ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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ーー新友が親友になって心友になる。

この時期になるとそんな言葉を思い出します。
出会いの季節ですしね。


第三十四羽

男女二人で外を歩く。

それはデートと呼べる行為なのだろうか。

例えば、帰り道が同じだけの男女が顔見知り程度の関係で帰路を共にしていればそれはデートなのだろうか?

 

それがデートと呼べるものだとするのならば、いったい比企谷八幡はデートを何度経験したことだろうか。

 

なんの因果か八幡の周りには近頃女子が集まる機会が多い。

……そもそも学校では友人などいないのだからラビットハウス周辺に集まる女子と話す機会が多いだけではあるが、その女性陣とはよく買い出しや世間話などをする仲ではあるのだ。

 

「つまり俺は今この瞬間もデートをしているということでいいのか?」

 

「なに馬鹿を言ってるんだ。帰り道が同じになっただけだろうに」

 

しかし、リゼからすればこれはデートではないらしい。

期待などしていなかった八幡としては別になんとも思うことはないが。

 

「それにしても珍しいな、八幡がこっちから帰ってるなんて」

 

そう、普段ならば下校途中にリゼと八幡が鉢合わせするなんてことはない。

 

「いつものルートだと面倒ごとに巻き込まれる可能性があるからな」

 

前回チマメ隊プラスココア千夜に捕まった反省を活かして次なる帰宅ルートを通っていた八幡は偶然リゼと鉢合わせしたのだ。

八幡としてはリゼは自ら面倒ごとを持ち込むことは滅多にないので、この出会いは全く忌避することではなかった。

 

「なんだかんだ言ってお前は面倒見てるから嫌じゃないと思ってたんだが」

 

「出来ることなら避けたいが、直面してから逃げるのは違うだろ」

 

「だからお前は捻デレって言われるんだよ」

 

「お前らからしか言われねぇよ」

 

何気ない会話をしながら落ち着いて帰宅することができる。

それがなんと素晴らしいことかと八幡はしみじみと感じながら歩く。

 

「チマメ隊とも遊んであげてるじゃないか。ココアの謎の行動にも付き合ってるしな。口では文句言うのに」

 

「文句言っても聞いてくれないんだよ」

 

「本当に嫌なら完全に拒絶するような奴だろ、お前は」

 

「拒絶から入ってもいい事ないって教えられたからな」

 

「お前が人の教えを素直に受け取る?」

 

「おい、俺のことなんだと思ってんだ」

 

「いや、お前は人の教えをひねくれて受け取った挙句屁理屈で丸めて捨てるような人間だろう?」

 

「失礼だな、そんなことは……」

 

ない、とは言えない八幡。

リゼは八幡という人間をよく理解しているようだった。

 

「むっ、何か視線を感じないか?」

 

唐突に、リゼはそんなことを口にした。

そんな人の気配、そこか!みたいな事を言われても八幡は完全なる凡人であるので全く同調しかねる。

 

「そこか、誰だ!出てこい!」

 

近くの茂みに向かって声を張り上げるリゼ。

そんなとこに隠れてるのを見つけるリゼも隠れる人も大概だと八幡は変に感心する。

 

が、視線の主はそんなところには居らず、全く違うところから現れる。

 

「さっすがリゼ!よく気づいたねー!」

 

視線の主、マヤが現れたのはリゼと八幡の後ろの方の物陰で、リゼの思っていた茂みとは全く関係なかった。

 

「おい」

 

「……何も言うな」

 

「どうしたの?」

 

「リゼがちょっと痛かっただけだ」

 

顔を真っ赤にして俯いているリゼを疑問に思ったマヤだったが、八幡は空気を読んで深く言及することを避けたのだった。

 

 

 

 

 

「で、なんで尾行なんてしてたんだ?」

 

マヤがチノとメグと共にいないということに加え、リゼを追っかけていたという事態に八幡は疑問を抱きそうマヤに尋ねた。

 

「んー、ちょっとリゼに聞きたいことがあったんだけど、デート中だし悪いかなーって思って」

 

意外にも気を使う、という事をしていたマヤを見直した八幡。

マヤはもっと行動派で周りをひたすら自分のペースに乗せて行くタイプだと思っていたので、八幡の中のマヤのイメージが少し変わった瞬間だった。

 

「デートじゃないって言ってるのに。なんでそうなるんだ」

 

「言ったっけ?」

 

「八幡に、だけどな」

 

デート像、というものは人によって違うらしい。

二人にその気は無くともマヤにはデートに見えたようだ。

 

「まぁいい。よし、じゃあお前に尾行を教えてやろう!」

 

「いや、別に尾行にそんな興味はーー」

 

「ターゲットはーー、あの人だ!」

 

マヤの言葉を聞かず、リゼは勝手に話を進めて行く。

面倒な性格をした方のリゼ参上である。

 

「あ、青ブルマだ!」

 

「その略し方はやめとけ」

 

リゼが尾行対象に選んだのは神出鬼没の小説家、青山ブルーマウンテンであった。

 

「でもさー、リゼ」

 

「どうした?」

 

「青山さん、こっち見てるよ?」

 

マヤの指摘通り、青山さんを尾行対象に選んだはいいが、そもそも青山さんが尾行側を窺っている。

最初から気づかれていては尾行も何もない。

 

「あら?見つかってしまいましたかー」

 

「どうしてこっちを見てたのー?」

 

「尾行失敗、か」

 

一人落ち込んでいるリゼは放置しマヤは青山さんの事情を聞くことに。

もはや元の目的は何処へやらだが、本人が楽しんでいるのだから問題ないだろう。

 

「少し、八幡を観察していました」

 

「俺?」

 

「八幡見てて楽しい?」

 

マヤ的には楽しくないらしく、リゼに尋ねてみるマヤ。

そもそも行動派のマヤに観察という、どちらかといえば体の動きを要さないものは肌に合わないようだ。

 

「楽しくないだろ」

 

「失礼だな」

 

「いえ、そんなに」

 

「失礼だな!?」

 

観察していた本人からもそんなに面白くないと評価されてしまった八幡。勝手に観察されてつまらないと評価されるという理不尽。

 

「で?なんでつまんない八幡を観察してたの?」

 

「ねぇ、なんなの?イジメ?つまんない人間だって言われてんの?」

 

「次の小説のネタを求めて観察していたのですが、仕事を絡めて八幡を観察してもつまらなかったです」

 

「良かったね八幡。仕事抜きで見たら面白いって」

 

「いや、別に嬉しくないし」

 

 

 

 

 

「あ、ジェラート売ってる!」

 

「……ほら、お母さん」

 

「誰がお母さんだ!」

 

場所は変わって公園。

八幡にはマヤの聞きたいことがどのようなものかはわからないが、落ち着いて話の出来そうな場所を選んで移したというなんとも他人思いの珍しい行動により公園が選ばれた。

 

「ありがとー八幡!」

 

「いや、何も言ってないし。買えって?俺に買えって?」

 

渋々財布を出す八幡がジェラートの屋台に向かうとなんとも奇遇なことに売り子をやっているのはシャロだった。

 

「……バイトか」

 

「そ、そうよ」

 

少し前にシャロが八幡に抱きつくなんて事態が発生したことを互いに思い出し、二人とも少し気まずい空気になってしまった。

 

「私これがいい!」

 

「はいはい、リゼは?」

 

「私もいいのか?」

 

「八幡が男を見せるなんて珍しいわね。あ、リゼ先輩、メニューこちらです」

 

「意外に値段が安かったからな」

 

「理由が男らしくねー!」

 

 

 

ジェラート片手に屋台近くのベンチに座り、漸く本題へ。

 

「あのさ、リゼは学校楽しい?」

 

「そうだな、少し肌に合わないところもあるけど、楽しいし、いいところだよ」

 

「八幡は?」

 

「楽しくない」

 

「進路に悩める後輩の不安を煽るようなことを言うな!」

 

進路相談を持ちかけられているというなんとも先輩らしい状況にリゼは少し嬉しいのか口を緩ませていたがどこまでも八幡な八幡に呆れるリゼ。

 

「リゼとか八幡はさ、ココアたちと学校違うじゃん?」

 

「ラビットハウスはみんな違う高校だな」

 

「そもそもお前らのとこ女子校だしなぁ」

 

「それでも、楽しい?」

 

マヤの言わんとしていることが、察しのいい八幡とリゼには分かった。

マヤは不安で、寂しいのだ。

 

チノやメグと離れた高校生活というものを想起して不安でリゼに話を持ちかけた。

 

「私は楽しいよ」

 

「そうだな、悪くはない」

 

「本当に?もしチノとメグと同じ高校に行けないことになったらそのまま会わなくなって、みたいにならない?」

 

「お前の考えてる親友ってやつがその程度ならそうなんじゃねぇの?」

 

「お前はもっと優しい言い回しはできないのか!」

 

悩んでいるマヤに対してあえて八幡は強めの言葉を投げかけた。

それは決してマヤを傷つける為の言葉ではなく、マヤの言葉を引き出すための言葉だ。

 

「八幡の言い方は悪かったが、本当の親友なら学校が違っても一緒に遊べるさ。実際、高校が違うやつらが集まってるのを知ってるだろ?」

 

「そっか、そうだよね。親友だもんね」

 

「てか、そんな不安なら確かめればいいじゃねぇか。その親友ってやつにさ」

 

「え?」

 

八幡は、座っているベンチの後方にある茂みに目を向けた。

するとその茂みがガサガサと動き、二つの人影が飛び出し、マヤに近づいた。

 

「マヤさんがそんなことを考えてたなんて」

 

「私たちはずっと一緒だよ〜!」

 

「二人ともいたの!?」

 

ワイワイキャッキャといつものチマメ隊のムードである。

この三人が学校が離れたくらいで別れるような仲ではないのは誰の目からも明らかであるだろう。

 

「リゼちゃーん!」

 

「八幡くんも先輩らしいことするのね」

 

「「……なんでいるんだ」」

 

そして、そのさらに後ろの茂みからはココアと千夜の二人組が飛び出し一箇所に集まった。

 

チノとメグが八幡たちを尾行していたことを八幡とリゼは把握していたが、この二人に関しては全く気づいていなかったので驚きを隠せない。

 

そしてまたいつものメンバーが集まって、会話が始まり楽しげなムードの中誰もが笑顔になる。

 

年も学校も離れているメンバーがこうして一つに集まって話している状況を八幡たちはよく理解していた。

 

だからこそ、マヤには離れることはないと断言できた。

しかし、それは他人からの言葉であり、マヤの不安を拭い去るには及ばない。

 

だが、今この状況はマヤに実感と確信を与えた。

このメンバーは決して離れることのない不断の絆で結ばれているのだと。

 

「八幡、リゼ!ありがとう!」

 

「どういたしまして」「大したことじゃねぇよ」

 

ぶっきらぼうにでも少し照れ臭そうに二人はそう答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




八幡はどれだけ帰宅ルートを変えようともイベント回避は不可能。
学校に行かなくてもココアが家に押しかけてくる。
「大魔王からは逃げられない」

感想評価待ってます。切実に!
モチベが上がるんや!筆が乗りやすくなるんや!

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