別にエタったとかじゃないんです。
ちょっとこの話に関しては無理矢理なところとかございましてですね。
大人っぽさ、とは何だろうか。
そう問われた時、確固たる答えは存在するのか。
そもそもこの語用における大人の定義とは?
そう考えた時、その問いの答えを出すことは非常に難しいものであるだろう。
だが少なくともーー
「こちら、アフタヌーンティーセットになります」
「え、頼んでないんですけど」
「あちらのお客様からです」
離れたテーブルで親指を立てているココアのような人間のことではないのは間違いない。
八幡を始めとするいつもの高校生五人組とチマメ隊の八人はココア主催進級おめでとう茶会に呼ばれ町の喫茶店に足を運んでいた。
その際に、大所帯で来店したので机は離さざるを得ない状況になったため、ココア、リゼ、シャロ、千夜の四人とチマメ隊プラス八幡の四人グループに分かれてそれぞれが会話を嗜んでいた。
「八幡くんだけ離れちゃったねー」
「流れるように八幡さんだけこっちでしたね」
「実は嫌われてるとか!?」
「おいやめろ、ありえそうだろ」
「そんなことよりさー」
「俺が嫌われてるのがそんなことなの?」
マヤの話題転換の早さに驚きを隠せない八幡。
このタイミングで話を切られてはこの先嫌われていやしないかとビクビクしながら過ごす日々の開幕である。
「私も大人っぽくなりたいなーって思うんだよね」
「大人っぽいって例えばどんな感じですか?」
「後輩にお茶してこうぜ!って誘ってみたい」
「誘うだけなら誰だってできるけどな」
重要なのは如何にして年上の威厳を見せつけつつお茶に誘うかである。
「君可愛いね〜、お茶してかない?」
「メグ、それナンパ!」
「八幡さんならどう誘いますか?」
チノからそんな質問が八幡に飛んで行くが、そんなこと答えるまでもない愚問であった。
「誘う相手がいない」
「悲しい!」
「八幡くんが誘ってくれたら私ついて行くよ〜」
「その気遣いが辛い」
メグに慰めの言葉をもらうが、女子中学生に慰めからの言葉など虚しいだけである。
「ほら、あれ!シャロの紅茶を飲んでるとことか!」
マヤが指差す先には少し離れた席に座るシャロの姿。
その他にはティーカップが握られており、粛々と紅茶を飲む姿はまさしくお嬢様。
確かにシャロの立ち振る舞いは女性以前に人間として見習うべきものであろう。
「あんな高校生になりたいな〜」
「大人の女性って感じですよね」
「気品を感じるよね」
シャロ、べた褒めである。
何をしようとも評価の上がらないココアに対して、シャロは何をしてもだいたい評価が上がってしまう。
「これ、まだ使えますか?」
シャロが懐から割引券を取り出し、店員に見せる。
その行為自体にはなんら大人っぽさは演出されていないが、その行為の主がシャロであるならばーー
「抜け目ないです」
「憧れちゃうね〜」
「もうわかんねぇな」
チノとメグには好感触を与えることができるのだ。
これが、シャロの身に纏う雰囲気による大人の演出である。
「それはそうと、これ!ココアがくれたやつ食べようよー!お腹空いちゃった」
「あ、待ってマヤちゃん!これを食べるのにも順番があるって聞いたことがあるよ!」
「えぇ!?めんどくさ!」
マヤの知識により、これまた余計な課題がチマメ隊の前に現れてしまった。
「これを順番通りに食べることができなければ」
「大人のレディーには」
「なれない!?」
「んなわけねぇだろ」
八幡のツッコミ虚しくチマメ隊は頭をひねる。周りを見渡して他の客が同じものを頼んでいないか、などを確認するものの見つけることはできなかったようだ。
じー。
じろじろ。
じーーー。
八幡が紅茶を飲んで、三人の行く末を見守っていると、視線が送られて来る。
完全に手詰まりのチマメ隊が八幡に救援要請を送っているのだ。
「八幡さんって、物知りですよね」
「……こういうのは別に本場のイギリスとかでも口うるさくは言われたりしないんだぞ」
「知っているなら教えていただけませんか?」
「ねぇ、聞いてる?別にどうだっていいんだぞ」
「でも知っているに越したことはないじゃないですか」
八幡が知識としてティーセットの食べ方を知っていることを目ざとく察知したチノは八幡から聞き出そうとする。
別段、隠すようなものでもないが、少し年長者としてお茶の楽しみ方というのを教えるために八幡は口をつぐむことにした。
……八幡にお茶を楽しんだ経験などないが。それでも、である。
「あ、向こうにも同じのが運ばれてきたよ」
「真似するチャンスだね~」
チマメ隊の視線は八幡からJKズへと移った。
それを敏感に察知した千夜、ココアは案の定というべきか奇行に走る。
「みんな、私の相対性理論の説明どうだった?」
「一般と特殊なら特殊により趣を感じるわ」
「今どきは般若心経の暗唱なんて余裕よね」
ココア、千夜そして意外なことにシャロまでが訳の分からない会話を始めた。
しかし八幡には何となくその会話に至るまでの流れが読めてしまった。
どうせココアか千夜のどちらかがチマメ隊の視線に気づいてその視線の意味を曲解した結果、自分たちが尊敬すべき姉としてふさわしいか監視されている。などと勘違いし、尊敬って言ったらやっぱ知的な人!という志向に至ったココアと便乗した二人というような構図なのだろう。と八幡は予想した。
実際リゼはあきれ顔で三人の会話を聞き流しているだけのように見える。
「よくわかんないけど会話を楽しんでるっぽくね?」
「大人っぽい会話ってなんだろー?」
「高校生なんてしょうもない話しかしてないぞ」
「夢が壊れるようなことを言わないでください」
近頃のちびっこ女子たちはJKという存在に夢を抱きすぎではなかろうか。
アホなJK、天然JK、バイト漬け苦学生、ミリオタお嬢様というような変化球しか周りにいないものだから現実逃避していると言われれば八幡としては納得いくものであるが、きっとそうではないのだから謎である。
「この前兄貴を初めてパシリに使ったよ!」
「それはむしろ子供じゃない?」
「おま、それやめとけよ。お兄ちゃんは傷つくんだからな」
「じゃあー、ラビットハウスのバータイムにお邪魔しちゃおうかな〜」
マヤの失敗を受けて今度はメグが大人っぽいトークを切り出す。
今時の中学生の観点から見た大人、とは。
「夜更かししてしまいましょう」
「別に高校生は夜行性じゃないんだぞ」
チマメ隊の謎の大人トークに冷静なツッコミを入れ続けるも、さしたる効果はない様子である。
仕方ない、と八幡はスマホを取り出し、リゼへとメールを送る。
すると、すぐにリゼはメールの着信に気づいたようで、スマホを取り出しているのが八幡の席から見えた。
「どうしたんだ?」
席を立って、八幡たちの席まで移動して来たリゼ。
ココアたちの終わらぬ姉トークに呆れて逃げて来る口実に八幡のメールを使ったようだ。
「大人なリゼを見せつけてやってくれ」
「どうしたんだ!?」
今までの話の流れをさっぱり理解していないリゼに無茶振りをする八幡。
「ティーセットの食べ方を知りたいんですけど」
「なんかココアたちはなかなか食べないし」
「どうしたらいいかわからなくて」
「……大人はどこから来たんだ?」
「ティーセットをマナーよく食べられるのが大人っぽいんじゃねぇかって話だよ」
そんなの八幡がどうにか教えてやればいいだろうに、とぶつくさと呟いたリゼだったが、恐らくは八幡ではなくJKであるリゼが言った方が効果が見込めるのである。
「マナーっていうのは楽しく食べるためのものなんだから楽しめれば何だっていいんだよ」
ふわっと笑顔を浮かべてそうチマメ隊に諭すリゼ。
その様は人生経験を積んだ年上のようで。
「「「分かりました、教官!」」」
敬礼を持ってその言葉に感謝の意を伝えるチマメ隊。
これこそ尊敬される姉の姿というものではないだろうか。
少し、毛色が違うのは否めないが。
「あ、そうだ。大人っぽい会話ってどうすればいいの?」
「お、大人っぽい?」
ティーセット問題が解決したので、次の問題である。
こちらの方が難問で、リゼとしてもどう答えたものか困りものだ。
「落ち着いてものを見る、とか」
ふんわりとした意見ではあるが、物事に対して落ち着いて取り組むというのは大人の姿の一つではないのだろうか。
しかしその意見でいけばーー
「ココアはまだ子供だと」
「さすがココア」
「ココアちゃんはねー」
「ココアさんですから」
「別にそういうつもりで言ったんじゃないぞ!?」
意図せずしてココアを刺し殺してしまったリゼ。
ココアの普段の行いがアレであるので仕方ないと言えばそれまでである。
「なになにー?みんな盛り上がってる?」
話の中心人物が、八幡たちの机まで乗り込んで来た。
タイムリーである。
「盛り上がってるよー!」
「ココアちゃんのおかげだねー」
「流石はココアさんです」
「なんかよくわからないけどありがとー!」
チマメ隊の発言を褒め言葉と受け取ったココア。
知らぬが仏とはまさにこのこと。
「席も空いたみたいだし、みんなでお話ししましょ」
店員に許可を取ったらしく、机の移動を開始する千夜。
なにやら顔を赤くするシャロ。
思い返せば先ほど色即是空やら空即是色やらと呟いていた気がする。
自らの行いを恥じているらしい。
「よーし、じゃあみんなで席替えじゃんけんだよ!」
じゃーんけーん。
と聞きなれた掛け声を八幡は耳にしながら、今こうしてこの場にいることのできる理由を考えた。
それはきっと、ココアの人を惹きつける力があってこそなのだろうな、と少し心の中で感謝するが、口に出すと調子にのる気がしたので、留めておく。
じゃんけんの結果で後輩たちと一番遠くの席になって凹んでいるココアだが、そんな愉快なココアだからこそ、こうして人が集まるのだろうな、とも少しそのココアの性質に敬意を抱く。
「こうなったらやけ食いだよ!」
「おい、ティーセットはサンドイッチ、スコーン、ケーキの順で食べるのがマナーだろ」
「さっき八幡くんがマナーとかそんなに気にしないって言ってたの聞こえてたからね!?」
新学年、新学期。
退屈はしなさそうだと、八幡は確信した。
完全なる繋ぎ、原作消化回。
なお、次回投稿はモカ襲来による構想を練るためより投稿頻度が遅れる模様。
いや、だってせっかくモカさんくるのに、原作沿いだけじゃつまんないでしょ!
感想評価待ってます。