時は遡り、惑星ナベリウス・遺跡エリア結界内。
シズクとリィンがサラに、
ゼノがマリアに修行を就けてもらっている時。
「あっはっはっは! やるねえリィン! よく耐えるじゃないか」
「…………!」
昂ぶりながら好き勝手パルチザンを振るうマリアと、その猛攻からかれこれ三十分ほど耐え続けているリィン。
口を開く余裕も無く、本当にただ防戦一方なのだがリィンの限界は近そうだった。
――今日はサラが忙しいから三人がかりで掛かってきな! というマリアの言葉通り掛っていったら開始三分でシズクがやられ、十分でゼノがやられ、そしてリィンだけが残って防戦に徹しているという状況だ。
「…………すげぇよな、リィンは」
そんな二人を傷だらけの姿で地に伏して眺めながら、ゼノはポツリと言葉を漏らす。
同じように傷だらけのシズクが「?」と隣で首を傾げた。
ゼノの方がよっぽどか強くて凄いアークスだと思うのだが。
「あそこまで姐さんの攻撃を捌けるやつは中々いない――正直なところ、羨ましいぜ」
「……うばば、そういえばゼノさんってレンジャーからハンターに転向したんでしたっけ。確かゼノさんは第二世代でしたよね? そりゃソードの扱いならリィンの方が一段上でしょうよ」
アークスには世代という概念が存在する。
種族としてまだ新参なアークスは、生物としてより繁栄しやすい形になっていくように未だ進化していっているのだ。
シズクやリィン、あと『リン』辺りは第三世代。
ゼノやエコーは第二世代。
そしてレギアスやマリアは第一世代。
詳しい説明は省くが第三世代であるシズクやリィンと違い、第二世代であるゼノはフォトンの傾向を変化させることが出来ず適正クラスというものが生まれたときから定まっているのだ。
第三世代はハンターだろうとフォースだろうと何だろうと好きなときに好きなクラスに就くことが可能で、さらにその力を最大まで引き出すことが可能だが、
第二世代は例えばゼノのようにレンジャーに適正を持つものが無理やりハンターになったところでハンターとしての技能は一部しか引き出せない。
その代わり適正に添ったクラスにさえ就けば第三世代より大きな力が発揮できるのだが……。
ゼノはレンジャークラスに適正を持ちながらも、ハンタークラスを選択しているのだった。
「いやそうじゃなくて……それもあるけど、『守る』ことに関しては絶大な才能の持ち主だろ、あれは」
「…………」
「オレは、それが羨ましい」
「…………」
シズクは、ジト目でゼノを見つめてから……呆れたようにため息を吐きだした
「……な、なんだよ」
「そういえばゼノさんはレンジャークラスに適正があるのにハンターやってるんでしたっけ?」
「お、おう。話したことあったっけか? レンジャーじゃ誰も守れなかったからハンターに……」
「ばっかじゃないの?」
思わず敬語の抜けたシズクが呆れた顔で、言う。
海色の瞳が、淡く輝く。
「ば……!」
「守れなかったのは、
「……いや、だって……!」
「一人で誰も彼も、何もかも守ろうなんて傲慢もいいところです。ゼノさんが本当に何もかもを守ろうと思うなら……そうですね」
と、一拍置いて。
シズクはゼノを真っ直ぐに見つめた。
「ゼノさんがレンジャーとして支援射撃、エコーさんが支援テクニック。そして後二人ほど……そうですね、前線で暴れられるファイターと暴れるファイターを嗜めながら同じく前線で戦うことのできるテクター辺りで固定パーティを組んで人助けをするのがいいでしょう」
一人じゃなくて、皆で。
お互いの欠点を補い合うようにパーティを組んで行動する。
「そのほうが、アナタ一人が頑張るよりよっぽどか沢山のヒトを救えますよ」
「…………」
ゼノは、シズクから目を逸らして未だに戦っているリィンとマリアの方を向く。
前線で暴れられるファイターと。
それを嗜めながら同じく前線で戦うことのできるテクター。
偶然じゃないのだろう。
何処で知ったのかは知らないが、こいつは全てを知ったうえでオレにそう言っているのだろう。
ゲッテムハルト。
メルフォンシーナ。
ああ本当に、どうしてそうならなかったんだろう。
オレとエコーとゲッテムハルトとメルフォンシーナ。
その四人でパーティを組んで、いつまでも一緒に、
何で居られなかったんだろうか。
答えはもう知っている。
「ああ――そうだな。その通りだと思う」
「…………」
「どうしてそうならなかったんだろうなぁ……」
遠い目をしてそう呟くゼノに、シズクは何も言えず視線を逸らして未だ粘っているリィンを見る。
六芒均衡の攻撃をずっと耐えているリィンも凄いが、マリアも凄い。
なんであんな怒涛の猛攻をしながら息一つ切れてないんだ。いや勿論手加減はしてるんだろうけど。
……してるよね?
「……あ、そうだ。シズク、オレにはもう必要ないしこれやるよ」
「うば?」
ゼノが突然思い出したようにそう言って、アイテムパックからアサルトライフルを一丁取り出して投げてきた。
ヴィタライフル、と呼ばれるコモン武器だ。
若干型が古いが、よく手入れされている。
「オレが昔使ってたアサルトライフルだ。ちと古いが強化はちゃんとしてあるし手入れも欠かしてない。
下手なレア武器よりも上等な代物だぜ」
「うば、いいんですか……? あたしの持ってるアサルトライフル、初期装備のやつでしたしありがたいですが……」
「いいんだよ。ていうか何だ? ガンスラッシュ専門だったのか? なら余ってて役に立ちそうなフォトンアーツのディスクを分けてやんよ」
そんなことを言いながら、ゼノは何枚かのディスクを取り出して渡してきた。
急になんだ、餌付け(?)か、と焦りながらディスクを受け取り……そういえばこの感じと似た感覚を前に味わったことがあるような……と記憶を探ると、
メイとアヤの姿が浮かんだ。
尊敬すべき、先輩の姿が。
先輩だからと、何かと世話を焼いてくれたヒト。
「先輩ってのは、後輩を助けるもんだからな。遠慮せず受け取っとけって」
そういえばメイ先輩からもユニットを譲り受けたことがあったな、なんてことを思い出しながら。
「ありがとうございます」
シズクは、笑顔でそれを受け取るのだった。
*****
「ゼノ、準備はいい?」
「ああ、いつでもOKだ」
広い宇宙の何処か。
ゼノは辛い修行生活にあったワンシーンを思い出しながら言った。
聞けば、これから始まる戦いはアークスの存亡を賭けた戦いであり、
そして後輩であり弟弟子であるシズクが深く関わっている戦いだというではないか。
「…………」
ゼノは、自然と拳を握り締めていた。
(待ってろ、今)
(――助けに行く)
瞬間、ゼノの身体はマザーシップへ転送され姿を消した。