AKABAKO   作:万年レート1000

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今回の話と全く関係ないけど主人公の相方が闇堕ちする展開って燃えるよね。


リィンとダークファルス

「リィン・アークライトはルーサーの手に堕ちる可能性がある」

 

 宇宙の何処か。

 青い海のような何かに囲まれた場所で、シャオは一人呟く。

 

「そしてそうなれば、間違いなくリィンはぼくらの前に立ちはだかってくる」

 

 シズクは黙っていないだろう。

 リィンを救うため、より密接して『こちら』に関わってくる筈だ。

 

「リィン対シズク。最悪のマッチングはいとも容易く成立してしまうだろうね……でも」

 

 でも、それならそれで悪くない。

 勿論リィンには悪いが――その展開になれば、シャオの目的に一つ近づくからだ。

 

「サラとマリアが鍛えれば、シズクの基礎能力は問題なく上がるはず。それでもルーサーの改造を受けたリィンには勝てないだろうけど……」

 

 シズクはリィンをルーサーの魔の手から救い出すためなら、あらゆる手段を講じる筈だ。

 

 それこそ、普段忌避し、目を逸らし続けている自分の『根底』も、能力も。

 全てを駆使して、リィンを闇から救い出してくれるだろう。

 

「忌避していた能力で、大切な人を救う――それが成し遂げられたなら、きっとシズクは自分の能力を受け入れることができる」

 

 少なくとも、シズクがずっと忌み嫌っている『根底』に正面から向き合う。

 その土俵を作りあげることくらいはできる、とシャオは呟いて。

 

 ゆっくりと、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「リィン・アークライト。君がライトフロウ・アークライトを――姉を越えるほどの力が欲しいと望むなら、それを僕が与えてあげようか?」

「――――」

 

 差し伸べられた、ルーサーの手。

 

 怪しいし、胡散臭い。

 こんな誘いにホイホイと乗るやつの気がしれない。

 

 いつもなら聞く耳持たず、無視して走り去っていただろう。

 

「彼の――テオドールくんの力を見ただろう? 彼は僕の改造を受け、ここまでの力を得た」

「…………」

「君には素質がある。どうだい? 欲しくはないか? 圧倒的な力が」

 

 守りたいものを守れる力が。

 越えたいものを越える力が。

 

 欲しくはないか? という、ルーサーの言葉に。

 

 リィンは、耳を傾けてしまった。

 

 普段ならば、決して靡かないような胡散臭い言葉にも。

 リィンの心は、揺れていく。

 

「…………わた、しは……」

「…………」

 

 その時だった。

 ぽん、とリィンの肩に、手が置かれた。

 

 ルーサーの手ではない。

 テオドールでも、シズクでもない。

 

「『傷心中の乙女心に漬け込む』――」

 

 リィンの肩に手を置いた少女は――白かった。

 

 白い髪、白い肌。

 そして茜色の水着を身に纏った、女の子。

 

 ダークファルス【百合(リリィ)】が、水着姿で剣を変形させたバットを振りかぶっていた――!

 

「『ナンパ男撲滅撃』!」

「ぐわー!」

「うわー!」

 

 一閃。

 【百合】が振るったバットはルーサーとテオドール両名を巻き込み、彼方へと吹き飛ばした!

 

 まるで某電気鼠を付け狙う某団員たちのように、遥か彼方へと。

 

「…………」

「……ふぅ、危ないところだったね」

 

 星になったルーサーとテオドールをしばらく呆然と見つめた後、リィンはゆっくりと【百合】の方に振り返る。

 

 バル・ロドスを一撃で瀕死にまで削った男と、その男を改造したという明らかな実力者二人を纏めて叩き飛ばした女。

 

 その姿を視界に入れた瞬間に、リィンは確信した。

 

 今まで会った、強者たち。

 【巨躯(エルダー)】、『リン』、マリア、姉、テオドール、サラ、ゼノ、クーナ。

 

 その誰よりも、今目の前にいる彼女は『強い』。

 

「大丈夫だった? 変なことされてない?」

「え、ええっと……」

「気をつけなよー? あんな怪しいやつに付いてったら薄い本みたいなことになるよ?」

 

 手に持っていたバットを仕舞いながら、【百合】はリィンに向き直る。

 

 その表情は、友好的な笑顔だ。

 まあ【百合】はダークファルスだが、アークスであっても女の子なら理由もなしに攻撃することは無いので当然なのだが。

 

 しかしリィンはそうはいかない。

 アークスの基本はダーカー相手には見敵必殺。

 

 ダークファルスと仲良くするなんて、有り得てはいけない。

 

 故にリィンがとるべき行動は一つ。

 

 『逃亡』。

 戦闘しても勝ち目は無い以上、アークスがダークファルス相手に取れる行動などそれしかない。

 

 尤も、それは――。

 

「あ――」

「?」

「貴方もアークスですか!? す、凄い強いんですね!」

 

 尤もそれは、リィンが目の前の女性をダークファルスだと気づけたらの話だ。

 

 アークスには『フォトン適正』、というステータスがある。

 言葉通り、フォトンに対する適正を表すもので、『フォトン量』『フォトン精度』『フォトン感応度』の三つの項目に別れて評価されるステータス。

 

 そう。

 もう察せられるだろうが、リィンは『フォトン感応度』が滅茶苦茶低い。

 

 アークスとしては最低レベルである。

 故に、フォトンから派生した物質であるダーカー因子を感じ取ることは、リィンはかなり不得手なのだ。

 

「うん? あー……うん、そうだよっ!」

「やっぱり! ど、何処かで見たことあるなーって思ったけどアークスシップですれ違いでもしたんですね」

 

 勿論違う。

 【アナザースリー】の三人が見せてくれた【百合】の映像を見たことをぼんやり憶えていただけだ。

 

 顔を憶えるのが苦手なリィンである。

 服装もいつもの白いドレスから茜色の水着に変わっているので、気づかないのは仕方ないといえよう。

 

「あの、助けてくれてありがとうございました」

「いいのいいの、あたしは一人の美少女がエロ同人にみたいな目にあうのが我慢できなかっただけだから」

「えろど……? ま、まあとりあえず助かりました」

 

 ぺこり、とお辞儀して、リィンはルーサーたちが飛んで行った方向に顔を向ける。

 

 もう完全に姿は見えない。

 一体何処まで飛ばされてしまったのだろうか。

 

「……あの人たち、何だったのか知っていますか?」

「(性別が男だったし)滅茶苦茶悪いやつよ。(男だから)絶対に近づいちゃいけない類の奴らね」

「…………やっぱし」

 

 今思えば、人相が悪そうだったもんなーっとリィンは頷く。

 ちなみに【百合】は以前ルーサーと会ったこととか忘れている。

 

 男の存在は記憶に残らないガチレズであった。

 

「ところでお嬢ちゃん、今から少し時間あるかな?」

「え? ええっと……」

「恋人と待ち合わせ中なんだけどさ、中々来ないから話し相手になってくれない?」

 

 恋人とは、【若人(アプレンティス)】のことだ。

 しかし当然ながらそんなことを知らないリィンは、躊躇った。

 

 こんな強いヒトと、話してみたい。

 しかしシズクと仲直りもしなきゃいけない。

 

 もう、シズクはウォパルを出ているだろうけど、それなら追いかけないと。

 

「えっと、その……」

「? 何か用事でもあるの?」

「は、はい……友達と喧嘩しちゃって……それで逃げてきちゃったので……謝りに行かないと……といっても、何て謝ったらいいか……」

「ふぅん、成る程ね……」

 

 喧嘩なんて初めてしたリィンにとって、謝るというのは存外難易度が高い。

 

 嫌われたんじゃないかという被害妄想によって、今もまだ迷っている。

 何て謝ったらいいのか分からないし、謝っても許してくれなかったらと考えると怖くて仕方ない。

 

「その友達って女の子?」

「え? はい……」

「それなら、あたしが相談に乗ろうか!?」

 

 もの凄くいい笑顔で、【百合】は言い放った。

 

「え、ええ!? で、でも今日始めて会ったのに……」

「初対面だからこそ話せることもあるでしょ! 任せなさい、あたしはこれまで数千組の女の子たちを仲良しにしてきた実績があるような気がするわ!」

 

 自信満々に【百合】は叫ぶ。

 ここまで断言されると、逆に頼もしく聞こえてくるから不思議だ。

 

(けど、まあ……)

 

 確かに誰かに相談したくはあった。

 【アナザースリー】か先輩辺りに相談しようかとも考えていたが……。

 

 こんな強いヒトと話してみたいという気持ちもあるし、丁度いいのかもしれない。

 

「じゃあ、その……お願いします」

「うば! じゃあまず、貴方の名前を教えて頂戴?」

(『うば』?)「リィン・アークライトです」

 

 【百合】の口調に疑問を抱きながらも、リィンは答える。

 

 今、確かに『うば』って言ったような……。

 

「リィンね、あたしはリリィ! よろしく!」

「リリィさんですね、よろしくです」

「あっはっは、敬語なんて要らないよー多分同い年くらいだしさ」

 

 同い年くらいなのに、ここまで実力差があるのかというのはもう今更か。

 

 『リン』だってサラだって同い年だし、クラリスクレイスなんて年下だ。

 

 この世界に歳の差なんて関係ない。

 あるのはただ、才能の差という残酷な現実だけだ。

 

 まあ尤も、【百合】に関してはダークファルスだからそもそも種族が違うのだが。

 

「じゃ、立ち話もなんだし砂弄りでもしながら話そっか。城作ろう城!」

「え、あ、はい……じゃなくて、うん!」

 

 何処からか茜色のスコップとバケツを取り出した【百合】からスコップを受け取って、リィンは語りだす。

 

 何があったのか、どうしてこうなったのかを反芻するように。

 

「ええと、まずは……」

 

 尚。

 ダークファルスに悩み相談するという、アークスとして前代未聞の珍事を起こしていることには――

 

 当たり前だけど、気づいていないリィンであった。




ネットは広大といっても、ダークファルスに砂浜で城を作りながら悩みを相談する主人公なんて前代未聞だろう……ふっふっふ。

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