AKABAKO   作:万年レート1000

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色々あって遅れましたー。

原作キャラの原作に無かった掛け合い書くの苦手です……(←二次創作向いてないやつ)

今回、「ん?」と思うような箇所があると思いますが、シズクの正体を判明したあとにもっかい読めば「成る程」となるように書いてますので設定崩壊とかじゃないです。


演算不可の希少事象

『サラが悪いね』

 

 シズクとリィンが寝ている場所から少し離れた木陰。

 

 シズクに声も姿も届かないようにと移動したサラとマリアの通信機に、シャオの毒舌が響いた。

 

「うぐっ……」

『シズクの能力の原理を、ぼくはよく知ってるからね。"隠れ"てれば彼女でも見破れないのにサラがあんなこと言うから……』

「わ、悪かったわね! あんまりにも唐突だったから焦っちゃったのよ!」

「まだまだ未熟だねぇ、馬鹿弟子」

 

 マリアがケラケラと馬鹿にするように笑いながら言った。

 

 それに対して、サラはキッとマリアを睨み、叫ぶ。

 

「でも元はといえばアンタが連れてきたからでしょうが馬鹿マリアー!」

「仕方ないだろ? ゼノ坊のこと見られたんだからそのまま帰すわけにもいかないし」

『そもそも今は責任を押し付けあってる場合じゃないと思うけど?』

「……最初にアタシが悪いって言ったのはあんたでしょうが……!」

 

 怒りを正論で返され、肩を震わせながらもサラは大人しく付近にあったオブジェへ腰掛けた。

 

 大きなため息を一つ吐いて、気持ちを落ち着かせる。

 

「ふぅー……で、これからどうすればいいの?」

「あの子は――シズクは、『保護対象』なんだろう? ルーサーとのいざこざが終わるまでは、不干渉と決めていたが……そうも言ってられないんじゃないか?」

『そうだね……正直、彼女らの成長速度は計算違いだった』

 

 もうVH遺跡(ここ)まで来れるとは、と。

 シャオは感心するように呟いた。

 

『見つかってしまった以上、仕方ないね。皆に吹聴するような性格じゃないだろうけど……サラみたいにうっかり口を滑らせることもあるしね、釘は刺しておかないと』

「ぬぐっ……!」

『ある程度の事情を話して、仲間になって貰おう。マリアの弟子にするのが一番自然かな? ぼくが見つかるリスクも高まるけど……まあそこはサラが失言でもしなければ大丈夫だろう』

「シャオ! いい加減しつこいわよ!」

 

 顔を怒りと羞恥で真っ赤にしながら、サラは叫んだ。

 しかしシャオはサラに怒鳴られたところで自重するようなやつじゃないし、マリアは気にすらしていない。

 

 サラをスルーして、マリアはシャオに疑問を投げかける。

 

「しかしまあ、こっちに引き入れるのはいいとしても、アタシ結構ボコスカ殴っちまったけど大丈夫かね?」

 

 そう。

 そこが問題点。

 

 事情があったとはいえ、気絶する程の打撃を二人には与えているのだ。

 

 そう簡単に和解とはいかないのではないのかという懸念が、マリアの頭を過ぎったのだ。

 

 しかし。

 

『それは大丈夫』

 

 シャオは、自信満々に言い切った。

 

『ぼくに、いい考えがある』

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「お、目ぇ醒めたか」

「…………」

 

 腹部に違和感を感じながら、シズクはゆっくりと目を開いた。

 

 身体を起こして、辺りを見渡す。

 先ほどまでと変わらぬ遺跡エリアの情景と、携帯食料を食むゼノ、それと気絶しているリィン。

 

 状況を把握してから、シズクは静かな口調でゼノに語りかけた。

 

「……ゼノさん、あの前髪バッテンの子は何処?」

「……あーっと、それはだな……」

 

 真顔。

 シズクにしては珍しい真剣な瞳で、ゼノを睨む。

 

 嘘や誤魔化しは容赦なく見抜いてやると言わんばかりに、シズクの瞳は海色に輝いていた。

 

「……そう睨むなって。サラなら姐さんと一緒に作戦タイムだ」

「作戦タイム……? 何処で?」

「さぁな。その内戻ってくるだろうから、大人しく待ってた方がいいぜ」

「…………そう、ですか」

 

 存外、シズクは大人しく頷いた後その場に座りこんだ。

 

 てっきり一暴れくらいすると睨んでいたのだが……思ったよりも冷静だな、とゼノは感心するように頷く。

 

 勿論それは、勘違い。

 ゼノはシズクの人物像を知らないから仕方ないのだが……。

 

 シズクという人間を知る者なら、容易く分かるだろう。

 彼女が真顔であるということが、どういうことなのか。

 

「リィン、起きて」

「む……ぅぅん?」

 

 未だに気絶から覚めないリィンの肩を揺すり、起こす。

 

 わりとすぐ、リィンは目を覚ました。

 目を擦りながら辺りを見渡し、記憶を辿って「ああ」と呟く。

 

「シズク、大丈夫? 怪我は無い?」

「それはあたしのセリフだよ……」

「私は平気よ。首の裏を叩かれて気絶した……のかな、多分」

 

 首を擦っても特に痛みが無いところを見ると、治療はしてくれたようだ。

 

 とりあえず被害なしということで、シズクは大きく息を吸い、安堵するようにそれを吐きだした。

 

「うばぁー……」

「気絶している間にモノメイトでも飲ませてくれたのかしら?」

 

 リィンの疑問に、シズクは首を振った。

 

 周囲を見渡し、大気に舞い散るフォトンを『見る』。

 

「周囲に残ってるフォトンを見た感じ……スターアトマイザーかな? 使ってくれたみたい」

「ふぅん……武器も没収されてないし……今の内に逃げる?」

「いや」

 

 シズクは首を横に振った。

 

 逃げるなんてとんでもない。

 あの人に、サラとやらに問い詰めるまで逃げることなんてできない。

 

「やっと、あたしの正体に関する尻尾が見えたんだ。絶対に逃げない」

「……ん、分かったわ」

「うば、別にリィンだけでも逃げていいんだよ?」

「馬鹿」

 

 リィンのデコピンが、シズクの額を襲った。

 

「あだっ」

「冗談でもそういうこと言わないで」

「うばー……うん、ごめん」

 

 リィンの言葉に、シズクは素直に頷いた。

 

 冗談では、無かったのだが。

 余計なお世話にも程があったか。

 

「それと、ありがとう」

「?」

「リィンと話したおかげで、ちょっと冷静になれた。自分の口癖も忘れてた(・・・・・・・・・・)なんて洒落にならないや」

 

 うばーっと、いつもの調子でシズクは笑った。

 

 一転の曇りも無い、可愛らしい笑顔。

 ダーカーだらけの遺跡エリアには、何処か不釣合いとさえ思える眩く見える。

 

「口癖って、忘れるものだっけ?」

「うば。余裕が無い場面だと、どうもねー……ほら、『うばー』って言うと気が抜けちゃうでしょ」

「あー……」

 

 確かに、それはあるかもしれない。

 

 どんな緊迫した場面だろうと、シズクがアホ面で「うばうば」言ってたらシリアスも崩れるというものだろう。

 

「シリアスブレイカーってやつね」

「それも漫画知識?」

「うん」

 

 ですよねー、と呟いて、シズクはリィンから視線を外し遠く景色を見る。

 

 その先に、こちらへ向かってくる女二人の姿が見えた。

 

「……来たわね」

「……うば」

 

 二人一緒に、立ち上がる。

 こちらに歩いて向かってくるサラとマリアを見据え、リィンはいつでも武器を取り出せるように身構えた。

 

「へえ、もう目え覚ましたのか」

「待たせちゃったわね」

 

 対面する。

 シズクと、リィン。

 サラと、マリア。

 

 ゼノは一人、その様子を少し離れた場所で見ているだけのようだ。

 

 事情を知らなくても厄介ごとに顔を突っ込んでいく性分の男なのだが――今回は、とりあえず静観することに決めたらしい。

 

「サラさん……ですよね?」

「うん、ゼノから名前聞いたの?」

「はい。それでですね、サラさん……さっき、あたしの能力について口走りましたよね? 『教えたでしょ』って」

 

 先ほどの失言を思い返しながら、サラは頷いた。

 

 まずは、肯定。

 シズクの正体を、アタシたちは知っていることの肯定。

 

 それが、シャオの立てた作戦の第一歩。

 

「あたしの能力について、知っているという解釈であってますよね?」

「……ええ。アタシたちは貴方のことを知っているわ」

「なら――――」

 

 なら。

 力ずくで聞き出してやる。

 

 そう言って、切りかかっていただろう。

 

 起きたばかりの、真顔のままのシズクだったのなら、そう言っただろう。

 

 シャオだって、そうなると予想していた。

 シズクの『生まれた経緯』を鑑みれば、それは試算するまでも無い演算結果だった。

 

 リィン・アークライト。

 たった一人の少女の存在が、シズクにとってどれだけ大切な存在なのか――いや、違う。

 

 シズクとリィン・アークライト。

 この二人が揃っているという奇跡(・・・・・・・・・・)によって起こり得る事象は、シャオにすら演算できない希少事象なのである。

 

「教えてください、お願いします」

 

 シズクは、膝を付いて頭を地面に投げ出した。

 

 五体当地――またの名を土下座。

 服も髪も手も足も、汚れることをいとわず地面に付ける。

 

「あたしは、知りたいんです。この能力が何なのか……あたしの母親が、誰なのか」

「……私からも、お願いします」

 

 そして、シズクに倣うようにリィンも地に頭を付けた。

 

 思わず驚いて、シズクはリィンに視線を投げる。

 

 リィンがそんなことする必要は無い。

 綺麗な顔が汚れるといけないから、今すぐやめるように言おうとして――口を止めた。

 

 そんなことを言ったら、またデコピンされそうだったから。

 

「――お願いします」

「お願い、します」

「……はんっ」

 

 何処と無く嬉しそうに笑って、マリアは目を見開いて固まっているサラの背を押した。

 

 びくり、とサラの肩が震える。

 

「作戦は全部ご破算だな。ほら、サラ、ぼーっとしてるとこいつらはいつまでも土下座し続けるぞ」

「っ……わ、分かってるわよ」

 

 言われて、ようやくサラは動き出す。

 地面から引き剥がすように、シズクの頭を掴んで引きあげた。

 

 目と目が合う。

 サラは、困ったように眉を八の字にしていた。

 

「ど、土下座までする必要ないでしょ!? やめてよアタシらが悪者みたいじゃん……」

「うば……だって、力じゃ敵わないし奇襲も確率低いし、普通に頼んでも教えてくれないだろうし……」

 

 これしかなかった。

 そう言って、シズクはサラの手を振り切って再び頭を地に着けた。

 

 そう。

 気絶させた相手の傷をわざわざ癒したり、

 拘束すらしてこなかったことから、"ある"と思ったのだ。

 

 彼女らに、『良心』という付け込むべき隙が。

 

「か、顔を上げなさいよ」

「いやです。教えてくれるまで、こうしてます」

「…………っ」

 

 襲い掛かられるより、百倍性質(タチ)が悪い。

 

 それに、こういうことされると……。

 

「おいおい、何だかよくわからねえが教えてやってもいいんじゃないのか?」

 

 ゼノが、干渉してくるだろう。

 このお節介焼きが、こんな状況で介入してこないはずが無いのだ。

 

「ゼノ、アンタは黙ってな」

「でもよ、姐さん……」

「…………」

 

 思わず頭を抱えるサラだった。

 

 シャオはあてにできない。

 シズクの前から隠れているときは、流石に声すら送れないらしい。

 

 どうする。

 嘘をつくのは意味が無い、ちょっとしたヒントでもシズクはきっと答えに辿りついてしまう。

 

 やはり紡ぐべき言葉は、変わらずただ一つ。

 

「……駄目よ、絶対に教えられない」

「っ……! どうして!?」

「理由があるのよ、教えられない理由が……!」

 

 力ずくで無理やり、サラはシズクを起き上がらせた。

 

 額と鼻についた土を拭って、土下座できぬように押さえ込む。

 

「理由……理由って何ですか!? あたしがあたしのことを知って、何がいけないんですか!?」

「それも、言えない。言えない……けど」

 

 サラは、しっかりと目を見開いて、シズクの目を見つめた。

 真っ直ぐに、偽り無く、海色の瞳と目を合わせる。

 

終わったら(・・・・・)、話せるようになるから」

「終わったら……? 何、が?」

「それも、言えないわ」

 

 何だ、それは、とシズクは呟いた。

 

 情報が少なすぎる。

 でもそれも、仕方が無いのかもしれない。

 

 自分の能力を知っているのなら。

 察する力を知っているのなら。

 

 不用意に情報を渡せないのだろう。

 

 知られたくないことを、察してしまうから。

 

「……っ」

 

 シズクの瞳から、涙が零れた。

 ようやく、尻尾が掴めたと思ったのに……思わぬ足止めだ(・・・・・・・)

 

「――リィン、もういいよ。ありがとう」

「……いいの?」

「うん。いつか話してくれるなら、それを待つことにする……」

 

 涙を拭って、悔しそうにシズクは言った。

 

 これ以上の懇願は、無意味だ。

 良心では崩せない事情が、あちらにはあることが分かっただけよしとしよう。

 

「サラさん、連絡先教えてください」

「……あ、うん、ありがとね」

「お礼なんていいですから、約束破らないでくださいね」

 

 念入りにそう言って、シズクは身体から土を払い、踵を返した。

 

 同じく土を払っていたリィンの袖を軽く引っ張る。

 

「代わりに、ここの事は誰にも言いませんから。……リィン、行こう」

「え、うん……」

 

 代わりに。

 つまり、約束さえ破らなければ誰にもこのことは言わない――ただし勿論破ったら誰かにバラすというシズクなりの脅しである。

 

 尤も、今回の場合その脅しはあまり意味の無いものなのだが……それは兎も角。

 

 これで、釘は刺したといえるだろう。

 シャオの考えていた作戦とは随分と違ってしまったが、当初の目標は達成だ。

 

 なのでこのまま二人を帰してしまっても特に問題は無い。

 

「おっと、待ちな」

 

 ――のだが。

 帰ろうとするシズクとリィンを、マリアが唐突に呼び止めた。

 

 曲がりなりにも自分たちの上司に値する六芒均衡に呼び止められ、流石のシズクとリィンも表情を強張らせる。

 

「まだアンタたちを帰すわけにはいかないねぇ」

「ま、マリア……? 折角話が纏まったんだからあまり余計な真似は……」

「余計? 違うねぇ、これは必要なことさ」

 

 サラを押し退け、マリアは二人の前に立ち塞がった。

 

 必要なこと? とリィンは首を傾げる。

 シズクは何かを察したようだが、何も言わずにただ黙って――

 

 武器に、手をかけた。

 

「アタシと手合わせして貰おうじゃないか、なあ小娘共」

 




エピソード4、完結しましたね。
ツッコミどころがまあ多かったけど面白かったです。

オークゥとフルの関係が特によかったですね、個人的にはオークゥがノンケでフルがガチだと捗ります。
あとコオリのキャラも結構好きでした。【百合】と絡ませたい。
けどアルくんがアリなのかナシなのかで戦争が起きそう。

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