AKABAKO   作:万年レート1000

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しかしマジでPSO2の原作知ってないと理解できない話になってそう。


惑星シオン最深部

「で、そろそろ説明してくれるかしら? シャオ」

「ん? 何が?」

「とぼけないで、アタシたちにこんなこと(・・・・・)をさせた理由よ」

 

 惑星ナベリウス・凍土エリア。

 その一角にある昨日雪崩が起きた現場――つまりは、ライトフロウ・アークライトが亡くなった付近にシャオと、そしてシズクを背負った(・・・・・・・・)サラとリィンを背負った(・・・・・・・・)『リン』が顔を突き合わせていた。

 

 シズクとリィンは、二人とも気絶していて起きる気配は無い。

 

「理由なら説明したじゃないか、シズクを守るためだよ」

「訊きたいのは、この二人を拉致することがどうしてシズクを守ることに繋がるのかってことよ。シズクなら全然元気だったじゃない」

「『守る』っていうのは何も死にかけているところへ颯爽と駆けつけるだけじゃないよサラ。このままじゃリィンとシズクは離れ離れになる未来が演算できた……それは防がないとマズイ」

 

 全く世話の焼ける子だよね、とシャオは笑う。

 

「訊きたかったのはそういうことじゃないんだけど……あまり時間があるわけじゃないんだからさっさと本題に入ってくれる?」

「分かってるさ、まずシズクを連れてきて貰ったのは……このため」

 

 シャオがそっと、シズクの肩に触れた。

 

 瞬間、海色の光が二人を包み込む。

 否、二人だけではなく、近場にいたサラもリィンも『リン』も巻き込んで、光が広がっていく……!

 

 そして。

 

 五人の姿は、凍土エリアから完全に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「――――ここ、は?」

 

 光に包まれて、目を開けると一行は海の中に居た。

 

 海、と言っても惑星ウォパルにあるような広大に広がるものではなく、もっとこう、別の何処かで見たような。

 

 そう、シズクの瞳の色と同じ色の空間に入っていると表現すべきだろうか。

 『リン』が辺りを見渡してもサラと自身が背負っているリィン以外誰もいない。何も無い。

 

「ここはシオンの中さ」

 

 少しして、海色の渦に包まれながらも眠るシズクをお姫様抱っこしながら、シャオが虚空から現れた。

 

「それも惑星シオンの最深部中の最深部、核と呼ばれるルーサーですらまだ辿りつけていないシオンだけの空間だよ。……僕だって、本来入ることは許されない」

「でも、シズクを『鍵』にすれば入れる、と。……なるほどね、シズクをルーサーに渡すわけにはいかないわけだ」

 

 ここなら、どんな秘密の話をしようとルーサーに漏れることは決してない。

 

 ルーサーによるシオンの『理解』が進んだ今、アムドゥスキアの龍祭壇奥地のようなルーサーの手が及ばずに……シャオとシズクの正体を彼に気取られることなくシオンと対面できる場所は此処しかない。

 

「……とは言ってもシズクが目覚めてしまえば全部おじゃんだ、仕方ないから今日は手早くことを済ませよう」

「いつもそうしてくれると本当助かるんだけどね……」

「さてじゃあ早速……その騎士(ナイト)様を起こしてくれるかい?」

「了解。おーい、リィン起きろー」

 

 ぺしぺしとリィンの頬を叩く『リン』。

 自分でやっといてなんだが強く気絶させすぎたかな? っと中々起きないリィンを辛抱強く叩き続けること数分。

 

「ん……ぅう……?」

 

 ようやく、リィンは目を覚ました。

 

 首筋に響く鈍痛に少し呻きながら、辺りを見渡す。

 起きたら全方位海色の空間の中に居て、アークスのエースに背負われてて師匠と謎の少年に囲まれていたリィンの心境は如何に。

 

 混乱する頭をどうにか回転させて、とりあえず背から降ろして貰って、一言。

 

 ここ何処ですか、と。

 口を開こうとした瞬間、リィンの視界に海色の渦に捕らわれたシズクの姿が目に入った。

 

「シズクっ!」

「おっと」

 

 駆け出そうとして、サラとリンに抑えられた。

 この二人に相手では、流石のリィンも突破は容易ではない。

 

「……っ! 離して、くださいっ!」

「落ち着け、シズクは眠ってるだけだ。私たちに害意は無い」

「ほんっとシズクが絡むと見境無くなるわねあんた……安心なさい、これは必要なことなの」

「必要? 一体何のためにこんなことを……!」

「君のお姉さんを生き返らせるためだよ、リィン・アークライトさん」

 

 不意に聞き覚えの無い声で名前を呼ばれて、そちらに視線を向ける。

 

 シャオとリィンの、目が合った。

 シズクより少し濃い色の、海色の瞳。

 

「……あなた、誰?」

「初めましてだね、僕はシャオ。遠慮なく呼び捨てにしてもらって構わないよ」

「シャオ……? えっと、あの、『リン』さんたちの知り合いですか?」

「ああ」

 

 頷く『リン』を見て、リィンは少しシャオへの警戒レベルを引き下げたようだ。

 

 真っ直ぐにこちらを見つめてくるシャオの視線から逃れるようにリィンは目を逸らし、ゆっくりと口を開いた。

 

「……姉を、生き返らせると言いましたか?」

「そんな畏まった口調じゃなくていいよ」

「質問に答えて」

「ああ、言ったとも。……そんなこと出来る訳無いじゃないとでも言いたげな目だね、まあ当然か」

 

 苦笑しながら、シャオはシズクの方へと視線を移す。

 

「でも出来るのさ。……時間が無いから細かい説明をしないけど、『リン』と、そしてシズクが居ればね」

「……?」

 

 首を傾げるリィン。意味が分からなくて当然だろう。

 

 時間を遡り、歴史を改変して姉を生かすなんて常識では考えられない荒業なのだから。

 

 荒業というより――神業か。

 

「シズクが居ればって……何それ、アナタはシズクが『何』なのか知ってるの?」

「知ってるよ」

「!?」

 

 こともなさげにシャオは言った。

 あっさりと、シズクが、『全知』が十四年間追い求めても知ることの出来なかった真実を。

 

 知っている、と。

 

「関係者だからね……いや、関係者というより血縁者か。少なくとも僕は、生まれたときからシズクのことを知っていた」

「け、血縁……? な、何を言ってるの……!? 貴方は一体……シズクの『何』なの……!?」

 

 その問いにシャオは。

 

 ゆっくりとリィンの方に振り返りつつ、答えた。

 

「僕は――

 

 

 ――シズクの『叔父』だ」

 

 

 叔父。

 母親の、弟。

 

「正確には、『叔父のようなもの』だけどね。僕は……シオンの『弟のようなもの』だから」

「叔父? 叔父って……叔父!? ちょっと待って、理解が、理解が追いついてなくて……」

「そして――」

「シャオ」

 

 気付けば、そのヒトはそこに居た。

 シャオの隣に、シズクの前に立つように、本当にいつの間にかそこに居た。

 

 白衣に眼鏡。

 一見黒髪の眼鏡美人といった風貌だが人間離れした海のような手足を持っている。

 

 シズクと同じ――海色の瞳の女性。

 

「準備が出来た。あまり余計なことは喋るな」

「シオン、久しぶり。……別に余計なことではないと思うけどね……」

「シオン……?」

 

 待って。

 さっきシャオは、何と言った。

 

 『僕はシオンの弟のようなものだから』。

 そうだ、シオンの弟だと確かに言った。

 

 そして、シャオがシズクの叔父だということは。

 

「アナタが――シズクのお母さん?」

「そう、シズクは彼女の――シオンの『娘』だ」

 

 その疑問には、シオンではなく、シャオが答えた。

 

 はっきりと断言してくれた。

 シオンの『娘のようなもの』ではなく――『娘』と。

 

「やめてくれシャオ。私に、彼女の母親を名乗る資格などありはしない」

 

 そう言って、シオンは手の平に青く光る何かを浮かび上げた。

 

 そしてそれを『リン』へと託し、一言。

 

「新しいマターボードだ。小さいが、ライトフロウ・アークライトを助けるだけならそれで充分だろう」

 

 それだけ言って、シオンの姿は掻き消えた。

 いや、此処はシオンの中なのだから姿が消えただけでまだ『そこに居る』のだろうが、そんなことを知らないリィンは焦りながら叫ぶ。

 

「ま、待って! まだ話は……!」

「終わってないけど、タイムリミットが近いんだ」

 

 がしり、と『リン』はリィンの腕を片手で掴んだ。

 もう片方の手には、マターボード。

 

 歴史を改変する力を持つチートアイテムだ。

 

「ライトフロウ・アークライトを助けに行く。一緒に過去まで跳ぶぞ、シャオ曰くあいつを助けるにはお前の力が必要らしいんだ」

「え、わ、わっ!?」

 

 ぐにゃりと空間が歪んでいく。

 マターボードを起点に、時空を越えるために。

 

「……ところで他人を巻き込んだ時間遡行って可能なの?」

 

 サラが、このタイミングで今更な疑問をシャオにぶつけた。

 

 しかしシャオはいつも通りの薄ら笑いで、その問いに答えを返す。

 

「普通無理だよ。でもまあ、リィンもリィンで特別性……ルーツにシオンがあるシオンの縁者だからね、多分可能なんじゃないかな」

「多分て」

 

 そのシャオの言葉はリィンには届かず。

 

 『リン』とリィンは、過去へと跳んでいったのであった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「……シズクが目を覚ませば全部おじゃんだと言ったけど」

 

 と、シャオは海色の空間の中で呟く。

 

 サラは別件の用事があるため帰らせた。

 シオンの核であるこの場に居るのは、シャオと、眠るシズクだけである。

 

「実はそうでもないんだよね……この場所ならルーサーにバレる心配はない。誰にも邪魔されず……母娘(おやこ)の語らいをしてもいいんだよ?」

「…………何度も言うが」

 

 姿は無く、声だけが空間内に響く。

 

 シオンの無機質で人間味を感じさせない声が。

 

「私にその子の母親を名乗る資格など無い」

「……生まれたばかりの僕だったら、同意見だったかもしれないけど、今はそんなこと無いと言えるよ」

「ほう?」

「どうだいシオン。寝ている娘の頭を撫でてみなよ、そうしたら僕の言いたいことも分かるかもしれないよ?」

「随分と、人間に近くなったな、シャオ」

「駄目だった?」

「いや、想定外だが――悪くない」

 

 そっか、とシャオは笑った。

 シオンは多分、笑っていないけど。

 

「もうすぐ私は消えてしま」

「させないよ」

「……言葉を遮るな。私が消えれば、シズクの能力(ちから)は大半が失われてしまう。ちょっと変わっている程度の、普通の人間に成るだろう……その時に、母親が人外だったという記憶(こと)なんて、彼女の人間でありたいという望みを遮るものにしかならない」

「シズクは、母親に会いたいという望みも持っているのに?」

「それは人間になりたいという根本の望みから漏れ出たものだろう? 自分が人間であることを知ればその望みだって消える筈だ」

 

 そんなことは無いと思うのだけれど。

 

 そう思うシャオだったが、言葉には出さない。

 人間の感情を学び、理解しているとされるシャオと違って、『観測者』として完成されているシオンに自身の意図は伝わらないことは、同族故によく分かる――。

 

 シャオはため息を一つ吐いて、立ち上がった。

 

「分かった。分かったよシオン、今日のところは引き下がる」

「そうか……だがおそらく二度と会うことは無いだろう」

「そうかもね。でもシズクとはもう一度会ってもらうよ」

「……?」

 

 シャオの右手から、海色の光が一条放たれた。

 それはシオンの海に混じり、解け、消えていく。

 

暗号(メッセージ)を残しておくよ、後で読んでおいてね」

 

 それだけ言い残して、

 シャオはシズクと共に海色の空間から姿を消した。




『娘のようなもの』じゃなくて、『娘』――。




本当もうやっとここまで来たって感じです。
失敗も後悔も反省点も沢山あったけど、EP2も残り僅か。

シオンの娘によって、原作とは異なることになる『再誕の日』
……の前に次回、アークライト姉妹編最終回です。

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