Fate/Another Order   作:出張L

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四月馬鹿

 黒衣のランサーとの死闘は――――なんやかんやあって藤丸立香が勝利した。

 たいそう強敵だった黒衣のランサーは真名を名乗ることも脱落し、ついでになんやかんやあってデオンと燕青も倒した。

 それからまた燃えるラストバトルがなんやかんやあってルイ16世は撃破。絶対革命王政ヴェルサイユは藤丸立香とナポレオン・ボナパルト達の手によって修復されたのである。

 手に入れた聖杯を使っての聖杯転輪、聖杯枯渇による聖杯難民化、始まるメンテ、ガチャでの爆死。数々の苦難を経たカルデアが辿り着いたのは冠位時間神殿ソロモン。

 美味しい素材を求めた700万人のマスター連合のラフム化と、バルバトスの余りにも早い死という悲劇。それらを乗り越えて遂にカルデアは黒幕を倒し、人類の未来を取り戻したのである。

 

「いやぁ、魔神王ゲーティアは強敵でしたねぇ」

 

「呑気している場合じゃないですよ先輩! マーリンピックアップは12月31日の大晦日まで! それまでに召喚できないと次はいつピックアップされたものか分かりません!」

 

「フォウフォーウフォウフォウ!(意訳:最終決戦サボった癖にガチャでもでないなんて、あの引き籠り絶対に殴る!)」

 

「なんで最終章後なのにフォウの知能が残ってるんだい?」

 

「フォーウ!(意訳:こまけぇこたぁいいんだよ!)」

 

 最終決戦は終わったものの、カルデアに平穏は訪れてはいなかった。

 マーリンはグランドキャスター候補だけあって、あのFGOのミスター過労死こと孔明に匹敵する最強クラスのサーヴァント。これからの高難易度クエストには必須となることが予想されるガチ勢涎物の性能なのだ。

 きたるべき1.5章のためにもマーリンは絶対にゲットしておきたかった。

 

「くっ……! しかしガチャを回そうにもお金が……財布ポイントがもう限界なんだ! どうせ新年一発目にもいきなり期間限定鯖をぶっこんでくるだろうし、ここで来月分の資金に手を出す訳には。でもマーリンは欲しいし」

 

「ふふふふ。お悩みのようだね、藤丸くん。ここは私に任せておいてくれたまえ」

 

「ダ・ヴィンチちゃん! なにか考えがあるのか!?」

 

「じゃじゃじゃーん! ロマンの遺産~」

 

「そ、それは」

 

 ダ・ヴィンチが取り出したるは最終決戦でのことを予期していたロマンが、その後に残された者達のために残しておいた遺書だった。

 手紙には自分が死んだ後の諸々の事後処理の指示以外にも、自分の全ての遺産を藤丸立香に残すと書かれている。死んだ後まで自分達のことを気遣ってくれたロマンに、藤丸立香と財布が()くなるのを感じた。

 

「ドクターはやっぱりドクターだったんですね」

 

「ああ。ドクターは最高だよ。ドクターの遺志を継ぐためにも絶対にマーリンを召喚しよう。ほらドクターってマギ・マリのファンだったし!」

 

 出来ることならロマンの遺産はソロモン王ピックアップに全力投球したい。しかしくるかも分からないサーヴァントの実装を待つ愚は、FGO最初の一年間で身に染みて分かっている。

 目に見えないソロモンより目の前のマーリン。財布の糸は既にない。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! これが俺の、怒りの10連だぁぁあああああああああああ!!」

 

 まずは諭吉一枚ぶっこんでダ・ヴィンチ工房から石を購入。

 出てきたのは礼装ばっかに鯖が剣ジルとダレイオスの二人だけ。どちらとも当然のように宝具レベル5なのでマナプリ確定。

 更に諭吉をもう一枚ぶつこむ。だがマーリンは出ない。

 三度目の正直とばかりに三枚目の諭吉投入。出ない。

 四枚目投入。出ない。

 五枚目投入。出ない。

 そして六枚目――――召喚サークルに、待ち焦がれた虹の輝きが灯った。

 

「先輩!」

 

「ああ!」

 

 喜びに満ちたマシュに力強く頷く。

 虹の光が出てくるのは☆5の確定演出だ。となると問題はピックアップが仕事をするかである。

 ピックアップはあくまで可能性が一番高くなるだけで、決して他のサーヴァントが召喚されないわけではない。ピックアップ擦り抜けというやつは現実として召喚する。

 獅子王召喚しようとしたら青王が出たり。

 ゴールデン召喚しようとしたらドスケベ公が出たり。

 孔明召喚しようとしたら三蔵が出たり。

 ジャック召喚しようとしたらジャンヌが出たり。

 どれほどのマスターが擦り抜けによって泣いてきたか。

 演出が入ってから召喚されるまでの僅かな時間。藤丸立香は敬虔な信徒のように、ガチャの神へ祈りを捧げる。

 はたしてサークルから出てきたカードはキャスターのクラスカードだった。

 先ずは小さくガッツポーズ。しかしまだ油断はできない。恒常☆5キャスターはそこそこの数がいる。そっちが出てきたらこのガチャは失敗だ。孔明も、玉藻も、三蔵も既にこのカルデアには揃っているのだから。

 

「……頼む」

 

 縋るように目を開けた。

 

「こんにちは、カルデアのマスター君」

 

「――――!」

 

 第七特異点で聞いたあの声に、涙腺が緩む。

 召喚サークルにいたのは虹色の髪をもった魔術師。アーサー王伝説において名を騙られしキングメーカー、マーリン・アンブロジウス。

 

「やりましたね先輩! 長く苦しい戦いでしたけど遂にマーリンさんを迎えられました!」

 

「俺は今猛烈に感動している……っ!」

 

 諭吉の消費は結構多かったが、ロマンの遺産にはまだ余裕がある。

 この分ならばこれからの一年も戦っていけるだろう。

 

「私はマーリン。人呼んで花の魔術師。気さくにマーリンさんと呼んd………くr……」

 

「ん?」

 

 なにかマーリンの様子が変だ。いやマーリンは元々変だが、いつにも増して変だ。

 まるで時間が停止したかのように召喚サークルから微動だにせず、表情も凍り付いてしまっている。

 

「フォウ?」

 

「どうしたんだマーリン? これから絆レベルあげと種火のために周回いくんだから早く準備を」

 

「呼んkレアオイオナオイアニアgネイウギエングオイエンwングゥングwンgwンゴwンゴwノイゴイアノイgノンゴイエヲグェンkンgンヴォエンゴイエイオグェsナオkゴアエオゴイウェギオナオgノイアウェイオエオゲああぎえいおhぎおうぇんごいうぇぎおwんぎおねうぃおがいおんごいあんぎおあにおgねいおんggjbぐおいえrhぎうるgねういぎおwぎおwのwんぎうぇぎうぇんg」

 

「!?」

 

 バグったコンピューターのように突然意味不明の言語を喋り出すマーリン。それだけではない。マーリンの全身に黒いノイズが奔し出して、その霊基そのものを変貌させていく。

 マーリンの姿が消滅する。変わって出現したのは全身を聖なる衣に包み、真っ黒な仮面をした男だった。

 セイバーではない。

 アーチャーではない。

 ランサーではない。

 ライダーではない。

 キャスターではない。

 アサシンではない。

 バーサーカーではない。

 ルーラーでもアヴェンジャーでも、ましてやビーストですらない。

 霊基一覧に該当クラスはなし。

 未知のクラスの、未知のサーヴァントがそこにいた。

 

「なんだ……誰なんだ、お前は?」

 

「――――我は魔神王の先より現れ、滅び去った者。人理継続保証機関カルデアの過ちを断罪する者。2016年の末端に降臨し、2017年の行く手を遮る最後の使者。

 我が名を讃え、恐怖せよ。私は救世者(セイヴァー)のサーヴァント、ジーザス・クライスト。夢想永久機関パンドラより遣わされた最後の審判者である」

 

 仮面の男は囁くように、この世で最も信仰を集めた偉人の名を名乗った。

 それが魔神王を倒したカルデアと、救世主を名乗った男との戦い。2016年のカルデアの最後の戦いの始まりである。

 ジーザス・クライストの目的はこの人類史の焼却のみに非ず。彼は異なる根ではなく異なる幹、この人類史以外の別の編纂事象をも焼き尽くしたのである。

 特異点を通して育んだ絆は使い果たした。

 カルデアは完全なる孤軍。もはや味方はおらず、そしてカルデアには独力で救世者に立ち向かう術をもたない。

 ならばどうするか?

 諦めるというのは選択肢にはない。

 

「味方がないなら作るしかない。奴が焼き尽くした編纂事象も『特異点』と呼ぶべき基点がある。私は便宜上これを編纂特異点と名付けた。

 編纂特異点は全部で四つ。アメリカのスノーフィールド市、ルーマニアの都市トゥリファス、月の霊子虚構世界セラフ、そして日本の地方都市冬木。

 私達の目的はこれら四つの編纂特異点で協力者を集め、ジーザス・クライストを打倒することだ。2016年最後の戦いを開始する!」

 

 ここに異なる歴史を歩んだ、異なる主人公達が共演する。

 それは未来を手に入れる戦い。

 

 

人理定礎値 --

終末特異点:“偽りの救世者”AD.2XXX 夢想永久機関パンドラ

 


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