AKABAKO   作:万年レート1000

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ちなみにシズクとリィンのフォトン適正はこんな感じ。

【シズク】
・フォトン量:C(普通)
・フォトン精度:A(凄く優秀)
・フォトン感応度:EX(目に見えるとか意味分からん)

【リィン】
・フォトン量:B(優秀)
・フォトン精度:A(凄く優秀)
・フォトン感応度:E(最低レベル)


守られてばかりだから

「うばー! リィンってやつはほんとにもー!」

 

 アークスシップ・メディカルセンター前。

 シズクの叫びが、そこに木霊した。

 

「ま、まあまあ落ち着いて」

「うう……ほんとなんていうか、リィンって素直じゃないよね」

 

 マトイに宥められながら、シズクは呟く。

 

 あの後、アークスシップに帰還したシズクは暇そうにしていたマトイを見つけたので愚痴に付き合ってもらっているのであった。

 

「やけに気持ちが分かり辛いしさー、何で自分の気持ちを素直に言えないんだろ」

「うーん……わたし、あんましリィンとお喋りしてないから分からないなぁ……ていうか、シズクが分からないなら誰もわからないんじゃない?」

「うばー……それがさぁ、あたしの察するやつってリィンには効果ないっていうか意味ないっていうか……」

「いや、そうじゃなくてさ」

 

 マトイは首を横に振った。

 

 そうじゃない? とシズクは首を傾げる。

 

「あんなに仲良いんだしさ、そういう変な能力なんて使わなくても少しくらいリィンのこと分かるんじゃないの?」

「…………っ」

 

 シズクは、口を噤んだ。

 マトイから目を逸らすように視線を横に向けて、黙り込む。

 

「シズク?」

「それで……」

「?」

「それで分かれば、苦労しないよ……」

 

 いつになく自信の無さそうなか細い声で、シズクは呟いた。

 

 その声はマトイには届かなかったようで、マトイは小首をかしげる。

 

「……よく分からないけど、仲直りはしたほうがいいよ。大切な恋人なんだよね?」

「…………うん。……うん? うば? 恋人?」

「え? 違ったの? てっきりそういう関係かと……」

「ち、違うよ」

 

 手を振って、否定する。

 確かにリィンのことは好ましく思っているが、両思いではない(とシズクは思っている)。

 

「ふぅん……じゃあ、大切な友達?」

「う、うん……多分」

 

 多分。

 無意識に付け足してしまった言葉に、自分自身で驚く。

 

 友達。

 うん、友達の筈だ。

 

 喧嘩したって、友達。

 むしろ友達だから喧嘩するのだ。

 

 でもなんで、こんなにも違和感を感じているのだろう。

 

「…………シズクはさ、リィンが好きなの?」

「う、うん……」

「恋愛的な意味で?」

「うば。多分、ね」

 

 多分。また、多分か。

 自分で自分の心が分からない。

 

『そんなの当たり前じゃない。だって貴方は■■■■■■■だから』

「…………」

 

 背後から、自分と同じ顔をした誰かの声がした。

 だけどシズクはいつものことのように、それをスルーする。

 

「多分、って……」

「うばー……本当に分からないんだよね、リィンのことが」

 

 確かに、リィンは好きだ。

 でもそれが親愛なのか、恋愛なのかも分からない。

 

 【コートハイム】で、メイとアヤという父母のもとで活動していたことも理由の一つだろう。

 

 『お姉ちゃんが出来たみたい』という、姉妹的な"好き"も混ざっているかもしれない。

 

「シズクは、リィンとどうなりたいの?」

 

 マトイの問いに、シズクは答えに一瞬詰まる。

 

 どうなりたいか。

 そういえば、そっち方面からは考えたことがなかった。

 

 少しの思考の後、シズクは思い浮かんだ言葉を無意識に口ずさむ。

 

「あたしは、リィンに守られてばかりだから――」

 

 脳裏に、リィンの背中が浮かぶ。

 あたしをいつも守ってくれる、大好きな姿が。

 

「あたしは……」

 

 もっと、お互いに守りあうような。

 恋人でも、親友でもいいから掛け替えのない関係になりたい。

 

「…………」

 

 いつの間にか、リィンへの怒りは収まっていた。

 やっぱ、こういう時に誰かへ相談するのは大事だ。

 

 言葉にすることで、整理できることだってある。

 

(リィンは今、何してるんだろ)

 

 迎えに行ったほうがいいのかな、と考える。

 

 まさか今リィンが、ダークファルスと砂浜で城を作っているなんて思いもせずに。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「成る程ねぇ、そんなことが……」

 

 惑星ウォパル・海岸エリア。

 

 八割方完成が見えてきた砂の城を作りながら、【百合(リリィ)】は頷いた。

 

「確かに、話聞いた限りだとリィンが面倒くさい女って感じね」

「うっ……」

「ああ、別に悪いことじゃないよ。女の子なんて多少面倒くさい方が可愛いもの」

 

 そういうものなの? と良く分かってなさそうにリィンは首を傾げながら、

 手先は器用じゃないので装飾は【百合】に任せてバケツに砂を集めていく。

 

「あたしの恋人もねー、かなり面倒くさいし、素直じゃないんだけど。そこが可愛いんだよねぇ」

「待ち合わせしてるんだっけ……どれくらい待ってるの?」

「かれこれ五時間くらいかな」

「…………」

 

 それは、もしかしてドタキャンされているのでは?

 とは口に出せないリィンであった。

 

「十八時間くらい駄々を捏ねて、ようやく海に行く約束を取り付けたんだよ」

「…………」

「水着を調達してくるから現地で待ってて言われてさー。調達に苦労してるのかなー……早く見たいなぁアプちゃんの水着姿」

 

 ドタキャン説が濃厚になってきました。

 水着の調達に五時間も掛からないでしょ……と苦笑いしか返せない。

 

 相談する相手を、間違えたかもしれなかった。

 

「っと、これ以上続けると延々と嫁自慢をしてしまうから話を戻すね」

「あっはい」

「兎も角、仲直りはしたいんだよね? なら素直に謝って、嫉妬してたことを伝えればいいんじゃない?」

 

 それができるのなら、苦労していない。

 でもそれが一番手っ取り早いのも理解している。

 

 なんで、シズクはあんなに自分の思うがままに行動できるのだろう。

 

 それが、とても羨ましくて、妬ましい。

 

「それが出来るなら、悩んでないわよ……」

「うばー、素直になれないタイプなのね」

「…………」

 

 俯いて、微かに頷く。

 

 【百合】は、困ったように顎に手を当てた。

 かなり面倒な子だ。しかしてガールズラブを愛する一人として、見過ごすわけにもいかない。

 

「……リィンはさ、その……シズクって子が恋愛的な意味で好きなの?」

「……分からないわ」

 

 分からなくなってきた、が正しい。

 恋心だと前まで思っていたけど、それだけじゃない気がする。

 

「シズクはさ……年齢も背も、私より下だけど……ちょっとお姉ちゃんみたいだなって思うことがあるの」

 

 シズクは好きだ。

 恋愛的な意味での好意を抱いているのは間違いない。

 

 けど、姉妹に向けるような親愛も、リィンは確かに抱いている。

 

「考え方を変えよっか。……貴方は、シズクちゃんとどうなりたいの?」

「どうって……ええっと……」

 

 成る程、そっち方面からは考えたことが無かった。

 

 どうなりたいか。

 

 うん。

 恋人になりたい、とか。

 親友になりたい、とか。

 

 そういうはっきりした関係じゃないけど、一つの答えがリィンの口にゆっくりと浮かび上がってきた。

 

「私は、守られてばかりだから――」

 

 脳裏に、シズクの笑顔が浮かぶ。

 私をいつも元気付けて、孤独や寂しさから守ってくれるあの大好きな笑顔が。

 

「私は……」

 

 あの笑顔を、守りたい。

 あの笑顔に守られるだけの弱い自分じゃなくて、あの笑顔に守られる価値のある強い自分になりたい。

 

 そうやってお互いを守りあえば、きっとその時私たちの関係は――。

 

(…………ん?)

 

 ふと、思考が止まる。

 

 私たちの関係は、何だ?

 その先が思い浮かばない。

 

(……でも)

 

 何故だか確信できる。

 その先こそ、私が目指すシズクとの関係性だと。

 

「……その先は、シズクと一緒じゃないと見つけ出せない、かな?」

「……うば? 今何て言った?」

「いや、ごめん、なんでもないわ」

 

 顔を上げて、リィンは【百合】を真っ直ぐに見つめる。

 その目は、まだ迷いこそ残っているものの、何処か吹っ切れたような顔をしていた。

 

「……何だか良く分からないけど、もう大丈夫そう?」

「うん。ありがとう、リリィ」

「自分の素直な気持ちが伝えられないならメールとか文章にすれば――とかアドバイスしようとしたけど、それは不要そうだね」

 

 頷く。

 ここから先は、きっと直接話さなければ伝わらない。

 

 まだ、自分の気持ちを素直にシズクへ伝える覚悟なんて出来ていない。

 

 それでも、私たちは話さなければいけない。

 対話を、会話を交わさなければ先に進めない。

 

 今までの、言葉にできない曖昧な関係を終わらせる時が来たのだ。

 

 

 

「そういえば」

「うば?」

 

 端末を開き、迎えのキャンプシップを要請しながら思い出したかのようにリィンは【百合】に訊ねる。

 

 これは訊いておこうということが一つあったのだった。

 

「リリィはさ、『才能が自分よりあって、努力を自分よりしていて、経験も自分より豊富な相手』に勝つ方法って分かる?」

「んー……」

 

 マリアからの宿題。

 この問題に、【百合】のような強者は何と答えるのか、興味が沸いたのだ。

 

 彼女が出した答えがリィンの答えと同じと限らないが、参考にと。

 

「そうだねぇ、やっぱり、『仲間を集めて大勢で囲む』かな」

 

 【百合】は、採掘基地で自分より圧倒的に弱い十二人に追い詰められたことを思い出しながら言う。

 

 経験談である。

 

「あー……多対一の状況に持ち込むのか……でもそれって勝ったことになるのかなぁ」

「さーねー……まず何を以って『勝ち』なのかをはっきりさせないと、何とも」

「何を以って勝ちなのか、か……」

 

 リィン・アークライトが、ライトフロウ・アークライトに『勝つ』方法。

 でも、何がどうなれば勝ちなのかは考えていなかった。

 

 普通に考えれば、戦って相手が負けを認めたら?

 

 いや、それは駄目だ。

 稽古なら兎も角、あのシスコンは妹との戦いとなれば手を抜くに違いない。

 

 というか、本気で斬りかかれないだろう。

 そんな勝利は勝利じゃない。

 

 じゃあ稽古で一本取れたら勝ち、とも言い難い。

 

 そもそもあの化け物からどうやって一本取れというのか。

 

 ああもう、またこんがらがってきた。

 

「あ……」

 

 気づけば、キャンプシップが上空に来ていた。

 

 もう到着したのか、早い。

 

「じゃあ、私行くわね。色々ありがとう、リリィ」

「シズクちゃんと仲直り、できるといいね」

「うん、今度はシズクと二人で会いに来るわ」

 

 言って、リィンはキャンプシップに乗り込む。

 

 早く帰って、シズクに会いたい。

 

(あ、もしかしたらすれ違いになるかもだし連絡を…………ん?)

 

 端末を触ろうとして、ふと思い出す。

 そういえば【百合】の連絡先を訊いていない。

 

「あちゃぁ……ま、アークス同士ならその内会えるでしょう」

 

 呟いて、端末を弄りシズクへ送るメールの文面を打ち始める。

 

 次、彼女に会うとき。

 その時は敵として出会うことを、まだリィンは知らないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「待たせたわね」

「あ、アプちゃん!」

 

 場面戻って、ウォパル海岸。

 

 リィンが去り、【百合】が彼女との合作である城を完成させたと同時に、ダークファルス【若人(アプレンティス)】は姿を現した。

 

 赤のアクセントが眩しい、黒色の大人っぽい水着を身に纏って。

 

「うっばー! アプちゃんその水着凄い似合ってる! 美しい! びゅーてぃふぉー!」

「ふん、当然よ」

 

 ストレートに褒められて、当然そうにしながらも【若人】は若干頬を染めて笑みを見せた。

 

 しかし実際、美しい。

 【若人】の名に全く恥じない、あらゆるヒトを魅了せしめるであろう魅力が【若人】から溢れていた。

 

 豊満なバストは見るものを釘付けにし、くびれは全ての女性から憧憬の眼差しを、すらりと伸びた足は全ての男性を虜にすること間違い無しだろう。

 

「ああ……長時間駄々を捏ねて、長時間待ったかいがあった……」

「ところでこの城は何?」

「あたしとアプちゃんの愛の城!」

 

 ドヤ顔で言い放つ【百合】を、【若人】はジト目で見つめた後再び城に視点を戻す。

 

 砂で出来た城は、軽く叩けばそれだけで壊すことができるだろうが……。

 

「……ま、勝手に言ってなさい」

「うばばー♪ さ、泳ごう泳ごう! あ、サーフボードとか作ろうか?」

「後で頼むわ。折角水着調達したんだから満喫してやる……」

 

 こんなことしてる暇無いのに……と愚痴愚痴言いながらも、

 【若人】の口角は、少しだけ吊り上っていた。

 

「素直じゃないなぁ……」

「何か言った?」

「うばー♪ 何でもないよー♪」

 

 誤魔化すように笑って、【百合】は【若人】に抱きつきながら海面へダイブした。

 

 ダークファルスとダークファルスの、楽しい海水浴の始まりである。

 




段々アプちゃんがデレてきた。

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