AKABAKO   作:万年レート1000

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アッシュは犠牲になったのだ……。
作者のクーナ→『アナタ』←マトイの百合三角関係が書きたいという欲望……その犠牲にな……。


市街地緊急

「やべぇ! もう緊急クエスト始まってるじゃん!」

 

 緊急クエストが始まったことで、閑散としたアークスシップ・ゲートエリアに若い男の声が響いた。

 

 男は駆け足でクエストカウンターに向かうと、レベッカにクエスト参加の意を伝える。

 

「もー、『アフィン』さん。突然だったとはいえ緊急任務なんですからもっと早く来てくださいね」

「す、すいません……! 急いで行きま――むぐ」

 

 受注が完了し、急いでキャンプシップに乗り込もうとアフィンが振り向くと、背後にいたアークスの女性にぶつかってしまった。

 アフィンより頭一つ分背の高い人だ。

 つまり正面衝突した場合アフィンの顔面がその女性の胸に埋まった形になるわけで……。

 

「ご、ごめんなさい! 急いでたんです!」

 

 顔を真っ赤にしながら急いで後ずさるアフィン。

 しかしすぐ後ろにはクエストカウンターがあるので、勢い付けて後退したアフィンの背はカウンターの角に打ちつけられた。

 

 柔らかさの後にきた唐突な痛みに思わずアフィンは変な声を漏らしながら床に転がる。

 

 その様子に、女性はくすりと笑った。

 

「アフィン、私だよ」

「いてて……ん? あ、相棒だったのか」

 

 アフィンは、顔見知りだったことにほっと胸をなでおろす。

 

 相棒、と呼ばれたその女性は倒れたアフィンに手を伸ばし、立つように促した。

 アフィンはその手を躊躇い無く取ると、笑いながらもう一度「ごめんな」と謝った。

 

「相棒も緊急クエストに出遅れたのか? 丁度いいや、一緒に行かないか?」

「勿論いいわよ。……でも」

 

 スペースゲートに向かおうとしたアフィンの肩に、女性は左手を置いた。

 

 その表情は笑顔だ。

 怖くなるほど、冷たい笑顔。

 

「胸に顔突っ込んだ落とし前は、付けて貰うわよ?」

「……な、何をすれば……」

「一週間女装して過ごすか、一週間ぬれバスタオルMだけ着て過ごすか好きな方を選びなさい」

「どちらにせよ社会的に死ぬじゃねーか!」

 

 クエスト終わるまでに考えときなさいよ、と笑って女性はさっさとスペースゲートをくぐってキャンプシップに行ってしまった。

 

 土下座すれば許して貰えるだろうか、なんて考えながら、アフィンは重い足取りでキャンプシップに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 アークスシップというのは、実は複数存在する。

 とはいってもそれはそうだろう、あくまで船という形である以上乗員数には限界がある。

 

 数兆数億に膨れ上がった人口を支えるために、複数のシップを作るのは当然といえるだろう。

 

 そして、今回ダーカーの襲撃にあったアークスシップの名前は、第二十七番艦『リリィ』。

 アークスの絶対数は少なく、市街地部分が大半を占める一般人の住まう船だ。

 

 当然そんな防護の薄い船が襲撃に対する対策を怠っているわけがなく、市民でも使える防護装置、いざとなれば身を隠せるシェルター完備。

 さらにはアークスの多いシップとの距離が近く、救援にもすぐに向かえるようになっているのだ。

 

「市街地で戦うのは……初めてだね」

「そうね」

 

 そんな市街地が多い船での討伐作戦ということで、当然シズクとリィンの二人は市街地に降り立った。

 

 見慣れた光景である筈の市街地は、平和時とは打って変わって騒がしく、そして悲惨だった。

 

 ビルは倒壊し、家の壁は穴だらけ、店は全て閉まり道路もとてもじゃないが車を走らせられるような状態ではなさそうだ。

 

「酷い状態ね……」

「もう皆戦っているよ、あたしたちも急ごう」

 

 耳を澄ませれば、あちこちで戦いの音が聞こえてくる。

 銃撃音、悲鳴、咆哮、爆発と音のバリエーションは豊かだが、それらはすべて戦いによって生じているものだろう。

 

 普段は車道として使われているであろう道を駆ける。

 目指すは、戦闘の音が聞こえてくる場所だ。そこで他のアークスと合流するのが一先ずの目標だろう。

 

「……っと」

「うわ……」

 

 と、まあしかしそう上手くいかないのが世の中というものである。

 

 二人の行く手を阻むように、大量のダーカーが地面から這うように沸き出てきたのだ。

 

 その数、ダガン七匹にカルターゴ五匹、加えて見たことのないカマキリのようなダーカーが二匹。

 普段の任務ではとても出会わないような大群だ。

 

「シズク……私が前に出るから後方支援お願い」

「おっけー……いつものだね」

 

 ソードを構えて、リィンは前に出た。

 同時に蜘蛛型ダーカーのダガンが先陣をきって突撃を仕掛けてくる。

 

「はぁああああ!」

 

 アルバギガッシュを横一閃に振る。

 フォトンの刃は青い剣閃を描いてダガンを真っ二つに切り裂いた。

 

「……へぇ」

 

 続けて剣を振るいながら、リィンはにやりと笑った。

 

 切れ味、強度、威力。

 全てが上がっている。成る程、これが最大強化の成果か。

 

 ダガンを五匹ほど倒したところで、リィンはちらりと見たことないカマキリ型ダーカーに目をやった。

 

 さっきからじりじりと近寄ってくるばかりで、特に何かしてくるわけでもない。

 見た感じ明らかに戦闘タイプのダーカーなんだけどなぁ、と思いながら剣を振るう。

 

 次の瞬間、カマキリのようなダーカーは消え去った。

 

「……え?」

「リィ――!」

 

 シズクが、リィン後ろ! と叫ぼうとした。

 その瞬間、シズクの眼の前にも黒い刃が迫る。

 

 何が起こったのか?

 説明するのは簡単である。カマキリ型ダーカーが瞬間移動をしてそれぞれリィンの背後、シズクの眼の前に突然現れ出ただけである。

 

 『プレディカーダ』。

 後に彼女等が名を知ることになるこのダーカーの最大の特徴は瞬間移動。

 

 鋭い鎌のような腕を瞬間移動と共に振るい、多くのアークスを葬ってきたダーカーの精鋭である。

 

 リィンは即座に振り返る――しかし遅い、もうすでに死神の鎌は振りあげられている。

 シズクは動けない――あまりに突然のことに、ただただ固まるだけである。

 

 鈍く光る黒鎌が、二人の首を――。

 

「――イル・グランツ」

「エルダーリベリオン――!」

 

 膨大な星の光弾が、

 鉄すら破砕する銃弾の雨が、

 

 鎌を振り下ろそうとしているプレディカーダの側面を削り取るように襲撃した。

 

「――な」

「うば!?」

 

 衝撃で吹き飛んだプレディカーダは無残な姿で宙を飛び、地面に激突。

 

 そのまま赤黒い霧となって消滅した。

 

「あっぶねぇー、あと数秒遅れてたらあの子ら首チョンパだったぜ」

「急に走り出すと思ったら……まあ、今回は良い方向に動いたのでよしとしましょう」

 

 あまりに突然の出来事に固まる二人に近づく影が二つ。

 

 明るい橙色の長髪をポニーテールにしている快活な女性と、艶やかな黒髪をした大和撫子な雰囲気の女性だ。

 

「やーあ少女たちよ、無事かい? 無事だろう? そりゃあそうさ、ウチらが助けたからな。いいよいいよ、許す、お礼の言葉を存分に言うがよい」

「何キャラよ」

「ぐびゃあ」

 

 ずびしっとツッコミを入れる黒髪女性。

 内臓を抉るように放たれたツッコミに、ポニーテールの方は思わず女子にあるまじき悲鳴をあげた。

 

「あ、あの、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

 その様子を見てようやく硬直の解けた二人は、顔を見合わせた後同時に頭を下げる。

 

「げほっ、え? ああ、気にするなよベイベー。人を助けるのはアークスとして当然のこと、お礼なんて要らないのサ……」

「アナタさっき凄い傲慢そうにお礼欲しがってたじゃないの」

 

 ポニテ女性の登頂部にチョップが炸裂した。

 夫婦漫才かな? とシズクとリィンの心が一つになったところで、ふとまだ残っていた筈のダーカーが消えていることに気づいた。

 

 首を傾げる二人。

 その様子を見て察したように、黒髪女性は口を開いた。

 

「この辺にいたダーカーなら倒しておいたわよ」

「ええ!?」

「い、いつの間に……」

「プレディカーダ倒す前にちょろっとね、低レベルなダーカーだったから余裕余裕」

「ぷれでぃかーだ?」

 

 リィンが疑問符を浮かべた。

 ちなみにシズクはさっきのカマキリ型ダーカーのことだろうなぁ、と察している。

 

「ああ、さっきのカマキリ型ダーカーのことだよ、プレディカーダを知らないってことは新米かな?」

 

 ポニテの質問に頷くリィンとシズク。

 その瞬間、ポニテ女性の目がキラリと輝いた。

 

「ちょ、アーヤ聞いた!? 後輩だよ後輩! ついにウチらにも後輩ができたんだよ!」

「聞いていたわよメーコ、後輩が出来て嬉しいのは分かるけど落ちつきなさい」

「これが落ち着いてられっかよ! こーはい! こーはい!」

「落ち着きなさい」

「げろしゃぶっ!」

 

 黒髪女性の拳がポニテ女性の腹にめり込んだ。

 俗に言う腹パンである。

 

「えっと、アナタたちの名前は?」

「あ、あたしはシズクです。こっちが……」

「リィンです」

「そう、シズクちゃんにリィンちゃんね。紹介が遅れて悪かったわね、私は『アヤ・サイジョウ』。こっちの頭悪そうなのは……」

「『メイ・コート』だよー!」

 

 良い角度で腹パンは決まった筈だが、何事も無かったかのようにポニテ女性ことメイは自身の名を告げた。

 

「復活早いわね」

「ふっふっふー、デッドラインオートメイト発動したからね!」

 

 デッドラインオートメイトとは、その名の通り死の淵(デッドライン)まで体力が削れた時、自働で回復アイテム(メイト)を使用するスキルのことだ。

 

 スキルとは何かという疑問については後日説明するとしよう。

 

(腹パンでデッドラインまで削れたのかこの人……)

(腹パンで瀕死……)

「わお、何だか後輩の視線が冷たいんだがアーヤなんかした?」

「メーコ、話が進まないから少し黙ってて。……コホン、えっとね、よかったらなんだけど私たちとパーティを組まない?」

「「パーティを?」」

 

 パーティというのは、ようするに一緒にクエストを受けるグループである。

 パーティを組んでいなくても戦闘区域で他のアークスに会うことはあり、共闘することもあるがパーティを組むとなるとただの共闘とは話が変わってくる。

 

 何せ、クエストの成功失敗判定はパーティ単位で行っているのだ。

 弱いアークスでも、強い人と同じパーティに入っていればどんな難しいクエストでもクリアできるという仕様だ。

 

 だが、それは逆に言えば強い人からしたら弱い人とパーティを組むなど友達でもない限り御免だろう。

 なので基本的にパーティというのは実力の近い人たちで組むものだ。

 

 メイ・コートとアヤ・サイジョウは明らかにシズクやリィンよりも格上だ。

 自分たちとパーティを組む必要なんてあるのか? という疑念が二人の頭に浮かぶ。

 

「そ、……ああ、安心して頂戴。決して親切心で言っているわけじゃなくて、下心ありの発言だから」

「言い切りますね……下心とは?」

「それはまだ秘密」

 

 人差し指を立てて唇に当て、にっこりとほほ笑むアヤ。

 

 言う気は無いらしい。

 

「……どう思う、シズク」

「んー……まあ、下心に関しては八割方予想は付いてるから大丈夫じゃない?」

「シズクがそう言うなら……」

 

 シズクの察しの良さ、鋭さについては既にリィンはかなりの信頼を置いている。

 シズクが大丈夫というのなら大丈夫なのだろう、リィンはゆっくり頷いた。

 

「決まりね」

「よっろしくね! シズク! リィン! ウチのことはメイ先輩と呼ぶがよい!」

「はい、よろしくお願いします。メイ先輩、アヤ先輩」

「うばー、出来る限り足引っ張らないように頑張ります」

 

 アヤからパーティ招待のメールが飛んできたので、承認。

 パーティはアークスの規定で四人までと決まっているので、これで最大人数だ。

 

 メイ・コートとアヤ・サイジョウ。

 この先輩アークス達との出会いが二人のこれからに大きな影響を及ぼすことに、まだシズクですら気付いていないのであった。 




メイ・コートとアヤ・サイジョウ登場。
明るい子と冷静な子の百合いいよね……。

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