ガンスラッシュが。
ソードがパルチザンがワイヤードランスがアサルトライフルがランチャーがロッドがタリスがウォンドがカタナがバレットボウがテクニックがフォトンアーツが。
アークスの使う、普段は味方である攻撃が一身に迫ってきている。
「くっそ、まさかアークスと戦うことになるなんて……」
「えっと、武器をスタンモードにするには……」
マザーシップ内の駆けながら、『リン』とマトイは立ち塞がるアークスを蹴散らしていく。
『リン』は炎のテクニックを使い、
マトイは闇のテクニックを使って。
尚、武器をスタンモードにしているため死者は出ないから安心だ。
痛いものは痛いだろうけどそこはまあアークスだし我慢してもらおう。
「キリン・アークダーティを殺せ」
「殺せ、殺せ、殺せ」
「反逆者を殺せ」
「皆、ごめんね!」
マザーシップはそれなりに広い。
しかし奥までの道のりはシャオがバックアップしてくれているうえに、意外と通路がしっかりしているのもあって迷うことは無さそうだ。
「マトイ、大丈夫か?」
「う、うん。思ったより戦えてるよ」
攻撃の波が一旦途切れたところで、『リン』はマトイを心配するように声をかけた。
マトイは案外平気そうだ。
ていうか『リン』並みのテクニックをほいほいと使いこなしているのはどういうことなのか。
疑問は尽きないが、今はそれに関して言及している場合じゃないし、記憶喪失のマトイに訊いたところで答えは返ってこないだろう。
「「!」」
銃声が響き、反射的に飛びのく。
突如、銃弾が二人の足元を抉った。
音と弾数からしてアサルトライフルの射撃だろう。
マトイを庇うように、『リン』が前に出る。
すると柱の影から一人のアークスがのっそりと姿を現した。
「ふふふっ……あなたに向かって銃を撃つのは、久しぶりですねえ」
黒い髪のようなヘッドパーツに、狂気に満ちた赤い瞳。
病的な白い肌とスーツのようなボディパーツ。
リサだ。
絶対令に支配されていても、言動があまり変わっていないのが恐ろしい。
「まさか、お前とこんな形で敵対することになるとはな……」
次いで、パルチザンを持った男アークスも現れた。
黒いコスチュームに身を包み、髪を後ろで縛っている筋肉質なハンター。
オーザ。
普段はハンタークラスの指導官などをやっている名うてのアークスだ。
「……貴方のこと、信じてたのに。どうして、アークスを裏切るようなことを……?」
さらにさらに、紫色のパッツンヘアをしたフォースの女性――マールーまで現れた。
こちらはフォースクラスの指導官を担当しているほどの使い手で、『リン』も結構お世話になったヒトだ。
三人とも、今まで蹴散らしてきた一般アークスとは桁違いの実力者である。
鎧袖一触――というわけにはいかないだろう。
「……そんな! そんなことしてない! 『リン』は裏切ってなんかいない!」
「オレたちとて、そう信じたいが……殺してしまえば、関係ない」
「……全アークスに向けての開示情報で、証拠も示された。だから、殺してしまわないと」
話が、通じない。
絶対令の影響だろう……正気は、失われている。
「どうして……? おかしい……このひとたち。言葉も、気配も……!」
「無駄無駄無理無理、ダメですよお。もう、リサたちには何を言っても通じないんです。……わかりますかあ?
『絶対令』ですよお。リサたちはもう、逆らえません」
リサが何処か楽しそうに叫ぶ。
相変わらず狂っててそこが彼女の魅力なのだが……今は何処かその狂い方も変……いや、いつもこんな感じの気がしてきた。
絶対令とか頑張ったら逆らえるけどあえて狂ってるんじゃないかと勘繰ってしまいそうだ。
「三英雄のみなさんが言うんです。揃いも揃って、命令するんです。あなたを殺しなさい、って」
リサが銃口を二人に向ける。
緊迫感が高まっていくのを感じる……一触即発だ、もういつ戦闘が始まってもおかしくない。
「ま、リサは命令なんて別にどうでもいいんですが……ひとを殺すのは面白そうですからねえ」
「やっぱお前本当は洗脳なんてされてないけど、ヒトを撃ちたいから絶対令喰らったふりをしてるんじゃないだろうな」
「そーんーなーこーと、無いですよお。あなたが何を言っているのかリサちょっとよく分かりません」
怪しすぎる。
と『リン』がじと目でリサを見つめていると、背後から唐突に足音が聞こえてきた。
「『リン』さん。安心してください。私は敵じゃありませんよ」
振り返る。
そこには黄色い装甲を身に纏ったキャスト――フーリエがランチャーを持って立っていた。
絶対令の影響で、瞳が赤く光っている。
『リン』の敵であることは一目で分かった。
「私はあなたを殺して、あの子たちを守りたいんです。……そのために、殺させてください」
全員が、武器を構える。
刃が、銃口が、杖先が『リン』に向けって突きつけられた。
戦闘、開始。
*****
戦闘、終了。
鎧袖一触とはいかないと言ったが――楽勝ではないとは言ってない。
『リン』の実力は最早アークス内ではずば抜けているし、マトイの実力は何故かそれに勝らずとも劣らずのものだ。
四対二だとしても、負けるわけが無いのだ。
殺す心配の無いスタンモードだからと安心して全力を出す二人の炎と闇のテクニックは、濁流のように四人を飲み込み多少の抵抗はされたものの十分も経たず戦闘は終了した。
「はぁっ……はぁっ……流石は『リン』、だが、殺す……」
「……敵対して、よくわかる。貴方の、強さ…………でも、殺さないと」
満身創痍ながらも、まだ立ち上がろうとする四人――あ、いやなんだかリサだけまだ全然戦えそうだったが。
「四人がかりでこのざまですか。リサ、自信喪失しちゃいそうです。ねえ? ねえねえ?」
「…………」
「……わからない。ぜんっぜん、わからないっ! どうして、この前まで一緒に笑いあってた人たちが戦わなきゃいけないの?」
まだ戦闘続行の意思を見せる四人に向かって、マトイは叫ぶ。
記憶を失っているが故に、年齢不相応に純粋なのだろう。
本当の本当に、分からないのだろう。
もしかしたら絶対令のことだってよく分かってないかもしれない。
故に叫ぶ。純粋に心の底からの思いで。
「それが命令だって言うんなら……そんな命令は、おかしい!」
瞬間、マトイの身体は光り輝いた。
何が起こったのか、『リン』にすら全然分からない。
「……そう、その通りですよ」
真っ白な光が、やがてゆっくりと消えると、四人の様子に変化が起きていた。
まずはフーリエから。
構えていた武器を下げて、絶対令の赤い光が少しずつ消えていく……。
「そんな命令は、おかしいんです。なんで、そんなことにも私は……気付けなかったんでしょう」
「フーリエさん?」
「……お、オレは、何を。いや、戦っていたのは覚えているがあれは……オレだったのか?」
「……まるで、自分の中に別の自分がいたみたい……逆らえない、自分が」
次いで、オーザとマールーの瞳からも赤い光が消えた。
何故かはわからないが……絶対令が解けたようだ。
「んー……言われてみれば、泡沫の夢から、現実に引き戻された。そんな感じがしますねえ」
そして最後にリサがそんなことをぬかしながら絶対令の呪縛から解き放たれたようだ。
なんだか空気を読んで自分の力で解いたように見えるのはきっと気のせいだろう。
「まあ、夢は夢で楽しかったですしリサは結構満足しましたからみなさんが止めるのなら止めます」
「…………」
このキャストは、ほんともう。
トリガーハッピーにも程があるだろう。
「……それに、続きのお相手ならあっちのみなさんがしてくれそうですからねえ」
「え?」
リサが新しい獲物を見つけたような表情で目線を横に逸らす。
するとそっち方面の通路から、赤黒いエネルギーが漏れ出してきた。
ダーカー因子だ。
――アークスの中枢たるマザーシップに鳥型ダーカーが出現した……!
「……ダーカー! どうして、ここに?」
『アークス各員に緊急連絡! 混乱に乗じたダーカーの襲撃だ!』
マザーシップ内に、ヒルダのアナウンスが響く。
流石にマザーシップへのダーカー襲来は看過できないのだろう。
『最終防衛ラインを突破し、マザーシップ内へと侵入している! 反逆者ともども、殲滅せよ!』
「最終防衛ライン突破だと!?」
「……今まで一度も突破を許したことないはずなのに、そんなに簡単に……?」
「反逆者のほうに執心しすぎて、本来の敵への対応をおろそかにしたんですか。はあまったく、ますますもって愚かで愚かで愛らしいミスです。惚れ惚れしちゃいますよお」
……最終防衛ラインを、突破すらしていないんだろうなと『リン』は思う。
やつらは、最終防衛ラインの中に出現したのだ。
ルーサーの眷属である、鳥型ダーカーは。
(ルーサーが最終防衛ラインの内側にいて、こうも容易く鳥型ダーカーが出現するということはそういうことだろう)
(ついに隠す気も誤魔化す気も無くなってるのかな……)
「それなのに、なおもダーカーと反逆者の処分を並行に考える。……まともな判断、できてませんねえ」
そうこうしている内に、鳥型ダーカーが六人を囲い込むように数を増やしていく。
一掃するには骨が折れそうだ。あまり時間を取られている場合じゃあないのだが。
「『リン』さん! 行ってください、この先へ!」
その時、フーリエが、ランチャーを構えながら叫んだ。
「何が正しくて何が間違ってるのか私にはもう、わかりません。だから、あなたがやるべきだと思ったことをやり通してください!」
「フーリエ……?」
「それがたとえ、アークスに……ううん、『この』アークスに不都合なんだとしても……!」
「多くの人たちを救ってきたあなたの選択を、私は信じたい!」
今まで、『リン』は沢山の人々救ってきた。
それはもう、数え切れない程に。
助けて、助けて、助けてきた。
「……行け! ここはオレたちが食い止める! お前達は……先に進め!」
「……罪ほろぼし、にもならないけどそれぐらいは、させてほしい」
だから、『リン』は。
けれど『リン』は。
「リサはですねえ、人間よりもダーカーが嫌いなんです。命令があろうとなかろうとなんであろうと、リサの狙いはただひとつ、なんですからね?」
助けられる、ということに慣れていなかった。
だから少しだけ呆けてから、こんな状況だが若干微笑んでマトイを連れ走り出した。
「絶対令といってもこの程度か? いや、それ以外の力が働いた? ……まあ、どうでもいいか」
そんなやり取りを、近くの建造物の上で眺めていた男が一人。
ニューマン特有の長い耳と銀髪、それと目元のタトゥーが特徴的な男。
――ルーサーが、口角をわずかに歪めながら立っていた。
「どうせもう捨てる玩具の話だ。最後に奇抜な動きを見せてくれるならそれはそれで、面白い」
彼こそが、全ての元凶。
ハドレッドが暴走する原因を作り、惑星ウォパルの生態系を滅茶苦茶にし、ダーカーのクローン技術を確立し、
シオンがシズクと交流することを、拒否する原因でもある。
「さあ、アークスよ、ダーカーよ。好きなだけ殺し合うといい。それくらいの自由は許してやるさ」
懸命に頑張るアークスたちを馬鹿にするようにそう言って、ルーサーは姿を消した。
――アークスの命運を巡る戦いは、まだ始まったばかりである。
思ったより長くなりそう。