ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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遅れて申し訳ございません。

今回の29話30話は前編後編の物なので、前回のクリスマス番外を28話と29話の間に位置を変更しました。



第三十羽

シャロと夜を共にした日の翌日。

八幡は放課後になると、学校から直接シャロの家へと向かうことにした。

 

「それにしても、シャロの不憫さは異常だよな」

 

毎度毎度、シャロばかりこのような目に遭っている気がする。

それで今回は家で怪奇現象多発ときたもんだ。

これを不憫と言わずしてなんと言うのか。

 

「シャロがどうしたんだ?」

 

ポツリと八幡が漏らした独り言を聞かれていたようで、ものすごく聞き覚えのある声が八幡の耳に届く。

 

「……なんだ、リゼか」

 

「なんだってなんだよ。で、シャロがなんだって?」

 

「シャロの家で怪奇現象が起きてらしい」

 

「怪奇現象?……これは私の出番だな!」

 

リゼはそう言うとどこからか拳銃を取り出した。

怪奇現象だと言っているのに、拳銃でどうやって解決するのか謎であるし、下手をすればただシャロの家に風穴がいくつもできるだけである。

 

「銃は使うなよ?」

 

「…………使わないよ」

 

「おい、今の間はなんなのか聞かせてもらおうか」

 

やはりリゼはシャロの家でも銃を抜く気満々だったようだ。

 

 

 

歩くこと数分、八幡とリゼはシャロの家の前へと到着。

すると、丁度隣の甘兎庵の前で千夜が箒がけをしているところだった。

 

「あら?八幡くんにリゼちゃん。どうしたの?」

 

「千夜は聞いてないんだったか」

 

「何を?」

 

「シャロの家で怪奇現象が多発してることを」

 

やはり、シャロの予想が的中したようだ。

千夜はシャロが助けを求めていた時点で既に夢の中。

 

その後もシャロからのSOSメールに気がつくことなく一日を過ごしていたらしい。

 

「そ、そうなの!?」

 

千夜は今更ながらその事を知ったようで箒を手に持ったまま、シャロの家の戸を勢いよく開け放った。

 

バァン!

 

「な、何事ぉ!?」

 

「シャロちゃん!どうして、どうして私に言ってくれなかったの!?」

 

唐突に侵入してきた千夜に驚くシャロ。

さらに千夜に肩を掴まれグラグラと前後に揺らされる。

 

そんな漫才のようなことをやっている二人に構わず、八幡とリゼはシャロの家の中へ。

 

玄関からさらに中へ入り、リビングへ。

すると部屋の真ん中に山形を作るようにして雑誌が一冊ポツンと置かれていた。

しかも、カタカタとひとりでに動きながらである。

 

「すげぇな、早速怪奇現象じゃん。シャロの被害者レベル高すぎだろ」

 

「私、ポルターガイストって初めて見た。八幡、ちょっと私と雑誌を一緒にビデオ撮ってくれないか?」

 

こちらはこちらで呑気にビデオ撮影を始める八幡とリゼ。

なんとも緊張感のないことである。

 

「八幡に先輩、何してるんですか!?」

 

千夜から解放されたらしいシャロが部屋に入ってきた。

シャロはひとりでに動く雑誌を指摘すべきなのか、のんきにビデオ撮影をしてたら八幡とリゼを叱るべきなのか。

 

どちらにしてもシャロからすればめんどくさい事である。

 

「ふーむ、甘兎の隣に幽霊屋敷。……これは売れるわ!」

 

そしてシャロを悩ませる原因は増加する。

ここぞとばかりにボケ倒す千夜に、もっと他に怪奇現象は起きていないか探し始めるリゼ。

 

「………ほんと、ひでぇなこの状況」

 

さすがに今のシャロの状況が不憫すぎて、八幡はそんな言葉をポツリと漏らしたのだった。

 

 

 

五分後。

漸くテンションが高かったリゼと千夜も落ち着き、雑誌も未だにカタカタ音を立てている。

 

五分も同じものをカタカタと動かし続けるとは中々根性のある幽霊である。

 

「ま、そろそろ種明かししてもいい頃だろ」

 

八幡はマジシャンのような言い回しをしながら雑誌に手をかけ、バッ!と勢いよく雑誌を持ち上げる。

 

すると、雑誌の下にはシャロが最も苦手とする生き物。

うさぎの存在がそこにはあったのだ。

 

しかも、かつてシャロを幾度となく日常的に困らせていた不良うさぎであるとの情報がリゼの口から八幡へと伝えられる。

 

このうさぎがなぜか大量発生している町で、シャロの家のようにボロい感じの家だと、うさぎが侵入するくらい楽勝なのだろう。

 

「……なんで、私ばっかこんな目に」

 

騒がしい連中が乗り込んできたかと思えば次はうさぎ。

シャロはついに泣き崩れる。

 

この状況には流石の八幡も同情せざるを得ないだろう。

リゼと千夜をシャロの家に上げてしまった原因は八幡が担っているのだから罪悪感も感じてしまう。

 

「ほれ、不良うさぎ、ここはダメだ。家主がうさぎ嫌いだからな」

 

八幡も流石にボケることはせず、不良うさぎを追い出しにかかる。

 

しかし、不良うさぎは八幡の横を素通りしてシャロの元へとぴょこぴょこと移動する。

口には何か草のようなものを咥えている。

 

それをシャロの前でポトリと置くと、どう?と首をかしげる不良うさぎ。

もしかしなくとも家賃のつもりなのだろう。

 

「「なんて義理堅い不良だ」」

 

八幡とリゼが感嘆の声を漏らすが、シャロは自分が苦手なうさぎが近づいてきたのに怯える。

それに加えて、うさぎがシャロに家賃がわりとしておいた草を見て目を見開いている。

 

「あら?これって、シャロちゃんが庭で育ててるハーブじゃない」

 

「もうやだぁ」

 

「げ、元気出せよシャロ」

 

「ここまでくるといっそ清々しいな」

 

うさぎが差し出した物が、自分の家で育ててるハーブだと知ると更に意気消沈のシャロ。

不幸が続いて散々である。

 

「でも、ここまでちゃんとしてるうさぎならシャロちゃんが家で飼ってもいいんじゃないかしら?」

 

「ばっ、バカ言わないでよ!そんなの無理に決まってるでしょ!」

 

「シャロのうさぎ嫌いを治すチャンスだ!なんなら私が教官になってうさぎ克服のため訓練してやってもいい!」

 

千夜、リゼ、不良うさぎに見つめられ、うさぎの滞在を許可するように求める視線をひしひしと受けるシャロは最後の望みと言わんばかりに八幡へと救援要請の視線を送る。

 

しかし、八幡としても、そんな視線を送られて出来ることなどない。

確かに、シャロがうさぎ嫌いで困っているとはいえ、うさぎなど実質無害。

そこまでして追い出しにかかるほどの動物でもない。

 

「……はぁ、シャロ。お前がうさぎを好んでないのは知ってる。でも、ここまで誠意を見せてるうさぎなんだ。お前もうさぎ克服のために今日だけお試しで飼ってみたらどうだ?」

 

「八幡まで、私を陥れようとするのね」

 

最後の望みであった八幡からも裏切りにあったシャロは項垂れる。

 

三人と一羽に見つめられるシャロ。

うぅ、と唸りながらシャロは自分の中でうさぎを家で飼った場合のリスクリターンを考えているのだろう。

 

「……お、お試しだけよ!一週間であなたをチェックするからね!」

 

ついに折れたのか、シャロはうさぎに向かって契約内容を突きつける。

 

「じゃあ名前を考えましょう!ごまぼたもち、とかどうかしら?」

 

「いいな、それ。非常食にぴったりだ」

 

「お前らうさぎを食べるのか!?」

 

千夜がお菓子の名前をうさぎにつけようとすれば八幡は便乗して適当なことを口にする。

それにリゼは突っ込みながらも、結構真剣にうさぎの名前を考えているらしい。

 

「お試しだけだから名前なんていらないんじゃ……」

 

なぜか既にシャロの正規のペットとして皆に認知され始めている事実に項垂れながらもなんだかんだ名前を考えているらしく、先程からブツブツとイギリス人に居そうな名前が次々に上がっている。

 

「よし!じゃあお前は今日からワイルドギースだ!」

 

「シャロの意思は無視かよ」

 

静寂を破り勝手にリゼはうさぎの名前をワイルドギースに決定。

 

「せ、センパイが考えた名前だし、無碍にはーー」

 

「嫌なら嫌って言っていいぞシャロ。絶対リゼの趣味で名付けただろうし」

 

八幡的にはそんな可愛げのない名前よりかはもっとうさぎにつけるに相応しい名前、またはシャロの好みの名前を付けるべきではと提案する。

 

「あら?やっぱりワイルドギースは律儀なのね」

 

「いいぞ!ワイルドギース!このまま訓練していけば私の部下にしてやってもいいぞワイルドギース!」

 

しかし、八幡の提案を他所に、リゼと千夜はすでにワイルドギースと連呼している。

 

「……もう、手遅れだと思わない?」

 

「……すまん」

 

もはや罪悪感だったり、シャロへの同情だったりでお腹いっぱいの八幡。

 

「でもこの子、この名前気に入ったみたいよ?」

 

「そうなの?……そうね。意外と似合ってるかも」

 

シャロは膝を抱えるようにして屈むと、ワイルドギースと出来るだけ顔を近づけると、ふわっと優しくワイルドギースに微笑んだ。

 

その笑顔を、八幡、千夜、リゼは少し驚いたように顔を見合わせる。

 

「じゃあ、私たちは帰るか」

 

「そうね、私も掃除の続きをしなきゃ」

 

千夜とリゼはもうここにいる理由はないとばかりにさっさとシャロの家から出て行ってしまった。

 

「……あいつら、何しに来たんだ?」

 

「連れてきたのは八幡だけどね」

 

「すまんと思ってる」

 

「……悪いと思ってるなら、ワイルドギースの小屋を作るの、手伝って」

 

「まぁ、そんくらいならな」

 

木材を切ったりするのにシャロ一人で、というのもなかなか大変だろうが男手が一つでもあれば、難なく作り上げることが出来そうである。

 

「じゃあ、今日のところは俺も帰るよ」

 

「分かったわ。小屋作りの時は連絡する」

 

八幡はそんなに長居をしては迷惑だろうと、さっさと玄関へ。靴を履いて、ドアノブに手をかけると、シャロに声をかけられる。

 

「今日も、昨日も、ありがとね」

 

「気にすんなよ。俺がやりたくてやったことだ」

 

「それでも、嬉しかったから」

 

先ほど、ワイルドギースに見せた笑顔よりも、もっと美しい笑顔で、シャロはそう言った。

そんなシャロの笑顔に八幡が見惚れるのは仕方のないことだろう。

 

更に追い討ちをかけるように、ぼすっ、と音を立てシャロが体勢を崩し八幡の胸へと飛び込んだ。

八幡は急なことながらもしっかりとシャロを抱きとめる。

 

シャロを後ろから押し、体勢を崩した犯人は不良うさぎのワイルドギースであった。

 

「ぁ、は、八幡」

 

昨日も布団の中で抱きしめられた。

しかし、あの時とは少し事情が違う。

昨夜は寂しさに呑まれていたシャロ。

しかし、今は寂しさはない。

 

つまり、生まれるのは寂しさを埋める暖かさではなく、別の感情だ。

 

「………そろそろ、離れてくれ」

 

「ぁ、ご、ごめーー」

 

シャロがそう言って八幡から身を離そうとしたその瞬間。

 

ガチャリと扉が開く音がした。

 

「シャロさん?いらっしゃいますか。……ぇ」

 

戸を開けて入ってきたのは頭にティッピーを乗せたチノだった。

 

「……ぁ、ぇと、ノックしても返事がなくて、だからそのっ、ご、ごめんなさい!」

 

チノは数瞬、目の前の光景に呆然としたが、すぐに正気を取り戻すと、すぐにシャロの家から出て行った。

 

シャロは人に今の状況を人に見られた事に顔をリンゴのように赤く染め、パタパタと家の奥へと引っ込んでいった。

 

しかし、八幡は今の状況を見られたことの羞恥心よりも、困惑の気持ちが大きかった。

 

チノの顔を八幡は見てしまったのだ。

 

 

 

あの感情の起伏が大きくないチノが顔を歪めていた。

そんなチノの悲しげな顔を。

 

 

 

 




【活動報告に今後についてのことを投稿しています。作品投稿についての大事なことなので、気になる人は覗いてやってください】

さぁ、やってまいりました修羅場ルート(修羅場になるかは未定)。
ようやく回ってきたチノのターン、

次回八幡死す!デュエルスタンバイ!

感想評価待ってます。

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