけど」

「す、凄い偶然だね……ええっと、何かのゲームのキャラクターが使ってた武器を模したものみたい」

「へぇ、ゲームの武器から作られた迷彩なんてあるのね」

「結構そういうの多いみたいだよ。さっきの……*約束された勝利の剣(エクスカリバー)? もゲームからみたいだし」

 

 ゲームキャラのコスプレしてる人もたまに見るよね、とリナは*リィンの太刀を手に取りながら言った。

 

 そんな人いるんだ、と思いながらリィンは値札を見る。

 

「千五百万メセタもするわねこれ……高くて買えないわ」

「買えたら買ってました?」

「いや、別に……」

 

 意味深に、リィンは瞳を閉じた。

 少し何かを思い出すようにそうした後――瞳を開ける。

 

「カタナ使う予定は、無いし」

「そ、そう」

 

 なんだ、とちょっと残念そうにしてリナはカタナを棚に戻した。

 

 そうして二人は再び歩みを進めた。

 もともと自分の名前を冠した武器迷彩を見て、少し気になっただけなのだ。

 

 少しして、目的地であるタリスの迷彩コーナーに二人は辿りついた。

 このデパートはどんな店でも一つ一つの敷地面積が大きくて移動が大変だ。

 

「もう決めてるんだっけ? どれ?」

「え、えーっと……あ、あった」

 

 リナが手に取ったのは、ラッピーと呼ばれる生物が印刷された大きな袋だった。

 

「袋?」

「『*ラッピーサック』っていうの。か、可愛いでしょ」

 

 袋をごそごそと探ると、中からラッピーのぬいぐるみが出てきた。

 これを投擲して攻撃するのだ。所謂、ネタ迷彩というやつだろう。

 

「可愛いけど……変な武器ね」

「武器迷彩は遊び心に富んでるから好き」

 

 サンプルを棚に戻して、チケットを取る。

 

 これをレジに持っていけば商品を購入することができるのだ。

 

「これ、結構高いけど大丈夫?」

「う、うん、このためにお金貯めてたから……よし、レジに行こう」

 

 言って、レジに向かう。

 

 武器迷彩ショップのレジは、店の中央に円を描くように配置されていた。

 

 円の中にはキャストの店員が六人。

 どのレジも一人以上人が並んでいるようだ。

 

「あ、あのレジが一番並んでないね」

「そうね……ん?」

 

 なるべく人が少ない列に、二人で並ぶ。

 

 その時ふと、リィンが何かに気付いたように立ち止まった。

 

 また何か面白い武器迷彩でも見つけたのかな? と思ったがそうではないようで、リィンはレジの方向を見ていた。

 

 どうしたというのだろう。

 別にレジに何かおかしなところは無い……ただ――。

 

 二人の前に、並んでいる女性が一人。

 絹のように美しき、青い髪を持った背の高い女性だ。

 

「――これを、三つくれるかしら?」

「毎度ありがとうございます――三つ、ですか?」

「ええ」

 

 柔らかに笑いながら、その人――。

 

「『リィンの太刀』、保存用、使用用、飾り付け用に三つお願いします」

 

 ――ライトフロウ・アークライトは頷いた。

 

「かしこまりました。……リィンの太刀三つで四千五百万メセタになります」

「はい。ふふふ、良い掘り出し物見つけちゃったわぁ……リィンの太刀(意味深)、その響きだけでもう……っと、涎が……ふふふ」

「…………」

 

 養豚場の豚を見るような目つきで、姉の後姿を見つめるリィン。

 

 急にそんな表情になったリィンが心配になったのか、リナは……。

 

「……リィン、どうかしたの?」

 

 最悪のタイミングで最悪のセリフを放ってしまった。

 

「ん?」

 

 リィン。という単語に釣られ、反射的にライトフロウが振り返る。

 

 このままそっと別のレジに並んでいれば避けれたかもしれない、悲劇が幕を開けてしまった。

 

「あ……」

「…………」

 

 ばっちりと、姉の視界に妹が入った。

 

「…………」

「…………へ? あ? え? ……んん!?」

 

 ジト目でこちらを睨んでくるリィンに、困惑しか沸いてこない。

 

 どうしてここに。どうしてこんなタイミングで。どうしてそんな可愛いのホントもうペロペロしたい。

 など、色々な感情が押し寄せてくる。

 

「ほ、ほんもの……?」

「……リナ、別のレジ行きましょ」

「え、え? いいの? 知り合い……ていうか、リィンのおねえ……」

「違うわ」

 

 ふい、とリィンは姉から視線を逸らし、反対方向のレジへと歩き出す。

 

「私の家族は、【コートハイム】の皆だけよ」

 

 あ、これ深入りしたらいかんやつだ、と瞬時に察したリナは口を閉じた。

 ぺこり、と軽くライトフロウにお辞儀をして、リィンを追いかける。

 

「あ、あ……」

 

 どしゃり、とライトフロウは膝から崩れ落ちた。

 両手を地面に着き、溢れそうになる涙を叫びに変える。

 

「あぁああああああああああああああああああああ!」

 

 彼女の慟哭は、何時までも途切れることの無いように思えるほど悲痛な叫びは。

 

 十秒後、店員に注意されるまで続いたのであった……。




エピソード4でついにマトイ出ましたね。
二十歳になったからかヒツギとの対比か、やたらと大人びて見えました。

魔人さんは声が可愛かった。

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