AKABAKO   作:万年レート1000

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今日中にもう一回くらい更新できたらいいな。


再誕の日⑭

「……管制、全掌握。全回線、全演算機構、正常に移行……システム、シャオへ書き換え……了」

 

 ルーサーに侵食された、マザーシップの近く。

 

 そこに、新たなマザーシップが時空を割って出現した。

 

 シャオを核に添えた、新たな演算機構。

 その上に立って、シャオは静かに呟く。

 

「これで、終わり。……ぼくたちはやりとげた。やりとげたんだよ」

 

 そう。

 これが、シャオが――シオンが目指した結末。

 

 アークスシップの管制を、ルーサーから手放させ、その隙にシャオが全てを掻っ攫う。

 この展開にもって行くための、これまでだった。

 

 これで『アークス』は、表立ってルーサーに敵対することができる。

 

「シオン」

 

 宇宙の星々を見上げながら、シャオはシオンに向けてそっと呟いた。

 

「……あとは任せて。ゆっくり、休んでください」

 

 シオンが守ったもの。

 シオンが残したもの。

 

 その全てを、今度はぼくたちが守っていくから。

 

 勿論、シズクも――。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

『……管制、全回復! 艦内機構、全て正常値! 各員、全機能のチェックを急げ!』

 

 オペレーターのそんなアナウンスが、アークスシップ全体に響き渡った。

 それは当然、シオンの最深部であるこの場所にも、だ。

 

「な!? ……どういう、ことだ!」

 

 ルーサーが、訳が分からないとばかりに目を見開く。

 オラクルの演算を担っていたシオンが居なくなった今――そして管制の権限もルーサーが手放した今。

 

「シオンが失われた今。何が、演算の代わりを……」

 

 ルーサーが焦りながら端末を弄り、原因を探し出した。

 原因はすぐに見つかることになる。

 

 何故なら、今立っているこの星――旧マザーシップが、完全にアークスシップから切り離されていたからだ。

 

 そして各アークスシップは、新しいマザーシップへと繋がり全ての機能を回復させている。

 

 全知とは到底呼べないような、シオンのバックアップが。

 新しいマザーシップとなりルーサーの支配を掻き消していた。

 

 もう今更管制を掌握しても意味がない。

 

 完全に出し抜かれた。

 シオンの最後の切り札は――これだったのだ。

 

 あの全知には、この結末が演算できていたのだろう。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 

 

 

「――――……まだだ」

 

 でも。

 ルーサーにとって、最早アークスはどうでもよかった。

 

 出し抜かれたことに憤りを覚えるも、まだ。

 

 まだ全知へ至る道を、諦めてはいなかった――!

 

「まだだ……! まだ、全知へ至る道は消えてはいない……!」

 

 ゆらり、とルーサーが動き出す。

 シオンの残滓を抱え、座り込んでいるシズクに向けて動き出す。

 

「まだ、シオンの娘がいる……! シオンの血肉から生まれ、全知へのアクセス権を持つ娘が!」

「ひっ……!」

「解剖すれば、解析すれば、分析すれば……何かが分かるかもしれない! いや、その力を増幅して量産させれば第二のシオンが……いや、シオンそのものが作れるかもしれない……!」

 

 血走った眼で、明らかに正気じゃない瞳で、ルーサーはシズクへ手を伸ばした。

 

「僕と来いシオンの娘! 僕と来れば、母親にもう一度会わせてやろう――」

「シズク、逃げろーっ!」

 

 炎弾を、『リン』が放つ。

 ルーサーはそれを鬱陶しそうに睨むと、掌に黒い弾を作り出した。

 

「邪魔をするなァッ!」

 

 黒い弾を、ルーサーが炎弾に向けて投げつける。

 さっきの風の弾とは、段違いの威力が込められた攻撃だ。

 

 『リン』の炎を全て掻き消し、尚勢いが衰えず――弾は『リン』に直撃した。

 

「『リン』!」

 

 吹き飛ぶ『リン』を、マトイが追いかける。

 

 これでもう邪魔者は居ない、とルーサーはシズクの方に向き直った。

 

「い、いや……」

「さあ、来いシオンの娘……母親に会いたくないのか?」

「こ、来ないで……やめて……あ、あ……」

 

 武器を、何か武器をと探ってみるも、あるのは壊れたブラオレットと壊れたヴィタライフルだけ。

 テクニックも使えないし、リィンもいないシズクに、今出来ることは……。

 

 無い。

 

「往生際が悪いね……それならば、無理やりにでも……!」

「きゃっ……! 痛っ……!」

 

 ルーサーの手が、シズクの腕を掴んだ。

 興奮しているからか、強く握られシズクは思わず呻く。

 

「助けて、リィン……! お父さん……!」

「ふふふ、ははははは! さあここにはもう用など無い! 急いで脱出を――」

「やだ! 嫌だ……!」

「こら、暴れるんじゃない。あまり往生際が悪いなら四肢くらい折っ――」

 

 めりっ、と。

 ルーサーの顔が突然ひしゃげた。

 

 まるで見えない何か(・・・・・・)に蹴られたように。

 

 不意を撃たれたルーサーは、シズクの腕から手を離し何度か地面にバウンドしながら数メートル吹き飛んだ。

 

「――へぶらっ!?」

「はっ、はっ……はぁっ! 間に合い……ましたね……!」

「……!」

 

 ルーサーを蹴ったそのヒトは、額に汗を浮かばせながらふぅっと息を吐き、

 

 透明になっていたその姿を晒した。

 

「く、クーナちゃん!?」

「シズク、大丈夫ですか!? あの男に変なことされてない!?」

 

 毛先のみ橙色の、蒼いツインテール。

 ゼルシウスという暗殺者のような格好に身を包んだ女性――クーナが。

 

 シズクを庇うように前へ、立っていた。

 焦っているのか、口調が表と裏どちらも混ざったような変な感じになっている。

 

「偶像風情が……! 邪魔を、するなぁああああああああ!」

「っ!」

 

 立ち上がったルーサーが、鬼の形相で掌に黒い弾を作り出す。

 

 シズクが背後にいる以上、避けることはできないとクーナは透刃マイを両手で交差させた。

 

 受け止める気なのだろう。

 しかしそれは危険だ、何せあの弾は『リン』のフォイエすら掻き消してそのまま貫く威力を持っている!

 

「クーナちゃん! 避けて!」

「ですが……!」

「死ね、死ね死ね死ね死ねシネェエええ!」

 

 ――振りかぶったルーサーの手を、一発の弾丸が撃ちぬいた。

 

「っ……!?」

「いやおっそろしいくらいドンピシャ……ってぇわけでもなさそうだな」

 

 衝撃で、エネルギーが霧散し消える。

 弾丸を放った男――ゼノは、マトイの治療を受けている『リン』と、疲弊した表情をしているシズクを順番に見た後、怒気に満ちた目でルーサーを睨む。

 

「オレの後輩と、弟弟子をこんな目に遭わせたのはてめぇか、ルーサー」

「……どいつも、こいつも……」

 

 『闇』が。

 ダーカー因子が、ルーサーへと集まっていく。

 

 否、ルーサーが、どす黒い闇に呑まれていく――!

 

「貴様らも、貴様らも貴様らも!」

「な、なんだ……!? ダーカー因子が奴に集まっていく……!?」

「僕に! 逆らうか! 僕に! この、ルーサーに!」

 

 

 

「【敗者(ルーサー)】にッ!」

 

 

 そして、ルーサーは――いや、【敗者】は。

 闇を全て取り込み、その正体を表した。

 

 ダークファルス【敗者】。

 今までの白い衣装を黒く染め、ダークファルス特有のメッシュのような紫色の髪を持つ、正真正銘のダークファルス。

 

「【敗者】、ようやく……正体を現したか」

 

 治療を終え、動けるようになった『リン』が、歩きながら口を開く。

 

 マトイと、クーナと、ゼノと共に、シズクの前へ。

 庇うように立って、杖を構えた。

 

「シオンの娘を渡せ、アークス共」

「シズクは、渡さない。渡してたまる――ものか」

「そんな解は必要ない。答えは僕の望むままであるべきだ! それに沿わないものは、死ね!」

 

 そう叫んで、【敗者】は人型戦闘形態――『ファルス・アンゲル』へと変化した。

 

 六本の翼と、金色の身体を持つダークファルス。

 ルーサー戦、第二ラウンドの火蓋が、切って落とされた――!

 

 

 




シズクがヒロインしてる。

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