「この店、ラビットハウスでしょ?どうしてうさ耳付けないの?」
不意にココアの口からそんな疑問が放たれた。
「そんなことしたら違う店になってしまいます」
八幡もチノの意見に全面的に同意だが、ココア、チノ、リゼのそんな姿も見てみたいと思ってしまう。これでも男子高校生、仕方がないのだ。
「リゼちゃんはうさ耳似合いそうだよね」
「付けないぞ」
リゼはそうココアに答えてから少し黙り何かを考える。
すると唐突に顔を赤らめ叫んだ。
「露出度高すぎだろ!」
「え!?なんの話!?」
理不尽なツッコミに驚くココア。
ココアは理解できていないようだったが、八幡は分かった。
(バニーガールでも想像したな)
だが口には出さない八幡。
口に出そうものなら拳が飛んでくる可能性があり、下手をすれば銃を向けられる。
「ん?でも、じゃあどうしてラビットハウスって名前なの?」
「それはティッピーがこの店のマスコットだからだろ?」
「ぱっと見うさぎじゃねぇけどな」
「もふもふだし、可愛いから大丈夫だよ!でも、それだとラビットハウスよりももふもふ喫茶の方がよくないかな?」
「「安直だな」」
八幡、リゼが声を揃え即答。
だが、チノはお気に召したようで目をキラキラさせている。
「まあ、店名はラビットハウスのままでいいだろ。そんなことよりココア、ラテアートやってみないか?」
リゼが話をそらすと同時に興味のありそうなことでうまく気をそらす。
案の定、ココアはラテアートに大きな興味を示す。
「らてあーと?アート!?私、これでも金賞を貰ったことがーー」
「小学校の時町内会でーとか言うなよ」
八幡が先に釘をさすと、ココアは顔を俯かせ無言に。
図星だったようだ。
「そう言えば、八幡もやったことなかったよな」
「俺はコーヒー自体そんなに触らないからな」
八幡の基本的な仕事は接客。
コミュ障のぼっちであるはずの八幡がなぜそんな仕事をやっているかは本人もイマイチ理解していないのだが、それで今までやっていけたのだから問題ないだろう。
「ほら、手本としてはこんな感じだ」
そう言ってリゼが見せてきたのは花が描かれたコーヒー。
店で出すには十分な出来だろう。
「うまいな」
八幡は飾り気なくリゼを褒める。
するとリゼは明らかに照れた様子で答える。
「そ、そうか?」
「そうだよ!リゼちゃん、もう一個作って!」
「しょ、しょうがないなぁ」
バ、バ、バ、と効果音が付きそうなほど手際よくコーヒーに絵を描いていく。
「ど、どうだ?」
今度は戦車が描かれたコーヒー。
だが、先ほどのものとはクオリティが段違い。
最早プロレベル、なんならこれを生業にして生きていけるかもしれない。
「う、上手すぎるよ、って言うか人間業じゃ……」
「リゼの趣味全開なのが気になるけどな」
「う、うるさいな!ほら、お前らもやってみろ」
リゼに言われ、八幡とココアはコーヒーにミルクを垂らす。
八幡、ココア、ともに四苦八苦しながら描いたうさぎの絵は不恰好なものだった。
「………可愛い」
「は?」
だが、不恰好ながらもその絵はリゼの心を射止めたようだ。
ボソリとつぶやかれた言葉は八幡の耳に届いた。
だが、ココアには聞こえなかったようで、笑われたと勘違いしている。
「ち、チノちゃんはどう?チノちゃんはこういうの上手そうだよね」
「私ですか?私はーー」
ココアに勧められチノもコーヒーに絵を描いていく。
そして描けた絵はーー、
「チノちゃんも私たちの仲間だね!」
「「いや、それは違う」」
ピカソの描いたような絵に仕上がった。
それも見て八幡とリゼはまたもや声を揃えてツッコミを入れる。
案外、この二人は波長が合うのかもしれない。
○
バイトの時間は終わり、全員が着替え終わると、リゼが寂しそうな顔をしているのを八幡は見逃さなかった。
「どうした?リゼ」
「いや、チノとココアがーーって、いや、なんでもない」
「ああ、ココアはラビットハウスに下宿するんだもんな。……寂しいとか思ってたりするのか?意外だな」
八幡はからかうようにリゼに話しかける。
リゼは八幡の思惑通り、顔を赤くして答える。
「わ、悪いか!……私は、ほら、友達とお泊まりとかしたことないし、楽しそうだなって」
「一人だって悪くないぞ?いや、むしろぼっちこそ孤高にして至高だ」
「なにを訳の分からないことを」
「冗談じゃないぞ?一人の方がいいときだってある。まあ、それが今とは限らねぇけどな」
「なんか無駄に説得力あるな」
「ぼっちマスターの俺が言うんだ。当たり前だろ?」
「私たちは友達だからぼっちじゃないでしょ?」
ひょいっと、ココアが話を聞きつけ、八幡の言葉に反論。
「いや、流石にそんな友達とかはーー」
「私のモットーは会って3秒で友達だからね!」
「なんだよそれ、ジャイアン顔負けの暴論だな」
「そうだな」
ジャイアン、ココアを形容するに相応しくない言葉だが、八幡もリゼも同意見。
ココアは頬をぷくっと膨らませ、「私、怒ってます」アピール。
その顔を見て、また八幡とリゼは口元を緩める。
「ココアさんは天然でやってるので、横暴、と言った感じではないですけどね」
「気がついたら取り込まれてるって感じだな」
「なんだよそれ、怖ぇな。一番厄介なタイプのやり口だろ」
「なんでみんな私が悪者みたいな言い方するの!?みんな友達だよね!?私だけ勘違いしてるとかないよね!?」
ココアは弄られ属性を発揮。
八幡、リゼ、チノは顔を見合わせ、ニヤリ、と悪い顔をする。
「そうだなぁ、私はココアを友達だと思ってる……多分」
「私は、手の掛かる妹の様に感じているので、友達かどうかと言われると……」
「馴れ馴れしい奴はちょっとなぁ」
三者ともにココアと友達とも、友達ではないとも明言せず、焦らす。
「みんなひどいよぉ!友達でしょ!?友達だよね!?友達って言ってよ!」
ココアは涙目で三人に訴えかける。
ふたたび三人は笑いあってから声を揃えて言った。
「「「友達だ(です)」」」
リゼ、チノはともかく、八幡までもがココアと友達と口にした。
ココアの人を惹きつける力は、恐ろしいものである。
「もちろん、私と八幡もな」
「私と八幡さんも友達です」
不意打ちのように二人に言われ、八幡は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
「お、おう」
ここでコミュ障を発揮するあたり、まだまだ、八幡に青春がやってくるのは時間が掛かりそうである。
「じゃあ、私と八幡は帰るよ。途中まで一緒だからいいだろ?」
「ああ。どうせ拒否権もないだろうしな」
「お前は私をなんだと思ってるんだ!」
春とはいえ、夕刻ともなれば未だ肌寒さを感じる。
八幡とリゼは二人横並びで歩く。
二人の間には十センチ程度の隙間があるが、八幡からすれば十分に近づいた方だと言えるだろう。
「初対面は、面倒な奴だと思ったけどーー」
「おい、なんだよそれ、まぁ、自覚はしてるが」
「今はそうでもないし、お前といると楽しいよ」
「今更、お前のこと嫌いだ、とか言われても困るけどな」
「言わないよ。それなりに、八幡がどんな奴か知ったし、お前が何かやらかしても、何か理由があるんだなって思える程度にはお前を信用してるよ」
八幡はリゼに平塚先生に近しいものを感じ取った。
平塚先生とは決定的に違う、「女らしさ」をリゼは持ち合わせているが、そこはあまり大きな問題ではないのだろう。
「ったく、かっこいいな。危うく惚れちゃうところだった」
「ほ、惚れっ!?」
まさかの返しに、リゼは顔を赤くする。
女子校に通うリゼにとっては男子との関わりなど八幡と、家の父の部下しかなく、その手の話には疎く、耐性もない。
故に初々しい反応をするリゼ。
「じゃあな。俺はこっちだから」
未だに顔を赤くするリゼを放って八幡は別れを告げる。
リゼとは違う道を八幡は行く。
それをリゼは慌てたように八幡を呼び止め、一言。
「また明日!」
八幡は返答することなく、ひらひらと手を振って答えた。
もう原作無視でオリジナルをひたすら書きまくるのもいいかもしれないと思う今日この頃。