AKABAKO   作:万年レート1000

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やっとEP3の展開が定まってきたので投稿再開です。
ただリアル多忙中なので投稿はまだスローペースかもです。


灰の神子・スクナヒメ

「うばー……この展開は、流石に予想外だったかなぁ」

 

 頭を抑えながらシズクは呟く。

 

 星の危機だと言っているのに睡眠を優先するとかどんな神だというのか。

 

 徹夜でもしてたのだろうか、それとも星や民のことなんてどうでもいい神様なのか。

 

 はたまた、ダーカーをナメてるのか。

 

 如何に神だろうと、星の神では宇宙そのものを食らい尽くすダーカーには分が悪い。

 

 ダークファルスは、星の一つや二つくらい遊び半分で滅ぼせる存在なのだ。

 

(どうしたものか……正直【百合】の分身が闊歩してる以上あんまし悠長にしてらんないんだけど……)

「あっ! シズクがいるー! おひさー!」

 

 と、シズクが思考を巡らせていると、

 女子高生が中学の頃の友達と町中で偶然再会したかのような気軽さで少女が一人、シズクの背後から抱きついてきた。

 

 突然のことに、流石に驚くシズク。

 しかし声色に敵意は無く、親しげな何処かで聞いたことある声に、

 シズクは一体どこの誰だっけこの声、と記憶を探りながらゆっくり振り返り、

 

 目を見開いた。

 

「うばー! リィンもいつぞやのお姉さんもいるじゃん! イエーイ! あたしのこと覚えてるー?」

「…………あ、あ、あ……」

 

 絹のような白い髪に、ブライダルを思わせる白いドレス。

 そんな真っ白な意匠の中に、血のように真っ赤な瞳が妖しく光る女の子。

 

 

 ダークファルス【百合(リリィ)】が、そこにいた。

 

 

「っ!? シズク!」

「おーっと、動くな!」

 

 即座に臨戦態勢に入ったのは、もちろんリィン。

 しかし【百合】はシズクの首筋に茜色の剣を突きつけることによってその動きを実質的に封じた。

 

「……女の子を人質に取るなんて、あなたらしくないんじゃない? ダークファルス【百合】」

「うっばっばー、まあねー。シズクみたいな可愛い可愛い女の子を傷付けたくないから、お願いするよ」

 

 動かないでね?

 と、【百合】はリィンとライトフロウに念を入れるように言う。

 

 背後から羽交い締めにされ動けないシズクの頬に、汗が一滴伝った。

 

「な、何が目的なの……? あれだけ固執していたリリーパから離れて、この星に分身を送り込むなんて……うひぃ!?」

「んー、それはねー」

 

 シズクの頬をペロリと舐めながら、【百合】は言う。

 

「あたしはよく分かってないから、ダブちゃんに訊いて?」

「だ、ダブちゃん……?」

「おーい、ダブちゃんアプちゃんもう出てきていいよー!」

 

 【百合】が背後にそう声をかけた瞬間。

 空間が歪み、ダークファルスが二体、その姿を現した。

 

 ダークファルス【若人(アプレンティス)】。

 それと、ダークファルス【双子(ダブル)・女】。

 

 最悪の組み合わせだ。

 シズクの思い描いていた、最悪の予想が予想通りになってしまった。

 

「ダブちゃん! この変な建物にスクナヒメがいるんだってさー! これで交渉成立だよね!」

「こんなに早くスクナヒメに辿り着けるなんてね……一体どんな手を使ったの?」

「剣の分身によるローラー作戦と、女の勘よ」

「キミが言うと、二つ目の理由の方が見つけられた理由の比率として大きそうなのが面白いね」

 

 笑顔で言い放つ百合に、双子は参りましたとばかりに両手を挙げた。

 

「うっばっば、スクナヒメを探すのを(・・・・・・・・・・)手伝う代わりに(・・・・・・・)採掘基地の攻略を手伝う(・・・・・・・・・・・)約束(・・)だもんね!

 約束は守ってもらうよダブちゃん!」

「仕方ないなぁ……」

「なっ……!?」

 

 ライトフロウが、冗談じゃないとばかりに目を見開いた。

 

 現状、【若人】と【百合】だけでも滅茶苦茶苦戦を強いられている採掘基地防衛戦に、【双子】まで参戦されてしまえば勝ち目なんて無い。

 

 『ダークファルスは共闘をしない』というのが、これまでアークスがダークファルスに勝利するにあたって『前提』だったのだ。

 それぞれの我が強く、同族嫌悪に近い形で互いを嫌っているダークファルスは仲間割れこそ(殆ど)しないが共闘だけは【百合】とかいう例外を除いてほとんど無い。

 

 無い、が。

 勿論例外はある。

 

 ダークファルスの共闘という例外――それが起こったとき、アークスは例外なく敗北しているという事実。

 

 例えば、アークスにとって初の大敗北である十年前の大規模侵攻は主犯である【若人】の他に【敗者(ルーサー)】も【双子(ダブル)】も一枚噛んでいたことは最早周知の事実である。

 さらに言えば、最近の敗北である採掘基地防衛戦・侵入も【若人】と【百合】の共闘があったからこそ。

 

 四十年前然り、【巨躯(エルダー)】の復活然り、【敗者(ルーサー)】の打倒しかり――アークスがダークファルスに勝利できた事例全ては、ダークファルスが単独だったというのも一つの純然たる事実なのだ。

 

「――どうも話が見えぬが……」

 

 と、そこで。

 今まで様子を伺っていたクロガネが銃に手をかけながら口を開いた。

 

「こいつらが、この星の敵というや――!」

 

 しかし、その台詞が最後まで紡がれることは無く。

 

 クロガネの身体は、飛来した数多の剣に刻まれ地に伏した。

 

「おいおいおい、あたしの前で男が口を開くとか新キャラかよお前」

 

 数多の剣でクロガネを切り刻んだのは、勿論【百合】だ。

 

 ハルコタンの巨人だろうと、性別がオスに分類されるのならば彼女の前に存在することは許されない。

 

「【百合】、遊んでないでさっさと要件を済ませなさい」

「りょーかいアプちゃん」

 

 【若人】の言葉に頷いて、【百合】は一際大きい剣を頭上に浮かべた。

 切っ先は、スクナヒメの社に向いている。

 

「流石に家が壊されればスクナヒメとやらも飛び出てくるでしょ」

 

 さあ、どんな可愛い神様なのかなぁ。

 楽しみだなぁ、なんて。

 

 そんなふざけたことを言いながら、掲げた腕を振り下ろして剣を射出――

 

 

「やめんか、馬鹿者」

 

 

 瞬間、一迅の風と共に茜色の剣は消え去った。

 

 誰もが唖然とする中、

 からん、と下駄特有の足音を鳴らしながらそいつは姿を見せた。

 

 白と黒の入り交じった、長い髪。

 デューマンを彷彿とさせる赤と青のオッドアイに、額に生える一本角が特徴的な和装の少女。

 

 灰の神子、スクナヒメ。

 随分と、アークスに近い姿形を持った神が社の前に立っていた。

 

「……なんか」

 

 眠たげに目蓋を擦りながら登場を果たした神子を見て、【百合】は口を開く。

 

 至極、残念そうに。

 

「好みのタイプじゃな――」

「ふん」

 

 セリフの途中で、【百合】の姿は掻き消えた。

 

 否、【百合】だけではなく、【若人】も【双子】も。

 その場にいたダークファルスが全て、突然何処かへ飛ばされた(・・・・・)

 

「え……?」

「シズク! 大丈夫だった!? 怪我してない!?」

 

 一体何が起こったのか分からずに、スクナヒメを見つめながら固まる一同。

 そんな中、リィンだけ即座にシズクの元に駆け寄ったのは流石の一言だろう。

 

「う、うば……大丈夫、ありがとね、リィン」

「よかった……」

「あの人が……スクナヒメ? うばば、凄いや、星の神様を名乗るだけは……」

「そんなことより」

 

 シズクのセリフを遮って、突如リィンはシズクの頬を舐めた。

 

 官能的なほど、ねっとりと。

 唾液をたっぷり含ませて、リィンの舌がシズクのほっぺを伝っていく。

 

「う、うばぁあ!? 突然なにすんの!?」

「上書き」

 

 真顔で――というか若干怒っている感じでそう言って、リィンはスクナヒメの方を向いた。

 

 そして顔を真っ赤にしながらジド目でリィンの背中を睨んだ後、シズクもスクナヒメに向き直る。

 

「……寝起きの倦怠感が一気に醒めたわい……なんじゃこやつら唐突にイチャつきおって」

「あなたが、スクナヒメ……?」

 

 ご尤もなツッコミをスルーして、シズクは訊ねる。

 

「そうじゃよ」

 

 何はともあれ。

 

「わらわが灰の神子、スクナヒメじゃ」

 

 こうして、アークスはハルコタンの神――スクナヒメと接触することが出来たのであった。


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