AKABAKO   作:万年レート1000

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イベントクロニクルとにらめっこしながら書く回。
最後以外ほぼ原作と一緒だから注意。
こういう話は『リン』の性格が崩壊しないようにとか、
台本を喋っているだけみたいにならないように気をつけないといけないことが沢山あって苦手です。

やっぱこっちのがいいなということで、102話と103話入れ換えました。


シャオ

「そろそろか?」

「うん、ここまで来たら、あと少し。急ぎましょう」

 

 惑星アムドゥスキア・龍祭壇エリア。

 

 その奥地に向かって、走るアークスが二人。

 

 『リン』とサラだ。

 ツインテールとポニーテールをそれぞれ靡かせながら、龍祭壇をひた走る。

 

 道中の龍族やダーカーは、『リン』の放った炎で大体一撃死である。

 

「相変わらず強いわね」

「強くないと誰も守れないからなぁ」

「殊勝なことだわ……っと、『リン』、目的地はすぐそこよ」

 

 広場のような場所に、二人はたどり着いた。

 

 普段の迷路のような通路とは段違いの広さだ。

 

「此処?」

「いえ、この広場の中心に転移装置がある筈なのに……」

「……む」

 

 唐突に、『リン』は空を見上げた。

 磁力で浮く石と、その隙間から見える青い空。

 

 その青い空に、一筋の影が差して。

 一匹の龍族が、悠々と降りてきた。

 

「……侵食されたゴロンソランか」

「こいつの所為で転移装置が機能していないのかしら……倒すしかないわね」

 

 ゴロンゾラン。

 龍祭壇に生息する龍族であり、丸々と太った身体と、

 常に四本の水晶柱を軸にしたバリアを身の回りに展開していることが特徴的な龍族だ。

 

 そのバリアの硬さは強靭で、どんな攻撃でも防ぐほどである。

 でも柱を壊せばバリアは消え、隙だらけになるのでその時に総攻撃するのが攻略法だ。

 

「行くわよ『リン』! 前衛はあたしが……」

「ラフォイエ、ラフォイエ、ラフォイエ、ラフォイエ」

 

 炎が弾ける音と、柱が砕ける音が、四つ鳴り響いた。

 

 一瞬のテクニック四連射。

 瞬きする暇もなく、ゴロンゾランのバリアは解けて地面にその太った身体を落とした。

 

「……え?」

「イル・フォイエ」

 

 追撃の、上級テクニック。

 極大の熱量を持った隕石が、ゴロンゾランの真上から降り注いだ。

 

 その一撃で、ゴロンゾランは絶命。

 炎による煙と共に、空へと溶けるように消えていった。

 

「…………さすがね」

「急いでるんだろう? だったら時間かけれないからちょっと本気だした」

 

 相変わらず、頼もしい。

 これが敵じゃなくて心底よかったと思うサラであった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 龍祭壇・最奥地。

 

 龍族にとって神聖なその場所に、少年が一人。

 宙に浮くモノリスの上に腰掛け、姿の見えない龍族と話しているようだ。

 

〔……シャオ。キリン・アークダーティと貴方の縁者が来たようだ〕

「ありがとう、カミツ。こんな場まで用意してもらって」

〔気にする必要はない。恩には恩、それが龍の礼儀。では、またいずれ……〕

「うん、朗報を待っていてほしい」

 

 姿の見えない龍族は、立ち去ったようだ。

 

 今まで確かにそこにいたという感覚が消えてなくなった。

 

「……さて、お疲れ様、サラ」

 

 『シャオ』と呼ばれた少年の視界に、二人のアークスが現れた。

 

 『リン』と、サラだ。

 サラの道案内は、お仕舞い。

 

 ここ、シャオの居る奥地こそが目的地だったのだ。

 

「ちなみに道中の発言、ぼくには全部筒抜けだからね」

 

 ふわり、とシャオは淡い海色の光を放ちながらモノリスの上から飛び降りた。

 

 一つ縛りに結ばれた、濃い海色の髪が靡く。

 近づくと、その幼い顔が良く見える。体格も相まって本当に子供のようだ。

 

「知ってる。全部聞こえるように喋ってた」

「ほんと君は良い性格に育ったよね」

「それはどうも。規範となる方々に囲まれてたからかしら?」

 

 皮肉の応酬。

 しかしこの程度二人にとってはいつものことのようで、二人とも特に気にしている様子は無かった。

 

 シャオとサラ。

 二人の仲のよさというか信頼が垣間見えるようなやり取りだ。

 

「っと、このままサラと問答してるとぼくの株がさらに下がっちゃうね。……あー」

「そのあとの言葉を続けたら一生軽蔑してやるわよ」

「なんだよ、こういうことを言うのが人間っぽい振る舞いだってぼくに教えたのは君じゃないか」

 

 冗談っぽく、シャオは微笑む。

 こうしているとただの子供にしか見えなくもない。髪も寝癖だらけだし。

 

 ただやはり、超然とした態度や深海を模したような流動するコスチュームを見た感じ、只者では無いことが伝わってくる。

 

 ていうか、それより。

 誰かに、似ているような

 

「そ、そんなことより! 早く! 説明! そんなに時間ないんでしょ!」

「はいはい。まったくうちの縁者はいちいちうるさくてかなわないね。それじゃ、改めて……」

 

 シャオの姿が、突然消えた。

 

 流石に口を開けて驚く『リン』。

 次の瞬間、シャオは『リン』とサラの間を抜けるように背後へ立っていた。

 

「ぼくは……そうだな、わかりやすく言えばシオンの弟みたいなものだよ」

「シオンの、弟……?」

「そして、彼女の解放を目的としている」

 

 解放。

 その言葉に、『リン』は納得したように頷いた。

 

「成る程合点がいった……龍祭壇のこんな奥地に連れてきた理由はそれか」

「そう。わざわざ呼び出してごめんなさい。ルーサーに気づかれずに君に会うには、これしかなかったんだ」

 

 ルーサーがシオンを狙っていることは、『リン』も知っていた。

 

 そしてシオンと縁がある『リン』がここ最近何者かに監視されていることも、知っていた。

 

 だから、こんな場所に呼び出されたのか。

 龍族の聖地たる、アークスすらまだ辿りつけていないこの場所に。

 

「カミツにも無理を言ったし龍族にも迷惑をかけちゃったけど……ようやく、会えた」

「…………」

「シオンが見初めた、貴方に」

「……なんか、照れるな」

 

 シオンに見初められた理由。

 そんなの、ただ生まれつき時間遡行をする才能があっただけだ。

 

 勿論自力でそんなことはできやしない。

 マターボードの助けがあって初めてできることだ。

 

「…………それは違うよ」

「ん? 今何か言った?」

「いや? 気づいているかもしれないけど今のあのアークスの形は、まずい。ルーサーの傀儡に等しい状態だ」

 

 誤魔化すように、そう言って、シャオは話を続ける。

 

「それでも、ぎりぎり組織の形を保っていられるのは、シオンのことをルーサーが理解できていないから」

「理解……確かルーサーも言ってたな、『ここまで理解できた』って」

「そう、彼女が人間の言葉を使わないのは、自分をルーサーに理解させないためさ。そのせいで、君たちにも伝わりにくい表現になってしまっている。それについては、ぼくからも謝る」

 

 ああ、成る程、と『リン』は頷いた。

 

 シオンが滅茶苦茶分かり辛い言葉や表現を使っていた理由は、それだったのか。

 

(とりあえず助けを求めてる感じなのは伝わったから、気にしたことなかった……)

「でも、気づいているかな? 彼女の言葉に、少しずつ意味が通ってきてしまっていることに……人間に、寄ってきているということに」

「……まあ、ね」

「それは、ルーサーの理解が深まってしまうということでもある。あまり、時間の猶予は無いんだ」

 

 完璧にシオンが理解されてしまったとき、どうなるのか。

 

 そんなの、言われなくても分かる。

 『一つになる』のだ、シオンと、ルーサーが。

 

「だから、ぼくは動くし、サラも動かす。貴方も、動いて欲しい……アークスという組織を、正しい状態に戻すために」

「ウソみたいって思うでしょ? 実際あたしもそう思うし、関係ないって言いたいんだけど、ウソじゃない」

 

 サラが、真剣な表情で会話に割り込んできた。

 

 ウソじゃない。

 そんなの、シャオとサラの表情を見れば『リン』には分かる。

 

「こいつは気にくわないし偉そうだし思わせぶりでむかつくことが多いけど、今の話だけは本当よ」

「それは言い過ぎでは……」

「いいのよ、事実だから」

 

 仲、いいなぁ。

 

 そう思うのも束の間、シャオが再び消えた。

 

 今度はさっきモノリスから降り立った方へと、一瞬で現れる。

 

 何故いちいち移動するのか、と思いながら、『リン』はゆっくりと振り向いた。

 

「……サラ、知ってる? ぼくの精神は君との対話で成長したものだから、君は自分自身に石を投げてるんだよ」

「あたし、あんたを傷つけるためなら自分が傷つくのも厭わないの」

「見上げた自己犠牲精神だね。よし、今度から君の睡眠中に頭の中で子守唄を歌ってあげよう」

「あたし、コアに入れるのよ? そんなことしてきたら、あんたを子守歌よろしく永眠させてやるわ」

「本当、仲良いね君ら」

「仲良くない!」

 

 『リン』のからかうような言葉に、反応したのはサラだけだった。

 

 シャオは微笑を浮かべるだけで、特に反応なしだ。

 大人の対応と言うべきか、サラがツンデレなだけだと言うべきか……。

 

「……はぁ、だめだね。また話が逸れちゃったよ。信憑性もどんどん薄れていっちゃう」

「誰のせいよ」

「少なくとも、『リン』さんの責任でないことは確かだね」

「そらそうだ、夫婦喧嘩の責任を負わされても困る」

「夫婦じゃないってーの! 誰がこんなガキと!」

 

 顔を真っ赤にして否定するサラに、『リン』は「ははーん」と何かを察したようにいやらしく笑った。

 

「な、何よその顔はー!」

「く、ふふ……いや、何でもないよ」

「言っとくけどマジでそういうのやめてよね! あーやだやだ鳥肌が立ってきたわ!」

 

 表情が、本気で嫌がっているそれじゃないので滑稽だ。

 

 自分の身体を抱きしめるようにして嫌がるモーションをしつつも、顔は真っ赤なままのサラをずっと見ていたい気持ちもあったのが、今は時間が無いのだ。

 

 シャオは、宥めるようにサラに向けて言う。

 

「サラ、そのツンデレと呼称される感情形態について非常に興味深くはあるんだけど、今は時間が無いから落ち着いて」

「つんで……!? い、いや……そうね、この件については後で鉄拳でお返しするわ」

「何でぼくが悪いみたいになってるのかなぁ……まあいいや、話を戻すね」

 

 閑話休題にもほどがあろう。

 

 コホン、とシャオは一つ咳払いした後、話を戻した。

 

「さて、いきなりこんなことを言われてもなかなか信用できないと思う」

「いや、信用ならして……」

「だから、一つ証拠を示させてほしい。ぼくたちになら、結末を変えられるという証拠を」

 

 シャオが少しだけ『リン』に近づいて、彼女に向かって手を翳した。

 

 瞬間、シャオの身体が光る。

 いや、シャオの身体から光が漏れたというべきだろうか。

 

 僅かに虹色の虹彩を持った光が、シャオの手を離れ『リン』に吸い込まれていった。

 

「今、何を……」

「……これでよし。あとは、ナベリウスの奥地にある遺跡の指定ポイントに行くだけ」

「…………」

 

 今何をしたのか、答える気は無さそうだ。

 シオンとこういうとこ似てる、と『リン』は思った。

 

(姉弟揃って説明下手なのか……説明する気がないのか……)

「かのダークファルスが復活した時。復活したあの日あの時の結末をばれないように少しだけ、変える」

「ダークファルス……【巨躯(エルダー)】か」

「前日に、サラやマリアに会っただろう? あそこが、目標とする場所だ」

 

 そんなこと言われても、時間遡行はマターボードの導きのままに自然と行ってきたことだ。

 

 今回はマターボードも関係ない。

 時間遡行の力は借りれるだろうが、狙った時間に飛ぶなんてできるのだろうか。

 

「大丈夫、時間合わせはぼくがやる。貴方が今まで自然にやってきたことを今度は意識的に行うだけの話だよ」

 

 心配が顔に出ていたのか、『リン』の不安を解消するようにシャオは言う。

 

「そこで貴方は、一つの歴史改変を行う。はたからみれば、ちっぽけだけど大きな一歩になる、改変だ」

「意識的な歴史改変……? そんなことが」

「シャオ、そろそろ時間」

 

 『リン』の言葉を遮るように、サラが言葉を挟んだ。

 

 時間。

 そういえば、さっきからやたらと時間を気にしていたっけ。

 

「うん、わかったよ、サラ」

「ま、待った!」

 

 手を伸ばして、『リン』はシャオの肩を掴んだ。

 

 時間が無いのは分かっている。

 だけど、まだ帰ってもらうのは困る。

 

「何だい? 質問なら、手短にお願いね?」

「今回の件については関係ないんだけど……一つ訊きたいことがある」

「うん……何?」

 

 シャオの口調は、もう既に『リン』が何を質問しようとしているのか分かっているようなものだった。

 

 その姿に。

 その、幼い容姿に。

 その、海色の瞳に。

 

 さっきから、ずっと『彼女』の姿がちらついていた。

 

「シズクって、何者なの?」

「…………」

「知っているでしょう? 貴方がシオンの弟だと言うのなら。あのシオンが、名前すら口にしない彼女を」

「……ああ――そうだね、彼女のことについて話すには、今しかないか」

 

 予想は、当たった。

 思わず心の中でガッツポーズを取る。

 

 やはりシャオは、シズクの正体について知っていた……!

 

「教えてくれ……これ以上、意味も分からず友達を疑いたくないんだよ」

「うん、分かった。……って言いたいところだけど、時間が無いから簡潔になっちゃうのはごめんね?」

 

 軽い口調で謝って、シャオは目を閉じる。

 

 言葉を、選んでいるのだろうか。

 やがてゆっくりと目を開けたシャオは、真面目な口調で言葉を紡ぐ。

 

「彼女は――――」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 龍祭壇の最奥地。

 

 さっきまでサラの手引きでシャオと『リン』が邂逅していた場所には、もう既に『リン』しか残っていなかった。

 

 シズクの正体について語り終えたシャオは、「もう本当に時間がないから」と去ってしまったのだ。

 同じくサラも去ってしまったので、『リン』は一人で立ち尽くしていたのである。

 

「…………」

 

 何をするわけでもなく、空を見上げている。

 

 気持ちを整理するように。

 心を落ち着かせるように。

 

「……もっと」

 

 呟く。

 おそらくは、自分に向けて。

 

「もっと、強くならなきゃなぁ」

 

 ぐいっと目元を服の袖で拭いて、『リン』は踵を返した。

 

「……今のままじゃ、全然足りない。ハッピーエンドを迎えるには、この程度の力じゃ駄目だ」

 

 歩きながら、端末を開く。

 アドレス帳を検索し、シズクの連絡先を開いて、

 

 着信拒否の、ボタンを押した。

 

「強くなってやる。誰だって、守れるように」

 

 そんな、誓いの言葉を呟いて。

 

 『リン』もまた、龍祭壇からテレパイプを使ってアークスシップに帰還するのであった。




シズクの正体が判明すると思ったか! まだもうちょっと先だよ!

ということで、何度も言いますが感想欄でのネタバレはしない派なので「シズクの正体が分かったぜ! ○○だな!」とか言われても誤魔化すことしかしないのであしからず。

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