AKABAKO   作:万年レート1000

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冬木の聖杯(アンリ・マユ入り)に、フォトナーから異次元に追放された【深遠なる闇】が入っちゃって、《この世全ての悪》と【深遠なる闇】が交じり合った状態で行われることになった聖杯戦争にアークスが介入する感じのクロスオーバー二次創作誰か書いて。


私はいつか

「うば、ダーク・ラグネ出てきちゃったよ」

「わ。ほんとね」

 

 ナベリウス上空に待機中のキャンプシップ内。

 

 イズミとハルの動向を苦笑いでモニターしていたシズクとリィンが声をあげた。

 

 ロックベアすら倒したことが無い研修生にはきつい相手だろう。

 ダーク・ラグネを倒すために生まれてきたとか叫んでいたが、流石に大言壮語だろうし。

 

「出番ね。研修生には荷が重いでしょ」

「うっば、待って」

「?」

「この子たち、戦うつもりみたいよ」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 まず即座に、ハルが飛び出した。

 

 ダーク・ラグネに向かって、笑顔で。

 

「あーっはっはっはぁ! 本当に会えるとは思ってなかったぜダーク・ラグネェ! これ倒せば否が応でも試験は合格でしょ? やるっきゃねー!」

「……全く、恐怖心とか躊躇いとか無いのかしらこの子……」

 

 呟きながら、一瞬の躊躇いの後イズミも駆け出した。

 

 躊躇いなどせずに突貫するのがハルという少女であり、

 躊躇いはしても結果的に突貫するのがイズミという少女である。

 

「お、っらぁ!」

 

 およそ女子が発してはいけないような叫び声と共に、ハルはナックルでラグネの顔面に殴りつけた。

 

 悪手――である。

 ダーク・ラグネの弱点部位はそこではないし、ダウンを取るために攻撃を加える必要がある部位は脚だ。

 

 鈍い音が響いて、ダーク・ラグネの巨体が微かに揺れたが、それだけだった。

 

「硬っ!?」

「馬鹿ね……ダーク・ラグネは脚から崩すのよ」

 

 そう教科書に書いてあったわ、と。

 イズミは地を蹴りラグネの脚へと走り出す。

 

「キシャァアアアアア!」

 

 それに合わせるように、ラグネは左の爪撃を繰り出してきた。

 

 研いだナイフよりも鋭く硬い爪がイズミを襲う――しかし、流石にそんな単調な攻撃を喰らうわけにはいかなかった。

 

「ふっ――!」

 

 跳躍し、爪をかわす。

 ファイターの武器はこういうときガードできないのが不便なところだが、当たらなければどうということはない。

 

「デッドリー……!?」

 

 フォトンアーツをラグネの左前足目掛けて放とうとして、失敗した。

 

 爪を避けた直後、目の前にまた黒き爪が迫っていたのだ。

 

 流石にダーク・ラグネの爪ではなく、もっともっと小さい爪。

 しかしてそれはイズミの肉を切り裂くには十分な切れ味を持った――ダガンの爪だ。

 

「チッ……! 取り巻きが……!」

 

 うざそうに舌打ちし、撃ちかけたフォトンアーツを現れた雑魚(ダガン)に向けて放つ。

 

 デッドリーアーチャー。

 回転しながら投げられたダブルセイバーは、ダガンの装甲をがりがりがりと削り、怯ませることに成功したが……それでも一撃で倒すには至らなかった。

 

「キシャァアアアアアアア!」

 

 さっきより甲高い奇声を発しながら、ラグネは突如両爪を天に掲げた。

 

 威嚇行動、ではない。

 

(これは――!)

 

 イズミは授業でやった内容を思い出して、距離を取るべく後ろに跳んだ。

 

 これは、雷撃攻撃の予備動作だ。

 周囲にランダムで黒い雷の雨を降らせる、ラグネの特殊攻撃。

 

 注意深くラグネの行動を見ていれば、回避は充分可能な攻撃である。

 

 が。

 

「ぉおおおおおおお!」

「っ!?」

 

 注意深い、なんて言葉にはまるで縁が無い馬鹿が一人居た。

 

 ハルだ。ラグネの行動を威嚇だと考えてしまったのか――それとも単に考えるという行為ができないのか、いずれにせよ雄叫びを上げながら攻撃続行。

 

 ナックルを、相変わらず顔面に向けて振り下ろしていた。

 

「この、ノータリン!」

 

 駆ける。

 雷の予測落下地点を上手く避けながらだったので瞬時に、とは言えなくとも、とりあえずハルが雷に打たれてしまう前に、

 

 彼女の、背骨を折るくらいの勢いで蹴り飛ばした。

 

「がっ!?」

「……ぁ゛あ゛っ!」

 

 イズミの左腕に、黒い雷が掠ったものの、大したダメージではない。

 蹴った勢いのまま、イズミはハルと共にラグネの懐へと飛び込んだ。

 

 教科書に、『ダーク・ラグネの懐に飛び込めば雷撃攻撃は喰らわないが、新人のうちは中々勇気が出ないだろうから大きく距離を取って慎重に避けるのも手だ』、と書いてあったことを、脳裏で思い出しながら。

 

「痛ったいなぁ! 何してくれんだこんな時に!」

「……蹴れそうだなって思ったから蹴っただけよ」

「よーし、ぶん殴ってやるから頬を――」

 

 ダーク・ラグネの巨体が、突如浮いた。

 否――浮いたのではなく、その四本の強靭な四肢で跳躍したのだ。

 

 狙いは一つ。

 その巨体を利用した、矮躯なアークスを潰す単純明快なボディプレス。

 

 左腕の怪我に少し気を取られていたイズミより一瞬早くそのことに気付いたハルの行動も、また単純明快だった。

 

「――おらぁ!」

 

 イズミの右腕(・・)と襟首を掴んで、力任せにぶん投げる。

 投げられたイズミの身体は、ラグネのボディプレスの射程外まで飛んで行った。

 

「きゃっ!?」

 

 別に。

 助けたわけじゃなくてぶん投げれそうだったからぶん投げただけだ、と心の中で叫びながらハルは駆け出した。

 

 勿論ダーク・ラグネのボディプレスから逃れるためだ。

 "結果的に(・・・・)(強調)"嫌いな奴を助けてしまうという余分なことをして自分だけ死んだんじゃ笑い話にすらならない。

 

 だが、努力虚しく。

 その余分なことのせいで、ハルという若き才能は呆気なく潰されることに――――――

 

 

 

「――アナタたち、仲が良いのか悪いのかどっちなのよ」

 

 

 

 ――ならなかった。

 

 ラグネの体重がハルを押し潰しかけた瞬間、彼女の身体が浮いたのだ。

 

 浮いたというか、抱えられたというべきか。

 小脇に挟むようにして、青い髪の美女に――というかリィンに、

 

 抱きかかえられて、いともたやすくボディプレスの射程範囲から逃れたのだ。

 

「…………ふえ?」

「まあ、いいわ。……ええっと、救援に来たから、下がってなさい」

 

 抱えていたハルを丁寧に下ろして、リィンはダーク・ラグネの方に振り返る。

 

 よく見れば、ノーマル帯ではなくハード帯クラスのダーク・ラグネだ。

 最近こういう難易度詐欺多くない? と思いながら、リィンは背のアリスティンを構えた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 先輩……ですよね? 今は修了試験中ですから部外者は……」

「……え?」

 

 その言葉を受けて、リィンは視線をイズミに向ける。

 バックアップのこと、研修生は聞いていなかったようだ。

 

 試験に緊張感を持たせるためだろうか。

 さて、どう説明すべきなのか……。

 

「あ! 先輩後ろ!」

「ん?」

 

 突如ハルが、大きな声をあげた。

 視線は顎に手を当てて、何と言ったらいいか考えていたリィンの後ろ。

 

 ダーク・ラグネが、リィン目掛けて爪を振り上げていた。

 

「ああっと……『マッシブハンター』」

 

 マッシブハンター。

 そうスキル名を呟いた瞬間、リィンが青い光に包まれて――そして、ラグネの爪が直撃した。

 

「……――っと」

 

 完膚なきまでの直撃である。

 嫌な音が、森林に響き渡る。

 

「えーっと、……なんて説明したらいいいのかしら」

 

 しかし。

 リィンは、怪我一つ負っていなかった。

 

 というか怪我どころか、一歩もその場から動いてすらいない。

 

 まるで攻撃なんて、無かったかのように。

 

「……え?」

「……は?」

 

「……ま、シズクが来てから説明は任せればいいか」

 

 相変わらず、そんな無責任な発言をしてしまうコミュ障気味なリィンであった。

 仲良く大口を開けて驚くハルとイズミから視線を外して、再びラグネに向き直る。

 

「『ウォークライ』」

 

 赤い光が、リィンの身体から広がった。

 

 ウォークライ。

 エネミーの注意を自分に引きつけるハンターのスキルである。

 

 これによって、ダーク・ラグネと取り巻きのダガンの注目はリィンに集まった。

 

「キシャァアアアアアア!」

 

 蟲特有の甲高い雄叫びを上げながら、ラグネとダガンの群れは次々と爪を振るいだす。

 

 その爪を一切(・・)避けることなく、リィンは歩き出した。

 複数のダガンを連れながら、ラグネの懐――弱点であるコアの、真下へと。

 

「ゾンディール」

 

 ゾンディールは、電磁力フィールドを展開してその中心に敵を集めるテクニックだ。

 ダーク・ラグネ等の大型エネミーを動かすほどの力は無いが、ダガン程度なら容易に一箇所に集めることができる。

 

 そう。

 ダーク・ラグネの、弱点の真下に。

 

「シズク、あとは頼んだわよ」

 

 ダガンにボコスカ攻撃されながら、しかして全く気にした様子も無くリィンはソードを仕舞い――タリスを取り出した。

 

 アルバタリスというコモンタリスを、ハンターで持つことができるように軽くクラフトした代物だ。

 

 そのタリスの弾を、一つ上空へと投げる。

 

「ザン……」

「キシャァアアアアアアア!」

 

 雄叫びをあげたダーク・ラグネの身体から、黒い雷が全方向に放たれた。

 

 当然、真下にいるリィンは直撃を受けることになるのだが……そんなものまるで関係ないとばかりにリィンは怯むことなく再びテクニックのチャージを開始する。

 

「――バース!」

 

 ラグネの身長より高い空間に、風のフィールドが展開された。

 

 フィールド内で行われた攻撃に反応して、風の追撃を行う風属性のテクニックである。

 

 遥か上空に展開されたザンバースのフィールド。

 何でそんな意味の分からないことを――と首を傾げながら上空を見上げるイズミとハルの視線の先に、

 

 空から落ちてくる赤い髪をした少女の姿が、映った。

 

「サテライト――」

 

 遥か上空から降下する過程で、既にチャージを終えている。

 

 赤い髪の少女――シズクは、手に持ったヴィタライフルと呼ばれるアサルトライフルの銃口をラグネの弱点に向けた。

 

「カノン!」

 

 ザンバースの射程範囲に入った瞬間、引き金を引く。

 

 次の瞬間。

 極太のレーザービームが、雲を割ってラグネの弱点に降り注いだ。

 

 サテライトカノン。

 長いチャージ時間の後、極太のレーザーを上空から撃ち下ろすアサルトライフルの切り札的フォトンアーツである。

 

「――――――!?」

 

 ラグネが、声にならない悲鳴を上げる。

 

 超高火力のビームに弱点を貫かれ、さしものラグネも――否。

 ラグネだけではなく、その真下にいたダガンの身体すら貫かれて即死していた。

 

 まさしく一網打尽。

 最後の力を振り絞って立ち上がろうとしたラグネも、ザンバースの追撃が入りあえなく沈黙した。

 

「よし、ばっちり」

 

 ちゃっかりシズクのサテライトカノンをぎりぎりで避けていたリィンは、にこりと笑って空を見上げる。

 

 視線の先には、最高の相棒(パートナー)

 シズクが重力に従って落下してくる姿があった。

 

「リィンー!」

「シズクー! ナイスショットー!」

「それはいいけど受け止めてー!」

「……? ああ、そうだったわね」

 

 成層圏から落下するくらいでアークスが死ぬわけないじゃんと一瞬思ってしまったリィンだったが、今のシズクはきっと耐えられない。

 

 シズクの防御力は、現状一般人に等しいのだった。

 

 防御に使うフォトンを全て攻撃に回した、攻撃特化。

 攻撃に使うフォトンを殆ど防御に回した、防御特化。

 

 連携を前提にした、無茶苦茶なフォトン傾向――そう。

 二人は今、俗に言う『極振り』状態なのである。

 

「うばあああああああああ!」

「よっと」

 

 落ちてくるシズクに衝撃が行かないように、上手にキャッチ。

 お姫様抱っこのような形で、リィンはシズクを受け止めた。

 

「ふぅ……うばーやっぱ高所からのダイブは怖いわ。この連携は二度とやらん」

「良いアイデアだとは思ったんだけどねぇ……」

「あの……」

「うば?」

 

 リィンに降ろされながら、シズクは声をかけられた方に振り返る。

 

 そこには眼鏡の位置を直しながらこちらの様子を伺っているイズミと、

 なにやら『格好いいもの』を見るようなキラキラした瞳をしてリィンを見るハルの姿がそこにはあった。

 

「どういう、ことですか? 今は修了試験の真っ最中の筈なのですが……」

「うば。そういえば緊張感のためだとかで研修生には伝えてないんだっけ……えーっとね」

 

 そうして、シズクによる懇切丁寧な説明が始まった。

 

 よくもまあこんな丁寧に、かつ分かりやすく説明できるものだなとシズクの背後で感心するようにリィンは頷いて――ふと、ハルの視線に気がついた。

 

「……?」

 

「成る程……確かに最近ダーカーの動きも活発化してますし、納得の対策です。ヒルダさんに問い合わせても同じ答えが返ってきましたし……救援、感謝します」

「うばー、いいってことよ。仕事だし、試験頑張ってね」

 

 あっという間に、シズクはイズミを納得させたようだった。

 

 流石である。

 リィンではこう首尾良くいかなかっただろう。

 

「じゃ、リィン。キャンプシップ戻ろうか」

「え、あ、うん」

 

 頷いて、テレパイプを開く。

 また修了試験が終わるまで、この二人を見守る任務に戻るのだ。

 

「あ、あのさ!」

「?」

 

 テレパイプを起動しようとした瞬間、突如ハルが声をあげた。

 

 視線は変わらず、リィンを向いていて、キラキラと瞳は輝いている。

 

「何か用?」

「えと、その、もしかしてお姉さん……ライトフロウ・アークライトですか!?」

「……………………」

「ボク、ファンなんですよ! カタナだけじゃなくてソードやタリスも使うんですか!? こんなところで会えるなんて……よかったらサインとか――」

「……………………………………」

 

 いや、さあ。

 確かにあいつと私は外見似てるけどさぁ。

 

 それにしたってあの変態と間違えられるとかほんとやめてくれっていうかさぁ。

 

 と、にこやかにしながらも額に怒りマークを浮かべて、リィンはハルへと歩み寄った。

 

 手を、差し伸べる。

 握手をしてくれるのか、と勘違いしたハルが伸ばした手をスルーして、彼女の襟首を掴んだ。

 

「違うわ」

 

 キス出来そうな程近くにハルの顔を引き寄せて、リィンは言う。

 

 多分、怒っているのだろう。

 姉と勘違いされて、静かにキレている。

 

「私はリィン・アークライト。ライトフロウ・アークライトの妹で――」

「…………い、もう……?」

「いつか、ライトフロウ・アークライトを越える女よ。憶えておきなさい」

 

 それだけ言って、リィンは手を離した。

 

 反動でハルが尻餅を付いたが、見向きもせずにテレパイプを起動。

 シズクと共に、キャンプシップへと帰っていった。

 

「ざまあ」

 

 二人が帰って、開口一番にイズミはハルに向けて指を差しながら言い放つ。

 

 容赦の無さ過ぎる発言に、怒るかと思って身構えたイズミだったが、ハルは意外にも反応を示さなかった。

 

 代わりに一言。

 頬をほのかに赤く染めながら、ポツリと呟いた。

 

「……かっけぇ」

「…………」

 

 呟いた言葉に、イズミは軽く目を見開いて、

 

 とりあえず殴れそうだったから頬をぶん殴った後、修了試験の続きをするべく歩き出した。

 


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