Fate/Another Order   作:出張L

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第5節  テロリストの正体

「王太子殿下。よくごご無事で、シュヴァリエ・デオン、お迎えに参りました」

 

 颯爽と馬上から降りたデオンが、ルイの前にくると膝をつく。

 デオンの麗しの風貌とルイの幼君としての風格も相まって、それはまるで絵画から抜け出てきたかのような光景だった。

 

「■■■■……」

 

 隣にファンタジー小説から這い出してきたかのような筋肉粒々の巨人がいるせいで、全てが台無しになっていたが。

 狂えるオルランド、またの名を聖騎士ローラン。アーサー王伝説に並ぶ騎士道物語、シャルルマーニュと伝説の聖騎士に登場するシャルルマーニュ十二勇士において筆頭を務める最強の騎士だ。その強さはアーサー王にすら匹敵しうるだろう。

 トリスタンがあっさり撤退を選んだのも、彼との交戦を避けたかったからに違いあるまい。

 

「えっ? 迎えにきた……? 俺を?」

 

「はい。突然殿下が宮殿よりお姿を消されて以降、陛下と王妃殿下の勅命を受け捜索の任についておりました」

 

「そ、そうなん、だ……じゃあやっぱり俺のパパとママはこの国の王様なんだ……」

 

「殿下?」

 

 シュヴァリエ・デオンがルイに向ける忠誠心は傍から見ても疑いようないほど真摯なものだ。けれど今のルイには無条件の忠誠というものが恐いものとして映ってしまうのだろう。

 ルイの怯えた態度にデオンが疑問の顔を浮かべる。

 

「デオンさん。実はルイく……いいえ、殿下は記憶喪失のようなんです。自分の名前以外はなにも思い出せないようで」

 

「記憶喪失? なるほど、そういうことだったか」

 

「デオンには何か思い当たることが?」

 

「いや、こちらの話だ。忘れて欲しい」

 

 明らかに事情がありそうな顔だ。

 突っ込んだ内容を聞きたいところだが、デオンには話してくれそうな気配はない。まさか殴って聞き出す訳にもいかないし、今は諦める他ないだろう。

 

「それより私達はこれより殿下を陛下の所へお連れしなければならない。殿下の行方が分からなくなり、陛下と王妃殿下も随分と心配しておられたから、早く安心して頂かなければならないからね。

 出来れば君達にも同行して欲しい。きっと陛下と王妃殿下もお礼を言われたいだろうし、この時代のことで話すことも色々ある。それに、」

 

「…………」

 

 ルイはデオンを警戒しているのか、自分とマシュの後ろに隠れたままだった。

 

「私達だけだと殿下を恐がらせてしまいそうだ」

 

「■■■■…」

 

「なに? 恐がらせているのは私だけ? 自分のようなハンサム男が子供に恐がられるはずがない? 鏡を見ろ。理性が完全蒸発した君は、物語に出てくる鬼人(オーク)そのものだ」

 

「■■■■■■!」

 

「声、分かるんですね。デオンさん」

 

「なに。彼の元同僚のアストルフォからコツを教わってね。名に違わぬ困った人格だが素晴らしい騎士だったよ。テロリストの奸計によって討たれたのが残念でならない。

 それで話を戻すと、同行には賛成してくれるかな?」

 

「先輩、どうされますか?」

 

 顎に手をやり考える。連れ去られた子供を、親元に返す。これ自体はなんの問題もないことだ。

 だがこれまで特異点を旅したことで磨かれた勘というべきものが、自分に警戒するように告げている。油断するなと、安易に流されるなと。

 

「元々ヴェルサイユへ行く予定だったんだ。一緒に行こう」

 

 悩んだ末に自分はそう答えた。

 断ったところで行く先なんてないし、断る理由も見当たらない。それに勘ではなく、物事は自分の目で見て判断するべきだろう。例えそれがどれほど残酷な運命であろうとも。

 

「ルイく……殿下のことも心配だしさ。殿下もそれでいいかい……じゃなくて、ですか?」

 

「お兄さんとお姉さんの言うことならもちろん信じる。だけど」

 

「けど?」

 

「もし我が儘が許されるならなんだけど、殿下なんて呼び方は止めて欲しいんだ。なんだか壁を作られちゃったみたいで寂しいから」

 

「えーと」

 

 自分としても堅苦しい呼び方はせずフランクにいきたいのは山々だが、そう簡単にはいかないのが社会というもの。

 頼み込むようにデオンへと視線を向ける。

 

「ふふ。こういうところはマリー……こほん、王妃様譲りだね。殿下が許されたなら、私は目くじらをたてる気はないよ。君達は王家に仕える者ではないしね。

 ただ色々と人目のある場所では自重して欲しい。この手のことに口煩い人間がいるのは、いつの時代のどこの宮廷だって同じだからね」

 

 さすがは男で女でもあるデオン。柔軟な対応だ。

 この時代のフランス騎士である彼/彼女の許可も得られたことだし、もう変な遠慮をする必要はないだろう。

 

「ありがとう。それじゃこれからもルイ君って呼ばせてもらうよ」

 

「うん。良かったよ! 俺もお兄さんやお姉さんとは仲良くなりたいしね! これからも宜しくね」

 

「こちらこそ宜しくお願いします、ルイ君」

 

 ルイを前にしていると、前回のルシュドを思い出して頬を緩む。もしも同じ特異点にいれば信仰の垣根などなく、良い友達になったかもしれない。

 暖かくなった風を浴びながら、そんなことを考えた。

 

 

 

 ヴェルサイユへの道中は比較的平和だった。

 途中特異点化の影響で出現したエネミーが襲ってきたり、兵隊が徒党を組んで襲ってきたりはしたが、それくらいスフィンクス軍団と比べれば誤差のようなものである。

 

「ところでデオンさん。一つ尋ねても良いでしょうか?」

 

 エネミーを倒し終えて手持無沙汰となったマシュが、横で馬を駆るデオンに言った。

 

「なんだい。私に答えられることなら一つと言わずに何でも答えるよ」

 

「〝テロリスト〟というのは、どんな集団なのでしょう? サー・トリスタンとアマデウスさんがあちら側に参加しているので、私には言葉通りの集団とは思えないのですが」

 

 それは自分も気になっていたことだった。

 普通に考えればデオンと同じ陣営にいるべきアマデウスが組していることもそうだし、反転していないサー・トリスタンは高潔な騎士である。単なるテロリストにつくとはどうにも思えないのだ。

 

「いいや、言葉通りのテロリストだよ。彼等は国家転覆を計り、あの手この手でフランス王家に打撃を与えてきている。連中は革命義勇軍なんて自称しているけどね。

 奴等のせいで私達の仲間が何人も犠牲になった。アストルフォ、テュルパン、桂小五郎、佐々木小次郎、エイリーク。そして源頼光。全員が得難い戦友達だったというのに……。あんな連中に組することができるアマデウスの心が、私には遠いよ」

 

 デオンが名を呼んだのは誰も彼も一癖も二癖もあるサーヴァントばかりだ。特に平安時代最強の神秘殺し源頼光は、大英雄に相当するサーヴァントである。

 幾らトリスタンとアマデウスのコンビが強いとはいえ、彼等だけでこれらの面子を倒すのは不可能だろう。

 

「サー・トリスタンは自身を『誰かに仕える者』と言いました。教えてください、テロリストの首魁は何者なのですか?」

 

「一人はロベスピエール、マクシミリアン・ロベスピエールさ」

 

「……ロベスピエール? 授業で聞いたことがあるような、ないような」

 

『はぁ。藤丸くんのために説明すると、ロベスピエールっていうのは、フランス革命を代表する革命家の一人だよ。恐怖政治を実行したことから、史上初のテロリストとも呼ばれているね。まぁロベスピエールは法律と秩序を重要視していたから、現代のテロリストとは意味合いが違うのだけど』

 

 ロマンに説明され、埃をかぶっていた記憶板が洗われる。

 マクシミリアン・ロベスピエール。やはりフランス革命の授業で聞いた名前だった。思い起こされた記憶に間違いがないなら、クーデターにより逮捕され処刑されるという最期を迎えたはずである。

 

「ただロベスピエールはどちらかというと象徴的リーダーで、実質的に義勇軍を統率しているのはもう一人の首魁さ」

 

「それは、誰なんだ?」

 

「君達も聞いたことがある筈だよ。なにせ君達の時代で彼の名前を知らない者は、問答無用で常識知らずの烙印を押されるほどの人物だ。正しい人類史でのこの年代では、まださしたる名声などないけどね」

 

 この時代にはまだ無名の、けれど現代では名も知らない者のいない有名人。

 歴史に敏くない自分でもここがフランスであることと、これだけのヒントを出されれば一人の名前に辿り着くのに時間はかからなかった。

 

「まさか……テロリストのボスはナポレオン!?」

 

「ああ、そうだよ」

 

 とんでもない英雄が出てきてしまった。ナポレオン・ボナパルトといえば、英雄の代名詞とされるほどのフランスの国民的英雄である。

 純然たる知名度においてならばジャンヌ・ダルクやヘラクレスすら、彼には一歩譲らざるをえないだろう。

 芸術とまで称された戦争手腕、あらゆる不可能を踏破する実行力、天運を己に引き寄せる幸運。間違いなく全てがトップクラスの強敵だろう。

 

「けど厄介な敵はボナパルトだけじゃない。アマデウスとサー・トリスタンもそうだが、一番恐いのは正体不明の謎のアサシンだ」

 

「正体不明ってことは、真名が分からないのか?」

 

「残念ながらね。たぶんかなりマイナーな英霊で知名度そのものは皆無に等しいはずだ。霊格だって円卓の騎士のトリスタンを鳳凰とすれば烏が精々だろう。

 だが兎にも角にもあのアサシンは手段を選ばない。狙撃、毒殺、公衆の面前での爆殺、果ては人質に建物ごと爆破。とても英雄とは思えない方法で、奴はこちらに最大の損害を与えてきた。王太子殿下を攫おうとしたのも、あのアサシンの奸計だろう」

 

 話を聞いているだけで『不味い』と分かるサーヴァントだ。

 同じテロリストでもロベスピエールとは現代の意味合いとは異なるらしいが、このアサシンの戦い方は完全にテロリストそのものである。

 明らかに英雄らしからぬ戦い方といい、もしかしたら反英雄なのかもしれない。

 

「そうだ。念のために聞いておくけれど、古の王が眠る城というものに心当たりはあるかい? 奴の居城らしいんだが」

 

「いえ。心当たりはありませんが……ドクターはどうですか?」

 

『うーん。そのまま受け取るとたぶん亡くなった昔の王様が埋葬されている城っていう意味なんだろうけど』

 

「生憎と目ぼしい場所は片っ端から捜索済みだよ。ボナパルトどころかテロリストの痕跡すらなかったけど」

 

『じゃあ特異点化の影響で本来その時代にない城が出現していたりするんじゃないかな。前回の特異点なんてピラミッドにキャメロットにアトラス院になんでもありだっただろう』

 

「ありがとう、参考になったよ。陛下にお伝えしておこう」

 

 そうこう話していると目的地であるヴェルサイユが見えてきた。

 いよいよ王と王妃との対面である。うち王妃(マリー)とは再会ということになるのだろうか。

 緊張を押し殺すように、生唾を呑み込んだ。

 

 




 もう直ぐ「亜種特異点Ⅰ 悪性隔絶魔境 新宿 新宿幻霊事件」が開幕ですね。
 安定のメンテ延長になりましたが、最初期の地獄を生き抜いたFGOユーザーはそんなことは事前に予想していたので驚きはありません。むしろ平常運転です。
 これまでの傾向から判断するにメンテは23時頃には終わると思います。もしかしたらメンテが終わった後にメンテが始まるかもしれませんが、そうなったら詫び石が増えるとポジティブに受け止めましょう。
 あと次の投稿は新宿の影響で遅くなると思いますのでご容赦下さい。
 読者の皆様のガチャに幸運が訪れることを祈って。では。

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