AKABAKO   作:万年レート1000

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暴走竜編スタートです。

作者はクーナちゃんが大好きです。


Episode1 第3章:蝕む害毒
それでも朝はやってくる


 例え幾千の命が失われた夜でも、

 例え嘆き、悲しみに包まれた夜でも、

 

 朝は、必ずやってくる。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「…………折角の休みなのに、もう昼じゃない」

 

 人工太陽が真上に位置する時間帯、すなわち正午ごろ、リィン・アークライトはベッドの上で目を覚ました。

 

 就寝時間を考えれば、仕方が無いことかもしれないがそれでも寝過ぎだろう。

 反省反省、と頭で呟きながら、リィンは身だしなみを整えるべく洗面所へ向かった。

 

「あ、おはようございます寝坊助(マスター)

「おはようルイン……もう昼だからこんにちわ?」

「どうでもいいでしょう、そんなこと」

 

 相変わらずマスターの発音が不穏なサポートパートナーだわ、と思いながら、リィンは自身のサポパであるルインに挨拶をした。

 

「お昼ごはんはもうすぐ出来ますから、ちゃっちゃと身だしなみきちんとしてきてくださいね」

「うん、分かったわ」

 

 顔を洗い、歯を磨き、服を寝巻きからいつものに着替える。

 

 そんないつものルーチンをこなして居間に戻ると、昼食の準備ができていた。

 

 口は悪いが優秀なサポートパートナーである。

 

「いただきます」

「召し上がれ」

 

 手を合わせて、いざ食べようとした瞬間。

 ふいにリィンの端末が軽い電子音を鳴らした。

 

 メールが届いたようだ。

 

「?」

 

 メールボックスには、四通のメールが届いていた。

 添付ファイル付きのメールが一通。

 メッセージのみのメールが三通。

 

 どうやら今届いたメールが添付ファイル付きで、他のメールは朝方リィンが寝ているときに届いたメールのようだ。

 

「差出人は……マコト、リナ、ラヴ……と、シズク」

 

 とりあえず上から読んでいこう、とマコトのメールを開封する。

 

「何々……『おはようございます。【巨躯】撃退と、友達記念のお祝い会の日程を決めようと思うけどいつがいいかな?』……えーっと、いつでもいいよ、と」

 

 返信。

 昼御飯のカレーライスを口に運びながら、次のメールを開く。

 

「リナ……あの巨乳ニューマンね、『突然ごめんんあさい、折角だかrあと皆でリィンとシズクにメールを送ることになりました。今度お買い物にでも一緒にいいきましよう』……誤字脱字だらけね、メールでもドジっ子なのねこの子……買い物楽しみにしてるわ、と」

 

 返信。

 次はラヴのメールを開く。

 

「…………うん? 『やっはろーリィン、【検閲されました!】を【検閲されました!】が【この小説は全年齢向けです!】でも、そう考えると【検閲されました!】は【検閲!】だと思うんですけどリィンはどう思います?』…………検閲されすぎて何も分からないわ……と」

 

 一体どういう文面にすればこんなことになるのだろうか。

 検閲されていない素の文章がどんなのなのか見てみたい気もするし怖い気もする。

 

「最後はシズク……添付ファイル付きか」

 

 何かな? とファイルを開くと、そこには大量のレア武器が飾られたウェポンホログラムと、その中でピースをするシズクの写真が入っていた。

 

 文面は要約すると『帰省なう』。

 

 どうやらシズクは今休みを利用して父親の住む居住区へ帰省しているようだ。

 この背後のレア武器たちは、シズクが以前話していた父親のコレクションなのだろう。

 

「どうしました? ご飯が冷めますよ?」

「あ、ごめん、シズクたちからメールが来てたのよ。シズク今帰省しているんだって」

「ああ、そんなこと言ってましたね」

「私もたまには帰った方が…………え?」

 

 思わずルインを二度見するリィン。

 いつ言ってたのか、全く記憶にないのだが。

 

「今日の朝早くですよ。シズク様がやってきて、帰省するけど糞寝坊助(マスター)も一緒にどう?

 と誘いに来てました。……まあマスターは寝ていたので諦めて一人で行くことにしたようですが」

「起こしてよぉ!?」

 

 リィンの悲痛な叫びが響いた直後、またもリィンの端末が電子音を鳴らした。

 今度はメールではなく、通話だ。

 

 発信者の欄には低所恐怖症先輩と書かれている。

 

 メイからだ。

 

 耳に手を当て、通話を繋げる。

 

「もしもし?」

『あ、リィン! お願いがあるの! ウチを助けると思って協力してー!』

 

 通話機越しに突然聞こえてきた大声に顔を歪めつつも、リィンは「協力?」と相づちを返す。

 

『そうそう、ゲートエリアで待ってるから来てね! あ、出撃用の装備をちゃんと持ってきてね』

「休みなのに出撃するってことですか?」

『ナベリウスの難易度ノーマル区域だから散歩に行くようなもんよ! それじゃ、早く来てねー!』

 

 ブツリ、と一方的に用件を伝えるだけ伝えて通話は切れた。

 

「…………」

 

 とりあえずお昼ご飯を食べてから行くか、とリィンは諦めたように呟いてスプーンを動かすのであった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「らーらーららーらーらーらーらーらーららー♪」

「うん?」

 

 『リン』ことキリン・アークダーティは目的もなく動いていた足を止めた。

 

 昼下がりの散歩をしていたのである。

 ショップエリアに立ち並ぶ店を軽く眺めながらの散歩。

 

 すると、不意に歌声が耳に入ってきた。

 

 何処かで聞いたことある声だな、と歌声の聞こえる、ショップエリア上段の物見台まで足を運んだ。

 

「らーららーらーらーらー……」

「あ、あの子かな?」

 

 物見台には、毛先の蒼いオレンジ色の前分けツインテールと、羽根の様なアクセサリが特徴的な美少女が居た。

 

 目を閉じ、楽しそうに何処かで聞いたことのある歌を唄っていた。

 

 綺麗な歌声だが、はっきり言って公共の場で歌を唄うのはマナー違反だろう。

 

「おーい、そこの君。綺麗な歌声してるけどショップエリアで突然歌いだすのは迷惑行為だと思うぞ」

「ん?」

 

 目を開け、振り向いた少女と『リン』の目がばっちりと合った。

 

 ちなみに物見台周りには、他に誰も居ない。

 少女と『リン』、二人だけの対面だ。

 

「……え、あれ、えっ? もしかして、あたしに話しかけてきてる?」

「他に誰が居るのよ」

「え、あわっ、いやっ、ちょ、ちょっと待って待って!」

 

 焦りながら、少女は両手を広げ自分の身体を確認しているような仕草を見せる。

 

 『リン』の頭上には、はてなが浮かぶばかりだ。

 

「なんで、あっれぇー?」

 

 少女の頭上にも、はてなが浮かんでいるようだ。

 電波ちゃんかな? と失礼なことを思う『リン』であった。

 

「……まあ、見つかっちゃったら仕方がないわね」

「見つかっちゃった?」

「で、何にサインして欲しいの?」

 

 あ、この子電波ちゃんだわ、と確信する『リン』であった。

 

「いや、サインが目的じゃなくて……」

「……は? サインが目的じゃない? じゃあなんで、このあたしに話しかけてきたのよ!」

 

 そう言って、少女は突然踊り始めた。

 右に左に軽快にステップを踏み、腕を振り上げる。

 

 間違いなく頭いかれてるな、と『リン』は逃げる準備を始めた。

 

「泣く子も大喜び、話題沸騰のアイドル! クーナとは……」

「クー……ナ?」

「……って、まさか知らないの!?」

「いや、何処かで聞いたような聞いたこと無いような……」

「はー……」

 

 クーナと名乗る少女は大きく溜め息を吐いた。

 明らかに落胆した様子だ。

 

「知ってるような知らないような的な反応は逆に傷つくからやめてよねー?」

「ん、む、すまない」

 

 何で私が謝ってるんだ、と思う『リン』であったが、触らぬ神に祟りなし。

 声掛けるべきじゃなかったなと、ただただ反省するばかりである。

 

「まっ、あなた以外は気付いてないし。あたしは暫くお忍びで楽しみたいしこのことは内緒でヨロシクね!」

「(いや私以外も気付いているに決まってるだろ……)ああ、分かった」

「そのかわり、いつでも好きな時にサインを書いてあげる権利をプレゼント! 一度だけね!」

「ワーウレシイナー」

 

 関わらないのが吉。

 そう判断し、『リン』は早々にその場を立ち去った。

 

 後に残されたクーナは、若干怒ってる風に目を細めてその背中を見つめながら、呟く。

 

「……そういうの無頓着そうだから、もしかして知らないかもとは思っていたけど……まさか本当に全然知らないとは……ちょっとショック」

 

 溜め息を吐いて、再びショップエリアを眺めながらクーナは歌を再開し始めた。

 

 見つかる心配はない。

 クーナの持つ武器の特殊な能力で、彼女の存在は極限まで薄まっているのだ。

 

 そんな状態のクーナを平然と見つける『リン』の感覚が鋭すぎるのだ。

 

(――ああ、でも)

(もう一人居たっけ、『マイ』の力を見破った人が)

 

 『リン』とは違って、自分のファンだと言ってくれたあの子が。

 

(こうしてここで歌っていれば、また会えるかな?)

 

 




作者は始末屋クーナちゃんが大好きです。

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