1位:ダークファルス【百合】(理由:何やらかしても不思議じゃないから)
2位:カスラ(理由:シズクと相性いいから)
3位:シャオ(理由:シズクとほにゃららら)
剣戟が、交差する。
リィンと【
茜色の剣閃を、【百合】が放てばそれをリィンが受け流し、リィンが反撃を放てば【百合】はもう片方の手に持っている剣で受け止める。
二人の戦いは。
一見、互角の様相を見せていた。
「メリッタさん……メリッタさん?」
『…………はっ! は、はいぃ!? な、なんでしょうか!?』
そんな二人の戦いを、後方で援護しながらシズクはオペレーターへと通信を繋いだ。
オペレーターは、メリッタ。
気弱な性格と眼鏡っ子という属性が一部男性に好評な若手オペレーターだ。
今からシズクがする『要請』は、彼女には少し荷が思いかもしれないが、しょうがない。
(こういう相手には、はきはきとした口調で……)
「救援を要請します。できれば六芒均衡クラスのヒトを三人以上……できますか?」
『は、はい、救援ですね……六芒均衡を三人……三人!? そ、そんな無理ですよ! 皆さんダーカーの殲滅でとても持ち場を離れられる状況では……!』
「なんとかしてください」
『なんとかって言われましても~……え? は、はい! 今代わります!』
「……?」
通信の向こう側で、何やらごそごそという音が聞こえてくる。
誰か偉い人に代わってくれるのかな? っと待つこと数秒。
聞こえてきた声は、久々に聞く声だった。
『シズクさん、私です』
「……! カスラさん!?」
オペレータールームに、何故カスラさんが居るのか。
それは分からないが兎も角、助かった。これなら話が早い。
『単刀直入に言います。今動ける六芒均衡は可能な限り急いでそちらに救援へと向かうよう動き出しています』
「!」
『到着まで、おそらくあと五分ほど。それまで何とかダークファルス【百合】をその場に留めておいて欲しいのです』
五分。
それくらいならば容易な仕事だと言えよう。
それで六芒均衡が来てくれるのなら、願ってもいないことだ。
でも何故こんな指令を出すために、わざわざカスラさんがオペレータールームに?
『お願いします。ダークファルス【百合】はさっきまで各塔をゲリラ的に強襲し、六芒均衡を初めとした強者が立ち塞がるたびに逃亡を繰り返しています。最早放っておける存在ではありません、ここで討伐すべきと上層部が判断しました』
「……だから、気紛れでも何でも一箇所に留まっていてくれている今がチャンスってことですね?」
『流石に物分りがいいですね……私もすぐそちらに向かいます。どうにか五分、耐え切ってください』
「了解です。ちなみに一つばかり訊きたい事があるのですが……」
『……はい?』
「その”上層部”って、”あいつ”のことですか?」
『…………貴方は本当に、察しが良すぎる』
そして、通信は切れた。
”あいつ”――ルーサー。
マリアさんやサラさんたちの、敵。
そして同時に、ダークファルス【百合】を強く恨んでいるようだ。
(……まあ)
(あんなことがあれば当然かもしれないけど)
『全知』で【百合】のことを調べていた時に見た、【百合】がルーサーとテオドールをワンパンで吹き飛ばす映像を思い出しながら、シズクは割いていた意識を【百合】とリィンの方へと戻――そうとした。
その時、シズクに声をかける人物が一人。
「おい、シズク……」
「あ、ヤっくん。凄いね、あの剣の雨から生き残るなんて」
「生き残るだけでなく、塔まで守り抜いたやつに言われると嫌味にしか聞こえないな……」
声の主は、ヒキトゥーテ・ヤクだった。
身体中のいたるところに剣が突き刺さっていたが、レスタか何かで回復はした後なのか、命に別状は無さそうだ。
「……俺はどうすればいい? リィンの援護か? いや、先に他の動けるやつをムーンアトマイザーで蘇生すべきか?」
「うば、特に何もしなくて…………いや、そうね、此処に居て」
「……?」
「あたしの隣に居て頂戴。ほら、えーっと、シフデバを絶やさないように」
「……それだけでいいのか?」
うん、とシズクは頷く。
そしてリィンの方を指差した。
「ほら見て、リィンと【百合】の戦いを」
「……見てといわれても……流石だな、ダークファルス相手に互角に戦えている」
「そう見えるでしょう? あれはダークファルスが手加減しているからだよ」
「手加減? …………そういえばさっき【百合】とリィン・アークライトには交流があるみたいなことを言っていたな……まさか……!」
「いやいやいやいや、それは関係ないよ。全然関係ない、【百合】が手加減しているのは一重に……」
首を横に振って、シズクは答える。
リィンがダークファルス相手だろうと戦えている理由は二つ。
その内の一つはシズクの自重しないチート能力。
そしてもう一つは……。
「リィンが美少女だから」
「………………は?」
「ふざけて言っているわけじゃあないよ。ダークファルス【百合】は、これまでの戦績から見ても明らかに女の子相手には手を抜いているの」
それは、おそらく確定事項。
今までの戦いで、男に致命傷は与えてることはあっても女性は比較的優しく倒しているし、ライトフロウ・アークライトが交戦したときも明らかに彼女は本気ではなかった。
「成る程……つまり、男である俺が加勢しようものなら……」
「うば。本気を出してしまうって可能性があるの」
この説明で、一応納得してくれたようで、とりあえずとヒキトゥーテはシズクにシフタとデバンドをかけ始めた。
赤色と青色の粒子に包まれながら、シズクは思考する。
(でも……)
(油断しているうちにーっとか、そういう風に欲出して無理に攻めるのは良くない)
ダークファルス【百合】。
彼女の最も恐ろしいところは、剣を無限に生み出し操るという能力
脅威なのは、その耐久力と生命力。
身体を真っ二つにされようと、数瞬先には全回復するという意味不明な再生スピードを知ったとき、シズクは静かに悟ったのだ。
このダークファルスと
リィンの防御面は兎も角、シズクの攻撃は隙を突いたり弱点を狙ったりするのが主なダメージ源であり、圧倒的なフォトンで相手を消し炭にしたりはできない。
おそらく、【百合】を倒すには……一瞬で、塵も残さず、存在ごと消し去るような火力が必要になってくる。
(そんな火力、あたしには出せない……だから、勝てない)
(というか、そんなことができる攻撃なんて……アークス全体でも限られているし)
六芒均衡マリアの持つ
一撃に全フォトンを込め、圧倒的な重力で敵を押し潰すことができる代わりに一撃放てばほぼ確実に壊れるという超破壊力特化創世器。
または、六芒均衡クラリスクレイスの持つ
あれ自体は滅茶苦茶高性能なロッドであり、ラビュリスのような一撃は放てないものの、使用者であるクラリスクレイスが持つ圧倒的なフォトン量を考えれば【百合】を燃やし尽くすことだって出来るかもしれない。
けど。
ラビュリスは確か今修理中であり、
クラリスクレイスはまだ幼く、色々と不安定&際立っているのは火力だけなので戦闘力に不安がある。
(だから……多分)
(あれしかない、【百合】を倒すには、あれを使ってもらうしかない)
六芒均衡レギアスの持つ、創世器。
(【百合】を倒すには……それしかない)
そうして、シズクは銃を構え直した。
五分間、【百合】の猛攻を凌ぐために。
*****
フォトンにはヒトとヒトを『繋げる』力があるということを知っているだろうか。
これはあまり知られていないのだが、フォトンには単純にエネルギーとして使用する以外に沢山の使い道があり、ヒトとヒトを繋ぐというこの性質はその中の一つである。
『エーテル』と呼ばれる、その性質がより強くなったフォトンの親戚みたいなエネルギーがとある異世界に存在するのだが――それは置いておいて。
兎も角。
シズクとリィンは、フォトンによって『繋がっていた』。
それが偶発的なものなのか、運命的なものなのか。
分からないが、シズクが自身の能力を最大限に生かすためにリィンとの『繋がり』をフォトンで作ろうと思ったら、既に出来ていたのだ。
まあ、結果オーライということで、シズクは『連携特化』を強化するためそれを利用した能力を一つ開発した。
それこそが三つあるチート能力の内一つ。
『
(……見える)
海色の瞳を光らせながら、
そして。
【百合】が
(見える……! 私にも、未来が……!)
同調。
視界、同調。
フォトンによる繋がりを利用して、シズクの見ている未来をリィンにも見せるという荒業である。
「くっ……この、また……!」
「…………」
この『同調』と、【百合】の手加減。
それこそが、一般アークスの域を出ないリィンとダークファルスである【百合】が一見互角に切り結べている理由だと、シズクは憶測している。
が。
実のところ、シズクのその憶測は少し間違っていた。
(不思議……)
(この子とどこかで、戦ったことがあるような……?)
実際は、互角ではなくリィンが優勢。
そして、【百合】は手加減をとっくにやめていて、
全力だった。
全力で戦って、それでも尚リィンのほうが優勢だった。
「ねえ」
「ぐえっ! っ……な、何よ」
フルスイングの一撃を軽くいなし、蹴りで【百合】の腹を蹴って少しだけ距離を離した後、リィンは口を開く。
戦闘中に敵と会話するのは趣味ではないが、どうしても気になったことがあるのだ。
「アナタのその剣技、誰に習ったの?」
「うばぁ? 何その質問、特に習ったりしてないよ」
「そう……」
その割には、【百合】の剣技はやけに堂に入っている。
まるで誰かに習ったように、というか……アークライト家が習う剣技に近いというか……。
いや、それよりも。
リィン・アークライトの剣技に近い。
アークライトとして教えられた剣技を、守りよりにアレンジした、
『後ろにいる誰かを守るための剣技』だ。
だから当然、後ろに誰かがいなければ真価は発揮できない。
つまり、リィンの後ろにはシズクが居て【百合】の後ろには誰もいない今。
剣技でリィンが負ける道理はない。
「――エイミングショット」
「っ!?」
リィンの背後から、弾丸が一発【百合】に向かって飛来した。
フォトンを纏った弾丸は、防御力がアホほど高い【百合】への有効打にはなりえないが……それでも顔面に食らえば怯むぐらいはするのだ。
「このっ、お喋りするふりして攻撃するとか汚い流石アークス汚い!」
「ノヴァストライク!」
「うわっとぉ!」
リィンの攻撃を、【百合】は大きく上体を反らすことによって避けた。
ほらやっぱり、とリィンは自身の考えを確認するように頷く。
あれだけの防御力と回復力を持っているのに、リィンの攻撃を避けようとするなんておかしいのだ。
リィンがカタナではなくソードを使っている理由のひとつに、相手から攻撃が見えやすくて、だからこそ相手は条件反射的に
どんな攻撃だろうと、避けたり防御するのは彼女にとって無駄行動の筈だ。
自身の損壊なんて気にせずにごり押すのが、【百合】の最適行動。
なのにこうして回避行動や防御をしてしまう理由は、おそらくただ一つ。
身体に染み込んでしまった、経験。
ダークファルスになる前、圧倒的な防御力を持つ前の経験が反射的に防御や回避を行ってしまっているのだろう。
(シズクにこれを話せば、もしかして【百合】の素性を明かすことだってできるかもしれない)
(でも、なんていうか、その……アークライトっぽい剣技をダークファルスが使ってるとか流石に言い辛いわ……)
あ、もしかして『同調』してるとこういう考えもシズクに伝わったちゃうのかしら、と。
ちょっと心配しながらリィンは海色に光っているであろう自身の左目付近を軽く撫でた。
「このっ……!」
【百合】が手を振り上げる。
それと同時に、リィンへと照準を合わせた茜色の剣が姿を現した。
悪手、である。
盾として出現させた剣以外は、待機中は簡単な攻撃でも弾かれて無効化されてしまう。
弾かれる前に射出すればいいのだが、未来の見えるシズクとリィン相手にそれは不可能だ。
事実、【百合】の出した剣は出現した瞬間にシズクの銃弾で弾かれた。
そしてその隙を逃さず、リィンが追撃の一閃を放つ。
「っ、成る程ね。連携特化、か……」
「…………」
「……萌える!」
キラン、と目を光らせて、【百合】は笑った。
余裕の表情だ。
当たり前といえば当たり前なのだが、【百合】にとって今やっている勝負は余興というか遊びみたいなもの。
ゲームで苦戦して、本気で焦るやつがいるものか。
特に全力を尽くして戦っているのに、尚苦戦を強いられるゲームなんて楽しくて仕方ないだろう。
攻略しがいがあるというものだ。
「これはまず、シズクちゃんを倒せばいいとみた!」
「!」
防御特化のリィンを倒すには時間が掛かる。
ならばワンパンで倒せそうなシズクを狙おう、というごく平凡なアイデアだ。
平凡と言っても、成し遂げればまず間違いなくリィンは勝ち目を無くすアイデアである。
「と、いうわけで……」
「……っと!」
「抜けさせてもらうよ! うばー!」
【百合】は突然、両手に持っていた剣をリィンに向けてぶん投げた。
それと同時に、リィンの横を抜けるように走り出す。
目晦ましからのダッシュ。単純だが、【百合】は生半可な攻撃では止まらないから彼女の走りを止めるのは至難の技だ。
「うっばっばっば! シズクちゃんのお命、貰ったー! いや命まで取る気はあんまなうヴぁー!?」
が、【百合】は止まった。
止まらざるを得なかった。
何故なら、リィンの指が、人差し指と中指が、
彼女の両目に、突き刺さったからだ。
「……流石に、両目潰されたら怯むみたいね」
「痛い痛い痛い痛い! 他人の両目潰すことに抵抗のない美少女とか斬新すぎるでしょ! 流石に萌えないわ! あ、でもドM的には若干アリなので今度アプちゃんに頼んでみ――!」
両目潰されながらも平常運転な【百合】の頭上から、サテライトカノンの光が降り注いだ。
シズクの射撃である。
これなら多少ダメージが通ることは、確認済みだ。
「あっづい! ちょっと待ってタンマ! タンマ!」
「リィン! あと三分くらい耐えればいい筈だから時間稼ぎに拘束して!」
「了解」
言って、リィンはソードを背に仕舞った。
拘束するなら、素手の方が都合がいい。特に【百合】のような人型相手なら。
「な、何……?」
「もう目が回復しているのね、大したものだわ」
【百合】の手首を、リィンが掴んだ。
ダークファルスは、人型形態を取っている限り身体の構造はヒトと変わらない。
故に関節技や人体の反射を利用した格闘術は、有効である。
「いっ……!?」
「再生力に自信があるようだけど、これならどうかしら?」
右腕を捻り上げる。
そしてテコの原理を利用し、【百合】の
「がっ……あぁあああああああああ!?」
「外れた関節は、自然治癒しないでしょう? こういうダメージでも瞬時に回復できるの?」
言いながら、リィンはもう一本の腕も脱臼させてやろうと再び手首を掴んだ。
関節外し。
正義の味方が使っていい技ではないが、アークスは別に正義の味方ではなくダーカーの敵であるだけなのでその辺の倫理観は持ち合わせていないのだ。
というかむしろ、ダーカーを殲滅するためならわりと何でもする組織だったりするのである。
「……とは言ってもこんな美少女の関節を外すことに抵抗無いの?! しかもほら! あたしたち砂浜で一緒にお城作った仲じゃん!?」
「自分で美少女って言うのね……いやまあ、抵抗無いことは無いけど……ほら、私にも立場とかあるし」
アークスにとってダークファルスは絶対的な敵。
アークスに所属している身としては、ダークファルス相手に手加減とか出来ないし出来るわけ無い。
「悪いわね、両腕、貰うわよ」
「ぐっ……! あんまし、舐めないでよ……!」
【百合】は、体を大きく捻った。
それだけの動作でリィンの手が【百合】の左手首から外れることは無い、が。
目的はそれではなく、右腕。
脱臼した右腕を、無理やりにでも動かすための動作だ。
痛みに脂汗を滲ませながら、右手をどうにかしてリィンの身体に触れさせる。
そして――。
「"
無数の剣が、リィンの内部から突き出した。
かつて採掘基地場の塔を一撃で沈めた、あの技である。
手で触れている物質の内部に剣を生成し、内部から破壊するこの技は。
当然、人体にも有効だ。
「――――っ」
ごぽり、とリィンの口や節々から血が吹き出て、【百合】の手首を握っていた手の力も抜けていく。
正直、殺す気は無かった。
なのにごめん、と心の中で謝りながら、前を向く。
次は、シズクだ。
彼女はアサルトライフルをこっちに向けて、フォトンをチャージしている様子だったけど、もう遅い。
チャージが終わる前にシズクを倒せるし、もし撃たれたとしても悠々と回避できる。
勝った。
そう、【百合】が確信した瞬間だった。
「――――――――『アイアンウィル』」
何者かが、【百合】の腕を掴んだ。
脱臼した方の腕だったので、思わず痛みで足が止まる。
一体誰が、と振り返ったそこには――青髪の美少女。
リィン・アークライトが血塗れながらも立っていた。
「リィ――」
「エンドアトラクト」
そして。
シズクの持つ銃から放たれた巨大なフォトンの弾丸――エンドアトラクトが、
ダークファルス【百合】に、直撃した。
相変わらず人型相手にはくっそ強いリィンさん。
未来が見えるようになっちゃったから対人近接格闘戦では多分無敵です。
某アイドルさんよりよっぽどか始末屋向いてそうだなぁと思ったり。