ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

6 / 53
原作開始!
原作に沿うよりもオリジナルの方が書きやすいなぁ。


第六羽

春休みも終わりに近づき、八幡、リゼは高校二年生、チノは中学二年生、シャロ、千夜は高校一年生への進級を間近にしている。

 

だが、ラビットハウスはいつも通り、経営している。

 

八幡もラビットハウスには欠かさずに奉仕活動に赴いていた。

 

現在も時間帯は朝だというのに既に制服を着てチノと共にカウンターにたっていた。

普段専業主夫が夢だと公言している八幡だが、自分の仕事はしっかりとこなす。

 

「八幡さんは春休みの宿題とか終わったんですか?」

 

「ああ、そういうのはさっさと終わらせてダラダラしたい主義なんでな」

 

「その、この問題が分からないので教えていただけないでしょうか?」

 

そう言ってチノが八幡に見せたのは数学。

中学生の問題なので、八幡にも解ける問題なのだが、八幡は顔を顰める。

 

「どうかしましたか?」

 

「すまん、数学は苦手なんだ。後でリゼに聞いたほうがいい」

 

「そうですか。分かりました」

 

チノは宿題を片付け、来客に備える。

 

「すまん、遅れた!」

 

そう言って慌ただしくリゼが入ってくる。

リゼが遅れてきたことに八幡とチノは疑問に思ったが、そんな日もあるだろうと二人は考えを同じくする。

 

寝坊、などと考えられないあたり、リゼが如何に信用されているかが分かる。

 

「今着替えてくる!」

 

「今はお客さんいないので、急がなくてもいいですよ」

 

チノがバタバタと急ぐリゼにそう言うと、リゼはホッと息を吐いてから、更衣室へ向かった。

 

カラン。

 

リゼが更衣室へ向かった次の瞬間、来客。

入ってきたのは栗色の髪をした天然そうな少女。

 

その少女は席に座るでもなく、メニューを見るわけでもなく、キョロキョロと周りを見渡し、口を開く。

 

「うさぎがいない!?」

 

これにはチノも八幡も唖然。

 

((なんだこの客))

 

チノも八幡も同じことを考える。

次にその少女の視線はチノの頭の上のティッピーに注がれる。

 

「……もじゃもじゃ?」

 

「これですか?これはティッピーと言って一応ウサギなんです」

 

「一応ってなんだよ。断言できねぇの?」

 

「ぱっと見うさぎだってわからないじゃないですか」

 

「まあな。っと、こちらの席にどうぞ」

 

八幡は自らの仕事を思い出したかのように少女を席へ案内する。

 

「ご注文は?」

 

「じゃあ、あのうさぎさん!」

 

八幡の言葉に被せるようにしてカウンターに立つチノの頭上を指差す。

 

「非売品です。………非売品だよな?」

 

少し自信が無くなりチノに確認をとる八幡。

 

「当たり前です」

 

「うーん、じゃあ、もふもふさせて!」

 

「…………」

 

八幡はどう対応していいか分からず、無言でチノに助けを求める。

そのチノも困り顔。はあ、と、ため息をついてチノはカウンターから出てくる。

 

「コーヒー一杯で一回です」

 

「じゃあ三杯!」

 

「それでいいのか」

 

八幡のツッコミは相手にされることなく、虚空に消えた。

チノはカウンターへ戻り豆を挽く。

 

「店員さん店員さん」

 

「はい?いかがいたしましたか?」

 

少女は八幡を呼び寄せる。

八幡は追加注文かと思い少女の元へ。

 

「店員さんのお名前は?」

 

「は?」

 

初対面の女子に名前を聞かれる。

思えばシャロに続き二人目か、と八幡は思った。

 

「あっ、私は保登心愛!ココアって呼んでね!」

 

「…………比企谷八幡です」

 

シャロという友達ができた八幡だが、このコミュニケーション能力に気圧され、名前を告げる。

 

「じゃあ、八幡くんだね!」

 

「ココア……頭弱そうだな」

 

八幡はボソリと呟いた。

だが、それはしっかりとココアの耳に届いた。

 

「むっ、これでも私、理系なんだよ!」

 

「意外にもほどがあるだろ。あと、頭が良い=理系じゃないからな?」

 

八幡も少女の言葉に呆れたりツッコんだり。

友達が出来たことで、少しは話せるようになってきたようだ。

 

「お待たせいたしました。コーヒー三杯です」

 

「やったー!これで三回もふもふする権利を手に入れたよ!」

 

「冷める前に飲んでください」

 

「それもそうだね」

 

そう言ってココアは運ばれてきた三つのコーヒーカップの内の一つに口をつける。

 

「この上品な香り!これはブルーマウンテンだね!」

 

「コロンビアです」

 

「この酸味、キリマンジャロ!」

 

「それがブルーマウンテンです」

 

「じゃあこれはーー甘っ!?なにこれ!?本当にコーヒー!?」

 

「それは八幡の試作MAXコーヒーです」

 

八幡は奉仕活動中にもMAXコーヒー制作は欠かさなかった。

その結果がコレである。

少なくとも、ココアには受け入れられなかった。

 

「ふむ、まだまだ甘さが足りないのか?」

 

「甘さはもう十分だよ!」

 

「MAXコーヒーがメニューに載るのはまだ先の事ですね」

 

何故だかチノにはMAXコーヒーの美味しさが理解できる。

それは、チノが甘いものが好きなのか、八幡と同類なのかは分からないが、少なくとも普通ではないようだ。

 

「よし、じゃあ早速このうさぎさんをもふもふするよ!」

 

もふもふ。モフモフ。もふもふ。

 

「いけない、よだれがーー」

 

「の、ノォォォーー!!!」

 

ココアの言葉に反応し、ティッピーがココアの腕の中で盛大に暴れる。

 

「あ、あれ?」

 

ココアもティッピーから聞こえてくる男性的な声にキョトンとする。

 

「さっさと離さんかーー!!」

 

「このうさぎ、喋るよ!?」

 

「私の腹話術です」

 

八幡はこのやり取り何度目だろうか?と疑問に思う。

毎度毎度、腹話術。

流石にチノの声であのダンディーな声は出せないよなぁ、と八幡は常々思う。

 

だが、人には触れられたくない部分がある、という事は八幡はよく理解しているので触れない。

 

「さて、もふもふしたし、香風さんを探しに行こうかな!」

 

「………?香風ならウチですが、何か御用ですか?」

 

ココアはチノの言葉を聞くとチノの手を取り、ブンブンと上下に振る。

 

「これは、運命だね!実は学校の方針で、下宿先で奉仕活動しろって言われてるんだけど、それが香風さんだったんだ!」

 

「うちで働く、ということですね。私はチノ、ここのマスターの孫です」

 

八幡は『奉仕活動』という単語に既視感を覚えたが、問題ないかと聞き流しておく。

 

「それで、ここのマスターさんは?お留守なのかな?」

 

「お爺ちゃんは去年……」

 

チノが悲しそうな声でそう呟くと、八幡はティッピーの方をじっと見つめる。

 

ティッピーはその八幡の視線に気がつくと、フイッと目をそらす。

その行動で八幡はなんとなく察する。

 

「私を姉だと思ってなんでも言ってね!」

 

ココアはガバッとチノに抱きつく。

寂しがるチノを安心させるように。

 

だが、チノはただただ困り顔。

流石にあって数分しか経っていないのに姉と言うのは無理がある。

 

「じゃあ、ココアさん、早速働いてください」

 

「分かったよ!」

 

チノに連れられココアは更衣室へ。

 

「騒がしくなりそうだなぁ」

 

静かなラビットハウスの雰囲気を気に入っていた八幡だが、ココアがここで働くことは騒がしくなることと同義であると推測する。

 

八幡はカウンターに肘をつき、はあ、とため息をついた。

 

 

 

 

 

 

なにやら更衣室で一悶着あったらしいが八幡の知るところではない。

 

それに加え、リゼがなにやら教官などと言い出し楽しそうにしているが、八幡は水を差さないようにした。

 

「では、倉庫に置いてある荷物をキッチンまで運んで欲しいのですが……」

 

「まかせて!」

 

「私も行こう」

 

「俺はここで客を待ってーー」

 

「お前も来い」

 

二人いれば十分だろ?と言おうとした八幡だったが、リゼに首根っこを捕まれ、引きずられるように倉庫へと移動する。

 

倉庫にあったのはコーヒー豆の袋、砂糖の袋。

どれも個人で買うようのものではなく、店を対象とした商品であるため大きく重い。

 

「うっ、こ、これは普通の女の子には厳しいよ」

 

大きな袋をココアは抱えるようにしてぷるぷるしながら持っている。

対する八幡とリゼは軽々と二つほど肩に担ぐ。

 

か、ココアの言葉にピクッと反応すると、ドスンと袋を下に落とす。

 

「そ、そうだな。普通の女の子には無理だな」

 

「いや、今確実に二つ持ってたよね?」

 

八幡が冷静にツッコミを入れると、リゼは、げしっ、っと八幡の脛を蹴る。

 

八幡は涙目になりながらも荷物をキッチンへと運ぶ。

 

「全く、八幡にはデリカシーというものがないな」

 

「八幡くんとリゼちゃんは仲いいね!」

 

「まあ、悪くはないかな」

 

「よーし、私もすぐに仲良くなれるようにしなきゃ!」

 

ココアはココアなりに八幡との距離を測っていたようだ。

八幡がぼっちスキルを所有しているならば、ココアは友達作りスキルを所有していると言っても過言ではない。

 

ココアはぐっと手を握り決意表明。

リゼはそれでココアの人柄についてなんとなく理解した。

 

 

 

荷物運びが終わり、接客。

だが、これは八幡やリゼが考えていたように、圧倒的なまでのコミュニケーション能力で難なくこなす。

 

だが、八幡が驚愕したのはその次の出来事だった。

 

「チノちゃん、その答えは128で、そこは367だよ」

 

先ほどと同じように、チノが宿題をしているところに、横から覗き込み、暗算で答えをスラスラと言い当てる。

 

「こ、ココア。430円のコーヒーを29杯頼んだらいくらになる?」

 

「12470だよ!」

 

「ま、負けた」

 

八幡が理系が壊滅的なことは自覚しているが、年下にまで敗北するとなると少しばかり凹むようだ。

それがココアのような馬鹿っぽい人に負けたのなら尚更に。

 

「まったく、八幡くんには言ったでしょ?私、理系なんだよ?」

 

「「「意外すぎる(すぎます)」」」

 

八幡、リゼ、チノの三人からそう言われるとココアも少し涙目に。

 

ぷんすかと拗ねるココア。

 

それをなだめにかかるチノとリゼ。

 

「はぁ、客来ねえなぁ」

 

ぽつりと八幡はそう呟いた。

その言葉とは裏腹に、もう少しの間、来客が無ければとそんなことを八幡は考えた。

 

 




ココア登場!
さて、会って3秒で友達がモットーのココアに八幡はどう出るのか。
お楽しみに。

感想評価お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。