AKABAKO   作:万年レート1000

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あ、ちなみにシズクは『リン』を子持ち扱いしたことを行間で詫びて仲直りしてます。


猛る黒曜の暴腕②

 ダークファルス【巨躯(エルダー)

 40年前、アークスに大戦争を仕掛けてきたダークファルスである。

 

 結果としては、『レギアス』、『初代カスラ』、『初代クラリスクレイス』の三人を中心にして立ち回り、

 初代クラリスクレイスの犠牲もあって【巨躯(エルダー)】の封印に成功した。

 

 そう。

 封印に、である。

 

 当時のアークスの最高戦力である三人を動員し、その中の一人が命を賭した結果が封印である。

 

 ダークファルスは倒せない。

 でも最高戦力者を一人犠牲にすれば辛うじて封印できる。

 

 そんな絶望的な事実を、他のアークスに伝えるわけにはいかない。

 そう判断した上層部は、一つの結論を出した。

 

 『ダークファルス【巨躯】は、三英雄が一人クラリスクレイスを犠牲の元消滅させた』。

 

 そんな優しい嘘を、吐くことを決めた。

 士気の低下を防ぐためには仕方が無いだろう。

 

 しかし、現在。

 40年の月日を経て、ダークファルス【巨躯】はゲッテムハルトを寄り代とし復活を果たした。

 

 飽くなき闘争を求め、再び。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 アークスシップ・ゲートエリア。

 

 クエストカウンターがあるそのエリアは、ダークファルス襲撃を受けてかつてないほど騒然としていた。

 

 何故今更【巨躯】が復活したんだ?

 消滅させた筈だろう?

 勝算はあるのか?

 

 等と、様々な疑問や憶測、不安が入り乱れている。

 

 そんな中、【コートハイム】の面々も当然ゲートエリアに集まっていた。

 

 疲れている、なんて言ってられない。

 敵はダークファルスなのだ。

 

「ダークファルス【巨躯】って」

 

 消費アイテムの数を確認しながら、シズクは口を開く。

 その様子は、新人とは思えない程に落ち着いている。

 

 こういうとこ、この子凄いなと思いながら、メイとアヤはシズクの言葉に耳を傾けた。

 

「何十年も前に倒したんですよね?」

「そうね、レギアス、初代カスラ、初代クラリスクレイスによって消滅させた……と言われていたわ」

「でも今復活してアークスシップを襲いに来てる……なーんかキナ臭いねぇ」

 

「消滅させたっていうのが嘘、だったとかですかね?」

 

 武器の整備を終えたリィンが、会話に入ってきた。

 

「シズク、アナタ何か分からない?」

「無茶言わないでよー、三英雄の力を持ってもダークファルスを消滅させられなくて、仕方なく封印したけどダークファルスが倒せないなんて事実、他のアークスが聞いたら士気の低下に繋がるとかで誤魔化してたんじゃないかっていう推測したけどあくまで推測だし」

「ぶほっ」

 

 突如、妙な声がした。

 

 シズクが振り返ると、そこには黒髪ロングツインテールに黒いコート、それと赤い瞳が特徴なアークス。

 

 キリン・アークダーティ。

 通称『リン』が居た。

 

「あ、『リン』さん」

「や、やあ【コートハイム】の皆……」

 

 何処か動揺した様子のリンに、シズク以外の一同は疑問符を浮かべながら挨拶した。(シズクは何かを察したように頷いた)

 

「『リン』、当然アナタも出撃()るのよね?」

「ああ、勿論だ」

「うばー、リンさんが居るならアタシらの仕事無いんじゃ?」

「馬鹿言うな、私が三人居ても、あれには敵わない」

「うばっ」

 

 シズクの顔から、笑みが消えた。

 他の面々にも、目に見えて動揺が走ったことが分かった。

 

 少し脅かしすぎたかな、と『リン』は反省反省と心の中で反芻した。

 

「ま、だからアークス全体で挑むんだ。心配ないよ、【コートハイム】の担当は多分眷族相手だしな」

「眷族?」

 

 疑問符を浮かべるシズクとリィン。

 それを見て、「ああ、そういえば説明してなかったな」とメイが口を挟んだ。

 

「今回、ウチらのような小規模チームは【巨躯】本体とは戦わないのよ」

「え、そうなんですか?」

「【巨躯】は、『ファルス・アーム』っていう眷族を文字通り身を削って産み出しているんよ、ウチらの役目はそいつらを倒してエルダー本体の体積を削ること」

 

 ある程度小さくなったら本体をこいつみたいな精鋭部隊が倒す予定だって、とメイはリンに視線を向けた。

 

「あ、ちなみにファルス・アームには個体差があるらしいのよ。強さによっていつもみたいに難易度分けされるから、私らは難易度ハードで受けるわよ」

 

 アヤの補足説明を受けてシズクとリィンと、メイが頷いた。

 知らなかったらしい、アヤの視線がメイに突き刺さる。

 

「さっきチームリーダーには先行して情報が伝えられたでしょうがー」

「痛い痛い! ごめん! ごめんてアーヤ!」

 

 ビシビシとアヤのチョップがメイを襲う。

 

「全くもう、アナタはホント、リーダーなんだからしっかりしなさい」

「うう……だって細かいことはアーヤの方が得意じゃん……」

「それでもリーダーはメーコでしょうが」

「あいたーっ」

 

 びしぃ、とデコピンがメイのおでこに炸裂した。

 

 そんな二人の微笑ましいやり取りを眺めながら、『リン』は口を開く。

 

「ま、そういう訳だ。適正レベル以上の敵と戦わされるわけじゃないから安心して」

「それはよかったです……そういえば、アタシまだ【巨躯】の姿を見てないんですけど見ることできますか?」

「ん、そうなの? ちょっと待ってね……」

 

 言って、『リン』は宙に浮かぶモニターを開いた。

 端末を操作し、ディレクトリを開いていく。

 

 少しして、モニターにダークファルス【巨躯】の姿が映し出された。

 【巨躯】を監視している衛星から送られているリアルタイム映像だ。

 

 それを見て、リィンは「うわっ」と嫌そうな顔をした。

 

「うわ、なんか禍々しいですね……」

「そうね、映像からも威圧感が伝わってきそう――」

「あれ? ゲッテムハルトさん?」

 

 唐突に、シズクがそう言葉を漏らした。

 

 瞬間、『リン』が目を見開いた。

 

 ゲッテムハルトがダークファルスの器にされてしまったことは、

 今はまだ当事者たちだけの秘密である。

 

 シズクが知っているわけが、無い情報。

 

「し、シズク……アナタ見てたの?」

「へ? 何をですか?」

(無意識……!?)「え、いや、何をって……!」

 

 その時だった。

 ピピピ、と電子音が鳴り響く。

 

 『リン』の通信機器からだ。

 耳に手を当てて通話をオンにする。

 

「……もしもし?」

『よー相棒、そろそろ作戦行動開始だぜ、今何処にいるんだ?』

「何だアフィンか、……分かった、今からそっち向かう」

『おー了解』

 

 短い会話を終え、通信を切る。

 シズクがゲッテムハルトの名を呟いた件に関して聞くべきことがあるが、それで【巨躯】討伐作戦に遅れでもしたらコトだろう。

 

「仕方ない……悪いがそろそろ作戦開始のようだ」

「あ、そうなんですね。引きとめてしまってごめんなさい」

「いや、謝るようなことじゃないさ。……シズク、後で時間取れるか?」

「え? あ、はい」

「話がある、戦闘が終わったら何処かで食事でもしないか?」

「ええ!?」

 

 驚きの声をあげたのは、シズクではなくリィンだった。

 

「だ、だ、駄目ですよ! 二人で食事なんてで、デートじゃないですか!」

「は、はあ?」

「リィン、『リン』さんにそのつもりは一切無いと思うよ」

「で、でも……」

 

「そもそも」

 

 二の句に困るリィンを見かねてか、メイが口を挟んだ。

 にやにやしながら、からかうように言う。

 

「シズクがデートするからってリィンに何か関係あるの?」

「うぐっ」

 

 それを言われると、何も言えないリィンであった。

 まさかシズクが好きだから――等と言える筈も無く。

 

「なあリィン」

「…………何ですか? 『リン』さん」

 

 黙り込んでしまったリィンに、『リン』が話しかけた。

 その表情は、真剣なものだ。

 

「すまない、今はまだ一般のアークスには情報開示がされていないことを話すつもりなんだ。デートではないから安心してくれ」

「…………」

「……っと、いい加減行かなくちゃな。それじゃあ、武運を祈る」

 

 言って、『リン』はその場を立ち去った。

 

 その後少しして、緊急クエスト開始のアナウンスがエリアに響き渡る。

 

 作戦行動、開始である。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば色々あってタイミングを逃してたけど……」

 

 【巨躯】に破壊され、残骸となったアークスシップに降り立ちながら、メイは口を開く。

 お得意の、意識的に行う雑談である。いつも通りに動くために、いつも通り軽口を叩く。

 

「シズクとリィンがモデルチェンジしてるな」

「ああ、それ私もさっきから気になってたのよ」

 

 先輩二人に言われて、改めて二人は自身の姿を見直した。

 

 シズクは、ボロボロになったガードウィングの代わりにアークス研修生の頃のコスチュームを着ている。

 研修生服といっても、デザイン・機能面共に優れていて研修後も愛用するアークスは多いのである。

 

 そしてリィンはツインテールを止めてポニーテールになっている。

 子供らしさが消えて、美人度が上がっているのは気のせいではないだろう。

 

「諸君! 無駄話はそこまでだ!」

 

 と、雑談を切り裂くように快活な男の声が響いた。

 

 この場にいる、男以外のアークスの視線が男に突き刺さる。

 

 スポーツ刈りの、白い髪をした男だ。

 狼のように鋭い目つきが特徴的な精悍な男である。

 

「俺は【銀楼の翼】所属のヒキトゥーテ・ヤク! 他に適任がいないようなら現場指揮は俺に一任して頂きたいがよろしいだろうか?」

 

 この場に居る男――ヒキトゥーテ・ヤク以外の十一人にざわめきが起きた。

 

 【銀楼の翼】というチームは、【大日霊貴】に次ぐと言われる有名チーム。

 難易度ハードに【銀楼の翼】所属のアークスがいることに、周囲のアークスは驚きを隠せないようだ。

 

「【銀楼の翼】……一流チームじゃないか、どうしてそんな人が難易度ハードに?」

 

 藍色のショートカットが特徴的な女性が戸惑いながらも質問した。

 

 ヒキトゥーテは、「その疑問は尤もだろう」と予測していたように頷いた。

 

「本来、俺の適正レベルはベリーハードだ。だが、今このハード帯に混ざっていることには当然理由がある」

「理由……?」

「だがまあ、貴様らが知るようなことではない。それよりも異論が無いようなら俺が現場指揮を執る……無いようだな?」

 

 此処に居る誰も、言葉を挟まなかった。

 

 当然だろう、現場指揮なんて責任が要りそうなモノ、積極的にやりたがっている奴がいるならやらせるのが人と言うものだ。

 ましてやそいつが自分たちより格上ならば尚更だ。

 

「それでは作戦開始まで残り三十秒。各員の名前とクラスを把握させてくれ」

 

 ヒキトゥーテは全体を見渡しながら言った。

 三十秒で憶えきれるのか? という疑問もあったが、全員、素直に名前とクラスを彼に告げる。

 

「【システムリトル】リーダー、ステラだ。クラスはハンターよ」藍色の女性が言う。

「同じく【システムリトル】所属、ハルナ。クラスはレンジャー」バンダナを巻いた少女が言う。

「無所属、イリーガル・ハウバー。クラスはファイター/ハンター」黒衣の青年が呟く。

「むしょぞーく、あいか。ふぉーすよ」頭の緩そうな白髪の幼女がけらけらと笑いながら言う。

「【アナザースリー】リーダーのマコトよ。クラスはファイター」黒髪の短髪少女が言う。

「あ、【アナザースリー】所属、リナ・サイスです……。く、クラスはフォースです」気弱そうな巨乳美女が言う。

「【アナザースリー】所属のラヴ・Dですよ。クラスはレンジャーでぇす」ピンク色の装甲が特徴のキャスト女が言う。

 

 これで、【コートハイム】とヒキトゥーテ以外を除いて自己紹介を終えたことになる。

 次は【コートハイム】の番だろう。

 

「【コートハイム】リーダーのメイ・コートよん。クラスはファイター/ガンナーだじぇ」

「【コートハイム】所属、アヤ・サイジョウよ。クラスはフォース/テクター」

「同上、シズクでっす。クラスはレンジャー」

「同上、リィン・アーク…………リィンよ、クラスはハンター」

 

 アークライト姓を名乗らない理由はただ一つ。

 『え? あのライトフロウの妹?』と言われるのが、嫌なだけ。

 

「『サブクラス』持ちですら俺を含めて四人か……まあハードならそんなものか」

 

 ヒキトゥーテは落胆するようにそう呟いた。

 

 その様子にムッとする者も居たが、今はそんなことで争っている場合じゃない。

 戦いはもうすぐ始まるのだ。

 

『最前線への転送が間もなく行われます』

 

 唐突に、通信機からオペレーターの声が聞こえてきた。

 冷静に、ただ事実だけを述べるようなそんな口調だ。

 

『第一次作戦は、ファルス・アームを駆逐し、本体を消耗させることが目標です』

 

 戦闘の舞台は、ここより広い破棄されたアークスシップの上。 

 テレポーターを用い、そこに跳ぶのだ。

 

『……これまでの戦闘とは別次元の過酷な戦いになることが予想されます』

 

 十二人全員が、無言でテレポーターの上に乗る。

 

『……どうか、ご無事で』

 

 そして視界が光に包まれた。

 




気付いたら新キャラが大量に登場してた。

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