お気に入りが既にいることに驚愕した。こんなに早くする人もいるんだね。
作者と次会うのはいつになるのやらと言う投稿者です。……まぁ、会えた時に次の話が出来ていることを祈りながら投稿しよう。
かつて村だった場所。えーりんと過ごしていた場所。月への移住に伴いただの平原となっていたが、此処から私は離れるつもりはなかった。それに平原だったのも何千年も前の話だ。黄色の花の種をまいて育てていた結果、一面に広がる黄色の花畑が出来上がっていた。
「一年に数本ずつ増やすとしても何千年と繰り返すと凄いことになるんだね」
最初の二、三本だったころが懐かしい。あれはあれで趣があったとは思うけど、私は今の花畑が好きだ。数が増えた分、世話をするのは大変だけど……目標もあるので苦痛ではない。
「あ、人が来た。最近多いなぁ」
長い間で人が生まれたと知った時は嬉しかった。でも、関わろうとは思わなかった。私の存在は異質だ。それは能力であるということもだが、それ以上に何万年と存在し続けたからだ。えーりん達は気にしなかったが、他の人間がそうであるとは限らない。むしろ、昨今の人間は異質な存在に怯えている節がある。
「……む」
花が珍しいのか花を摘もうとする人は何人かいる。そういう人から花を守るのも今では慣れたものだ。
存在する程度の能力は強弱がつけられる。とても弱くしてしまえば私を認識できるものはいなくなる。殆ど存在しない状態になるのだから当然だろう。そして、存在を薄くした後に、ターゲットに近づき、えーりんに学んだ睡眠薬を口に投げ込む。
「花を見るだけならいいんだけど……摘むのは見逃せないよ」
眠らせるのは簡単だ。えーりんの薬は効き目がいいし、妖怪であっても通用する。だけど、問題は眠らせた後だ。
「意識のない人間を運ぶのって大変なんだよね」
私の見た目は未だに幼い少女のままだ。えーりんと出会った時から何も変わらない。そのため、意識のない大きな人間を運ぶのは骨が折れる。とは言え、此処においておくことも出来ない。
「はぁ……」
私は大きくため息をついて、人間を引き摺ることにした。
黄色の花畑、向日葵畑は人里では有名だった。花織は村に入ったことはない。そのため噂に、ましてや有名になっているなど思ってもいないのだが、花畑に人が多く来るようになったのはそのような背景がある。
「おい、聞いたか? また、向日葵の守護霊が出たんだってよ」
向日葵畑は美しいだけではなく、怖い噂もある。男達はそのことについて噂話をしていた。その話に興味を持ったのか日傘をさした女性、風見幽香が歩み寄る。
「向日葵の守護霊?」
「おや? あんた知らないのかい? 向日葵畑には幽霊がいるんだよ」
「ふぅん、守護霊ってことは悪い奴ではないみたいだけど?」
「向日葵の守護霊であって一概に良いとも言えないんだよ。ただまぁ、向日葵を傷つけようとしないことだね」
言うまでもなく、花織のことなのだが、姿を見せることがないことから、幽霊だと言われていた。また、向日葵を守っていることから守護霊と言われている。
今では追い返すのに慣れてはいるのだが、初めての時は強力な薬を使ったため、数ヶ月寝たきりにした。後遺症などはないのだが、村人が怯えるには十分過ぎる事件だった。
「今晩あたり向日葵畑に行ってみましょうか」
「いやいや、今晩はやめておいた方がいい」
「それはまたどうして?」
「満月は幽霊が姿を現わすんだよ。泣き声を聞いたって奴もいる。今では満月の夜は誰も近づかない」
「へぇ、面白い話ね」
「っと、俺らはこれから力仕事があるんだ。いいか、満月の夜には向日葵畑に近付かないようにしろよ」
男達が去った後、幽香は一人で考え込む。
(今晩は向日葵畑には誰も近づかないのね。それはいいことを聞いたわ。幽霊と言われているのは妖怪か何かでしょうし問題はないわね)
幽香自身人間ではなく、妖怪だ。持っている能力は戦闘向きではないのだが、妖力と身体能力は高い。そのため、彼女に逆らえる妖怪は限られている。少なくとも彼女は彼女より強い妖怪をまだ知らない。
だからこそ、男性の忠告より彼女は自らのしたいことを優先させる。
「向日葵畑に行きましょうか」
まだ見ぬ花畑に心を躍らせて彼女は足を動かす。
幽香が向日葵畑に着いた時には辺りは暗くなっていた。
「これだと、起きている花も少な……?」
夜になれば花も眠りにつく。幽香が花と会話が出来るとはいえ寝ている相手には意味をなさない。そのため、会話は出来ないはずだった。
しかし、向日葵は一つの例外もなく、起きていた。数多の向日葵の中で一つか二つ起きていても不思議ではない。しかし全てとなると異常だった。
「何で起きているの……?」
『花織が月を見ているから』
『花織が泣いているから』
『花織が心配だから』
幽香のつい零してしまった問いに向日葵達は一斉に答える。花々は花織のことを思って起きているのだ。自分達を大切にしてくれる花織が心配だから起きているのだ。
何千年と花織を見た人間や妖怪はいない。しかし、花々はちゃんと花織を見ていた。自分達を育ててくれた花織を見ていた。
「その花織は何者なの?」
『何千年と大切にしてくれている人』
『何千年と守ってくれている人』
『大切な母親』
花織に目的があることを花々は知っている。しかし、そんなことは関係ないのだ。目的のためであろうと自分達を大切にしてくれているという事実は変わらないのだから。
「向日葵の守護霊のことみたいね」
『向日葵の守護霊?』
『花織は人』
「何千年と生きている者が人とは思えないわよ。妖怪でしょ?」
実際は何万、下手したら億と存在している。しかし、花織は人として存在しているため、花々は人であると認識している。
『花織は長生き』
『それでも人』
「へぇ、花織と言う人に会わせてくれない?」
普段なら花々は断っていた内容。花織が人と会わないようにしているのを花々は知っているので教えないようにしていた。
『私達の願いを叶えてくれるなら』
『花織の居場所を教える』
『教えてもいないと思うかも』
『見つけられないかも』
『それでいいなら教える』
「その願いって言うのは?」
『『『ーーーーーー』』』
「分かったわ」
花々の願い事に幽香は頷く。
『『『有難う』』』
夜空に浮かぶのは満月。あそこにえーりんがいるのだ。
「遠いなぁ」
あそこで皆生活しているのだろう。えーりんは医者として頼られているのだろうか。案外研究にのめり込んでいるかもしれない。
「……行きたかったな」
何千年という時が経っても変わらない思い。願い。決して叶わない願い。
「…………遠いなぁ」
手を伸ばしてみても月どころか、周りの向日葵を越すこともない。
「月からはまだ、見えないよね」
向日葵畑がいくら大きくなっても月からは見えないだろう。それに向日葵達は太陽の方を向いていて、月にはそっぽを向いているのだ。綺麗なところを見せるなんて不可能だろう。
「皆、何しているのかな?」
月にいる人で一番思い入れが深いのはえーりんだが、医者として活動していた私の知り合いは結構多い。そうでなくても、何千年と生活していたのだ。親しい人も何人もいた。
「皆、月にいるんだけどね」
後悔はしないと決めていたはずなのに、一人になったことを嘆いている。自分で選んだはずなのに、どうしようもなく悲しくなる。
「え? 本当に此処にいるの?」
考え込んでいる間にどうやら人が迷い込んだようだ。向日葵の背が高いため迷子になる人も時々いた。こんな深くに入ろうと思う人自体が少ないのだけど……。
振り向くとそこには日傘をもった女性が立っていた。……どうやら人ではなく妖怪のようだ。
「はぁ、いるけど見つからないね。本当みたいね」
いるけど見つからない? まるで私のことみたいだ。だけど流石にそれはないだろう。私は誰かに見つかったことさえないのだから。
「じゃあ、こっちも願いを叶えようか」
彼女が何かをするのなら、止めるべきだ。向日葵の害をなす可能性もある。だから私はいつものように睡眠薬を取り出し口に放り込もうとした。だが、まるで私の動きを捉えたかのように彼女は口を固く閉ざした。
見えている!? いや、それにしては私を見ていない。でも、困った。散布する薬もあるにはある。だが、向日葵に影響が出てしまう。
「花織いるんでしょう? 見なさい」
彼女が何故私の名前を知っているのか、そんなこと気にならない程のことが起きた。
「……あぁ、貴方達は私に気づいていたんだ」
向日葵が全て月に向かって咲いている。えーりんが見ているかなんて関係ない。私のために向日葵達がしてくれたのだ。
「……有難う、有難う」
涙が溢れて前が見えなくなる。えーりん、此処にもまだ私を思ってくれるものはいたよ……。
あれから向日葵に囲まれたこの場所で一晩泣き明かした。昨日の出来事が夢であったかのように向日葵達は今は太陽に向かって咲いている。
「昨日の妖怪さんにはお礼を言わないと……」
あの妖怪が何かをしてくれたのは確実だった。向日葵達にも一つ一つお礼を言うつもりだが、妖怪さんにも言いたい。
「それにしても妖怪か……。リンクスとは話してたなぁ」
妖怪達は陽気な者が多かった。驚かして笑って、驚かされても笑って、楽しいことが好きな者が多かった。昔の人と今の人が違うように、昔の妖怪と今の妖怪は違うことは承知の上だ。
それでも妖怪と言えばリンクスみたいな存在を思い出してしまう。
「どこにいるんだろう?」
向日葵は私よりも背が高い。私自身が低いというのもあるのだが、向日葵自体が高いというのも理由だ。周りを見渡しても茎の緑しか見えない。
こんな中で妖怪を探すのは一苦労だ。向日葵畑に存在している妖怪がいるのは確かだからどこかにいるはずなんだけど……。
「皆、元気に育ち過ぎだよ……」
「それは貴女が大切に育てたからでしょう?」
「きゃ!?」
後ろから聞こえた声に思わず飛び上がる。昨日も思ったのだが妖怪さんは私を見ることが出来ているのだろうか……。
「……本当に此処にいるの?」
……あ、どうやら見えてないみたいだ。なら、どうして私が此処にいると分かったのだろうか?
「貴女が私を探していると聞いたから此処まで来たのよ。姿ぐらい見せたらどうなの?」
「あ、うん」
私は能力を少し強める。きっとこれで妖怪さんにも見えるだろう。
「初めまして? 八意花織です。昨晩は有難う御座いました」
「御丁寧に有難う。私は風見幽香よ」
風見さんは私の頭に手を置き撫でてくる。私は風見さんより年上なのだけど……。
「聞いていた以上に可愛らしいわね」
「私は貴女より長い年月生きているのですが……」
「可愛らしさに年月は関係ないわ」
風見さんはどうやら手を止めるつもりはないようだ。えーりんにもされていたこともあり、私は頭を撫でられることは好きだ。気恥ずかしくはあるが自分から振り払うことはしない。
「それに私も随分と長生きをしている方よ」
それでも私よりは短いと断言出来る。何せ妖怪は一度いなくなっているのだ。それを確認した私よりも長いということはない。
「私から見たらまだまだ短い方だよ」
私以上に生きているのは月にいる人だけだろう。
「何千年生きているのかしら?」
「少なくとも単位が違うよ」
「貴女、本当に人なの?」
「人として存在しているのは確かだよ」
人ではないのだが、人として現在存在しているのは確かだ。それに長寿な人もいるだろう。えーりんとかは人でも数千年以上生きている。昔の普通であって、今の人では到底考えられないことだから納得はしてもらえないだろう。
「へぇ、まあなんでもいいや」
「気にしないの?」
「年月より人となりの方が私は大切だと思うわ」
「……有難う」
彼女は偏見なく接してくれるようだ。私の存在は特異だ。それを恐れるのは人だけではなく妖怪も私に恐れをなす。原因は姿を見せずに眠らせていくことなのかもしれないけど……。
「私がここで生活しても構わない?」
「え? う、うん。いいけど……、いいの?」
この向日葵畑に人はよく来るが会話できる相手はそういないだろう。孤独の辛さは知っている。ここにいるより村にいた方がいいのではないだろうか……。
「こんな向日葵に囲まれて生活してみたいのよ」
「そ、そう? なら、これからよろしくね」
「ええ、よろしく」
気が付けば幽香さんと共に生活することになっていたが、後悔はなかった。それどころか、二人となった生活をどこか楽しみにしている私がいた。
いつかくる別れまで、この親切で優しい妖怪と一緒に生活し続けよう。かつて、えーりんと共にいたように……。
呟きのコーナー!
コーナーの詳しい説明は割愛!
この作品はどうやら他の人に見せていたことがあるらしく、そのため投稿しているらしい。意味はよく分からん!
でも本当に意外だったのはお気に入りがあったこと。投稿者と言う立場でも喜んでしまった。こんな特殊な投稿の仕方をしているということもあっていないと思っていた。予想がはずれちゃたぜ!