AKABAKO   作:万年レート1000

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短めだけど、次の投稿は早ければ明日にでもできそう。


アイドルからの難題

 

 翌日の朝。

 

「くぁ……」

 

 アークスシップ・ゲートエリア。

 その一角にあるコートハイムがいつも集合場所として使っているモニター前で、シズクは一人欠伸を漏らした。

 

「結局昨日はよく眠れなかったなぁ……」

 

 目を擦りながら、他のメンバーを待つ。

 

 立ちながら仮眠でも取ろうか、と思ったところで見慣れたポニーテールがテレパイプゲートから姿を表した。

 

「お、シズク」

「おはようございます、メイ先輩」

 

 軽く手を振りながら近寄ってくるメイに対して、同じく手を振って挨拶する。

 

「一人?」

 

 メイはシズクの周囲を見渡しながら言った。

 

「はい、メイ先輩が二番です」

「それは丁度良かった」

 

 言いながら、端末を操作し始めるメイ。

 

 丁度いい? と首を傾げるシズクの目の前に、再生待ち状態の動画データが表示された。

 

「?」

「あの二人が居ない間に進めておきたい商談があってね……」

「商談……?」

 

 流石のシズクも、話が見えないようだ。

 

「ちょーっとメセタが心許なくてさ、良い映像が撮れたからシズク買わないかなって」

「は、はぁ……とはいってもあたしもそんなに余裕があるわけじゃないので、払える価値のあるものじゃないと払いませんよ」

「まー、そりゃそうよ。大丈夫、絶対払いたくなるから」

 

 余程自信があるのだろうか、メイはハッキリと言い切った。

 

 そこまで言われちゃ気になるものだ。

 シズクは再生ボタンをポチりと押した。

 

「……?」

 

 画面には、森林エリアに立っているリィンが映し出された。

 一瞬、昨日の出来事が脳裏を掠めて赤面するシズクであったが、次の瞬間。

 

 そんな赤面など吹き飛ばすような衝撃がシズクを襲った。

 

 モニターに映るリィンの腕が、ゆっくりと上がって兎の耳を象り、

 照れ笑いと苦笑いが絶妙に混じった表情で、

 

『り、リィン・アークライトだピョン』

 

 と、言った。

 

 瞬間、思考が真っ白に染まるほどの激震がシズクを襲った。

 

 足元から指先にかけて余すことなく身体中を駆け巡る萌えという言葉と痺れ。

 

 この感動を、感情を言葉にしようとして、口をパクパクと動かすが声が出ない。

 

 言葉に、できない。

 

「ご――」

 

 だから、シズクはメイに向かって腕を突きだした。

 五本の指を全て立て、まだ痺れの取れない身体で精一杯言葉を紡ぐ。

 

「五万……否、五十万メセタ出します!」

「毎度ぉ!」

 

 商談成立である。

 シズクとメイは固く握手を交わし、頷き合う。

 

「あ、アーヤには内緒だからな、後輩に金を強請ったと知ったら絶対怒られる」

「ぐっへっへ、分かりましたよ先輩」

「何やってんの?」

「ふぁー!?」

「うばー!?」

 

 ビクビクビクビクー! っと二人の身体は驚きのあまりとび跳ねた。

 

 声をかけた主――アヤはそんな二人を怪訝そうな顔で見ながら近寄ってきた。

 

「こ、こここれはアーヤさんじゃありませんか」

「お、おおおおはようございます先輩!」

「おはよう。動揺しすぎでしょう……何かいけないことでもしてたのかしら?」

「いいえいいえいいえ、別にど、動揺なんきゃ……なんかしてないよ」

「そそそそうですよ、ねぇ」

 

 どう見ても怪しさMAXである。

 無理矢理吐かせようか……と腕に力を込めたところで、アヤはハッと何かに気付いた様子で腕を止めた。

 

(そういえば今日は誕生日……)

(サプライズの相談でもしてたのかしら?)

 

 だとしたらここは放っておくのが吉だろう――と勘違いしてくれたアヤは、「まあいいわ」と少し照れ臭そうに視線を二人から外した。

 

(な、何だか知らんがセーフ?)

(自分の誕生日サプライズについてのことだとでも思ったのでしょうか……)

 

 ホッと胸をなでおろす。

 

 アヤは怒ったら怖いのだ。

 それは幼馴染であるメイが一番よく知っている。

 

「あ、もう皆揃ってるんですね」

 

 と、そんな空気の読めてるのか読めてないのか絶妙なタイミングで、リィンがゲートから現れた。

 

 これで全員集合、である。

 

「それじゃ、行こうか」

 

 挨拶もそこそこに、とりあえずコフィーのところで浮遊大陸の探索許可を貰おうと四人は動き出した。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「あ、やっほー」

 

 ショップエリア・展望台。

 昨日と同じく歌声が聴こえてきたので、注意に来た『リン』に対して、クーナは気軽そうに手をあげた。

 

「……えーっと、クーナ、だっけ。マジで有名なアイドルだったんだな」

「お? 調べてくれたの? どう? 興味持ってくれた」

「や。私はどうにも音楽とか芸術とかに疎くてなぁ……それよりもショップエリアで歌うのはやっぱ迷惑だと思うぞ」

「だーかーらー、アナタ以外に聞こえてないし見えてもないって」

 

 ぷりぷりと怒りながら、クーナは「見ててよ」っと展望台から身体を乗り出した。

 

 すぅう……っと大きく息を吸う。

 

「わ、ぁあああああああああああ!」

「っ!?」

 

 歌姫系アイドル本気のハウリング。

 流石の肺活量である――ショップエリア全域に響いたんじゃないかと思えるほどの大音量に、思わず『リン』は耳を塞ぐ。

 

 ……が、しかし。

 

「い、いきなり何を……」

「ほら、見てみなさい、こんな大声だしても誰も気付いてない」

 

 言われて、『リン』も展望台からショップエリアの人々を見下ろす。

 

 クーナの言う通り、誰一人さっきの大声に気付いていないかのように、買い物を続けていた。

 

「……ホントだ、どうなってんの?」

「ひみつー。ま、あたしがこんなとこで歌ってたら人だかりが出来ちゃうからねー、当然の隠ぺいってやつよ」

「ふーん……」

 

 最近のアイドルは凄いなぁ、と一瞬思った『リン』だったが、良く考えたら昔のアイドルも一人すら名前が浮かばなかった。

 

「成程ねぇ……」

「…………♪」

 

 感心したように頷く『リン』を見て、クーナは何かを思いついたようににやりと笑った。

 

「……あなたさー、シティにいるのをよく見かけるけど、アークスとしてどのくらい活動してるの?」

「え?」

「ヒマ、ってわけでもなさそーだけど、よかったらあたしからの依頼とか受けて見ない?」

 

 何かを企んでいる顔である。

 ただ、偶像(アイドル)として完成している彼女の本性は、シズクでも無ければ見抜けるわけでもなく……。

 

「クライアントオーダーってこと? いいよ」

 

 お人よしである『リン』は、二つ返事で受ける方向に話しを進めた。

 

「そ。心配しなくても、そんな難しいコトを頼んだりはしないって! ただ純粋に、アークスとしてのあなたの力を見てみたいってそーゆー好奇心からだし!」

「ふーん、アイドルなのに変なことに興味あるんだな」

「……それってアイドル関係ある?」

 

 ホント、アイドルとかそういうのに疎いんだなぁ、と呆れるようにクーナは溜め息を吐くのであった。

 




原作イベントを挟むと、原作では『アナタ』が喋らないから『リン』のセリフ選びと喋るタイミングで結構悩む。
違和感なくできてればいいが……。

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