AKABAKO   作:万年レート1000

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最近難産ばっかだなぁ。

ていうかEP2第1章長すぎ問題。
こんなに長引くとは思わなかったんや……。


論外

「止めなくてよかったのか?」

「本人たちがノリノリなんだもの、止めても無駄よ」

 

 戦闘準備中のシズク、リィン、マリアの三人から少し離れた場所で、ゼノとサラは隣り合って遺跡エリア特有のオブジェクトに腰掛けていた。

 

 サラの表情は、諦観。

 ゼノの表情は、心配。

 

「しかしさっきから話に付いていけてねーんだけどよ、一体何なんだ? あのシズクってっ子はよ」

「……この距離だと聞こえてるかもしれないから、また今度話すわ」

「そーかい……あ、じゃあもう一人の……リィン? は何者なんだ?」

「ああ、彼女は……」

 

 身体を伸ばすようにストレッチをしているリィンを見ながら、サラは言う。

 

「普通のアークスよ、シズクの友達ってだけのね」

「ふぅん……ん? ならなんでリィンの実力まで計るんだ? 一対一の方が計りやすいだろ」

「…………それもそうね」

 

 そのことについて口を挟もうと思ったが、もうすぐ手合わせは始めるようだった。

 

 まあ、終わったら訊けばいいやとサラは浮かせかけた腰を再び下ろす。

 

「……何か企んでいるのかしら、マリア」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 六芒均衡との手合わせ。

 というのは、実のところアークスにとっては魅力的なものなのだ。

 

 それこそ戦技大会の賞品にもなるようなものであり、需要は意外と高い。

 

 理由は単純。

 まず六芒均衡というのはアークスにとって一種の『憧れ』だから。

 

 アークスという生業の、到達点ともいうべき役職なのだ。

 

 故にリィンはマリアの提案を手放しに喜んだし、

 シズクもマリアとの手合わせは試されるだけではなく、『価値』があるものだと認識しているのである。

 

「準備はいいかい?」

 

 言いながら、マリアは手に持ったパルチザン――『ヴィタパルチザン』を構えた。

 

 量産型のコモン武器の中では比較的強い方だが、それでもコモン武器はコモン武器。

 レア武器には一歩劣る代物だ。

 

 流石に手加減はしてくれるらしい。

 まあ尤も創世器なんて持ち出されたらシズクとリィンの力量を計るどころじゃないのだが……。

 

「はい!」

「うばっ」

「いい返事だ、じゃあ早速始めようじゃないか」

 

 構える。

 

 リィンは前に、シズクは後ろに。

 いつもの陣形。いつもの戦術。

 

 いつもと違うのは、相手がエネミーではなくアークスだということ。

 

 そのアークスが六芒均衡であること。

 

 多分勝ち目なんて一つもない。

 けれどそれでいい。

 

 圧倒的上位者に実力を診てもらえてしかも命の危険が無いなんて機会、そうそうないのだ。

 

 今は、全力を尽くすことだけを考えて――。

 

「ああ、一応言っておこうかね」

「……?」

「アタシを殺すつもりでかかってこないと――死ぬよ」

 

 刹那。

 

 シズクの目の前で、マリアが片手で槍を振りかぶっていた。

 

「は――」

 

 槍が振り下ろされる。

 受けれない、避けられない。

 

 速い、という言葉を口に出そうとして、それすら間に合わないことを瞬時に悟る。

 

「あ、ぁ、あ、あああああああ!」

 

 ガキン、と。

 フォトンの刃とフォトンの刃がぶつかり合う音が響いた。

 

 シズクのガードが間に合ったわけではない。

 

 リィンのガードが、間に合った。

 シズクをタックルで押し退けて、間に入るように身体を捩じ込ませたのだ。

 

「へぇ、反応速度は中々だね」

「……っ」

 

 リィンが居なければ、今ので終わっていた。

 

 何が手合わせだ、何が手加減だ。

 そもそも相手と自分たちには、蟻と象より大きな差があるじゃないか。

 

 マリアがどれだけ手加減しようと、こっちはそれこそ殺すつもりで戦わなきゃあっという間に潰されて終わりだ。

 

(気を引き締めろ!)

(相手は化け物だ……!)

「ぐっ……!」

「ほらほら、どうしたどうした、まだこっちは録に力入れちゃいないよ」

 

 マリアとリィンの、鍔迫り合い。

 マリアは片手でパルチザンを持ち、リィンは両手でしっかりと防御の姿勢を取っているにも関わらず、

 

 劣勢なのはリィンだった。

 

「エイミングショット!」

「おっと」

 

 支援射撃として、エイミングショットを放つ。

 

 槍の持ち手を狙った射撃は、しかして簡単にマリアの槍によって弾かれた。

 

「ノヴァ――!」

 

 だが、その弾いた隙を逃すリィンではない。

 鍔迫り合いから槍が離れた瞬間、足を動かし腰を捻らせ遠心力と共に腕を振るう。

 

「ストライク!」

 

 振るった剛剣は、槍によって簡単にいなされた。

 

 でも、まだだ。

 隙なら、シズクが作ってくれる。

 

「ツイスターフォール!」

「遅いっ!」

 

 縦に回転しながらの斬撃。

 しかしその攻撃は容易く避けられ、リィンの首に槍の薙ぎ払いが迫る。

 

 その薙ぎ払いに合わせるように、シズクの弾丸がマリアの槍を射抜き動きを止めた。

 

「お?」

「オーバー……!」

 

 リィンのアリスティンに、光刃が宿る。

 

 オーバーエンド。

 単体相手に使うようなPAではない、大振りの大技。

 

「エンドォ!」

「へぇ……!」

 

 振るわれた光刃を、マリアは両手で握ったパルチザンで受け止めた。

 

 渾身の力を込めた攻撃が、易々と受け止められるというのは若干クるものがあるが……でも。

 ようやく、両手を使わせた……!

 

「まだ!」

「……っ」

 

 返す刃で、再び光刃を振るう。

 これもまた簡単に受け止められてしまったが、オーバーエンドというPAの本命は最後の一撃。

 

 込めた全ての力を爆発させる、縦切りを放つべくリィンは思いっきり振りかぶった!

 

「お、お、お、おおおおおおお!」

「見えてるよ、シズク(・・・)!」

 

 言いながら、マリアは突きの構えを取った。

 

 リィンの大振り攻撃の真後ろで、ずっとシズクが銃剣を構えているのをマリアは見逃していない。

 

 故に、突き。

 オーバーエンドという隙の大きい攻撃の隙を埋めるため、シズクが放つであろう支援射撃を封じるための一手。

 

 リィンの真後ろにシズクがいるならば、突きを使えばシズクの銃撃はマリアのパルチザンを弾くことはできない……!

 

「アサルトバスター!」

 

 果たしてマリアの槍撃は――空を切った。

 

 無論、手加減はした。

 一撃に込めたフォトンは、いつもの半分以下だ――けれど、攻撃速度まで緩めたつもりはない。

 

 では何故マリアの一撃が空を切ったのか、答えは単純明快。

 

 リィンは、しゃがんでいた。

 PAをキャンセルして、土下座にも見えるほど深々と地面に額を近づけていた。

 

 攻撃を見てからじゃ、どんな反応速度を持っていようが避けられぬ一撃だった筈だ。

 

 ならリィンは、最初からオーバーエンドを途中でキャンセルするつもりだったのだろう。

 

 その証拠に、ほら。

 マリアの眼前には、しゃがまなければそのままリィンに当たっていたであろう弾丸(エイミングショット)が迫っていた。

 

「――はっ!」

 

 マリアは、笑った。

 口元を歪ませ、嬉しそうに笑った。

 

 未来予知にも等しい、シズクの能力。

 そして、そのシズクの能力に全幅の信頼を置き、身体能力及び防衛能力が高いリィン。

 

 想像以上に、良いコンビだ。

 芸術にも見える、コンビネーション。

 

 でも、それだけだった。

 

 それだけ、だった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「論外だね」

 

 頭を抑えてうずくまるシズクと、お腹から血を流して倒れるリィンを見下しながら、マリアはそう告げた。

 

 あの後。

 シズクとリィンがコンビネーションを見せてマリアに渾身のエイミングショットを放った後。

 

 マリアは容易くあの攻撃を避けた。

 

 勿論、マリア以外の――というより、六芒均衡より弱い相手になら避けることは不可能だっただろう。

 

 それほどまでに、素晴らしい攻撃だった。

 素晴らしいコンビネーションだった。

 

 でも、話はそうじゃないのだ。

 

 マリアやサラ、ゼノが関わっている問題というのは、その程度(・・・・)じゃない。

 

「やる気も、熱意も感じられる……あたしを殺しにきたのもグッドだ。――でも、経験が足らない、錬度が足らない、実力が足らない」

「うば……」

「うぅ……」

「そして何より、才能が無い」

 

 ムーンアトマイザーを投げて、二人を回復させながら。

 マリアは絶望的な事実を告げた。

 

 才能が無い。

 勿論それは、六芒均衡を基準とした話。

 

 一般アークスという括りならば、二人は十分な才能を持っている。

 

 けれど、今はそういう話はしていない。

 

 レギアス。

 マリア。

 クラリスクレイス。

 カスラ。

 ヒューイ。

 ゼノ。

 サラ。

 

 そして、キリン・アークダーティ。

 

 あれらの、超越した存在共の戦闘に付いていける程の才能は、二人には無いのだ。

 

「…………」

「……うばー、分かってたこととはいえ、へこむわー……」

 

 『フォトンを扱う能力』というのは、才能の比重が大きい。

 訓練したところで限界があるが故に、アークスが大成できるか否かは才能があるかないかの一言で済む。

 

(ああ、悔しい)

(分かってはいたけど、悔しいなぁ)

 

 リィンは、傷が回復したというのに顔をあげなかった。

 

 泣いてはいない。

 いないけど、歯噛みはしている。

 

 唇から血が出るほど、悔しがっていた。

 

(お姉ちゃんには――)

(マリアさんは、お姉ちゃんには何と評価するのだろう)

 

 思わずそんなことを考えてしまった自分の思考を掻き消すように、頭を振る。

 

 あの姉のことなんてどうでもいい。

 考えるだけ無駄で、考えたくも無いことだ。

 

「うばー……まあ、不合格なら仕方ないですね……大人しく帰るので、全部終わったら色々と教えてください」

 

 ため息を吐きながら、シズクは立ち上がった。

 念押しするようにサラに視線を投げて、次にリィンを見る。

 

「……リィン?」

「っ、シズク……」

 

 顔を上げないリィンを不思議がったのか、シズクはリィンの顔を覗き込んだ。

 

 涙なんて流していない。

 でも、今の情けない顔はあまり見られたくなかった。

 

「リィン、泣いてる?」

「ううん……何でも――」

「リィン」

 

 ぐいっと、マリアが突然リィンの顎を掴んだ。

 そうして顔を無理やり上げさせて、目と目を合わせる。

 

「マリアさん……?」

「はっきりと言ってやろうか。リィン・アークライト――あんたにライトフロウほどの才能は無い」

 

 リィンが、目を見開いた。

 

 何で、今、あの姉の名前が――。

 

「当然、実力も、経験も、何もかもがあっちの方が上だ。戦闘スタイルも似ているから、見る人が見ればあんたがただの姉の劣化にしか見えないだろうね」

「なん……で……」

「昔、あの子に勝負を挑まれたことがあってねぇ……叩き潰してやったが、あと十年もしたらあの子は次の六芒均衡になれる素質を持ってたよ」

 

 マリアの言葉に、リィンは何も返せなかった。

 

 姉が、あの姉が、そこまで褒められて。

 悔しいし、苦しいし、何より……誇らしくて。

 

「でも」

 

 マリアは、笑った。

 伏しかけたリィンの頭に手を置いて笑顔で言う。

 

「リィン・アークライトがライトフロウ・アークライトを越える方法が、一つだけある」

「え……?」

「それが何かは、自分で見つけることだ。でないと意味が無いからねぇ」

 

 次来るまでの宿題だ、と。

 マリアは手を引きリィンを立たせた。

 

「次……?」

「うば、え、来て良いんですか?」

「ああ、ただし誰にも見つからないようにするんだよ」

 

 サラが後ろで「また勝手なこと言ってー!」と怒っているのを完全に無視して、マリアは言葉を紡ぐ。

 

「い、いいんですか? なんかサラさん怒ってますけど……」

「いーのいーの。若者の熱意に当てられると、ついつい老婆心が出ちまうもんなのさ」

「…………」

「言っただろ? やる気と、熱意は感じられるって」

 

 そう言って、マリアは笑った。

 キャストとは思えないほどの、粋な笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

「……まああたしは忙しいから実際に面倒見るのはサラだけどな」

「えっ」

 




マリアに師事すると思った? 残念、サラちゃんでした!
サラって雑魚のイメージあるけど何だかんだクラリスクレイスと肩並べて【若人】の複製体倒すくらいの実力はあるんだよね。

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