文章力ほすぃ……。
(しかしまあ、やっぱ
面接もどきを終えて、雑談タイム。
リィン、シズク、イズミ、ハルの新生【ARK×Drops】四人で卓を囲みながら少女特有のきゃっきゃうふふ恋バナを……勿論この四人はしたりしない。
恋愛に興味が無いことは無いが、それよりも冒険したいお年頃なのだ。
よって話の内容は大抵アークスあるあるだったり、先輩から後輩に対するアドバイスだったりである。
ユニットの強化は武器より遥かに楽だからしたほうがいいよ、とか。
モニカは可愛い顔して悪魔だから気をつけろ、とか。
近接職でも遠距離攻撃の手段は持っておいたほうがいいよ、とか。
初めてツインマシンガン使った時変なPA出ちゃったよね、とか。
そんな感じの雑談の最中。
リィンは、やっぱりそうだよね、と確認するように頷いた。
(シズク、イズミ、ハル。全員同い年だけど――)
(シズクの精神年齢だけ、ずば抜けて高い)
というより、高すぎる。
「うばー」という気の抜けた口癖に誤魔化されそうになるが、リィンよりも高いのは確かだろう。
これはもう、シズクはもうすぐ誕生日だけど、イズミとハルは誕生日を過ぎたばかりだから、とか。
数ヶ月多く、アークスとしての活動をしているから、とかそういう次元じゃあない。
これも、『能力』の影響なのだろうか。
むしろ恩恵と言える様な影響である。
――ここで、まあならいいか、と思考を打ち切ってしまうのがリィンがリィンたる所以であろう。
深く考えないのは、リィンの美点でもあり――欠点だ。
今ここで深く考えていれば、シズクの正体――とまでは言わずとも、その一片に近づけたかもしれないのに。
尤も、リィンが近づきたいかどうかは別としてだが。
「ところでさ――」
と、いうわけで。
そんな深く考えない少女、リィン・アークライトが。
深く考えずに、というかふと思ったことを口に出した言葉が、
以下である。
「イズミとハルって、どっちのが強いの?」
模擬戦くらいやったことあるでしょ? っと。
深く考えればどころか、ちょっと考えればどうなるか分かるような言葉を放ってしまうのであった。
*****
VR――
実際には無いものを、あたかも目の前の現実にあるように見せかける技術の総称である。
目の錯覚を利用して、擬似的に絵を浮かび上がらせる陳腐な物から、五感を人工的に誤認させて触感から味覚まで、完全なる仮想の何かを創造する物まで千差万別にあるそのジャンルの中で……、
アークスが持つVR技術は、間違いなく全宇宙の中でも最高峰に位置する一つだろう。
現実と変わりない仮想世界を構築し、現実と変わりないアバター体でその世界にダイブする。
集められた戦闘データから、好きなエネミーを仮想空間に再現し、好きなだけ戦うことができる。
しかもドロップアイテムも全て――とまではいかないが、ある程度を現実に持ち帰ることができるという、聞けば聞くほどどんな技術力だよとツッコミを入れざるを得ない超技術なのだ。
勿論アバター体が傷ついても現実の身体にはなんら影響はない――わけではないのが唯一の欠点だが、それだってアバターが死んでも現実の身体が死ぬわけではない程度のものだ。
それはつまり、仮想空間内ではアークス同士の本気戦闘だって可能ということである。
「デッドリーアーチャー!」
「甘い甘い! ダッキングブロウ!」
ダブルセイバーとナックルが、剣撃と拳撃が交差し合う。
どちらもまだ未熟な太刀筋であり、しかして同程度の実力同士ということもあって、勝負は長引きそうだ。
そう。
お察しの通り、イズミとハルが模擬戦の真っ最中である。
リィンの発言をトリガーとして、後は売り言葉に買い言葉。
あっという間に喧嘩が始まり、喧嘩するくらいなら模擬戦にしとけという先輩の言葉を受けて【ARK×Drops】の四人は戦闘訓練用のVR空間にやってきたのだ。
殺風景な、遮蔽物も無いもない平面のバトルフィールドで、後輩二人はバトル。
先輩二人は邪魔にならないように隅っこで観戦中だ。
「一時間経過……長引きすぎでしょ、どんだけ実力僅差なの」
「うばー、そうね。……実力差が近いのもあるけど、互いに互いの動きを完全に把握してるのも理由の一つだね」
「互いに対人メタを張りあってるってこと?」
「うん、しかも無意識にね」
お互いに、相手の癖や思考を知り尽くしている。
多分研修時代にずっと、喧嘩ばかりしていたのだろう。
戦闘研修は対人戦よりも対エネミーを想定したシミュレーションばかりだから、自主的に。
二人で何度も何度も何度も何度も、ことあるごとに衝突してきた。
その結果が、これか、と。
シズクは少し落胆するようにため息を吐いた。
「アクロエフェクト!」
イズミのダブルセイバーが、舞うように振るわれる。
二連撃の後、後退しながら切り上げを放つフォトンアーツだ。
しかしハルはそれを予測していたかのように身体を大きく傾けることで二連撃を避け、最後にサイドステップで切り上げも避けた。
あまりにも簡単そうに避けているから、一見凄そうに見えるが……これは単に、『アクロエフェクトを避けること』に慣れているだけである。
「デッドリー……アーチャー!」
身体を弓のように振り絞り、ダブルセイバーを高速回転させながら投げるフォトンアーツ。
アクロエフェクトの後退によって空いた距離を、詰めさせないための牽制だ。
ハルはその攻撃も予想していたかのように、イズミがデッドリーアーチャーを放つ前からそれを避ける動きを見せていた。
「ストレイト……!」
ハルの右手に、フォトンが集まっていく。
自身の僅か数cm左でヨーヨーのように高速回転しているデッドリーアーチャーを片目に、負けてたまるかと大きく足を踏み出した。
「チャージ!」
拳を前に突き出して、高速
デッドリーアーチャーの後隙を狙った、良い攻撃だ。
「アクロ、エフェクト!」
ダブルセイバーが手元に戻ってきたと同時に、イズミはもう一度アクロエフェクトを放った。
剣の切っ先で、器用に拳の力を逸らしながら、後退。
詰められた距離を空けるように、イズミはそのまま大きくバックステップで距離を取った。
「逃げんな! チキン!」
「戦略的撤退よ! この脳筋!」
さっきからずっと、この調子だ。
イズミは守りが得意で、ハルは攻めが得意。
……というわけでは、無い。
そうだったとしたら、幾分かマシだったろう。
イズミの使っている武器、ダブルセイバーは近中距離に対応可能な万能系の武器種だ。
そしてハルの使っている武器はナックル、超至近距離で拳によるラッシュをかける、近距離重視の武器だ。
当然、近距離での殴りあいはハルに分がある。
故にイズミはハルの射程距離から『アクロエフェクト』でひたすら逃げ、『デッドリーアーチャー』等の中距離攻撃でハルの体力を削るという戦法が身体に染みついてしまっただけだし、
ハルはハルでイズミの攻撃タイミングや呼吸、癖に慣れた結果、守りを最低限にしてひたすら突貫し攻撃するという玉砕スタイルが奇跡的なバランスで超攻撃スタイルとして成り立ってしまっているだけである。
「二人だけで競ってきた、弊害ってこと?」
「うばー……まあ、そうだね。でも欠点がハッキリ分かってるなら直すのも楽だし……悪くは無いかな」
言って、シズクは耳に手を当てて何かをぽつりと呟く。
それと同時に、戦闘中のハルが一瞬ちらりとシズクに目線を向けた。
ウィスパーチャットで、シズクが何かハルにアドバイスをあげたようだ。
彼女の攻撃の手が止まって、イズミからバックステップで距離を取った。
「……? 何のつもり?」
訝しがりながらも、イズミは距離を詰めるべく足を踏み出す。
ダブルセイバーが万能型の武器といえど、近距離職であるファイターの武器である。
遠距離での攻撃は、流石に不得手だ。
勿論それはナックルも同じなのだが、遠くから睨みあいなんてするつもりは無いとイズミは『デッドリーアーチャー』が最大の効果を発揮する距離まで詰めるべく駆けだして――。
――そしてそれに合わせるように、ハルはVR空間の床を砕かんばかりに強く蹴り、イズミに向かって駆け出した。
「な――!?」
当然、お互いに前進すれば距離は大きく詰まる。
イズミがハルの意図に気付いて減速しようとしても、もう遅い。
二人の距離は、最早肉薄と表現できるほど近づいていた。
「アクロエフェクト!」
即座にアクロエフェクトを発動して退避しようとしたのは、流石の一言だろう。
反応というより、反射。
リィンの防御技術とはまた違う、反復の末に身に
「おお……!」
ハルが、搾り出すような雄叫びをあげる。
シズクがハルに囁いたアドバイスは、要約すると二つ。
一つは、押して駄目なら引いてみろ。
そして、もう一つはアクロエフェクトに対する対処法。
『避けるなら、横にじゃなくて斜め前に』。
「――――っ!?」
「――もらったぁ!」
剣戟の隙間を縫うように、姿勢を低くし斜め前方へとハルは突っ込んだ。
ここまで踏み込まれれば、多少の後退など意味は無い。
二人の距離は完全にナックルの独壇場である超近距離になり、そしてさらにイズミはアクロエフェクトの後隙で硬直状態。
「スライドアッパー!」
ハルのアッパーが、完全にイズミの顎を捉えた。
勝負あり。
*****
「な、納得いかないわー!」
VR空間に、イズミの叫びが木霊した。
当然といえば当然なのだろう。
猪突猛進にしてノータリン。考え無しの脳筋であるハルが突然『後退』という彼女の辞書に載っていないであろう行動をした挙句、こちらの突撃に合わせて突撃するという単純ではあるがこれまたハルの辞書には載っていないに違いない『作戦』を使った。
そこまではまだいい。
だがしかしそれは、シズクの入れ知恵だというのだ。
イズミからしてみれば、贔屓にしか見えなくて当然だろう。
「ズルですズル! 再試合を要求します!」
「うばー、いやね、一時間は流石に長すぎよ。そりゃ横槍も入れたくなるわ」
「つ、次は一瞬で決めて見せます!」
「いや無理無理。だって二人の実力、ほんとに互角だもん」
「え!?」
驚きの声をあげたのは、何故かハルだった。
目を見開いて、掴みかからんばかりの勢いでシズクへと詰め寄る。
「どーしてですか! 今ボクが勝ったからボクの方が上だよ!」
「いやそれは……」
「今のはシズクさんのアドバイスのおかげでしょうが! 何処から来るのよその自信は!」
ああ……また喧嘩に発展しそうな流れになってきた。
本当に子供っぽい二人だ。
今までメイやアヤ、マリアにサラにゼノと、『大人』に囲まれてきたから余計にそう思う。
(いや……)
(あたしは同い年なんだけどさ……)
「まあまあ、喧嘩は無しにしましょうよ」
「うばー、そうだよ。これから一緒にやってく仲間なんだから、些細なことで喧嘩されちゃこっちが良い迷惑だわ」
「……むー」
「……はーい」
まあでも、二人は致命的なほどに仲が悪いわけではなさそうだ。
感覚的には、喧嘩友達といった感じなのだろか。そう称したら多分二人は怒るだろうけど、その言葉が一番しっくりくるように感じる。
「しかしまあ、面白いくらい二人の長所と短所がハッキリ分かるバトルだったわね……」
話題を変えるように、リィンは言う。
イズミの長所は攻撃を捌くのが上手く、僅かな隙でも攻撃に転じられる器用さ。
ハルの長所は絶え間ない攻撃を繰り出し、身軽なフットワークで翻弄する俊敏さ。
しかしイズミは後退癖があることから決定力、攻撃力に欠け、
ハルは攻撃パターンが単調で、避けることを考えないものだから戦略性、防御力に欠ける。
「うばうば、まさにそうだね。予定外のバトルだったけど、案外収穫はあった」
二人の戦闘は既に終了試験の時にある程度見ているけど、あの時は互いに互いの足を引っ張り合っていたため正確な実力は計れなかったのだ(それでも合格できている辺り、この子達のポテンシャルの高さを伺えるが)。
予定外の予想外だったが、二人の実力は知れた。
それを求められたわけでは無いし、師弟関係でもないんだから大きなお世話かもしれないが。
あえて、アドバイスをするのなら――。
「うばば、ハルは長所を伸ばすためにもっと色んなヒトとの戦闘経験を積んだ方がいいね。頭で考えるより、感じる方が得意でしょ?」
「ハルは短所をちょっとは補った方がいいんじゃない? ごり押しが通じない相手だっているんだから、戦略って程大げさなものじゃなくても、次の手を考えるってことくらいしたほうがいいと思うわ」
「え?」
「え?」
シズクとリィンの、意見が割れた。
思わず互いに顔を見合わせ、苦笑い。
気を取り直してもう一度、次はイズミへアドバイス。
「うば。イズミも長所を伸ばすべきだね。折角防御技術が上手いんだから、そっち方面を伸ばすべき。防御は最大の攻撃なんだからさ」
「イズミは短所を補うべきね。いくら守るのが上手くても、それで作り出した攻撃チャンスで相手を倒せなきゃジリ貧で押し切られちゃうわよ」
「は?」
「あ?」
またも、意見が割れた。
二人は再び視線を交わす――ただし、睨みあうといった表現が正しいといえるような形相で。
「…………」
「…………」
「……あ、あの? 先輩方?」
「え、ちょ、何この雰囲気」
唐突な展開に、流石の後輩たちも困り顔だ。
尚、シズクとリィンの意見が割れることは、実のところそう珍しいことではない。
そもそも根本的に正反対な性格をしているのだ。
一ヶ月前のような大喧嘩こそ珍しいものの、些細な意見の食い違いはあって当然。
いつものことである。
だから、今程度の意見割れで二人の仲が引き裂かれるわけもなく。
「……と、いう感じで」
と、さっきまでの形相が嘘のように晴れやかな笑顔を、シズクは後輩たちに向けた。
「些細なことで一々喧嘩されると、周りの人はすっげー迷惑なのでやめましょう」
「……え、あ」
「ぼ、ボクたちへの説教のために一芝居うったんですか……?」
即興だけどね、とシズクは頷く。
「意見がリィンと食い違ったから、丁度いいタイミングだし説教に利用してしまえって思っただけ」
「え、いや、相談も無しに?」
「いや、こう、アイコンタクトで」
ね? リィン? とシズクは相棒に視線を送る。
リィンは、事もなさげに頷いた。
仮にも連携特化を謳うコンビなのだ。
アイコンタクトくらいは、一ヶ月前修行が始まってから最初の三日で会得した。
まあ尤も、前衛後衛という戦形の都合上あまり使うことの無い技術なのだが……。
「……気持ち悪いくらい仲が良いですね」
「まあね」
あたしから見たら、貴方たちは気持ち良いくらい仲よさげだけどね――と。
シズクが言おうとした直後、VR空間に目覚まし時計のような音が響いた。
タイムアップである。
VR空間使用には時間制限があるのだ。
仮想空間といえども維持費用はかかるし、そもそもその仮想空間に潜るための機器は無限にあるわけではない。
故に、使用には時間制限が設定されているのであった。
「うば。もう時間か……これからどうする? カラオケでも行く?」
と、シズク。
「カラオケ! さんせー!」
と、ハル。
「カラオケ……私特に歌える曲無いけど行っていいのかな?」
と、リィン。
「私はそんな俗物的な遊技場に興味ありません。どうぞお三方で行ってください」
と、イズミ。
話題は一転して雑談モードだ。
眼鏡を指で押し上げ、カラオケなんてくだらないと一蹴したイズミを指で差しながら、ハルは侮蔑の笑みと共に言う。
「イズミは音痴だから行きたくないそうです」
「は!? 違うし音痴なんかじゃないし!」
「じゃあカラオケ来てボクと勝負してみる?」
「望むところよ!」
とまあ、やっぱりお前ら仲いいじゃねーか的な雑談をしつつ、一行はVR空間から退出した。
その後行ったカラオケ勝負については、まあ、
『レアドロ☆koi☆恋』を歌ったシズクがぶっちぎり過ぎて、他の三人の点差はほぼ誤差だったとだけ、記述しておこう。
小説書いてていつも思うんだけど、繋ぎの回を難なく書ける人すげぇ。