Fate/Another Order   作:出張L

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第17節  名乗る価値

 ヴェルサイユ市内がにわかに騒がしくなり始めた。義勇革命軍の作戦が開始したのだろう。

 それに合わせてロベスピエールやボナパルトも動き始めた。自分達も彼等と共に数日を過ごしたアジトに別れを告げる。

 

「……ルイは、俺達と一緒でいいのか? ここから先は危険なんだぞ。それに」

 

「前にも言ったでしょ。俺はパパとママのやろうとしていることを止めたいんだ。だから一緒に行くよ」

 

 自分達がこの特異点を終わらせてしまえば、ルイ・シャルルは逃れようのない死の運命に囚われてしまう。

 だから例え偽善と後ろ指さされようとも、その時が訪れるまでは両親と一緒に幸せに過ごしてほしい。そう思っていたのだがルイの決心は固いようだった。

 こういう頑固さはマリー譲りかもしれない。オルレアンで出会った彼女にも、こういったところがあった。

 

「分かったよ、一緒に行こう。絶対に傷つけはしないから」

 

「そうだ。ルイ・シャルルの身柄はフランス王に対する交渉材料になりうる。ここで捨てるには惜しいカードだ」

 

「アサシンさん! いくらなんでもその発言は見過ごせません。ルイくんは交渉の道具なんかじゃありません! この特異点で出会った私達の仲間で、友達です」

 

「誰が誰に友情を抱こうと自由さ。だが友人であることがカードにできない理由にはならないだろう。それが人理修復の最善策なら僕はなんであれ実行する。

 可愛い盾の騎士様はなにもしなくていいさ。汚れた仕事は、僕のような薄汚れたサーヴァントの仕事だ」

 

 ルイのことを道具扱いするアサシンの発言にマシュが義憤するが、当のアサシンは柳に風だった。やはり義勇革命軍にルイの確保を提案していたのもアサシンなのだろう。

 α特異点で戦った始皇帝と同じだ。彼は感情ではなく合理性でしか説得できないのだろう。

 

「二人とも、問答ならば後でやってくれ。それより早く脱出しよう。義勇軍の数はそう多くない。陽動も余り長時間は無理だろう」

 

「マシュ。今は作戦を優先しよう」

 

「……分かりました、先輩。すみません、お手を煩わせて」

 

 やはりマシュにはまだ迷いがあるのだろう。グランドオーダーをこのまま遂行して、ルイの命を見殺しにすることに。

 自分だって覚悟を決めた今でさえ完全に迷いを払拭できたと断言出来ないのだ。それは人として当然の感情である。どんな理由があろうと、誰が好んで子供の命を奪いたいと思うものか。こんな貧乏くじは誰だって引きたくない。

 だからこそマシュにそれをやらせる訳にはいかないのだ。もしも直接手を汚すようなことになったならば、それはマシュではなく自分の務めである。

 

「ハーハハハハハ――――おっと失敬失敬。陽動班と違って目立つの厳禁だったね。皆こっちだよ!」

 

 パニックに陥るヴェルサイユ市を後目にして、ボナパルトの背中を追って走る。

 トリスタン達は上手くやっているようだ。市内にいるフランス兵は暴徒化寸前の市民の抑えと誘導で手一杯で、ひっそり市内から脱出しようとしている自分達にまで気が回らないようである。

 

「予想的中。悪ぃがこっから先は通行止めだ、脱出は禁止だぜ」

 

 順調だった脱出劇は一人の侠客の出現によってぶち壊された。

 闇夜に溶け込むように潜んでいた燕青が、魔拳をもって自分の頭蓋を砕こうとして、寸前で割って入ったマシュの盾に弾かれる。

 

「同じ手で二度もやられません。ましてや狙いが先輩であれば尚更です」

 

 盾によって拳が止まった隙をつくように、アサシンが容赦なくサブマシンガンを照準して発砲する。銃口からばら撒かれる9㎜弾を、アサシンは驚異的視力で弾道を読んで回避していった。

 

「おっと! サブマシンガンとはサーヴァントにしちゃ珍しい得物を使うねぇ。この性能の銃が出回る時代には〝英霊〟なんてそうそう誕生しないはずなんだが、お宅どこの何者だい? 真っ当な英霊じゃないだろう」

 

Time alter(固有時制御) ―― double accel(二倍速)!」

 

「問答無用ってかい、遊びがないねえ」

 

 アサシンの動きが目に見えて増した。二倍の速度で動くアサシンの銃とナイフを交えた高速戦闘をしかし、燕青は平然と対応していく。

 固有時制御。読んで字のごとく時間操作魔術の一種である。本来時間操作は入念な下準備を必須とする大魔術であり、戦いには不向きだ。それをアサシンは効果範囲を自分の肉体のみに限定することで、詠唱を最小限にして戦闘での活用を可能にしているのだろう。

 暗殺者(アサシン)でありながら彼は魔術師(キャスター)でもあるらしい。武器にしているキャレコM950といい真名が気になるサーヴァントである。

 

「フフフ。伊達男の燕青くん。彼に遊びがなさ過ぎるのは全面同意だけど、そういう君には遊びをする余裕があるのかな」

 

「私達の作戦を見抜いた慧眼は見事ですけど、貴方一人というのは先走りましたね」

 

 残念ながらこの場に一分一秒を争う脱出作戦中に、一騎打ちに徹しようなどという殊勝な考えの持ち主はいなかった。

 ボナパルトとメフィストが遠慮なく大砲と呪術でアサシンの援護射撃をする。隔絶した武術家である燕青にとって砲弾の雨も、呪術の牙も逃れられぬほどのものではない。けれどアサシンを相手にしながら、尚且つ二つ同時というのは流石の彼でも厳しかった。

 

「ぐおっ……!」

 

「今だ。燕青、死ね!」

 

 攻撃を受けて怯んだ燕青に、止めを刺すべくロベスピエールがギロチンの二刀流で襲い掛かかる。

 ロベスピエールは革命家として自分より過去の神秘に対して、ギロチンは悪属性に対して其々特攻効果があった。属性が悪でロベスピエールより過去の時代に属する燕青は二重に特攻がかかる。直撃すれば一溜まりもないと強引に身を捻って処刑刀を躱した。

 結果としてギロチンの刃は首ではなく、燕青の肩を切り裂くに留めた。

 

「危ねぇな。斬首なんざご主人の悪夢だけで腹一杯だっての」

 

 飄々と言う燕青だが態度ほどに余裕はないだろう。

 燕青は決して弱いサーヴァントではない。中国武術の一つである秘宗拳の開祖とされた燕青は、本来マスター殺しに特化したアサシンのサーヴァントでありながら、三騎士と真っ向から戦えるほどの武勇を有している。一対一で戦えば苦戦は免れなかっただろう。

 しかしこちらにはマシュ、ボナパルト、ロベスピエール、アサシン、メフィストフェレスで五人ものサーヴァントがいる。残念ながら燕青はサーヴァント五人を同時に相手取れるほど規格外の実力は有していなかった。

 だからこそ五人のサーヴァントの猛攻に二分も経たずに燕青が追い詰められてしまったのも当然のことだった。

 

「ったく流石に多勢に無勢か。狙いが読めても先走りが過ぎたかねこれは」

 

「確か燕青だったね。悪いけど私達は時間が押している。ここで死んでもらおうか」

 

 二分程度で追い詰められたということは、逆を言えば二分間も時間を稼がれてしまったということである。一刻も早くヴェルサイユ市から脱出しなければいけない自分達にとって二分間は地味に多い時間だ。

 だがその二分間で燕青という敵サーヴァントを倒せたのならば決して無意味ではないだろう。止めを刺すべくロベスピエールが断頭台を落とそうとする瞬間だった。

 

「――――っ!」

 

 地を這ってくる雷刃が、燕青の命を繋ぐように割って入った。

 ゆっくりと地面を踏み締めながら歩いてくるのは、ヴェルサイユ宮殿においてその規格外の武力を垣間見せた黒衣のサーヴァント。両手に握られた鉄鞭は高圧の雷を纏い、眼光は鬼神の如く。

 もしかしなくても燕青の加勢に現れたのだろう。

 

「デオンの奴に言われてきてみりゃ、まったく不甲斐ないなぁ浪子。策を見抜いたのは見事なもんだが、その後の行動がお粗末だ。らしくもなく功を焦ったか?」

 

「すまないねぇ旦那。うちの軍師様みたくうっかりかましちまったよ。悪いが見ての通り結構な痛手を喰らっていてね。ちっとばかしやることも出来たし、ここは任せてもいいかい?」

 

「……そういうことか。いいぜ、好きにしな。こいつ等は俺一人で揉んでおいてやる」

 

 燕青に代わって五対一の不利過ぎる戦いに臨もうとしている黒衣のサーヴァントには、しかしまったく焦りらしいものは見受けられなかった。

 きっと彼はこういった無茶な戦いを平然とこなしてきた英雄なのだろう。

 

「あれがムッシュ藤丸くんの言っていたサーヴァントか。ライダーやアサシンって感じじゃあないし、弓と剣も持っていない。ということはランサーかな。キャスターの適正もありそうだけど」

 

「否定はしねえよ、俺の真名なら好きに推理しな。名乗りたくなるような(おとこ)もいねえし、俺は奴と契約したサーヴァントとしてやることをやるだけさ」

 

 どこか冷めた態度で鉄鞭を構える黒衣のサーヴァント……ランサー。

 彼に熱意がないのは単にマスターに不足があるからだけではないだろう。彼はたぶん聖杯や人理などよりも、自身の魂を震わす強者との戦いを求めている英霊だ。

 だが一口に強者といっても種類がある。彼の欲する強いサーヴァントというのはランスロットや呂布のようなタイプで、オジマンディアスやニコラ・テスラといったタイプではないのだろう。

 この場にいる五人の中で一番強いサーヴァントはナポレオン・ボナパルトである。しかしボナパルトはオジマンディアスのように宝具とスキルに秀でた指揮官系サーヴァントであって、黒衣のランサーの趣味には合わないのだ。

 

「僕のような貴公子(プリンス)を捕まえて名乗るに値しないとは素敵な挑発だね。だったら僕はそれに対抗して、高らかに名乗りをあげようじゃないかッ!

 僕の名は、ナポレオン・ボナパルトッ!! フランスの英雄にして欧州に咲き誇った大輪(ソレイユ)!! 人類史において最も華麗なるプリンス!! それがこの僕、ナポレオン・ボナパルトなのさ!! 大事なことだからもう一回! 僕の名は――――」

 

「やかましい」

 

 無造作に振われた鉄鞭がボナパルトを叩き潰した。

 何故だろう。味方がやられたはずなのに、黒衣のランサーに拍手したくなった。

 

 




【出典】???
【CLASS】ランサー
【マスター】ルイ16世
【真名】???
【性別】男
【身長・体重】210cm・110kg
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力A+ 耐久B 敏捷A 魔力E 幸運C 宝具A

【クラス別スキル】

対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【固有スキル】

無窮の武練:A+
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

勇猛:B
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

神性:B
 神霊適正をもつかどうか。


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