AKABAKO   作:万年レート1000

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プチリスペクト


ナベリウスの花畑

「ナベリウスの森林エリアで採れる花で、誕生日プレゼントに向いているような花は全部で三種類ですね」

「ピンクの大きな花弁が特徴的な『フォレストフラワー』、綺麗な黄色で大きさは小さい『ナヴラピバナ』、白いスズランのような形が特徴な『スノーフレーク』」

「近くに花畑があるようなので、座標を送りますね」

 

 と、言った感じで凄く丁寧に情報を提供してくれたティアちゃんに感謝しつつ(パティちゃんは見てるだけだった)、二人と別れたメイとリィンは相変わらず森林を歩いていた。

 

 時折出てくるエネミーは相手にならない。

 当然だ、今二人が歩いているのは新人中の新人しかいかないようなノーマルレベル区域なのだから。

 

「ふぅ……敵が弱い所為もあるかもしれませんが……メイさんとペアだと守る必要が無くて違和感ありますね」

「ウチは常に空中浮いてるからナベリウスじゃアギニスかブリアーダくらいしか攻撃当たらないからね」

 

 アギニスというのは、ナベリウスに生息している鳥型の原生生物である。

 そしてブリアーダは母艦型の虫ダーカーだ。どちらも空を飛んでいるのでメイにとっては厄介な相手である。

 

「ていうかどうやったら空とか飛べるんですか?」

「ツインダガーとツインマシンガンは、武器にそういう機能が付いているんよ。空を飛んでいるっていうか、足元にフォトンの足場を形成して跳んでいるんだけど……」

 

 会話をしながら進んでいると、おあつらえ向きにアギニスが二体現れた。

 

 丁度いい見てろよ、とリィンを後ろに押し、メイは前に出た。

 ぴょい、と軽く跳んだ後、メイは空を飛ぶアギニスに目を向ける。

 

 瞬間、足元に透明のフォトンで出来た足場が形成され、それを思いっ切り蹴りだした!

 

「レイジングワルツ!」

 

 フォトンアーツ、発動。

 高速で空中を駆り、瞬間的にアギニスとの距離を詰め、一閃。

 

 下から上への切り上げが決まり、アギニスは切ない声をあげて倒れた。

 

「もいっちょワルツ!」

 

 そのまま、空中を蹴って方向転換。

 さっきと同じようにアギニスは切り裂かれ、塵となって消えた。

 

「こんな感じで、フォトンアーツを使って空中移動するのよ」

「おおー」

 

 すとっと華麗に着地するメイ。

 お次はと武器を替え、ツインマシンガンを手に取った。

 

「ツインマシンガンはこうやって……」

「あ、ツインマシンガン新調しました?」

「ああ、うん。ドゥドゥにメセタ持っていかれたのはこれの所為」

 

 メイの新ツインマシンガン――『イシュライ』がきらりと光る。

 

 樹木のような素材で出来た、不思議な形の双銃だ。

 レア度は9、前武器の『Tヤスミノコフ2000H』がレア度8だったので純粋に強化といえよう。

 

「……あれ? メイさんってメインクラスファイターですよね、なんでツインマシンガン持てるんですか?」

「ああ、それは『クラフト』してるから……っと、どうやら付いたみたいだな」

 

 クラフト? とメイが気になる単語を出したが、どうやら目的地に到着したようだった。

 

 遺跡地帯と森林地帯の境界線辺り。

 まるでここだけが切り離された空間のように、様々な花々が咲き乱れていた。

 

 それはとても幻想的な光景で、メルヘンな少女ならばうっとりとしてしまうこと必至なものだったが……。

 

「さ、良い感じのやつ探しましょ」

「せめてアヤさんの好みが分かれば手っ取り早いんですけどねー……」

 

 何の感想もなく、ざくざくと花畑に足を踏み入れる女子二人であった。

 

 つくづく女子力の低いやつらである。

 

「ええっと、フォレストフラワーとナヴラピバナと、スノーフレークでしたっけ。……他にも色々咲いているように見えるんですけど」

「なんか他のは花言葉が誕生日向けじゃないんだって。いやーパティエンティアに会わなかったらそんなの分かんなかったしラッキーだったね」

 

 そんな会話をしながら、しゃがんで花々を物色する二人。

 片手にパティから貰った花の写真を見ながら、これは違うあれは違うと花を選別していく。

 

 程無くして、花はそれなりの量が集まった。

 

 問題は、ここからである。

 

「じゃ、この花をどうします?」

「え? このまま渡すんじゃ駄目なの?」

「いやいや、プレゼントなんですからせめて花束とかにした方がいいんじゃないですかね」

 

 リィンにしては真っ当な意見である。

 が、当然二人とも花束にする技術など持っている筈もなく、そもそもリボンとかの材料が無い。

 

 今更ながら、メイがリィンを誘ったのは完全に人選ミスである。

 

 メイはしばらく悩んだ後、「あっ」と頭の上に電球を浮かばせながら言った。

 

「花冠にするかなぁ」

「花冠? ……ああ、あれですね、漫画の第二話で出た……」

「そうそう、それそれ」

「……出来るんですか?」

 

 疑惑の眼でメイを見つめるリィン。

 しかしメイは、自信満々に「出来るよ」と言い放った。

 

「昔、アーヤに教えて貰ったからね」

「……まあ、花は沢山あるしいいんじゃないですかね」

 

 リィンの了承が取れると、メイは座りこんで花を弄り出した。

 リィンもその傍に座り、その様子を見守る。

 

 花畑に、少女が二人。

 絵面だけならとても映える娘たちである。

 

「しかし、いいねぇこの場所。花は綺麗だし、エネミーはあまり出ないし、今度【コートハイム】の皆でピクニックにでも来ようか」

 

 花を結いながら、メイは言う。

 多分、メイにとっては何気なく言った言葉だったのだが、リィンは意外にもこれに食い付いた。

 

「ほ、本当ですか?」

「わ、え? 何? そんなにピクニックしたいの?」

「し、したい、です!」

「……。そっか、じゃあ、約束だ。また皆で来よう」

 

 メイの言葉に、それじゃあ座標保存しときますね、と端末を開いてリィンは嬉しそうに言った。

 

 まるで遊園地に連れてってもらえると親に約束された子供のようだ。

 

「でも何でそんなにピクニックに行きたいの?」

「えっと、私の家って厳しくて……ピクニックにも、遊園地にも、何処にも連れて行って貰えなかったんですね」

 

 アークライト家。

 強さに重きを置いた、武人一族。

 

 修行や訓練ばかりの育児をしていることは、容易に想像できる。

 

「だから、別にピクニックじゃなくてもよかったんですけど……」

「…………」

「『そういう』のに、憧れていたんです。ピクニックとか、遊園地とか、動物園とか」

 

 楽しみだなーっと、普段見せない、ほんわかした笑顔を浮かべるリィン。

 

 そんなリィンの姿を見て、メイはくすりと笑う。

 

「その前に、【アナザースリー】と合同でお祝い会もあるじゃない。その時皆で何処か行く? 映画とか、ボーリングとか……何も食べて飲むだけが祝い会じゃないしね」

「え? え? い、行きたいです! 映画も、ボーリングも、行ったこと無いです」

「じゃあ決定。他にもやってみたいこと、行ってみたいところとかあったら言いなさいよ? 全部連れてってあげるから」

 

 言いながら、メイは作り終えた花冠をリィンに被せた。

 ニヒルに笑って、リィンの頭をぽんと撫でる。

 

「ウチら【コートハイム】のメンバーは、家族なんだ」

「…………」

「遠慮なんてせずに、子供(メンバー)家長(リーダー)に甘えなさい」

「…………何で」

 

 頬を微かに赤く染めながら、リィンは呟く。

 

「何で極稀にそんな格好良くなるんですか?」

「やぁん! 惚れちゃ駄目よリィン! ウチにはアーヤという彼女が既に……」

「え?」

「え? ……あ!」

 

 やってしまった。と口を手で押さえるメイ。

 身近に恋人同士の二人がいるなんて初心なリィンが知ったら拙いと思い、隠していたのだ。

 

 リィンの反応は、果たして――。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙が、流れる。

 

 少しずつ、少しずつ情報を噛み砕いているのだろう。

 リィンの表情が驚きだったり、赤くなったり、落ち着いたり、コロコロと七変化していく。

 

 最終的に、もう一度驚きの表情を取ったリィンは息を大きく吸い込んで、叫ぶ。

 

「え、えぇえええええええええええええええ!?」

 

 リィンの叫び声が、ナベリウスに響き渡った。

 

 頭から煙を出してオーバーヒートしたり、「かのじょ? 何ソレ食べられるんですか?」とか言わない辺り、成長したなぁ、と思うメイであった。




メイとかアヤと絡ませると、リィンは後輩っぽさというか子供っぽさが前面に出てくるということに気付いた作者であった。

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