ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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……前回よりは更新間隔短い、よな?


第三十六羽

世間は今クリスマスという年に一度のイベントを迎え賑わっている。

もちろん、クリスマスともなればいつもは客足の少ないラビットハウスとて大賑わいの大忙しである。

 

それこそ、その後に企画されているクリスマスパーティの事を考える余裕はないくらいには。

 

「八幡、これ二番テーブル!」

 

「了解」

 

「ココアさんコーヒー淹れました。運んでください」

 

「わかったよ!」

 

「チノー、これ食べていい?」

 

「マヤちゃん!それお客さんのだからダメだよー!」

 

リゼ、八幡、チノ、ココア、マヤ、メグ。

ラビットハウス勢に加えてマ、メを味方としてラビットハウスの店員たちは息つく暇なく働く。

さらに、タカヒロさんという強力なバータイムの働き手まで加えたメンバーである。

 

「リゼ、タカヒロさん!ミックスサンド、パンケーキ二つずつ追加!」

 

「了解、三番とこの品上がった、持ってってくれ!」

 

「くっそ、あと三十秒待ってくれ」

 

「ココアさん休んでる暇ないですよ!」

 

「わかったよ!」

 

「メグーこれそっちに運ぶの手伝って」

 

「わっ、こ、こんなに」

 

クリスマス限定メニューや通常メニュー。

様々な種類の品に加えてコーヒー店を謳うだけのコーヒーの種類。

 

これだけの品物が揃っているラビットハウス。

多くの品数を作らなくてはならず、客足も衰えることを知らない。

店員側は客を捌くのでてんやわんやで、それこそマヤとメグの力を借りてもなお人手が足りていないのが現状である。

 

そもそもどうして普段のラビットハウスは品数多く静かで雰囲気もあるというのに客が少ないのかが謎である、と八幡は常々感じていたが、今はそんなことを考えている暇すらない。

 

「ココア!会計頼んだ」

 

「二名様ご案内でーす!」

 

「チノちゃん、ブルーマウンテンとモンブランと、それと、えっと」

 

「め、メグさん落ち着いて下さい」

 

注文の量が多く正確にオーダーを伝えるのも一苦労な状況。

普段の四人組だけでは絶対に間に合わない仕事量だが、今日はラビットハウスクリスマスバージョン。

今日のラビットハウスは一味も二味も違うのだ。

 

「シャロちゃん、加勢するわよっ!」

 

「……仕事終わりなのに、また仕事」

 

仕事後のクリスマスパーティの招待客をさらに店員として迎え入れることにより戦力アップである。

千夜もシャロも働く女子高生。戦力として換算するには十分すぎる助っ人である。

 

「夕焼けの糸上がったわ!」

 

「「「勝手に名前を変えるな!」」」

 

たとえ厨房を混乱させようとも、助っ人なのだ。

 

「八幡!適度にサボってるのが見えてるわよ!」

 

「……」

 

シャロが来たことにより仕事の回転率が上がった。

それすなわち八幡の仕事が減るという超理論を導き出した八幡は周りにバレないよう少し仕事ペースを落としていたのだが、シャロには一瞬で見抜かれてしまう。

 

「うさみみー!」「さわらせてー!」「私もつけたーい」

 

「へへー、可愛いでしょ?」

 

「このうさ耳は選ばれしものにしかつけられないんだけどね」

 

マヤとメグは会計待ちの親の側で暇をしている子供客に話しかけて、楽しませる。

料理以外でもサービスを届けるという点で明るく接しやすいこの二人は非常に強力だと言わざるを得ない。

 

「ラビットハウスがいつもと全然違います」

 

「いつもはもっと静かだしな」

 

「でも、みなさん楽しそうです」

 

八幡とチノは静かな場所こそを好むような人種だった。

しかし、こんな場所も悪くない、そう思えるくらいには、今の環境に毒されていることを改めて認識させられたのだった。

 

 

 

 

 

『おつかれメリークリスマース!!』

 

ラビットハウスも営業時間の終わりを迎え、静けさを取り戻すと思われたがそんなことはなく、賑やかにラビットハウスを彩っている。

 

「後は私とタカヒロさんで料理を出しますから、楽しんでてくださいね」

 

ラビットハウスバータイムの制服を着た青山翠がいつの間にか店内で動き回って働いていた。

神出鬼没な小説家、ついに店員に化けて侵入である。

 

「ていうか、翠、料理できたのか」

 

「ふふっ、私料理もできてしまうような、できる女なんですよ?」

 

微笑みながら青山さんは厨房へと引っ込んで行く。

 

「ところでココア、なに?この招待状」

 

【さぁ、聖なるような時間だ、来るがよい!】

 

「「「はぁ」」」

 

ココアは先日、自分から進んでクリスマスパーティーの招待状作成係に立候補して、この招待状を書き上げたのだが、八幡、リゼ、チノはその招待状の内容を知らされておらず、当初より懸念されていたココアのおバカが発揮されていたようだ。

 

「でもカッコよくね?」

 

「来るがよいー、って、言いたくなるね」

 

「ココアちゃんらしくて私は好きよ」

 

マヤとメグには意外にも好評。

千夜は千夜で、らしいコメントである。

 

そんなクリスマスでも通常運転なメンバーがたわいもない会話、クリスマスだというのにいつも通りな会話をしていると、青山さんが料理を運んできた。

 

『おぉーー!!!』

 

全員から驚愕の声が挙がる。

運ばれて来たのはクリスマスでは定番のターキーである。

 

ラビットハウスらしからぬ料理が厨房から運ばれて来た。

それも厨房から運ばれて来たということは手作りのターキーという事だ。

つまりこれをタカヒロさんか青山さんのどちらかが作ったという事になるがーー。

 

「タカヒロさんの力作ですよ」

 

『ですよねー』

 

満場一致で声が挙がった。

そう、青山翠、または青山ブルーマウンテンという女にはこんな高度なものを作ることはできない。

よく青山さんの料理事情を知らないもののなんとなくそうなんだろうなと勝手に皆んなが思っていたようだ。

 

「では、私も参加させていただきますね?」

 

「よーし、じゃあクリスマス定番、プレゼント交換ターイム!」

 

そうココアが合図すると全員、前もって用意しておいたプレゼントを懐から取り出した。

 

 

 

 

 

時を遡ること一週間。

木組みの家と石畳の街ではクリスマス一月前から街全体はクリスマス色へと色を変える。

 

そんなリア充のための街へと姿を変えた街の広場、それもクリスマスツリーの飾られる広場へと八幡は呼び出されていた。

 

「……さみぃ」

 

「待たせてしまいましたか?」

 

「待った、寒い、帰りたい」

 

集合して早々に文句を口にする八幡にたいして、申し訳なさそうにする呼び出し人、青山翠。

 

「で?要件は?」

 

八幡はなぜか要件を告げられることなく呼び出されることが多い。

もはや諦めの域に達した八幡は嫌々ながらも小町に家を追い出されたのだった。

 

「クリスマスパーティへの招待状をいただいたのですが、今時の子たちってプレゼントって何を渡せばいいかわからなくて」

 

要件はプレゼント交換で回す物を選びへの協力らしい。

 

「ジェネレーションギャップが発生するやつだな」

 

「むむ、私ももう歳ですか」

 

「平塚先生にぶっ飛ばされるぞ」

 

渋々と八幡はイルミネーション輝く街へと繰り出していった。

その隣を歩く青山さん。

大人びて見られがちな八幡と若く見られがちな青山さん。

その二人が並んで歩いている。

 

周りの目からはどう映るのかは、明白であった。

 

 

 

「こんなものはどうでしょう?」

 

「薔薇の匂いの石鹸?……わかんねぇ」

 

意外におしゃれかつ実用的なものをプレゼント交換で回そうとしている青山さんにセンスのかけらもない八幡はアドバイスする側として呼ばれたにも関わらず、さっそく足手まといである。

 

ちなみに、真面目にプレゼントを選び始める前は互いにこれ似合うんじゃないですか?なんてデートみたいな行為を繰り返していたのだが、いい加減本題に入ろうとどちらからともなく発言して漸く本格的なプレゼント選びに力を入れ始めたのだ。

 

「最近の高校生のトレンドを教えていただければいいんですよ?」

 

「……わかんねぇ」

 

しかしぼっちであり、なおかつトレンドなどにはみじんも興味がない八幡はアドバイスなどできるはずもなかった。

 

「むー、八幡は何をプレゼントで回す予定なのでしょう?」

 

「え?なんか適当に女子受けしそうなものを翠に聞こうと思って今日は来たんだけど」

 

青山さんは八幡にアドバイスをもらいに来たが、八幡も青山さんにアドバイスをもらいに来たというなんともおかしな構図が出来上がっていた。

 

八幡に呼び出しの要件が伝えられていない弊害がここに来て生まれてしまったようである。

 

「しょうがないですね、では、私はこれにします」

 

青山さんは少し前に手にとっていたものをカゴに入れた。

 

「え?さっきのやつか?でもこれ、男用じゃ」

 

「大丈夫です」

 

「なんで?」

 

青山さんはくすっと微笑むと自信に満ち溢れた顔で告げる。

 

「私のプレゼントは八幡のところに回りますから」

 

 

 

 

 

じんぐるべーる、たったらたー♪

 

陽気な音楽を流すココアのスマホを手に持ち曲を止める係に任ぜられたタカヒロさんがプレゼント交換を見守る中、滞りなくプレゼントは回って行く。

 

くるくるとみんなが選んできたプレゼントが自分の元から隣の人へ。

大中小と様々なものが九人の輪を回って行く。

 

ーー♪、ーー♪、ーー………。

 

曲が止まりそれぞれがプレゼントを回す手を止める。

 

「よーし、じゃあみんな開けよう!」

 

ココアの掛け声でみんなが自分の手元にあるプレゼントを開ける。

 

 

「これ、大事に使いますね」

 

「安物でごめんね、チノちゃん」

 

シャロからチノへ。コーヒーカップ。

 

 

「カッコいいな!」

 

「でしょ!」

 

マヤからリゼに、うさぎの兵隊の人形。

 

 

「かわいー!」

 

「マジなパンだよ!」

 

ココアからメグヘ、マジパン。

 

 

「あら?」

 

「ふふっ、是非ともよろしくおねがいします」

 

千夜から青山さん。甘兎庵無料券。

 

 

「これから寒くなるし、ありがたいわ」

 

「すいません、こんなものしか思いつかなくて」

 

チノから千夜。うさぎの刺繍のついた手袋。

 

 

「かわいいシャーペンね」

 

「文房具屋で見つけて可愛かったのでー」

 

メグからシャロへ。デフォルメされたうさぎの絵がプリントされたシャーペン。

 

 

「わっ、美味しそー!」

 

「お菓子とかの方が、誰でも喜んでくれるかなって」

 

リゼからココア。クッキーの詰め合わせ。

 

 

 

八幡が自分に回って来た紙袋を開けると、紺色のマフラーが姿を見せた。

 

「……マジか」

 

八幡が驚いたように青山さんの顔を見ると、青山さんはニコリと笑みを浮かべ、八幡の驚き顔に応えたのだった。

 

 

 

 

 

「なんだこれー!」

 

「マヤちゃんどうしたの?」

 

マヤの元へ回って来たプレゼントは少し、いやかなり怖いウサギのぬいぐるみ。

 

八幡は全てを知っている青山さんにジッとジト目を向けられていることに気がつくと、スッと目をそらすのだった。

 

八幡からマヤ。奇妙なうさぎのぬいぐるみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




全員攻略のハーレム回だと思った?
残念、青山回でした!

感想評価をお待ちしております。
安易に更新速度は感想数に依存するとか言えねぇって身にしみました。

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