AKABAKO   作:万年レート1000

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よろしくお願いします。


Episode1 序章:幸運の祥
プロローグ


 10年前。

 

 憧れていたアークスが居た。

 

 彼の優しさが好きだった。

 孤児だった彼女に愛を教えてくれたのは紛れもなく彼だった。

 

 彼の強さが好きだった。

 守るべきもののために戦う強さを教えてくれたのは他でもない彼だった。

 

 そして、彼のマイルームに置いてあるウェポンホログラムに飾られたレア武器たちを見るのが何よりも好きだった。

 

 トライデントクラッシャー、バンガサジコミ、ディアボリックガント、ザッパーエッジ、クルセイドロア、etcetc……。

 数多くのレア武器を、彼は持っていた。

 

 彼は所謂コレクターという人種だったのだ。

 彼の休日には、よく一緒に武器の手入れや整理を行ったものだ。

 

 そして当然のように幼き彼女はアークスになることを決意する。

 幸いアークスになるための必須事項――フォトンの扱う才能はあった。

 

 かくして10年後――つまり現在、彼女は晴れてアークスとなった。

 

 赤箱(レア)を手に入れるために、虹箱(激レア)を手に入れるために。

 あとついでに宇宙の平和を守るために。

 

 彼女こと『シズク』は今日も今日とて惑星ナベリウスに降り立つのであった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「くっ……またか……」

 

 ダーカー。

 それはアークスの不倶戴天の敵。

 

 全惑星にほぼ無尽蔵に湧く正体不明の生物群。

 

 否、生物であるかどうかすら不明である。

 分かっていることは、ダーカーはアークスの敵であり、全宇宙の敵であることくらいだ。

 

「わらわらと虫のように……!」

 

 ナベリウスの綺麗な草木の間を這うように、黒色の蜘蛛型ダーカー『ダガン』が姿を現す。

 それも一体や二体ではない、五体だ。

 

 その数の多さに、新米アークスである少女――『リィン・アークライト』は舌を打つ。

 

 ダガンはダーカーの中では強い部類に入る種族では無い。

 しかしこの数の多さは、修了任務を終えたばかりであるリィンにとっては骨が折れる相手である。

 

 まだ傷の目立たない新品の『ギガッシュ』という両刃のソードを握りしめ、左右前後囲まれてしまったことを改めて確認。

 リィンは決して無能な新人ではない、むしろ彼女の同年代と比べればかなり優秀なレベルだ。危険なアークスの任を、低難易度とはいえソロで挑めてしまう程度には。

 

 しかし今回ばかりは、そのソロ活動が仇となった。

 

「痛っ……」

 

 先ほど負った足の怪我が痛む。

 

 『回復道具(モノメイト)』はもう切れてしまった。

 傷を癒す手段はもう、ない。

 

 せめて一匹……いや二匹は道連れにしてやろう。

 

 そう決心し、ソードを構えた瞬間だった。

 

「エイミング……ショット!」

 

 ――光を纏った銃弾が、ダガンを一撃で消し去った。

 

「え――」

「ショット! ショット! ショット!」

 

 さらに続けて放たれた三発の光弾が、周囲を囲んでいたダガンを貫く。

 

 あっという間に、残りのダガンは一匹だけになってしまった。

 

 リィンが慌てて振りかえると、そこには自分とそう歳が変わらないであろう少女の姿があった。

 

 赤い髪が特徴的な、可愛らしい少女だ。

 顔に似合わぬ形相でガンスラッシュを振りまわして何かを叫んでいる。

 

「あと! 一匹! 倒すなら倒して倒さないなら邪魔だからどいてー!」

「え、あ、はい! 倒します!」

 

 何故か敬語になってしまったリィン。

 残りの一匹はリィンが彼女の射線上に居るため撃てなかったようだ。

 

 自分が戦っていた敵なのだから、一匹くらい倒さなくては格好がつかない。(絶体絶命だったので今更格好つくもつかないもないと思うが)

 

 大きく後ろにソードを振り、反動を利用して全力で振り抜く!

 

「ソニックアロウ!」

 

 フォトンで出来たカマイタチがダガン目がけて一直線に飛んでいき、ダガンの堅牢な身体を真っ二つに切り裂いた。

 

 硬い甲殻を持つといっても所詮ダーカーの末端雑魚。

 タイマンならばフォトンの力を扱うアークスの敵では無い。

 

「ふ、ふぅ……」

 

 ダガンの残骸が消え、跡には黄色い菱形の物体や緑色の箱が残った。

 

 リィンは原理を良く知らないが、ダーカーや原生生物をフォトンの力で倒すとお金(メセタ)やらモノメイト等のアイテムを残していくことがあるのだ。

 

 アークス内ではこれを『ドロップアイテム』なんて呼んでいる。

 たまに赤色や虹色の箱も落とすらしく、これは『レアドロップ』といって優秀な性能の武器やアイテムが入っている文字通りのレア物だ。

 

(まあアークス歴一ヶ月に満たない私が拝めるようなものじゃないだろうけどね……っと)

 

 助けて貰ったお礼を言おうと、リィンはソードを仕舞って赤髪の少女に向き直る。

 

「あ、あの……! 助かりました、私もう駄目かと……」

「くっ……またか……」

「……え?」

 

 しかし、当の少女はまだ不穏な表情である。

 

 まさかまた敵襲が来たのかと思い周囲を見渡すも、それらしき影は無い。

 レーダーにも反応は無し……ならば彼女の表情は何故雲っているんだという疑問は。

 

 次の発言で速攻解決した。

 

「また、赤箱出なかったぁああああああああ!」

 

 赤髪の少女――シズクの慟哭がナベリウス森林エリアに響いた。

 

 これが、最初の出会い。

 後に『“剣姫”のリィン』と呼ばれる少女と、『“レア狂い”のシズク』と呼ばれる少女が巻き起こす物語の最初の一歩は、ここナベリウスで起きたのであった。


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