メイが自分も誕生日だということを黙ってたよ! 以上。
「さて、何と言ったらいいのか……」
三人の視線を一身に受けながら、メイは悩むように腕を組んだ。
「メイさんは、私たちにお祝いされたくなかったんですか?」
リィンが哀しそうに言った。
勿論即座に首を振るメイ。
「いやいやいや、それはない、それだけはない」
「じゃあどうしたっていうのよ」
アヤの突き刺さるような視線が痛い。
養豚場のブタを見るような瞳ってこういうのなんだなと何処か他人事のように考える。
「いやあ、うーん……」
「あ、もしかしてメイ先輩――」
「ストップ! シズクの発言は認めていません!」
「何故!?」
「自分の無い胸に聞いてみな!」
今日あたしの扱い酷くないー? っとシズクは涙目になって叫んだ。
それをフォローするように、アヤがシズクに向かって笑み見せる。
「いやいやシズク、アナタの勘の良さは今こそ活かすべきよ。さあ今浮かんだ推測を言いなさい」
「アーヤ! そういうのずるいと思います!」
「え、えぇーっと、あたしの直感に身を任せた推測ですけどね……」
「それ的中率100%のやつー! 分かったわよ! せめて自分で言わせて!」
今更ながら、シズクってずるすぎない? と心の中で愚痴りながら、メイはこほんと一つ咳払いした。
そして、語りだす。
「だってさ……誕生日だなんて教えたら、絶対二人とも誕生日プレゼントくれちゃうじゃん」
「……はぁ?」
「そりゃまあ、あげますけど……」
何を当然のことを言っているのだろう、と首を傾げる三人。
三人。
そう、シズクも、首を傾げている。
「……ウチはさ、ずっと、ずっとずっと、家族が欲しかったんだ」
「…………」
「【コートハイム】だって、そのために建てた『家』に過ぎない。そんなウチがさ……
……娘から誕生日プレゼントなんて貰っちゃたら、泣いちゃうじゃん」
「そんな理由!?」
想像しただけで泣けてきたのか、ほろりと少しだけ涙を見せながらメイは言った。
「大体黙っててもすぐバレるでしょうが!」
「アヤに黙っといてってお願いするの忘れてたんだよー!」
「シズクとリィンも祝いたかっただろうに、酷いわね」
「ウチは後輩の前では格好いい先輩でいたいんだよ!」
ドン! と机を叩きながら力説するメイであった。
後輩の前では、格好いい先輩でいたいという気持ちが、今回の事件を引き起こした原因のようだ。
「……はぁ。らしいけど、シズク、どう思う?」
「いえ格好よさで言うと結構手遅れかと……」
「そんな馬鹿な!?」
がびびびーんという擬音が聞こえてきそうな表情でメイは衝撃を受けた。
一体何処で何を間違えてしまったのか、と考えた瞬間答えは出た。
今この状況がそもそもアレだ、と。
「り、リィンは!?」
「え、えーっと、時々無駄に格好いいですけど……」
「(無駄に?)うんうん」
「それ以外は……」
そこまで言って、リィンは口を噤んだ。
何というか考えている、というより言っていいのか悩んでいる、といった雰囲気だ。
「そ、それ以外は? 何?」
「……いえ、やっぱ何でもないです」
「リィンー!」
ふい、とリィンはメイから視線を逸らした。
流石にシズクじゃなくてもリィンが言おうとしたことが察せるレベルである。
「ま、こうなったら仕方が無い。折角だし今度【アナザースリー】と出かけるときに何かプレゼント買いましょ」
「さんせーです!」
「いいですね、それ」
「うぅ……嬉しいけど嬉しくない……」
涙目になりながら、メイは食事を口に運んだ。
そろそろ食べなくては、冷めてしまうだろう。
こうなることを予見していたシズクによって、冷めにくい料理or冷めても美味しい料理ばかりだが、それでも味は落ちていくだろうし。
「あ、そうだ。アヤさんへの誕生日プレゼントは何時渡します?」
「んー? もぐもぐ……今でいいんじゃない?」
「はむっ……それもそうですね」
「じゃああたしからー!」
意気揚々と、シズクはアイテムパックから箱を取り出した。
一辺三十センチほどの巨大な白い箱だ。
勿体ぶる必要は無いので、シズクは直ぐその箱を開けた。
「ケーキです!」
「わぁ……」
白と茶色のコンストラクトが綺麗な、シマシマケーキだ。
単純にショートケーキとチョコケーキを二分割しただけじゃないとこに拘りを感じる。
が、ふと気付いたようにメイが口を開いた。
「あれ? でもこれショートケーキ苦手なウチへの解決策にはなって無くない?」
「あっ」
今気付いた、と言わんばかりの表情をするシズク。
作ってる最中にテンションが上がってうっかりしてしまったのだろう。
「や、まあいいけどさ……何とかチョコの部分だけ食べるから」
「うばばば、ごめんなさい」
申し訳なさそうに、シズクは頭を下げた。
その瞬間、メイはハッと何かに気付いたように頭上に電球マークを浮かべ、シズクの方へ寄った。
ぽんぽん、とシズクの赤い頭を撫でる。
「大丈夫だよ、気にして無いぜ」
「メイさん……」
「シズク、メーコは株を取り戻そうと格好付けてるだけよ」
「分かってますよ」
「チクショー!」
メイの無駄な努力が終わったところで、次はリィンの番である。
食べていた肉をごくんと飲みこんで、ソファから立ち上がる。
「……ん? あれ? リィンも用意してたの?」
「そりゃメイさんのプレゼント確保を手伝ったくらいじゃ申し訳ないですよ……」
言いながら、リィンが取り出したのはミニサイズの小包だった。
おずおずとアヤに近寄り、手渡す。
「今日朝急いでお店行って選んだものなので、あんまり期待しないで欲しいですけど……」
「何かな、開けていい?」
「ど、どうぞ」
リボンを外し、包みを開ける。
中から出てきたのは、虹色に光る鉱石だった。
「……これは?」
「『ピュアフォトン』の首飾りです」
『ピュアフォトン』。
純度の高いフォトンが集まって出来た虹色の綺麗な結晶だ。
純度が
「綺麗だと思って……その、アヤさんの名前にも合ってるし」
「ありがとうリィン、とっても嬉しいわ」
ぱぁっとリィンの表情が明るくなった。
プレゼントしたもので喜ばれれば、嬉しくもなる。
それが初めての誕生日会であればなおさらだろう。
「中身は全然ピュアじゃないけどな」
「あらメーコ、死にたいならそう言ってくれればよかったのに」
「サーセン」
「それで? アナタからは無いのかしら?」
この程度の軽口、いつものことなのだろう。
左程気にした様子もなく、「仕方ないなー、そんなに期待されちゃ仕方ないなー」とアイテムパックから作った花冠を取り出した。
「はい、誕生日おめでとう」
ぽふ、とメイの頭に、花冠を乗せた。
ナベリウスの花々で出来た、綺麗な冠だ。
「…………まだ作り方憶えてたのね」
「そりゃ、アーヤに教えて貰ったことだし」
「……アナタだけ材料費タダね」
「それは言わないでください」
「ふふ、冗談よ。ありがとう」
頬を赤らめながら、アヤは笑った。
それを見て、メイも笑みを見せる。
その様子は、端から見て完全に夫婦だった。
「準備は良い? リィン」
「う、うん」
「せーの……ひゅーひゅー!」
「ひ、ひゅーひゅー!」
「シズク……リィンを巻き込んで茶化さないの」
照れ隠しに頬を掻きつつ、アヤはシズクに向かって窘めるように言う。
「アヤ先輩顔真っ赤ー」
「ぐぬぬ……メーコ!」
「何さ?」
突然名前を呼ばれ、戸惑いながらも応えるメイ。
何でこのタイミングでウチに振るんだ? 八つ当たりか? と微妙に身構える。
「私のあげたプレゼント開けてみて!」
「え? 今?」
「今!」
ますます分からない、と思いながらも、言われた通りアヤから貰った包み紙を開け、箱を開ける。
その瞬間、メイの顔が真っ赤に染まった。
「な、ああああなあなあああ?!」
「よし、これで赤面二人で恥ずかしさ半減ね」
「ああ、ああああアーヤ! お、おまこれ……!」
「あ、まだシズクとリィンには見せちゃ駄目よ?」
十八禁だからね、と唇に指を当て微笑むアヤ。
その仕草は控えめに言って最高だったが、渡されたプレゼントは最低だ。
最低というか、低俗というか。
誕生日を迎えて十八歳になったとはいえ、これは如何なものか。
「何何ー? 何貰いました?」
「ぴゃぁ!? 駄目! 駄目よシズク! リィン! 見ちゃ駄目! 特にリィン!」
「メーコ、そんな反応するとシズクに察せられるわよ」
「いや流石に今の情報だけじゃ予想しかできませんよ……」
「だからお前はその予想が怖いんだよ! 当たるから!」
はーっと溜め息を吐きながら、見られないようにメイはプレゼントをアイテムパックに仕舞った。
見せて貰えなかったことにぶーぶーと後輩から不満が出たが、致し方が無いことだろう。
「アーヤー……」
「ふふふふ」
「ふふふふじゃないよ全く……」
文句を言いながらも、メイの表情は緩い。
こうして『家族』で馬鹿やっているだけで、彼女は相当幸せなのだろう。
(こんなことがあった直後じゃ言いにくいけど)
(今日は最高に楽しい誕生日になりそうだ)
その後、誕生日パーティは夜を越えて、翌朝に眠気で全員倒れるまで続いた。
【コートハイム】のアークス活動が、明日は休みになることが決定した瞬間だったとさ。
アヤが渡したプレゼントは全年齢対象のこの小説内じゃ明かすことはできません。
まあリィン並みの純粋な心でも持ってない限り推測するのは楽でしょうけど。