AKABAKO   作:万年レート1000

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ライトフロウ・アークライトの実力

「ふむ……」

 

 ふむ、ふむ、ふむ、とリィンの姉――ライトフロウはレアエネミー四匹、死にかけのメイとアヤ、そしてリィンを順番に確認する。

 

 レアエネミーは、様子を窺っているようだ。

 ダーカーに侵食されて失われるモノは理性と、感情と知性。

 

 野生の勘は、健在だ。

 

 故にダーカー因子によって暴走中のバンサ夫妻も安易には飛びかからない。

 

 目の前にいる青髪のアークスが、並みじゃないことを本能で察知しているのだろう。

 

 それならば。

 

「アズサ」

「ほいほいっと」

 

 リィンの後ろから、軽い調子の声がした。

 思わずリィンが振り向くと、そこには三人のアークスが居た。

 

 全員、一目で一流だと分かる装備をしている。

 チーム【大日霊貴】のメンバーなのだろう。

 

 その中の『アズサ』と呼ばれた少女か少年なのか判断が付きづらいショートカットのニューマンが前に出た。

 

 手に持っているのは、大幣型のウォンド。

 『無月大幣』。そう呼ばれる☆11の超レア武器だ。

 

「レスタ!」

 

 放ったのは、回復テクニックのレスタ。

 緑色の光が術者を中心に広がり、覆った範囲内のアークスを回復する便利なテクニックである。

 

 その汎用性から同じテクニックを使うクラスであるアヤも使うのだが、アズサと呼ばれた少女のレスタは一味違った。

 

 光の範囲が、馬鹿みたいに広いのだ。

 アヤの使うレスタの、二倍はあるだろう。

 

 『テリトリーバースト』に、『ワイドサポート』。

 そう呼ばれる、テクタースキルの効果である。

 

「おおー」

「これは……」

 

 癒しの光は、メイとアヤ、リィンの三人を一度に癒し始めた。

 早戻しのビデオみたいに、折れた骨がくっつき、抉れた肉が再生し、流れ落ちた血液が補充される。

 

 勿論一切の痛み等は無い。

 

 もう既に、クエスト開始時と同じ万全の態勢で戦闘復帰可能である。

 

「私のとは、比べ物にならない回復力ね……」

 

 アヤはそう呟きながら、治った右腕でロッドを握り直す。

 

 メイも、即座に立ち直り再び空へ。

 今度は叩き落とされまいと、より高く。

 

「ホーニィ、貴女はウィークバレットで全体を支援、その後バンサ・ドンナを」

「了解」

「ヒノ、貴方はホーニィを護衛してください、『サテライトカノン』の邪魔はさせぬよう」

「おう」

 

 ホーニィと呼ばれたポニーテールのような頭部装甲が特徴の女キャストと、ヒノと呼ばれた渋い顔をした巨漢の男性ヒューマンがバンサ・ドンナに向かって走り出す。

 

 ホーニィはアサルトライフルを持ったレンジャー。

 ヒノはパルチザンを持ったハンターのようだ。

 

「リーダー! アタシはどうすればいい?」

「アズサはログベルトを二体ともお願い、ゾンディ殴りで適当に相手しておいて」

「分かった!」

 

 先程レスタを使った少年にも見える少女、アズサが二体のログベルトに突貫していった。

 

 指示を出し終え、ライトフロウは残りの一体――バンサ・オングを見据える。

 

 タイマンでやるつもりなのだろう、一歩、二歩とゆっくり近づいていく。

 

「リィン!」

「は、はいっ!?」

 

 その時、突然メイに呼ばれてリィンの身体がびくりと跳ねた。

 

 姉に見惚れていたわけではない――むしろ、見ないようにしていた。

 

「何ボーッとしてるの、ウチらも手伝わなくちゃ」

「あ、はいっ、今行きます」

 

 気持ちを切り替えるように、リィンは頬を叩いてからザックスを握り直す。

 

 そしてログベルトの方に走っていった。

 

「ふふ……」

 

 そんなリィンの姿を見て、ライトフロウは優しく微笑む。

 妹がアークスとして立派に戦っているのが嬉しいのか、はたまた別の意味があるのかは分からないが――。

 

「ぐるるる」

「おっと、いい加減待ちわびた?」

 

 バンサ・オングの放った唸り声に、ライトフロウもまた意識を戦闘へと向ける。

 

 ヴォル・ドラゴンほどではないが、バンサ・オングもまたデカイ。

 体格差は十倍以上だ。

 

 だがしかし、アークスにとってはこの程度日常茶飯事。

 怯むような、ことではない。

 

「ぐるぉおおおおああああ!」

「『カタナコンバット』」

 

 スキル名を呟いた瞬間、ライトフロウの顔つきが変わった。

 穏やかな瞳から、凛々しい鷹の様な瞳に。

 

 バンサ・オングの飛びかかり攻撃は、――果たして、空を切った。

 誰もいない地面に突き立てられた爪を抜き取り、バンサ・オングは敵は何処に行ったと周囲を見渡す。

 

「グレン……」

 

 ライトフロウは、バンサ・オングの後方右。

 後ろ足に向かって、今まさに刀を抜き放とうとしているところであった。

 

「テッセン!」

 

 一閃。

 鞘から解き放たれた刀身は、目にも止まらぬ速度でバンサ・オングの後ろ足を切り裂いた。

 

 部位破壊が無事成功したことを確認しつつ、ライトフロウはカタナを鞘に収めた。

 

「ぐおおおおおお!?」

 

 爪が割れ、肉も切り裂かれれば流石のバンサ・オングも堪らず情けない声をあげて怯むしかない。

 

 そしてその怯みは、隙となって再びライトフロウの攻撃チャンスとなる。

 

「ハトウリンドウ!」

 

 ライトフロウが次に放ったのは、地を這う衝撃波のフォトンアーツ。

 この衝撃波の特異なところは、衝撃波の先端になるほど威力が上昇するが飛距離はそれほどでもないという、

 まさに中距離専用ともいえる性能をしているところだ。

 

 そんな技を、後ろ足のすぐ傍という近距離でライトフロウが使ったのはミス――ではない。

 

 脚の間を縫うように、腹と地面の間を射抜くように。

 正確無比に放たれた衝撃波は、先端部分の最も威力が高い距離でバンサ・オングの頭を切り裂いた!

 

 バンサ・オングとて生物。

 頭は弱点である。

 

「ぐおっ……!?」

 

 キンッとカタナを鞘に収める。

 カタナはフォトンアーツを撃つごとに、一々鞘に刀身を収める必要があるのだ。

 

 主な理由は、二つ。

 

 一つは、鞘にフォトンを貯めているため、刀身にフォトンを纏わすための下準備。

 一つは、居合い抜きをするため。

 

 居合い抜きというのは、要するに鞘から刀身を抜き放つ勢いで切り裂く高速剣術。

 カタナという形状を利用した最速の型。

 

 ブレイバーのカタナは、居合いを利用することによって、全武器の中でもトップクラスの速度で攻撃できるのである。

 

「がぁあああ!」

 

 反撃、とばかりにバンサ・オングの後ろ蹴りが放たれる。

 予備動作見え見えの、単調な攻撃にライトフロウは、

 

「ありがとね」

 

 敢えて、受けた。

 

 鞘を盾に、ジャストガード。

 その瞬間、滑るような動きで鞘から刀を抜き放ち、反撃の斬撃を放った。

 

「『ジャストカウンター』」

 

 ジャストガードのその先、ジャストカウンター。

 ジャストガードに成功したときカウンターでカタナを振り抜く、ソードには真似できない技。

 

 さらにカタナにとってジャストカウンターは、ただの反撃では終わらない。

 

「カタナギア……解放」

 

 ライトフロウの身体が、紫色のフォトンオーラに包まれた。

 

 『ギア』、と呼ばれる大半の武器に存在する拡張機能の力である。

 ストック式のフォトンの塊を一時的に武器へ貯蔵し、その量によって武器の威力が上がったり消費することによって一時的に超火力を出したりと、

 武器ごとに様々な恩恵を受けられる、アークスの基本スキルである。

 

 そして――カタナのギアが持つ力は『解放』。

 貯蔵したギアを、ジャストカウンターをキーにして全て解き放ち、自身の力に変える。

 

 爆発的なフォトンの奔流が、ライトフロウ・アークライトの戦闘能力を急激に上昇させていく……!

 

「サクラエンド」

 

 音速で二度、X状に斬りつける。

 カタナギアで底上げされた斬撃は、容赦なくバンサ・オングの左足を斬りつけた。

 

 滑り止めの爪が破壊され、バンサ・オングは再び怯む。

 

「ハトウリンドウ」

 

 まだまだライトフロウのターンは続く。

 怯んだ隙を狙われ、再び脚の隙間から地を這う衝撃波がバンサ・オングの頭を切り裂く。

 

「グレンテッセン」

 

 さらに、超高速移動からの一閃。

 左腕を狙った斬撃は、正確無比にヒットしバンサ・オングの左爪を破壊した。

 

 そして三度バンサ・オングは怯んで隙を見せる。

 

 そう。

 

 これは怯みハメである。

 上級アークスのみに許された、部位破壊による怯みと弱点攻撃を交互に行う外道中の外道技。

 

 だがしかし、命のやりとりである以上卑怯という言葉は存在しないのだと言わんばかりに、

 

「ハトウリンドウ」

 

 左腕の傍の位置から、正確に衝撃波の先端を右腕に当てた。

 

 その衝撃で、右腕の爪も破壊される。

 そして、隙が生まれる。

 

 最早バンサ・オングの身体はボロボロだ。

 

 とどめ、とばかりにゆっくりとライトフロウはカタナを抜いた。

 

「――『コンバット』」

 

 くるり、とバンサ・オングに背を向ける。

 その刀身に映し出された野獣を細めた瞳で見つめながら、勢いよくその和刀――『華散王』を鞘に納めた。

 

「『フィニッシュ』」

 

 キィン――っと綺麗で、静かに、……それでいて良く響く音が鳴った。

 

 鞘に刀身を納める音――ではなく、斬撃音。

 

 周囲一帯を全て薙ぎ払うような、円状の広範囲高威力の斬撃。

 

 『コンバットフィニッシュ』という、『カタナコンバット』からの派生スキルだ。

 詳しくは省くが、要するに斬った分だけ強化される、円状超広範囲超威力というカタナの切り札(ワイルドカード)

 

 バンサ・オングが、流石に耐えられず、倒れた。

 否、オングだけではない。

 

 バンサ・ドンナも、二匹のログベルトも、倒れた。

 

 【大日霊貴】や、【コートハイム】のメンバーがとどめを刺した、のではない。

 

 三匹とも、コンバットフィニッシュの余波に巻き込まれたのだ。

 

「あら」

 

 さっきまでの、凛々しい顔は何処へやら。

 一転して柔らかい笑みを浮かべながら、ライトフロウ・アークライトは言葉を紡ぐ。

 

「ごめんなさい、そっちのとどめも刺しちゃったわ」

 

 【大日霊貴】のメンバーは、いつものことかと呆れ顔。

 【コートハイム】のメンバーは、なんじゃこりゃあと呆け顔。

 

 これが、ライトフロウ・アークライトの実力(ちから)

 『アークライト家』始まって以来の天才と呼ばれた、彼女の力である。

 




【大日霊貴】
『アズサ』……【大日霊貴】副リーダー、ショタっぽいロリのテクター。
『ホーニィ』……【大日霊貴】メンバー、ポニテキャス子。レンジャー。
『ヒノ』……【大日霊貴】の古株メンバー、おっさんパルチハンター。

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