三月って中々忙しいもので執筆時間が取れないもので。
それに加えて中々ごちうさの雰囲気とか原作を読んだ上での執筆感が戻らなくて。
下校の道のりを限界までショートカットすることにより、帰宅時間を早め、ラビットハウスに行くまでのダラダラする時間を作る。
これが、最近の八幡が試みていたことである。
渡る橋を変えたみたり、路地を通ってみたり。
普通ならば通らないようなところを通る事によって時間短縮になるのではないかという実験に励んでいた八幡だったが、遂に帰宅タイムを更新する道のりを発見した。
それは、下校中にある公園の横断である。
なんだかんだ、いつもの下校道中のギミックをなんとかする方が早く帰宅できることが発見されたのだ。
だから八幡は、近頃下校中に公園の中に入っていく。
しかし、公園というものは人が集まる憩いの場。
故に、人との出会いというものが存在し、それは八幡の下校を妨げることになる。
「はちまーん、助けてよはちまーん!」
「ま、マヤちゃん、まずは何のことか説明をしなきゃ」
「すいませんご迷惑をおかけします」
つまるところ、八幡はチマメ隊につかまったのだ。
メグが申し訳なさそうな顔をしているが、チマメ隊の主導権を握っているのはマヤなのでそんなことはお構いなしである。
「で、用件は?」
「今度写生大会があるんだけどねー」
「私は特に絵が苦手なので、どうにかしないといけなくて」
思い起こせばチノの描く絵はかなり個性的であった。
大人になれば個性というものは何物にも代えがたいものなのだが、中学生は周りと自分だけ異質であることを何よりも嫌うお年頃である。
「そういうのはリゼか、お節介焼きな自称姉にでもーー」
「お姉ちゃんに任せなさーい!!」
「私にもね♪」
八幡が言い切る前に話を聞いていたのか割り込んできたココア。
千夜もつれているところを見ると、八幡と同様に下校中だったのだろう。
「あとはこの二人が何とかしてくれるから、俺はもう帰っていいな」
「まったく、八幡は全体の輪を乱してダメだなー」
「もちろん帰っちゃだめよ♪」
八幡がココアと千夜に全部放り投げて帰ろうとしたころ、マヤと千夜に袖を引かれた。
逃走失敗である。
「俺にできることなんてなんもねぇよ」
「芸術はひらめきとの勝負よ?人数は多いほうがいいわ」
「別に勝負事ではありませんがこのメンバーで八幡さんに抜けられると困ります」
チノは明言は避けたもののかなり今のメンツがチノ的に不安であると発言した。
それもそのはず、チマメのマとメのボケ二人に加えて自称姉と天然少女もいるとなればツッコミはチノ一人だと間に合わないのは必至である。
「わかったよ、で?題材とかは決まってるのか?」
「人物画を描くなら千夜さんが絵になりそうだね」
「大和なでしこって感じだもんね」
「ありがとううれしいわ」
「御覧の通り決まってません」
絶賛題材探し中であるようだ。
描くものは自由とはいえ、人物画は難易度が高いだろう。
そこで八幡は題材となるものの厳選から始めることにした。
「千夜を描くよりも建物のほうが簡単でいいのが描けるだろ。幸いこの町なら絵の題材になるような建物はいっぱいあるしな」
「私より建物のほうが好きなのね。悲しいわ、しくしく」
「あー、泣かしたー。八幡、女の子を泣かしたらダメなんだぞ」
「え、え、今の何かダメだった?」
嘘泣きとはわかっているものの、女の子を泣かしてしまうという事態に加え、その相手が千夜、かつ周りに攻め立てられているという状況が八幡をより困惑させた。
「しくしく」
「千夜ちゃん、元気出して」
「八幡くんの女なかせー!」
責め立てられた八幡はどうすればいいかわからず、つい最近泣かしたばかりのチノに助けを求める視線をおくる。
しかしながら帰ってきたのはやれやれといった表情で自分で何とかしろと言わんばかりの視線。
今の状況に耐え切れず、ついぞ八幡は口を割る。
「ご、ごめんなさい」
なぜ責められているのかわからない八幡だったがとりあえず泣いた女の子は強く男が勝てるわけがないと父親の無様な姿から知っていたので、謝ることにした。
「しくしく、私は八幡くんにとって建物よりも興味のない存在なのね」
「もっと誠意を込めて謝らないとダメだよ!」
「その、取り敢えず、無機物なこの町の建造物よりかは、千夜の方が絵になるのは間違いないから、うん、そう言うことだから」
よくわからないが、八幡はまた千夜の謎な琴線に触れないように慎重に言葉を選んだ結果、なんとも謝っているのかそうではないのかわからない言葉を口にした。
「むー、期待してたのとは違ったけど、それで我慢するわ」
ケロリと嘘泣きをやめた千夜はぷくりと頬を膨らませ不満の意を八幡に示す。
「俺に何か期待する方が間違いだろ」
ココアの「絵になるといえばフルールじゃないかな?」という発言により一同はフルール前まで足を運んでいた。
確かにフルールは外装・内装ともに非常におしゃれなので、ココアにしてはいい提案だと八幡は感心した。
「見てみてー、画家っぽいポーズ!」
鉛筆を題材と平行に立ててその物の遠近感、サイズを図るために用いられる仕草だがマヤは絶対に意味を理解して使っていない。
マヤは所謂形から入るタイプなのだろう。
「おぉ!それいいねー!」
「チノちゃん、これでいいかなー?」
「よくわかりませんがいいと思ますよ」
そんなマヤにつられてココア、メグ、チノまで同様のポーズをとる。
傍から見ればなにやら女集団がフルールに呪いでもかけているのかといった様子に外野の八幡はあきれ顔である。
千夜は千夜で今のこのシュールな光景をにこにこと楽しんで傍観している。
「千夜、止めて来いよ」
「うふふ、楽しそうだからいいんじゃないかしら?」
「完全にあいつら変質者なんだけど」
フルールは店の壁がガラス張りになっているため中の客や店員は完全に困惑することだろう。
実際、アルバイト中のシャロが困り顔で変質者四人を見ている。
「ほら、シャロが困ってる」
「シャロちゃんはいつもあっち側よね」
「振り回されるのが宿命だよな」
シャロは八幡と千夜が変質者四人に連れ添っているのを見つけたようで、これをなんとかしろと手でわちゃわちゃとジェスチャーを送って来ている。
「あら?もうこんな時間、私は甘兎庵の仕事があるから、ここら辺で失礼するわね」
「あ、おい、俺にこれを押し付けてくな!」
「ココアちゃん、この子たち、お願いね」
「任せてー!」
千夜は元々甘兎庵の仕事があったとはいえ、なかなか面倒なタイミングで八幡を置き去りにして行く。
しかし、これも先ほどの八幡の発言の意趣返しだとすれば、自業自得と言わざるを得ない。
「よーし、みんな、構図はこんな感じでーー」
何やらココアが指揮を取り始めたが、そろそろ周りの視線が痛くなって来た八幡は早々にこの場を立ち去れるように動く。
「チノ、俺たちもそろそろラビットハウスの方に行くぞ」
「もうこんな時間でしたか、ココアさん、行きますよ」
「私たちも付いてく!いいでしょ?」
「迷惑じゃなかったらいいかなー?八幡くん」
「いいよいいよ!妹が増えるのは大歓迎だよ!」
この場から離れることには成功したものの、騒ぎはまだまだ続くようである。
場所をさらに移し、ラビットハウス内でチマメ隊+ココアは絵画についてあーでもないこーでもないと頭をひねっている。
「リゼ、よろしく」
「いや、私はーー」
「リゼは絵を描くのが得意だってよ!」
「お、おい!」
八幡はリゼに面倒事の大部分を押し付ける方へとシフトした。
八幡は絵のなんたるかを知っているわけでもなければ特段絵が上手いわけでもない。
ならば、絵に詳しくなくとも、絵心のあることがラテアートからもよくわかるリゼになんとかしてもらうのが妥当だろう。
「じゃあ、みんなでティッピーを描こう!ほら、八幡くんも」
ココアが全員に紙と鉛筆を配り、第一回ラビットハウス写生大会が開催された。
「むむ、ティッピーを描こうとしたら綿あめみたいになっちゃった」
「わたしもー」
「形がシンプルだからな、特徴付け辛いんだろ」
みんながあくせくする中、リゼだけがシャカシャカと一人鉛筆を止まることなく動かしている。
「わー、リゼさんすごい」
「わっ、リゼすごい!」
「流石リゼさんです」
リゼの描いているティッピーは陰影から立体感、毛並みなど、細かくかつリアルに描かれており、少なくとも困っているチマメ隊を惹きつけ、頼りたくなるくらいにはよく描けていた。
リゼさん、リゼー、とリゼを救世主だ!と言わんばかりに取り囲み、絵を描くコツだとか、どうしたらそんな風に描けるようになるの、とかを聞いている。
「妹たちがとられたー!」
三人がリゼばかり頼りにするものだからココアは八幡に泣きついた。
とはいえ、八幡もココアも絵に関してのアドバイスが出せるわけでもなければ、絵が上手いわけでもない。
「俺らが助けになれることでもないしな、姉ならどっしりと構えとけよ」
「そうですね、あまり狼狽えていては姉として頼ってもらえなくなってしまいますよ」
いつからいたのか、青山は狼狽えているココアにアドバイスを送る。
するとココアは慌ててキリッとした顔を作る。
手遅れ感が否めないがその向上心には感心しないこともない。
「チノさんもそんなに悲観することありませんよ」
自分の個性的な絵をあまり良く思っておらず出来ることならば見せることをしたくないものなのだろう。
「チノさんの個性の色は素晴らしいものです。せっかくいいものを持っていらっしゃるのですからもっと堂々と見せてください、ね?」
「そーだな。チノは気にしすぎだろ」
青山と八幡はチノの個性を否定しない。
否定だけでは人は伸びない。
肯定して、褒めて伸ばすことも大事であることを二人は知っているのだ。
そして、その大人びた二人の対応を見てココアは学ぶ。
一人前の姉に近づくためには妹をしっかり褒めて成長させることにより、より頼られることになるのでは?と考えた。
「みんな、頑張ってるねー!サービスのアイスコーヒーだよ」
「淹れたの私だけどな」
まずは絵を描いているシスターズに近づきコーヒーを運ぶ、その際に違和感なくごく自然に描いている作品を褒めることができればーー
「ココアさん、今日は少しだけしっかりしてますね」
「本当!?やったー!青山さん、八幡くん、チノちゃんにほめられたよ!」
「気づけココア、逆になってるぞ」
リゼの呟きはココアの耳に届くことはなく、ココアは妹を褒めて伸ばすことを実行することなく、終わってしまった。
ココアの立派な姉への道はまだまだ遠いようである。
「てか、結局なんの絵を描いてたんだ?途中でティッピー描くの諦めてたろ」
「あー、シャロを描いてたんだ!」
「建物はやっぱちょっと難しくって」
「シャロさんには事後承諾をもらう予定です」
「やっぱ不憫だ」
八幡はシャロの圧倒的なまでの被害者っぷりにもはや呆れるしかないのだった。
ぐぅぅ、原作消化がこんなに難しかったとは…
感想評価お待ちしております。