テストが終わり次第執筆を再開致しますので、ご了承ください。
「みんなで新作メニューを作ろう!私、パン作れるからみんなでパン作りだよ!」
「オーブンとかあるのか?」
八幡は呆れたようにチノに尋ねる。
ココアの性格は、八幡も大体理解しているので、八幡も即座に否定することなく対応する。
「はい。昔、お爺ちゃんが調子に乗って買ったのが」
「よーし!じゃあみんなでパンを焼いて食べよう!」
ココアが高らかに宣言すると、カウンターに立つリゼから、くきゅるるる、という音が。
「リゼちゃん、焼きたてパンはすっごい美味しいよ!」
「わ、分かってるよ!!」
リゼは顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「まあ、生理現象だから」
八幡は笑いながらリゼに告げる。
「う、うるさい!お前はデリカシーというものを知らないのか!」
八幡はリゼにバシバシと叩かれ、逃げながらココア、チノと共にキッチンへ。
「よろしくね、八幡くん」
「なんで千夜がここに?」
「ココアちゃんに一緒にパン作りしようって誘われたの」
キッチンに移動したところで、ココアが千夜を連れてきたことに疑問を持つ。
だが、ココアとしては、八幡と千夜が知り合いだったことが気になるようだ。
「八幡くん、千夜ちゃんと知り合いなの?」
「ああ、まあな」
「私たち、友達なのよ?」
「それは俺も初耳なんだが……」
八幡の周りには他人を振り回すタイプの女性が多く、八幡も少しずつ扱いに慣れてきたようで、流すのが得意になってきている。
「ココアさん、この人は?」
チノ、リゼはラビットハウスに来たことあるとはいえ、千夜のことを知らない。
「この子は千夜ちゃん!友達なんだ!」
「よろしくね♪」
「よろしくお願いします」
「あら?それ、ワンちゃん?」
千夜はティッピーに興味を示し、的外れなことを口にする。
「ティッピーです」
「この子はただの毛玉じゃないんだよ!モフモフ具合が格別なの!」
「癒しのモフモフアイドルなのね」
「「誰かアンゴラうさぎって品種だって教えてやれよ」」
チノまでがティッピーについて特に説明もないので、八幡、リゼはいつも通り三人に突っ込む。
自己紹介が終わったところで、早速パン作りに取り組む五人。
「それにしても、ココアがパンを作れるって意外だよな」
「私の家はパン屋なんだ!ベーカリー保登っていって結構人気なんだよ!」
「へ、へえ」
いきなりココアが熱く語り始めたので八幡は聞き流しておく。
「それはさておき、パン作りは少しのミスが完成度を左右する戦いなんだよ!」
「こ、ココアが熱いな!じゃあ、今日はお前を教官役に任命だ!」
「任せて!」
サー、と敬礼しながらココア、リゼが調子に乗り始める。
それにより、冷静な二人と、天然な一人はそれぞれ別々の言葉をつぶやく。
「暑苦しいです」
「リゼがボケに回ったらツッコミの人手がたりねぇな」
「私も仲間に」
三者三様、最早ラビットハウスでのココアの突発的な行動を起こすことに早くも慣れつつあるのだった。
「さて、みんなはパンの材料は何を持ってきたのかな?私は焼うどんパンを作るよ!」
「私は冷蔵庫にあったイクラと鮭と納豆を」
「私は自家製あずきと梅、海苔を持ってきました」
「俺は練乳を」
「私はマーマレードと、いちごジャムなんだが。これ、パン作りだよな?」
リゼ以外まともな材料を持ってきていなかった。
急遽作ることになったのだから仕方がないといえばそうなのだが、それにしてもまともな材料がない。
が、なんとかなるだろうとリゼ以外の全員がそう思っていた。
結果から言えば、なんとかなった。
それぞれがユニークな材料を使用して作ったパンだったが、ココアの指導もあり、スムーズに作業を行うことができた。
現在はオーブンで焼いているので、それぞれが、オーブンを覗いていたり、疲れていたり。
「おじいちゃんが焼かれています」
おじいちゃんパンなるパンを作ったチノがなんともバイオレンスな方向に誤解されそうな事を言っている。
「ふぅ、やっぱりパン作りは楽しいね」
本日のMVPであるココアが満足げにしている。
「ふう、疲れたけど楽しかったわ。今日は誘ってくれてありがとうねココアちゃん」
そんなココアに千夜はお礼を言うため、座り込んでいたところを立ち上がりココアに寄る。
「どういたしまして!」
「八幡くんともそれなりに話せたし」
千夜はそれとなく八幡に視線を送る。
ココアもそれに釣られて八幡の方を見る。
「おい、なんでこの流れで俺?二人でワイワイキャッキャやっとけよ」
「あら、寂しそうだったから声をかけてあげたのよ?」
「寂しくはないな。特にココアとかが騒がしくて」
「私そんなにうるさいかな!?」
「ココアちゃんはうるさいっていうより賑やかで明るいって感じよ」
「そ、そっか。よかった」
ココアは自分がうるさく嫌われている物かと邪推してしまったが、千夜のフォローにより、ほっとする。
「まあ、結局のところうるさいんだけどな」
「やっぱり私うるさい!?」
「八幡くん、せっかくココアちゃんが傷つかないように言ってあげたのにダメじゃない」
「千夜ちゃんの優しさが今は痛いよ」
シクシクとココアはチノの方へと慰められに行く。
リゼはコーヒーを淹れると言ってカウンターへと向かったので、会話は必然的に千夜と八幡の二人になるわけで。
「シャロちゃんが友達になったって言ってたからどんな人か気になってたのよね」
「期待はずれもいいところだろ?」
自虐的に八幡は微笑む。
だが、千夜はフルフルと首を横に振る。
「そんなことないわ。男の人があんまり得意じゃないシャロちゃんが友達になれた理由が分かったわ」
「何かしたか?」
「今日、パン作りの時、ずっと周りに気を配ってたでしょ?」
「ぼっちは人間観察が趣味なんだよ」
「それにしてもさりげなくココアちゃんの指導が滞りなく進むように材料を用意してたりしたでしょ?」
「よく気がついたな」
確かに八幡はリゼと共にココアのサポートに徹していた。だが、基本的に八幡はリゼの陰に隠れ、目立つようなことはしていなかった。
「ふふふ。さりげなく優しいところ、女の子的にポイント高いわよ?」
「あれ?なんで千夜もポイントとか言ってんの?流行ってんの?うちの妹もポイントとか言うんだが……」
「あらそう?その妹さんとは仲良くなれそうね」
「止めてくれ」
千夜と小町が意気投合した時、八幡が一番被害を受けるのは目に見えていたので、八幡は拒否。
「でも、妹さんの前に八幡くんと友達にならなきゃね」
「は?なんでいきなり」
「だって、八幡くん、私の事、友達だって思ってないでしょ?」
「まあ、ココアの友達だから、友達の友達だな」
「やっぱり。だから、ね?私と友達になりましょう?」
「………分かったよ」
こういう場合、基本的に八幡には拒否権が存在しない。
が、八幡は表に出している嫌そうなオーラの割りに、本心では嫌がっていない。
「ふふっ、じゃあ、よろしくね?」
千夜は八幡に先ほどまでのような小悪魔的な笑顔ではなく、年相応の可愛らしい笑顔でそう告げるとココア達の方へ。
「……最近、プロのぼっち失格かなって思い始めた」
不意に八幡の口からそんな言葉が漏れた。
だが実際、この頃八幡には友達が五人も増えた。
これはぼっちの八幡からすれば、大きな進歩であり、八幡をぼっちたらしめていた物が消えたということである。
「いいことだろ?」
「リゼ、……コーヒーは?」
「ああ、忘れてたよ。で?どうだ?ぼっちを卒業した気分は」
「……悪くない。リゼ、わざと俺と千夜を二人にしたな?」
「ココアとチノは自然に二人くっつくけど、私があの場にいたら邪魔だったろ?」
「そうでもないさ」
「そうか?」
「そうだ」
リゼのさりげない心遣いに、八幡は感謝しつつ、焼きあがるパンの美味しそうな匂いに、グゥゥ、と腹を鳴らせた。
「焼きたてのパンは美味しいらしいぞ?」
先ほどの仕返しのように、笑みを浮かべてリゼは八幡にそう言った。
「うるせーよ」
八幡は恥ずかしそうにそう言った。