ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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近頃は気温差激しくてんてこ舞いしています白乃兎です。
今回はオリジナル回です。

あ、あとみなさん、モカさんはもうちょっと待って!
モカさんまでに他のヒロインの好感度上げとかないと追いつけなくなりそうだし!


第三十七羽

季節は冬。

冬という季節はその寒さをもって人間の体に負荷をかける。

その結果人間の体はウイルスに侵され病気にかかる。

 

つまりなにが言いたいのかというと、だ。

 

「珍しいね、お兄ちゃんが風邪をひくなんて」

 

比企谷八幡は風邪をひいたのだ。

三十八度ぴったり。

マスクをつけて、布団に潜り込んでいる。

 

「悪いな、小町」

 

「んーん、お兄ちゃんバイト頑張ってるって聞いてるし、疲れが溜まったんでしょ?無理しないでね。あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「はいはい」

 

鼻声で適当な返事しかできていないところを見るに、本当に八幡は弱っているようだ。

 

「じゃあお兄ちゃん、小町は少し出かけて来るけど、大人しくしてるんだよ」

 

「わかってる」

 

小町が出て行くと八幡はすぐに目を瞑り、眠る態勢を整える。

しかし、風邪の症状がひどい時というのは、頭痛に見舞われ、喉を正体不明の痛みが襲い、なかなか寝付けないものだ。

頭がぼぉっとするので何かを考えるということもままならない状況である。

 

「……さむぃ」

 

分厚い布団に包まれているにもかかわらず寒気は八幡を襲う。

小町もおらず、孤独の中風邪の症状に苦しめられる八幡。

 

(そーいや、ラビットハウスに連絡入れてねぇな)

 

今日も今日とて愉快な仲間と共にラビットハウスで働く予定が入っていたにもかかわらず、欠勤する旨を誰にも伝えていなかったことに八幡は気がついたが、スマホもどこにあるかも体を起こさねばわからないし、それだけの気力は今の八幡は持っていなかった。

 

薄れゆく視界、意識朧げの中、物音と人影を見た気がした。

 

 

 

 

 

八幡が目を開けるとあまりにひどかった頭痛も多少は収まり、体のだるさも引いてはいた。

しかし、依然として熱がそれなりにあることは自覚できるほどではあるようだ、と八幡は冷静に自分の状況を判断した。

 

「……ん?」

 

なにか、頭にひんやりとするものが乗せてあることに気がつく。

八幡が眠りにつく前はタオルなどは乗せていなかった。

何時間寝ていたかは知らないが、帰宅した小町が定期的にタオルを変えてくれていたのかと八幡は考えたがその考えは外れることとなった。

 

「あ、起きたのね、八幡くん」

 

「……なんで千夜がここにいるんだ」

 

八幡の起床に気がついた千夜が顔を出す。

その他にはなぜか長ネギやらニンニクやらと色々握られているが八幡は気にしないことにした。

 

「小町ちゃんと外ですれ違って、八幡くんが風邪をひいたっていうから看病に来ちゃった」

 

「あぁ、そうか。助かる」

 

「ふふっ、困った時はお互い様よ」

 

千夜は微笑みながら八幡の額に乗せられているタオルの温度を確認し、まだ冷たいのを確認すると、手に持っていたニンニクを輪にしたような物を八幡の首にかけた。

 

「これは?」

 

「にんにくを首にかけると風邪が治るって知らない?」

 

「……へそに梅干しとか?」

 

「あら、八幡くんも知ってるの?」

 

「安っぽい迷信だろ」

 

八幡という人間はそのようななんの根拠もない治療法を信じたりはしない。

 

「病は気からって言うでしょ」

 

「お前も信じてないだろ、その口ぶりからして」

 

「いいのよ、気休め程度でも」

 

気休め程度だろうと、患者の病状を少しでも良くしようとする千夜の心意気に八幡は感心した。

 

「はい、これ風邪薬。水はペットボトルで枕元に置いてあるから」

 

「お、おぉ」

 

渡された薬を飲みながらこの千夜は偽物なのではないかと八幡は疑う。

あの千夜がこんなに面倒見がいいはずがない!と。

 

「飲んだら服を脱いでくれるかしら」

 

「んん"!?」

 

飲みかけた薬が危うく逆流である。

唐突な発言に八幡は驚いたのか、風邪によって冷静な判断が失われたのか。

 

「ほら、汗を拭いてあげるから」

 

「お、おぉ」

 

言われた通りにパジャマの上を脱ぐと八幡は背を向けた。

ヒヤリ、と冷たいものが背にあたりビクッと八幡は身を震わせる。

その新鮮な反応に千夜はくすりと笑みを浮かべながらも優しく、丁寧に八幡の背中をぬぐっていく。

 

腕をとって脇の下、首の後ろ。

そのまま手を伸ばして体の前面をぬぐっていく。

 

「あ、あの、千夜さん?」

 

「強かったかしら?」

 

上ずった声で八幡は言外に語りかけるも千夜には届かなかった。

 

状況的には千夜が八幡の背中から体の前面に手を伸ばし抱きついているような状況。

それに加え豊満な二つの果実が押し付けられている。

八幡的にはだいぶありがたい状況であり、困る状況だった。

 

しかし、厚意で体を拭いてもらってるわけだし、黙って拭いてもらうのがいいよね。という下心アリアリの判断を下した八幡は、「胸の方をもっと」と口にした。

 

「ふふっ、今日の八幡くんは甘えんぼさんね」

 

八幡の要望通り、八幡の胸元を重点的にぬぐっていく。ついでに千夜の胸も先ほどよりも押し付けられる状況に。

どちらが八幡の要望だったかは触れないでおくのが人情というものである。

 

体も拭き終わり、千夜に渡された新たなパジャマに着替えた八幡。

なぜ千夜が八幡の着替えの位置を把握しているかなどは八幡は聞かない。散々世話してもらって非難するのも憚られたのだ。

 

「じゃあ、今度は熱を計りましょう」

 

八幡の前髪を千夜の手がかき揚げ、千夜の額を八幡の額と接触させる。体温計とか探せばあるだろ、なんて考えは八幡の頭には浮かぶことなく、ただ、千夜の目、まつ毛、肌、鼻、唇といったパーツに目を奪われる。

 

(こいつ、綺麗な顔してるんだな)

 

純粋に、八幡はそんな感想を抱いた。

そこには劣情は一切として抱くことなく、ただ素直なもの。

 

「三十七度強ってところかしら。まだ熱いわ」

 

「なんで今ので大体の熱とか分かるんだよ」

 

「シャロちゃんによくやってあげたから」

 

普段の千夜の挙動からは汲み取ることのできない、相手のことを考えたその言動は、風邪で弱った八幡の心を少なからず動かした。

 

「じゃあ、あとはしっかり寝て風邪を治してね」

 

「ああ、その、サンキューな」

 

「ふふっ、八幡くんのいつもとは違う一面を見れて嬉しかったわ」

 

「よいしょっと」

 

体をベッドから出し、千夜の見送りと施錠をしようとする八幡を、千夜が制した。

 

「八幡くんが寝るまではここにいるわ」

 

「そこまでしてもらわなくても」

 

「いいのよ、風邪の時って一人だと不安でしょう?」

 

「……ヤバイ、千夜の優しさで涙が出そう。俺を一人家に取り残した小町に見習わせたい」

 

くすくすと笑う千夜。

人の愉快な行動を見てよく笑う千夜ではあるが、このようなことを起因として笑う千夜を見るのは八幡としては珍しいものだった。

 

「鍵はポストに入れておけばいいかしら?」

 

「ああ、ほんと、ありがとな」

 

「どういたしまして」

 

側に人の気配を感じながら、でも決してその存在を邪魔だと感じることなく、八幡の意識は薄れていった。

 

 

 

 

 

八幡さ何やら騒がしい声や物音で目が覚めた。

朝に比べると比較的軽くなった体を起こす。

 

すると、何やらCQCのような体術で捕まっているココアと、それを行なっているリゼ。

呆れ顔で傍観しているチノの姿があった。

 

「なにやってんの、お前ら」

 

「あ、おはよう八幡くん」

 

「八幡さんが風邪をひいたと小町さんから連絡が来たので、お見舞いに来ました」

 

「あ、これお見舞いの品。つまらないものだけど」

 

漫画やドラマの中でしか見ないようなフルーツの詰め合わせバスケット。

こんな豪華なものをホイと出して来るのはタカヒロさん、天々座宅のどちらかであるのは間違いない。

 

「おぉ、初めて本物を見た。ありがとな」

 

「やったよチノちゃん!褒められた!」

 

「用意したのはリゼさんじゃないですか。ココアさんは関係ありません」

 

「八幡のおでこにのってるタオルを交換したのもチノだし、ココアは何もやってないな」

 

「……八幡くんが早く元気出るようにおまじないをかけてあげたよ?」

 

震え声でココアは自分の功績を主張するものの、誰からも認めてもらえずに涙目である。

 

「あ、そうだ。八幡、食欲はどうだ?」

 

「ん、軽いものなら食べても問題なさそうだ」

 

「おかゆがあったので、温めて来ますね」

 

「チノちゃん!私がやる!」

 

何もやっていないという汚名返上のため、ココアはチノを抑え部屋を出て行く。

 

「そーいや、小町は?」

 

「私たちが来た時はいましたけど、どこか行ってしまいましたよ」

 

「えぇ、病床の兄を捨てどこへ行こうというのだ妹よ」

 

「でも、おかゆ作ってくれたんだろ?いい妹さんじゃないか」

 

八幡の体を気遣って定番の品おかゆを作ってくれた事には感謝ではあるが、八幡の意識外での行動なので、本当に小町が作ったかも怪しいのだ。

もしかしたら一度帰宅した母親が作ってくれたのではないか、とか。

 

「八幡さん、熱を測ってみてください。顔色はちゃんとしてますが、一応です」

 

体温計を手渡され、脇に挟んで熱を計る。

ふと、八幡は先ほどのことを思い出して、額に手を当てる。

 

「八幡さんはおでこで熱がわかる人ですか?」

 

「いや、俺はわかんねぇな」

 

ピピピッと完了音がなり、確認すると三十七と二。多少熱は出ているものの、順調に回復に向かっている証拠である。

 

「さぁ!八幡くん!出来たよ、おかゆ」

 

「作ったのココアじゃないだろ」

 

「はい、あーん!」

 

八幡のことを看病したという事実を多めに欲しているのか、しなくていいことまで、してくるココア。

 

「ココアさん、子供じゃないんですから」

 

「自分のペースで食べさせてやれよ」

 

「自分で食うからスプーンと皿だけ渡してくれ」

 

「なんかみんな酷くない!?」

 

おかゆなんていつぶりに食べただろうかと八幡は懐かしさを覚える。

以前風邪で寝込んだ時小町はおかゆなんてつくってくれた覚えはないなぁ、なんて事を考えながらおかゆを口に運ぶ。

 

「……ん?」

 

八幡は口に広がる味に違和感を覚えた。

小町の味付けじゃない。

 

薄く弱った胃に優しい塩加減と、中心に置かれた梅干し。

 

そもそもうちに梅干しなんて置いてないし、おかゆのためだけに小町が梅干しを買って来るとも思えない。

故にこれは小町の作ったものではない。

 

と、いうことは、これを作ってくれたのは……

 

八幡はとりあえず、風邪が治ったら甘兎庵でお金を落として行くことに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




千夜に看病されたい。
無防備な千夜にお世話されたい。

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