激戦は続いている。
レギアスvsマリア。
クラリスクレイスvsヒューイ。
カスラvsゼノ&『リン』。
これまで創世器ではないワイヤードランスおよびガンスラッシュを使っていたヒューイとカスラも武装を創世器に切り替えて。
全員、互角の戦いを繰り広げていた。
「っとと。流石、やりますねゼノさん。伊達に四を継いだわけではないということですか」
「よく言うぜ、地獄の特訓の成果を飄々といなしやがって」
ゼノと『リン』の連携を軽々といなすカスラ相手に、ゼノは間合いを整えながら言う。
さっきから、創世器を解放したにも関わらずどうにも攻撃が消極的だ。
これは、おそらく……。
「……ようカスラさん。あんた、ケリつける気ねえな。
さっきのエコーとの時もそうだったろ? 今度は何を待っていやがる」
「さて、何でしょうね……」
やはり、時間稼ぎが目的なのだろう。
何かを待っていることは確かだ。
この状況下で、一体何を――。
『よし、よしよしよーっし! クラック成功ッ!』
と、そのときだった。
突如中空に、通信用のウィンドウが浮かび上がったのだ。
ウィンドウに映っているのは、オレンジ色のツインテールが特徴的な美少女。
今売り出し中のアイドル――クーナが顔面アップで映し出された。
*****
『はーい、アークスのみんな! 皆のアイドル、クーナです! ちゃーんと聞こえてるかなー!』
「はぁああああああ!」
「だぁああああああ!」
クーナによる放送が始まる中。
リィンとライトフロウは、剣戟を交わしあっていた。
放送には目も暮れず、耳も貸さず、ただただ腕を振るい足を動かす。
ライトフロウの全力。
神速で振るわれる剣閃を、一つ残らず叩き落すリィン。
次いでソードを叩き落そうと放たれたガードブレイクの攻撃もリィンには通じない。
正面から受け止められない攻撃は、いなしかわし受け流す。
「あっはっはっは! 何よリィン! アナタのクローンなんて目じゃないくらい強いじゃない!」
「当たり前でしょう! あんなのと一緒にされたら困るわ!」
『任務で忙しい? まあそう言わずに、あたしからのメッセージ受け取って、くれるかなっ!』
クーナがそう言った瞬間、二人の目の前にアークスがこれまでしていた悪行や、『
「「邪魔!」」
それを映し出している自身の端末を物理的に破壊し、二人は戦闘を再開した。
『届いたかなー? 見たかなー? 見た感想は、いかがかなー?』
「アサギリレンダン――!」
急接近からの、猛攻撃。
目にも止まらぬ連撃すら、リィンは全て受け止める。
そしてその連撃が終了した直後の隙に、リィンの手に炎が宿った。
「ラ・フォイエ!」
「っ!」
顔面に向けて放たれた、ノンチャージのラ・フォイエ。
例の如く威力は無いが、目を潰すには充分である。
でも、この手は――クローンリィンが既に使った手だ。
『なんとなんと、敵性存在の証拠は全部が全部、嘘っぱち!』
「………………っ? ……!?」
カタナに手を添えて、隙を衝こうとしてきたリィンを迎え撃つべく構えるライトフロウ。
だがしかし、中々攻撃が来ない。
もう煙も晴れて、折角視界を封じたのにそれを無駄にしたことになるぞ、と。
クリアになった視界でライトフロウが見たものは、光のテクニックを手にチャージしているリィンだった。
「イル・グランツ!」
「っ!?」
大量の星屑が、ライトフロウに降り注いだ。
チャージしたところで、威力はそこまで出ない。
しかし、イル・グランツという星屑を大量に飛ばすテクニックの最大の特徴が――
状態異常の付与に、非常に適したテクニックなのである。
そして状態異常の付与確率は、威力とは関係ない――。
「ぐっうぅ……」
「やぁあああああああああ!」
『まあ、気付いている人もいたみたいだけど、みんなさくっと騙されちゃってたよねー!』
混乱は、前後左右が不覚になる状態異常。
この状態でマトモに戦うことは、非常に難しい。
――けど。
「……丁度いいハンデだわ」
「なっ!」
リィンの放った攻撃を、ライトフロウはジャストガードしていた。
カタナのジャストガードはソードと違って受け止めるだけで終わらない。
鞘でガードしたまま、カタナを抜き放ち回転しながら振りぬく――!
「『カウンターエッジ』!」
「痛っ……!」
『ほかにも、知らない情報が目白押し。アークスが……虚空機関が裏でやっていたことなどいーっぱい!』
だが。
リィンはそのカウンターすらも受け止めた。
ジャストガードには失敗し、多少の痛手は受けたものの戦闘は全然続行可能だ。
「まだ終わらないわよね、リィン! 久しぶりだわこんな楽しい勝負! まだまだ私を楽しませて!」
「くっ……にやにやしちゃってまあ……! 混乱中なら少しくらい動き鈍ってよ!」
言いながら――リィンもにやけていた。
楽しそうに、笑っていた――!
『嘘だと思う? デタラメだと思う? だったら、ここにいるあたしは何かな? そこに書いてあるでしょ?』
でも、勝ち目があるとしたら姉が混乱している今しかないだろう。
少しは動き鈍ってよと言ったものの――前後不覚なのは確かな筈なのだ。
数歩下がってみても追っかけてこないことから察するに、目の前から迫ってくる敵を迎え撃つくらいならできるけど、移動したり身体の向きを変えたりすることは混乱の仕様から難しい筈だ。
さっきは正面から切りかかって失敗した。
今度は姉の周りをぐるぐる回ってかく乱してやろう、とリィンが考えたと同時に、
ライトフロウは、ゆっくりと壁際まで移動していた。
「……壁の隅を背に……!」
「これで正面から掛かってくるしか無いわね?」
こちらの思考を読んでいるのか――いや、読む必要なんて無いだろう。
何せ姉妹なのだ。
思考は自然と似てしまう。
左右後ろからの攻撃は封じられた……。
ならばせめて――上!
リィンは跳びあがり、全力のフォトンをソードに込めていく。
それを見てライトフロウも迎え撃とうとカタナを両手で構え、ゆっくりと頭上まで振り上げた。
『みんな……いい加減目を覚ませ!』
「――オーバーエンド!」
「――カザンナデシコ!」
絶対令を打ち消す絶対令を、クーナが放つ中。
ソード最強のフォトンアーツとカタナ最強のフォトンアーツが、ぶつかり合った。
*****
「私の勝ち、ね」
オーバーエンドとカザンナデシコのぶつかり合いにより、通路の一部が破損し粉塵が立ち込める中、ライトフロウ・アークライトは呟いた。
カタナを鞘に収め、地に伏して倒れる妹に向かって歩み寄る。
「絶対令が寸前で解除されたから咄嗟にスタンモードに切り替えたけと大丈夫?」
「…………」
リィンが、何かをボソボソと呟いた。
それに気付いたライトフロウは、その言葉に耳を傾けて……。
「――――……私の勝ち、よ」
「……!」
「シズクを……守れたもの、アナタをここに押し留められたもの」
それだけ言って、リィンは気絶してしまった。
「……やれやれ、敵わないわねぇ」
今日のところは引き分けにしといてあげるわ、とライトフロウは負け惜しみのように呟いて。
リィンを担ぐと、メディカルセンターに連れて行くべく戦線を離脱した。