AKABAKO   作:万年レート1000

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説明しよう!
耳を指で塞いだとしても、骨とか伝って普通に周りの声は聞こえるぞ!

……え? 知ってる? 常識? デスヨネー。


Episode2 第2章:交鎖練撃
採掘基地防衛戦・襲来、開幕


「うばぁあああ……疲れたぁあああ……」

 

 アークスシップ・シズクのマイルームに部屋主の奇声が響いた。

 

 あれから、マリア一行と別れたシズクとリィンは無事アークスシップに帰宅し、クエスト未達成を報告。

 その後シズクが疲れたと騒ぐので急ぎ足で部屋へと戻ってきたのであった。

 

「うばー……お布団気持ちいい……」

「ちょっとシズク、上着くらい脱ぎなさいよ。シワになるわよ」

 

 色々ありすぎて、疲れたのだろう。

 部屋に入るなり、シズクは布団へと吸い寄せられるようにダイブした。

 

「んー……」

「寝転びながら上着脱ぐとは器用ね……」

「リィンはまだ元気そうだねぇ、流石体力あるわぁ……」

 

 あたしはもう無理ー、とシズクは掛け布団の中に潜り込んだ。

 

 本格的に寝るつもりなのだろう。

 まだ日は沈みきってないというのに。

 

「シズク、もう寝るの?」

「うん、シャワーは明日浴びるー」

「……じゃあ私も自分の部屋に戻ろうかしらね」

「リィン、リィン」

 

 シズクが寝るならつまらないし、自室に帰って自分も寝ようかと思案し始めたリィンを、シズクは呼んだ。

 

 掛け布団を半分上げ、挑発的な笑みで誘いをかける。

 

「一緒に寝ようぜべいべー」

「……べいべー? ……まあ、別にいいけど」

 

 今更一緒の布団で寝るなんてなんてことないわとばかりにリィンは頷いて、上着とスカートを脱いだ。

 

 インナー姿になって、シズクの隣に潜り込む。

 いくらリィンがシズクと比べて体力があると言っても、流石に疲れていたらしい。

 

 横になった途端、眠気が襲ってきた。

 ぐっと伸びをして、力を抜く。

 

「ふー……ほんと、今日は疲れたなぁ……ベリーハードに上がって、マリアさんたちに会って……」

「六芒均衡って凄かったわね……あれで手加減してたとか本気だとどれだけ強いんだろ……ん?」

「うば?」

 

 うとうとしながら会話していると、端末が音を鳴らした。

 同時にアークスシップ全体に警報が鳴り響く。

 

『アークス各員へ緊急連絡。惑星リリーパの採掘基地周辺に、多数のダーカーが集結しつつあります。防衛戦に備え――』

「うるさい」

 

 ぷち、と。

 シズクは音を鳴らす端末の電源を落とし、部屋に鳴り響く警報を止める。

 

 迷いの無い判断だった。

 

「いいの? 緊急クエスト……」

「いいのいいの。今日はサボるわ」

 

 緊急クエストは、確かに緊急性の高いクエストだが自由参加なのだ。

 

 上層部から指名されたのならば兎も角、体調が悪い時や気が乗らない時は参加しないのも手である。

 

「さー寝よ寝よ」

「うん……でも今の警報、普段と違ったような……いいのかなぁ……」

「ふわぁ……うばー……」

 

 枕に顔を埋めて、気持ちよさそうに息を吐くシズク。

 

 そんな彼女の姿を見て、「まあ一日くらいいっか」とリィンも警報に起こされた身体を再び横たえた。

 

「…………」

「…………」

「……あ、そーいえばさー」

 

 ふと、思い出したようにシズクは口を開く。

 

 顔は枕に埋めたまま、眠たそうに。

 

「マリアさんとさー、手合わせしたときさー」

「んー?」

「初撃の時、ボーっとしてたの何で?」

「…………」

 

 ああ、ばれてたのか流石だなぁ、とリィンはゆっくり目を開ける。

 

「ボーっとなんてしてなかったわよ。マリアさんの速さに対応できなかっただけ」

「うっそだぁ、だってあたしリィンの防御が抜かれると思っていなかったからびっくりしたのに……」

「…………別に」

 

 顔を微かに傾けて、枕の隙間からシズクの眼がリィンを見ていた。

 

 海色の瞳が、微かに光る。

 

 リィンはそっと手を伸ばして、シズクの髪に手を触れる。

 そしてその手をゆっくり降ろして、何となくその瞳から逃れるように掌でシズクの視線を切った。

 

「ちょっと考え事してただけよ」

「……そっか」

 

 そのまま、手を動かして頭を撫でる。

 しばらくそうしていると、シズクは寝息を立て始めた。

 

(言える訳がない……)

 

 シズクの髪から手を離し、仰向けに寝転がる。

 

 目を瞑って、疲れに身を任せるように身体から力を抜いた。

 

(全部、聞こえてた)

(あの距離なら、耳を塞いでても聞こえるに決まってるじゃない)

 

 『マザーシップへのアクセス権』。

 『アークスの上層部が敵』。

 

 どちらも、リィンの耳には届いていた。

 耳を塞いでも、あの距離なら十分に聞こえていた。

 

(そんなことにも気づかないくらい、焦っていた……? いや、違う)

(聞こえなかったことにして、って、ことだよね? シズク)

 

 シズクが望むのなら、そうしよう。

 聞こえなかったフリをするなんて、お安い御用だ。

 

 でも、と。

 

 呟く。

 

「…………なんで私には秘密、話してくれないんだろうなぁ……」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

『緊急任務発生。全アークス一斉参加の大規模な作戦を実施中、アークス各員はクエストカウンターより任務への参加を――』

「んしょっと」

 

 緊急クエストのアナウンスが響き渡る中、青い髪を靡かせながら一人の女性が採掘基地周辺に降り立った。

 

 女性の名は、ライトフロウ・アークライト。

 言わずとも知れたリィンの姉である。

 

「あらま、凄い数ね……」

 

 降り立った瞬間、まず目に映る空の色。

 普段見える蒼い空は欠片も目に入ることは無く、ダーカーの進軍による砂塵と飛行するダーカーによって埋め尽くされていた。

 

 数える意味も無いくらいの大群だ。

 出現しているダーカーの系統が虫ばかりという情報も含めて考えるに、大規模攻勢を得意とするダークファルス【若人】が関わっていると見て間違いないだろう。

 

(十年前以来の大規模侵攻ね……)

(でも、あの頃と比べてアークスも私も強くなった。今度こそ被害を少なく……)

「やあ、ライトフロウじゃないか」

「ん?」

 

 テレポーター前で、人数が揃うのを待ちながら考え事をしていたライトフロウに、声をかける人物が一人。

 

 『セクシービキニウェア』という、非常に露出度が高い水着姿に身を包んだ、官能的な茶髪の女性だ。

 

「『イヴ』……相変わらず過激な格好ね」

「あっはっは、知らないのかい? 肌の露出が多いほど大気中のフォトン吸収効率が上がるんだよ?」

「……それでも人前でその格好はどうかと思うわ」

 

 『イヴ』。

 チーム【アイスコフィン】所属のアークスである。

 

 雪の結晶をした髪飾りがチャームポイント……だと本人は言い張っているが、誰がどう見てもグラマーな肢体にしか目が行かないちょっと頭が可哀想な人だ。

 

 まあ尤も、ライトフロウと同じ難易度のクエストを受けていることから分かる通り、その実力は折り紙付き。

 【大日霊貴】のメンバーと比べても遜色の無い力の持ち主だ。

 

(ていうかいかにも常夏って感じの格好なのに雪の髪飾りがチャームポイントとか……やっぱ頭おかしいんじゃないかしらこの人)

「何かすっごい馬鹿にされてるような気がするんだけど……まあいいか、【大日霊貴】の他のメンバーは一緒じゃないのか?」

「ええ、今回の任務は守る箇所が多いからウチのメンバーは二人一組で分けたの。だけど最近メンバーが一人減って奇数になっちゃったのよ……」

 

 採掘基地は、非常に広大だ。

 その基地周辺を360度守るとなれば相当の人員を配置せねばならない。

 

 そんな中、実力派揃いの【大日霊貴】が一箇所に揃えばそりゃその一箇所は守りきれるだろう。

 

 でも他が破られては意味が無い。

 故に【大日霊貴】はメンバーを分けたのだった。

 

「当然一人余るから、一番強い私が別行動してるだけよ」

「ふぅん……まあわたしとしてはアンタが一緒だと楽できそうで嬉しいや」

「おーい、そこのお嬢様と痴女こっちこーい」

 

 お嬢様と痴女、と呼ばれてライトフロウとイヴは同時に振り返る。

 

 見れば、テレポーター前にはもうアークスたちが集まっているようだった。

 

 出発前の作戦会議をするのだろう。

 【銀楼の翼】所属のイケメンが(名前は忘れた)、中心になって端末のウィンドウを広げていた。

 

「ぷぷぷ、ライトフロウ、アンタ痴女とか呼ばれてるわよ」

「痴女は誰がどう見てもアンタよイヴ」

 

 ため息を吐いて、集団に交じる。

 集まったアークスを見渡せば、大半が顔見知りだった。

 

 まあ本当に顔は知っているというだけで、話したことは無いやつも多いのだが……それでもこのレベル――スーパーハードまでたどり着けるアークスはそう多くは無いので見知った顔が多いのは当然だ。

 

「えーでは、皆聞いているとは思うが念のため今回の緊急クエストについて軽く説明しようと思う」

 

 さっきのイケメンが、ウィンドウに採掘基地周辺の地図を映し出す。

 その広大な地図の一角を拡大し、三つの塔が立ち並ぶエリアを浮かび上げた。

 

「この三本ある『塔』が、今回の防衛対象だ。破壊された本数によってクエスト評価が変わる特殊なクエストになるから単純にエネミーを殲滅すればいいってもんじゃないから注意な」

 

 言って、ウインドウ上に立体に浮かび上がった緑、紫、青の塔を指差していく。

 これらが全て破壊されたら、クエスト失敗だ。

 

「ダーカー共は第一波、第二波といったようにある程度の固まりが一定間隔でこの塔目掛けて襲来してきている。波状攻撃ってやつだな、間違いなく『指揮官クラス』の大型ダーカーも居る」

「ふんふん、成る程ねぇ。なら戦力配分が重要になってくるねぇ」

「……そうね」

 

 赤いゴーグルと赤いアイハットが特徴的な男性――クロトが口を挟んだ。

 

 その言葉に続くように、薄い紫の髪をしたか細いフォース――マールーと、

 濃い緑色の髪をしたハンター――オーザが前に出た。

 

「ここには十二人いるから……単純に三つの塔に四人ずつ配置するのが一見ベターに見えるけど……それは間違い」

「そうだな。塔から塔への距離が結構あるから救援には時間がかかる……、一つの塔を大量のダーカーが一斉攻撃してきたら、四人じゃ耐え切れないかもしれない……特に、大型ダーカーが出てきたらな」

 

 例え十二人居ても、四人で守る塔に一斉攻撃されれば残り八人は遊んでいることになる。

 

 それは非常にマズイ。

 『指揮官』として他のダーカーに指示を出せる大型が居るなら尚更だ。

 

「遊撃する奴が数人居るな……機動力に優れたクラスと、塔防衛に優れたクラスでまず分かれて……」

「あ、ちょっといいかしら」

 

 と、話をぶった切ってライトフロウ・アークライトは手を挙げた。

 

 他の十一人の視線が、一斉に彼女に集まる。

 そんな視線に物怖じなんて欠片もすることなく、ライトフロウはハッキリと言い放った。

 

「私は一人で青を防衛するわ」

 

 そっちの方が楽だし、と。

 事もなさげにこういうこと言ってしまうのがライトフロウ・アークライトという強者なのだ。

 

「塔二つなら、十一人でいい感じに防衛できるでしょ。青は全部任せなさい」

「ちょっ……そんなこと……」

「一人の方が、間違えて味方を切ってしまう心配が無くて楽なのよ」

 

 彼女の言葉に、誰一人反論を返せない。

 だって、その言葉が虚勢でないことは皆分かっている。

 

 六芒均衡や『リン』等の『例外』の所為で目立たないが――それでもライトフロウ・アークライトはその『例外』を除けばアークスの中で三指に入る実力者なのだ。

 

「一人の方が楽……か……」

 

 イヴが、呆れるように頬を掻きながら呟く。

 

 そういえば、同じようなことを言っていた奴が居たような気がするなぁ、と思いながら。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「……よし」

 

 惑星リリーパ・採掘基地周辺。

 ライトフロウらが守る三本の塔とはまた別の場所にある、全く同じデザインの三本の塔。

 

 キリン・アークダーティこと『リン』は、その周辺に展開された戦闘エリアの中心で、サイコウォンドを構えながら呟いた。

 

「ここなら、全部の塔に法撃が届くし……一人だから味方を巻き込むことも無い」

 

 周囲には、誰も居ない。

 たった一人で、このエリアを守ることを彼女は志願したのだ。

 

 眼前には、後数秒でここに到着するであろうダーカーの大群。

 ダガン、エル・アーダ、ブリアーダ、ダーク・ラグネ等などの虫系ダーカー勢ぞろいだ。

 

「来な、ダーカー共」

 

 『リン』の周囲に、炎が舞い踊る。

 テクニックをチャージする際に、微かに体内から漏れたフォトンの残滓だ。

 

 そう。

 残滓だというのに、その火炎はまるで嵐のようだった。

 

「全部、燃やし尽くす……!」

 

 炎が、放たれる。

 空を飛ぶダーカーたちの中心へ飛んでいった炎は、轟音と共に爆発。

 

 まるで、その爆発が開戦の合図であったかのようなタイミングで――ダーカーの大群は一斉に採掘基地周辺の戦闘区域へ足を踏み入れたのであった。




はい、ということで採掘基地防衛開始です。


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