AKABAKO   作:万年レート1000

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短め。


愛ゆえに蹂躙する少女

 そして、現在。

 

 第一採掘基地A-56地区。

 すなわちライトフロウ・アークライトら上位アークス12人が守る塔周辺に、

 

 非常に性質(タチ)が悪い、一人の少女は降り立った。

 

 ダークファルス【百合(リリィ)】。

 

 【巨躯(エルダー)】の凶暴性。

 【若人(アプレンティス)】の残虐性。、

 【双子(ダブル)】の純悪性。

 

 それらよりもおぞましい(・・・・・)

 『愛情』を持つダークファルス。

 

 戦うことも、戦わないことも。

 嬲ることも、慈しむことも。

 悪いことをするのも、良いことをするのも。

 

 両方できる。

 全部できる。

 

 愛のためなら(・・・・・・)何だってやる(・・・・・・)

 

 それが例え、大量虐殺だろうと。

 彼女は何一つ感じないままに一億人を殺してみせるだろう。

 

 愛のために。

 愛によって。

 罪悪感すら、欠片も有さずに。

 

「さあ」

 

 緑の塔に、一直線に走りながら、【百合】は布告する。

 

 主にこの場に居る女性に向かって、高々に。

 

「初めましてアークスたち。悪いけど、あたしたちの愛のために死んでもらうねっ!」

「っ! イル・グランツ!」

 

 まず反応したのは、紫髪のニューマン――マールーだった。

 

 杖を構え、こちらに向けて走ってくる【百合】に向けて星の光弾を大量に放つ!

 

「おおっと」

「……アサルト――」

 

 しかし光弾は、突如出現した剣の盾に阻まれて弾かれた。

 一発一発の威力がそう高くないイル・グランツでは、彼女の守りを崩すことは難しい。

 

 ただ、注意は反らせられた。

 光弾が弾けた際に散らばる光に紛れて、オーザがパルチザンの切っ先を【百合】に向けて、

 

 突き刺した。

 

「バスター!」

「わっと」

 

 盾として利用した剣を今度は握り、簡単そうにオーザの一撃を【百合】は弾いた。

 

「なんだ男か」

「このっ……!」

 

 フォトンアーツを放った直後の硬直で動けぬオーザに向けて、【百合】は侮蔑の視線と共に剣を振り下ろす。

 

 攻撃する瞬間。

 つまりは隙ができる瞬間。

 

 歴戦のアークスであるクロトは、その瞬間を逃さずツインマシンガンの引き金を引いた。

 

「サテライトエイム」

「っ!?」

 

 空を射抜くような強烈な射撃を二発。

 完璧な角度とタイミングで【百合】の顔面にクリティカルヒットした。

 

「こんな可憐なお嬢ちゃんを攻撃するなんて気が引けるけど……」

「一切容赦などせん! その首貰い受ける!」

 

 横一閃。

 オーザのパルチザンが、【百合】の首を狙って力強く振るわれた――!

 

 

 

 

 

「――なぁんだ」

 

 果たしてオーザの一撃は――当たった。

 当たった、だけだった。

 

 クロトの銃弾は、眉間と頬の薄皮一枚破っただけでその威力を使い果たして。

 オーザの長槍に至っては【百合】の細い首を傷つけるに至らなかった。

 

「アークスって、弱いんだね。これなら防御しなくてよかったかな?」

「なっ……!?」

「――っ!?」

 

 馬鹿にするように笑いながら、【百合】はゆるりと手を振るう。

 

 瞬間。

 無数の刃が、クロトとオーザの身体を貫いた。

 

「がふっ……!」

「これ、は……!」

「さて、と」

 

 左手に一本剣を出現させて、【百合】は緑の塔を再び視界に定める。

 

 防衛についているのは、マールー一人。

 他のアークスは依然襲ってくるゴルドラーダたちの相手で手一杯。

 

「うっばばーい! これは今日中にベッドインも有り得るぜうっへっへ」

「……こっちに、来ないで!」

 

 マールーの杖から、光のテクニックが放たれる。

 

 文字通り光速で飛び交うフォトンのエネルギーを避けることなく、怯むことなく【百合】は駆け出した。

 

「何で……何で効かないの……!? 何か、仕掛けがある筈……!」

「うばー、そんなのないよ、ごめんね?」

 

 種も仕掛けも、無い。

 【百合】の純粋な防御力を、クロトも、オーザも、マールーも破ることができなかっただけ。

 

 勿論、彼ら三人の腕が未熟なわけではない。

 彼らなら、【巨躯】にだって問題なくダメージを与えることが可能だろう。

 

 ただ、【百合】の防御力が異常なだけだ。

 尤も、実はその分攻撃力は『低い方』なのだが……。

 

「ちょい邪魔だからどいてねー」

「あう……!」

 

 左手に持った剣を投擲し、マールーの腹部に突き刺す。

 

 その後優しく押すようにキックして塔前から退かすと、【百合】はぺたりと手を塔に貼り付けた。

 

「うばー……えーっと、そうだなー……"棘葉(シニバナ)"」

 

 今咄嗟に思いついたであろう技名を呟いた、次の瞬間。

 

 緑塔から、ぐさぐさぐさ(・・・・・・)と【百合】の剣が何個も突き出した。

 

 触れた物の内部に剣を出現させ、内側から破壊する【百合】の新技である。

 

「ふむ」

 

 幾百の刃に内部から貫かれては、いくら頑丈な塔でも一溜まりも無い。

 

 剣山のように成り果てた塔は、音を立てて崩れ落ちた。

 

「中々良い威力だし、良い名前だわ。やっぱ技名は漢字二文字にカタカナのフリガナが格好いいわね……」

「い、一撃で……!?」

「この野郎……!」

 

 自画自賛している【百合】に、採掘基地の支援兵器である機銃が放たれる。

 

 秒間80発の、超高速マシンガン。

 それら全ては見事に【百合】の頭部を打ち抜き――しかしてそれだけだった。

 

「ダークファルス"【百合】"にちなんで、技名を草花系に統一してみよっかなぁ……その場合"変形(ヴァリアシオン)"も改名しなきゃなぁ、うーん……っと」

「うっそだろオイ……!? 全然きいてな――がっ!?」

 

 全身を襲う数多の銃弾をその身に浴びながら、まるで意に介していない。

 

 どころか考え事をしながら、片手間で剣を放ち機銃に座る男アークスの胸元を軽々貫いた。

 

「ま、技名は後で考えるとして……今は塔を壊さなきゃね」

 

 そう呟いて、彼女は次の標的を紫の塔に定めて駆け出した。

 

 あまりにも圧倒的なその力に、アークスたちは動けない。

 

 恐怖。

 勝ち目の無い戦いに出向けるアークスは多くないし、そもそも他のダーカーを相手しなければいけないのもあって、軽々にフォローにいけない。

 

『み、皆さん! 朗報です! 六芒均衡のヒューイ、クラリスクレイスが今そちらに向かっています! 五分後に到着するのでそれまで……』

 

 持ち堪えられるわけがない。

 

 オペレーターから突如入った朗報にも、アークスの表情は緩まなかった。

 

 五分耐える?

 無理に決まっている。このままじゃ一分も持たず紫の塔は破壊され、そのまま青の塔も――。

 

(ん? 青の塔?)

 

 ラ・バータでゴルドラーダを氷漬けにしながら、イヴはふと自分の思考に引っかかるものを憶えた。

 

 そういえば、今。

 青の塔に――。

 

「さぁて、これで二本目っ!」

 

 嬉しそうに、【百合】は右手を紫の塔に伸ばす。

 

 その瞬間、【百合】の右手中指から右手小指(・・・・・・・・・・)がすっぱりと切断された(・・・・・・・・・・・)

 

「…………い゛っ!?」

「あら、凄いわね。今の一瞬で反射的に手を引っ込めるなんて」

 

 手首を切り落とすつもりで切ったのに、と。

 

 そのアークスは――ライトフロウ・アークライトは、柔らかな笑顔で物騒なことを呟いた。

 

「皆、悪いけど青の塔は頼む……というか他のダーカーは全部頼むわ。こいつは私が相手する」

「…………」

「五分耐久か……でも、別に倒しちゃっても構わないわよね?」

 

 自信満々にそう言い放ち、構える。

 

 ライトフロウ・アークライトvsダークファルス【百合】。

 すなわち、クレイジーサイコレズvsクレイジーサイコレズの闘いが、今始まった。




次回、『クレイジーサイコレズvsクレイジーサイコレズ』。
お楽しみに!

ちなみに【百合】の攻撃力が『低い方』というのは、あくまでダークファルス内での話です。
【巨躯】や【双子】みたいに惑星破壊はできませんしね。

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