AKABAKO   作:万年レート1000

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ファング夫「おっと、出番かwアークスなんて一捻りにしてやるぜw」
ファング妻「どっかの出番が無かった雪犬夫妻の分まで頑張ってきますわw」
スノウ夫「ぐぬぬ……」
スノウ妻「ぐすん……」


緊急クエスト:ファングバンサー討伐

「チェイントリガー!」

 

 チェイントリガー。

 ガンナー固有のスキルであるこのスキルは、ガンナーの最終兵器とも言えるスキルである。

 

 刻印を相手に撃ちこみ、同じ箇所を攻撃することで『チェイン』と呼ばれる特殊なフォトンを蓄積させ、

 そのチェインが溜まった部位にフォトンアーツを撃ちこむことで威力を増大させるというスキルである。

 

 手間が掛る分、その威力増加は強大である。

 少しのチェインでも、ウィークバレットを越える倍率を誇り、ヘッドショットも合わせれば並のボスエネミーは簡単に沈んでしまうのだ。

 

「ぐごぉぉぉ……」

 

 ずしぃん、とロックベアが顔を抑えながら倒れた。

 そのまま、塵となって消えて赤い結晶だけが残る。

 

「よし、楽勝!」

「メーコ、こっちも終わったわ」

 

 ずしぃん、ともう一つ地鳴りが響く。

 ロックベアが、もう一匹倒れた音だ。

 

 ロックベア二体同時出現。

 そう珍しいケースでは無い、こういう時の為のチームということで、二手に分かれロックベアを討伐したのだった。

 

「しかし、こんな浅いところにロックベアが複数たあ珍しいな」

「ファングバンサー出現の影響でしょうね、いつものナベリウスとは思わない方がいいわね……」

「レアドロこいこいー♪」

「シズクはホントぶれないなぁ」

 

 先輩二人が真面目な話をしている後ろで、

 ばこん、と赤い結晶をブラオレットで叩き割るシズク。

 当然というか何と言うか、レアは出なかった。

 

 安定のレアドロ運である。

 

「うばー……」

「あ、ロックベアレリーフ出たわ。シズク、いる?」

「要りません!」

 

 即答である。

 まあロックベアレリーフが欲しいと答える人の方が珍しいだろう。

 

「さて、無駄話してないで進むわよ、早いところ他のパーティとも合流しなきゃだし」

「はーい」

「おー」

 

 盾役であるリィンを先頭に、殿をメイが務めて行進を開始する。

 適当に雑談しながらも、原生生物とダーカーを蹴散らして進む。

 

 雑談しながら進むその姿は人によっては不真面目に見えるかもしれないが、それは違う。

 

 ここは戦場で、彼女らはプロのアークスである。

 

 戦場で最もしてはいけないことは、恐怖や緊張で身体が動かなくなること。

 故に、彼女らは平常時と同じように雑談を交わすのだ。

 

 いつも通り、動くために。

 

 ――尤も、それを意識的に実行しているのは、この中ではメイだけである。

 理由としては、リーダーであること、ムードメーカーであることなど色々あるが、

 

 一番の理由は――

 

「おっと、来たぞ」

 

 雑談を打ち切るように、メイが足を止める。

 それに反応して、他の三人も足を止めた。

 

 地鳴りが二つ。

 前と後ろ、狭い通路に閉じ込めるように、二匹のゴリラ型エネミーが同時に出現した。

 

「またロックベアですか? さっきと同じように二手に別れて……」

「いや待てリィン、あれは……」

「ロックベアじゃ、無いですね」

 

 メイとシズクに静止され、改めてロックベアらしきエネミーを見直す。

 

 確かに、いつものロックベアとは姿が違うようだ。

 形自体は変わらない……だが、若干だが色が違う。

 

「ログベルト……ね」

 

 アヤが表情を歪ませながら、呟いた。

 

 ログベルト。

 ロックベアのレア種である。

 

 レア種というのは、所謂突然変異だ。

 体毛や皮膚の色が違ったり、身体の形状が原種と異なっていたりとエネミーよって様々だが、

 

 全てのレア種に共通している事項が二つある。

 

 一つは、原種より強いということ。

 

 そしてもう一つは――

 

「レア種……てことはレアドロップ率も当然高いんですよね?」

「うん? え、あ、うん」

 

 そうと決まれば、とシズクはブラオレットを構えた。

 

 ヤル気マンマンである。

 

 そんなシズクを見て、アヤは考える。

 チームの副リーダーとして、撤退を進言するか、戦うことを進言するか。

 

 レア種が二体。

 しかしレア種といっても所詮はロックベア。

 

 勝ち目は充分にあるだろう。

 ここは、チームとして箔をつけるために戦うべき――

 

 ――なんて、考えは。

 

「がるぅあああああああああ!」

 

 一瞬にして、砕け散った。

 

「っ!?」

 

 突然の咆哮。

 ログベルト……ではない!

 

 もっと違う……! もっとヤバイ何かが!

 木々をかぎ分けこっちにーー!

 

「全員……! 跳べぇえええええ!」

 

 メイの叫び声に従うように、全員がその場を跳び回避行動を行った。

 

 果たしてその判断は、正解だった。

 

「ぐるぅああああああ!」

 

 狂ったような雄叫びをあげながら、それは現れた。

 

 数瞬前までメイが立っていた空間を削り取るように爪を振るい、

 朱色のたてがみを振り回して空に吼える。

 

 ファングバンサー……否!

 ファングバンサーのレア種……バンサ・オング!

 

 しかも……、

 

「し、侵食核付き!?」

 

 バンサ・オングの頭には、赤黒い卵のような物体が一つ。

 

 ダーカーに侵食されている、証である。

 

 そして、知っての通り侵食核の付いたエネミーは、通常個体より強い!

 

「そ、そんな……ただでさえレアエネミーなんて厄介なのに、それが三体も……」

「まだだ! リィン後ろぉ!」

「え――――」

 

 

「ぐるぉおおおおああああああ!」

 

 

 さらにもう一体、草木を掻き分け浸食エネミーが飛び出した。

 

 バンサ・オングに、負けず劣らずの朱い毛を持つ、獅子型エネミー。

 

 名をバンサ・ドンナ。

 バンサ・オングの雌バージョンである。

 

 当然その強さも、雄であるバンサ・オングと比べて遜色はない。

 

「じ、ジャストがー!」

 

 間に合わない。

 そう判断する暇も無かった。

 

 辛うじて武器で爪を受け止められたのは、奇跡だったのだろう。

 

「ぐっーー!?」

 

 ジャストガードもせず、受け止めただけでは吹き飛ぶのは当然リィンの方だった。

 

 地から足が離れ、そのまま通路の壁に衝突。

 ソードで爪を受けることが出来なかったら、間違いなく即死していたことが容易に想像できる一撃だった。

 

「リィン! くっ……テレパイプ使います!」

「おねが……シズクちゃん! ログベルトからも視線を外さないで!」

「え、あ!」

 

 しまった、と後悔してももう遅い。

 バンサ夫妻の登場によって、すっかり空気になっていたがログベルトもまた、コートハイムにとっては適性レベル外のレアエネミー。

 

 振り返れば、両腕を広げて既に攻撃態勢のログベルトが居た。

 

「うばっ!?」

 

 がしり、と両手で掴まれる。

 シズクの身長よりも大きいログベルトの手のひらに掴まれたシズクには、当然ながら腕も足も封じられ、抵抗することすら不可能だ。

 

「ぐ、この……あ!」

 

 ポロリ、とシズクの手から使おうとしていたテレパイプが落ちた。

 しかし当然そんなもの気にすることはなく、ログベルトはシズクを持った右手を大きく振りかぶる。

 

「ちょ」

「ごああああああ!」

 

 そしてそのまま、遥か空までぶん投げた。

 

「うばあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………!」

 

 ビッグヴァーダーのときより遥かに高く、より遠くにシズクは飛んでいった。

 あっという間に、目の届かぬ範囲まで。

 

「し、シズクー!」

「リィン! 人の心配している場合じゃないよ!」

「! くっ……!」

 

 バンサ・ドンナの爪を、間一髪でかわして距離を取る。

 指示が無ければ、危ないタイミングだった、とリィンは気を引き締め直した。

 

「こいつは……結構ヤバイわね……」

 

 そんなことを嘯くメイ。

 それが強がりだということは、リィンでも察することができた。

 

 ロックベアのレアエネミー、ログベルトが二匹。

 ファングバンサーのレアエネミー、バンサ・オングの侵食核付きが一匹。

 ファングバンシーのレアエネミー、バンサ・ドンナの侵食核付きが一匹。

 

 一匹一匹が、四人がかりでも苦戦するであろう強敵だ。

 それに加えてこちらの一人が早々に戦場離脱させられた。

 

 結構、ヤバイのではない。

 

 かなり、ヤバイのだ。

 

「しかもこいつら……!」

「テレパイプを使う暇もくれねぇ!」

 

 岩をも砕く拳が、

 地面を割るフライングプレスが、

 鉄も切り裂く爪撃が、

 音だけで周囲の物体を吹き飛ばす咆哮が、

 

 絶え間なく三人に降りかかる。

 

「あー! 『リン』とか通りかからないかなー!」

「無駄口叩いてないで、戦いなさい!」

「ちゃんと戦いながら無駄口叩いてるよ!」

「…………!」

 

 リィンは攻撃を捌きながら、やはり先輩は凄い、と思った。

 

 自分は喋る余裕なんて無い。

 どころか、呼吸をするタイミングすら掴みかねているのが現状だ。

 

(私が相手してるのはログベルト一匹……なのに)

(アヤさんはバンサ・オング、メイさんはバンサ・ドンナにログベルト……)

 

 ぎりぃ、と歯噛みする。

 忘れられがちだが、リィンは負けず嫌いなのだ。

 

(せめて……早いところこのログベルトを倒して……)

(先輩に加勢しないと……!)

 

 危ない、考えだ。

 早期決着を望めば、焦りが生まれる。

 

 焦りが生まれれば、隙が生まれる。

 

「くっ……ライジング……エッジ!」

 

 縦にソードを振り上げながらの回転攻撃をするフォトンアーツ。

 

 フォトンアーツは強力な技だ。

 使いどころさえ間違えなければ、それはアークスにとって大きな武器となる。

 

 だが――リィンは間違えた。

 使いどころを、間違えた。

 

「……あ、しまっ……」

 

 タイミングが早かったのだろう。

 丁度、ログベルトが腕を振り上げ終えた瞬間、技後の硬直がリィンを襲った。

 

 一秒。

 たった一秒の、隙。

 

 しかし、この極限状態においての一秒は。

 

 余りにも、致命的な隙だった。

 

「っ――!」

 

 ログベルトの豪腕が唸る。

 ジャストガードは失敗し、リィンはログベルトの拳をソード越しとはいえもろに喰らった。

 

 リィンの身体が宙に浮く。

 

 如何にフォトンで身を固めようとも、体重が変わるわけではない。

 ログベルトの豪腕を正面から受けた少女が吹き飛ぶのは自明の理であろう。

 

「がっ……!」

 

 悲劇は連鎖する。

 ぎりぎり保たれていた仮初の均衡は、呆気なく崩れ落ちるものである。

 

「し――」

 

 リィンと戦っていたログベルトが、

 

「しまった――っ!」

「ゴアアアアアアア!」

 

 バンサ・ドンナ相手に立ち回るアヤに向かって走り出した!

 

「アヤ……さん!」

「分かってる……けどこれは……!」

 

 バンサ・ドンナの噛みつきをミラージュエスケープでかわす。

 ミラージュエスケープはテクニック用の武器である、ロッド、タリス、ウォンドを装備している時のみ使える特殊な回避方法だ。

 

 フォトンにより、自身の位相をずらして全ての攻撃をすり抜けながら移動する無敵回避である。

 大気中に存在するフォトンの扱いに長けた、テクニック用武器だからこそ出来る芸当なのだ。

 

「くっ……」

 

 だが、強い技には代償があるというもの。

 ミラージュエスケープの代償は、回避後の隙。

 

 一秒。

 あらゆる行動が取れなくなる、隙。

 

 何度も言うが、極限状態の戦場に於いてその一秒は致命的となり得る数字だ。

 

 ログベルトの拳が、アヤに襲いかかった。

 

 骨や内臓、その他諸々がぶち折られる音と共に。

 アヤは直撃を喰らいボロ雑巾のように吹き飛んだ。

 

「あ、アヤさん!」

「アーヤ!」

 

 思わず、アヤの方に視線を向けるメイ。

 一つのミスが連鎖するように悪循環を呼び、

 

「あっ」

「ぐるぅああああああああああああ!」

 

 戦線は急速に、崩壊していく。

 

「ゴアアアアアアア!」

 

 空中で大立ち回りをしていたメイの身体を、バンサ・オングの爪が叩き落とした。

 

 その瞬間、ログベルトが宙を舞う。

 

 フライングプレス。

 ロックベアと変わらぬモーションのそれはしかとてロックベアとは比べ物にならない威力を誇る。

 

「がはっ……!」

 

 叩き落とされた直後の追撃は、流石に避け切れなかった。

 

 ログベルトの全体重をその身に受けることとなり、堪らずメイは口から血反吐を零す。

 

 フォトンの守りが無かったら、死んでいてもおかしくない致命傷。

 

 そう、致命傷ということは、まだ死んではいない。

 

 だが、

 

「ぐるる……」

「ウホッ! ウホッ!」

 

 獣に囲まれたこの状況で、このダメージはもう死んだも同然だろう。

 

 後は緩やかに止めを刺されるだけ。

 

 アヤも、同じような状況だ。

 右腕が変な方向に曲がり、ロッドを持つことすらできない。

 

 絶体絶命。

 動けるのは、リィンしかいない。

 

 こんな状況で、リィンが取れる行動は。

 パーティの盾役として、取れる行動は一つだけだろう。

 

 『ウォークライ』。

 全てのエネミーのヘイトを、自身に集約させるハンタースキル。

 

 だが、それを使用するということは、四匹のエネミー全てをリィンが相手取らなければいけないということになる。

 

 ――自分に、捌ききれるのだろうか?

 

 そんな不安げな声が、心のどこかから聞こえてきた。

 

「なんて、迷っている暇なんてない……!」

 

 立ち上がり、ザックスを天に掲げる。

 フォトンを練り上げ、四匹のエネミーに向かって声高々に叫ぶーー!

 

「ウォークラ「ウォークライ」……!?」

 

 リィンの放った赤い光をかき消すように、後方からより強い光が放たれた。

 

 瞬間、四匹のエネミーは倒れ動けないメイとアヤから目を離し、赤い光を放ったアークスを標的に定める。

 

 ゆっくりと、ウォークライを使用したアークスはリィンを庇うように前に出る。

 

 その姿を目にして、リィンは目を見開いた。

 

「あ――……」

 

 ユーノーカリスと呼ばれる、神聖な礼装を戦闘用にアレンジした美しいバトルドレス。

 一目で業物と分かる腰に付けた和刀型のカタナ。

 

 そして、リィンと全く同じ色の青い長髪。

 

「もう大丈夫よ」

 

 にっこりと、柔らかな笑みで彼女は微笑む。

 その笑みを、リィンは良く知っている。

 

 誰よりもよく知っている。

 知っているが――会いたくは無かった。

 

 決して、逢いたくは無かった。

 

「お、ねえちゃん……!」

「ん。後はお姉ちゃんに任せなさい」

 

 リィンの姉――『ライトフロウ・アークライト』はそう言って、武器に手を掛ける。

 

 レアエネミーたちの視線を受けながら、涼しい顔で、言い放つ。

 

「チーム【大日霊貴】リーダー、ライトフロウ・アークライト。推して参ります」

 




スノウ妻「ねぇねぇwwww出番かと思ったらレア種に出番取られたけど今どんな気持ちwwねぇwwwねぇwww」
スノウ夫「『アークスなんて一捻りにしてやるぜ(キリッ』だっておwwwwwww」
ファング夫「……」
ファング妻「……」
スノウ夫「ん?」
スノウ妻「あれ?」
スノウ夫妻「「し、死んでる……!?」」

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