ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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メリークリスマス!
と、言うわけでクリスマス番外編です。

合計文字数15000字弱とアホみたいに長くなってしまいました。
でも、一応いくつか区切りがあるので、長くて読んでられねぇ!と言う方はそれを目安に休憩なさってください。

それでは、過去最長かつ甘々なクリスマスをお楽しみください。


番外 聖夜のうさぎたち

プシューッ、という電車の停車音が耳に響き、体に少しの揺れが生じる。

それとともに沈んでいた意識が覚醒し、眠りから覚めたことを理解した。

 

思えば前日の夜までは働きづめで、あまり睡眠時間が取れなかった。

気がつかぬうちに睡魔に襲われ、眠ってしまったのだろう。

 

窓の外を見れば、随分と懐かしい、独特の駅の光景が広がっている。

 

「やべっ」

 

目的の『木組みの家と石畳の街』に到着したことを知ると、自らの荷物を引っ掴んですぐに下車。

 

随分と久しぶりにこの街に来たが、記憶は錆びついておらず、迷うことなく駅を出ることができた。

 

外は、しんしんと雪が降っていて明るくはなかったが、白く彩られた街の姿はまた美しいものだった。

 

ボストンバッグを肩にかけ、懐かしの場所へと足を運ぶことにした。

 

事前に連絡をしていたわけでもなければ、目的の人物たちがその場所にいるという確信もない。

だが、妙な確信が持てた。

 

懐かしの何年たっても変わらぬ美しい外観を楽しみながら、未だに鮮明に記憶されている道を歩いていく。

 

途中、積もった雪に足を取られながらも、一歩、また一歩と目的地へ足を向ける。

 

変わらぬ道、変わらぬ風景。

そして、変わりのない、変わって欲しくない、そのままの形で残っていてほしい場所。

 

《Rabbit House》と掲げられたウサギの看板。

 

その戸に今手をかけ、開け放つ。

 

 

比企谷八幡、六年ぶりの、ラビットハウス入店である。

 

 

まず目に入ったのは、クリスマス用に飾り付けられた煌びやかな店内。

そして、せわしなく動く八人の女性店員の姿。

 

あぁ、変わっていなかった。

 

そのことに嬉しさと少しだけの寂しさが心に生まれるのを感じる。

 

「いらっしゃいませ!……!!??」

 

まず俺に声をかけてきたのはムードメーカーである保登ココア。

 

背は幾分か伸びた程度。髪は前よりも伸ばしてはいるが、肩より少し長い程度。

しかし、少しモカのように大人っぽくなった気がしなくもない。

 

俺が来店するなどとは思ってもいなかったのだろう、驚愕の色が見て取れる。

 

俺の予想では、ココアはここで騒ぎ出す。

いつものマイペースで明るい声で八幡くん!なんて騒ぎ出して、他の奴らにもそれが伝染。

なんとも騒がしい店員陣。と言う情景が目に浮かぶ。

 

浮かんだのだがーー、

 

「こちらの席へどうぞ。ご注文がお決まりでしたらお呼びください」

 

「!?」

 

誰だお前は。

俺の知っている保登ココアではない。

なぜそんなにもおしとやかになった?

なんでそんな大人な女性!みたいなオーラを出しているんだ。

 

おぉ、なんか去り際まですこしかっこいいーー

 

ドテン。

 

足を自分の足に引っ掛け転倒。

 

ああ、なんか安心した。

この一見大人な女は紛れもなくココアだと理解した。

 

クリスマスということもあり、店内はとても賑やかで、ココアを含めたラビットハウス三人組、千夜、シャロ、マヤメグ、翠の懐かしいメンバーがラビットハウスで働いている光景を眺めると、結構みんな大人っぽくなっていることに気がついた。

 

ぐるりと見渡して何よりも目を引いたのがーー、

 

白く美しい長髪。

幼さがほとんど抜けた顔。

美しいと表現できるプロポーション。

何よりも佇まいが妹ではなく、大人の女性である。

 

あのチノが立派な女性に育ったものだとどこか感慨深いものを感じる。

 

他メンバーも全員が大人っぽくなっており、六年前までこんな女性たちと共に青春を過ごしていたなどと誰が信じてくれると言うのか。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

呼んでもいないのにココアが俺のところまで注文を取りに来た。

他にも客はたくさんいるし、絶賛店員を呼んでいる客もいると言うのに何故俺のところに来たのか。

 

「じゃあ、ココアで」

 

「ええっ!?」

 

ぼんっ、と一気に顔を赤くし、えっ、えっ!?となにやらひどく動揺した様子のココア。

ココアを注文することのなにが悪いと言うのか。

 

外が寒かったから温かいものが欲しいだけなのに。

 

「え、えと……仕事終わった後に、ね?」

 

「いや、なんでだよ。ココアなんだから時間もかからないしすぐだろ?」

 

「ええっ!?え、いや、あの、確かに未経験だけど、さすがにそんな早く済まないし、他のお客さんもいるのに……」

 

だからなぜそんなにも動揺しているのか。

 

「未経験?お前そんな仕事してなかったっけ?」

 

「そんな仕事してないよっ!私をなんだと思ってるの!」

 

え?確かにココアは高校時代のバイトで日向ぼっこばっかりでサボり気味だったとはいえココアくらい淹れたことあるだろう。

 

「えぇ、意味わかんないんだけど。じゃあ、ミルクココアでもなんでもいいからチノに淹れてきてもらえ」

 

「え?ちょ、八幡くん、初めてなのにそんな高度なプレイをーー」

 

「そこの人!注文いいか!」

 

「はーい」

 

ココアがトリップし始め、話が進まないと踏んだ俺は最も有能かつ、あまり騒ぎ立てなさそうなシャロを呼ぶ。

 

「ちょっとココア、なにやってんのよ。すいませんお客様。うちの店員がご迷惑をおかけしました。ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「………」

 

なにこの有能な美人。

元々尊敬されるべき人間だったシャロの顔からは幼さが抜け、完全な美人になっていた。

身長や胸こそあまり大きくなってはいないが、それでも超絶美人と呼べるシャロに俺は言葉を失う。

 

「……と、とりあえずMAXコーヒーで」

 

「あれ!?私じゃないの?」

 

唐突に復活したココア。

そして自分が勘違いしていたことに気がついたのか顔を真っ赤にして「〜〜〜っっ!!」と声にならない声をあげて店の奥に走り去っていった。

 

「変わらないな。あいつは」

 

「でしょ?私たちはココアに呼び出されてここにいるのよ。ココアはいつも私たちの中心にいたから。八幡はどうしてここに?」

 

やはり。

思った通りにシャロは俺に最初から気がついていたようだし、俺の意図を汲んでか騒ぎ立てないでいてくれる。

養ってください!

 

「いいだろ、会社から休みをもらったんだ。どこに行こうが俺の勝手だ」

 

「その貴重な休みにここに来てくれるアンタってほんと捻デレよね」

 

「未だにその謎ワードを使ってんのか。結局捻デレって何なんだよ」

 

「ふふっ。じゃあ、仕事に戻るわ。閉店後にパーティーをやるから、MAXコーヒーでも飲んで待ってなさい」

 

ひらひらと手を振って返事をする。

ココアとシャロには俺の存在を明かしてしまったが、他の奴らはどうなのだろうか?

 

千夜、リゼ、チノあたりは俺のことに気がついても良さそうなもだが。

 

てか、マヤにメグも最初に会った時は小学生か?なんて思ったが今見てみると、急成長ってレベルじゃないくらい大人な女性になってるんだけど。

 

人って六年でそんな変わるもんだっけ?

 

ほら、千夜、リゼなんてあんまし変わってないし。

……あれ、リゼの髪型がかわってる。

 

あいつらは元々、体としては大人に近かったし。どこが、とは言わないが。

身長も元々低くはなかった。

唯一変わったことといえば、やはりみんなと同じように顔やオーラが大人になった事くらいだろう。

 

さて、あとはーー

 

あー、翠は、うん。

老けてない。

まだまだ美人。

 

でも、もう三十路越えーー

 

シュカッ。

 

俺の座るテーブルにフォークがどこからともなく飛んで来て刺さった。

 

すいません。

もうこんな失礼なことは考えません。

 

平塚先生といい、なんで大人ってこんなに怖いの!?

 

これ以上変なことを考えていると今度はナイフが飛んできそうだったので、おとなしく待つことにした。

 

 

 

ーーまたのご来店、お待ちしています!

 

俺以外の全ての客が退店。

 

「さて、じゃあパーティーの始まりだよ!」

 

「ココア、立札をクローズに変えるのが先でしょ?」

 

残っている客が俺だと知っているココアとシャロは早くパーティーを開きたいらしく落ち着きがない。

 

「え、でもまだお客さんがーー」

 

「ほら、八幡くんも座ってないで手伝ってよ!」

 

「……ぇ、八幡さん?」

 

「おう」

 

チノは俺の存在に気がついていなかったらしい。

しかし、他の面々は気がついていたようで、別に驚いたりはしていなかった。

 

接客中に手振ってきたりしてたからな。

 

「……色々言いたいことはありますが。ーーお帰りなさい」

 

「ただいま」

 

涙を目頭に溜めながらチノは俺にただいまと言った。

ラビットハウスは客にとっても店員にとっても第二の家のように。そんなコンセプトだった覚えがある。

 

「八幡!お前、目がもう腐ってないな!一瞬誰かわかんなかったよ!」

 

「お前もツインテじゃなくてポニーテールに髪型変えたんだな」

 

「もう子供っぽいと思ってな。変か?」

 

「……私服にエプロン着用で台所立ってくんない?」

 

「な、何を言ってるんだ!」

 

なぜ怒鳴られるのか。

なんかリゼの今の雰囲気が人妻のようだったから正直に感想を言っただけなのに。

 

「ねぇ、八幡くん」

 

「どうした?千夜」

 

「私ね、甘兎庵に永久就職してくれる男性を募集してるんだけど」

 

「そこ!何やってんのよ!」

 

千夜が何やら勧誘をしてきたようだが、即座にシャロに連れ去られてしまった。

 

「八幡八幡」

 

「今度は翠か。なんだよ。ゴーストライターに永久就職とかなら聞かないぞ」

 

「…………なんでもありません」

 

「おい」

 

久しぶりに会って成長したかと思ったら全員いつものノリだった。

ちょっと成長した?なんて思った俺が馬鹿みたいだった。

 

「八幡八幡!」

 

「八幡さん八幡さん!」

 

今度はチマメのマとメが話しかけてきた。

こいつらもどうせあの頃から中身は大して変わってないんだろうなと思いつつ、適当にあしらう準備をしておく。

 

「見て見て!お色気ぽーず!」

 

「じゃ、じゃーん!」

 

そう言うと唐突にマヤとメグは肩をはだけさせた。

……何がしたいのだろう?

 

………いや、何がしたいのだろう?

 

「マヤさんメグさん!何やってるんですか!」

 

チノが怒ったー!と叫びながら逃げるマヤとメグ。

 

チノは相変わらず振り回されているらしい。

頑張れチノ。俺は応援しているぞ。

 

「もう、あの二人は全く」

 

「お疲れ」

 

「もう、ここには来てくれないのかと思いました」

 

寂しそうな顔でチノはそう告げた。

 

「まぁ、今日は、な」

 

歯切れ悪く俺はそう誤魔化した。

チノからしたらなぜお茶を濁したのか分からなかっただろう。

 

いや、ここにいる誰にも理解できなかっただろう。

 

比企谷八幡。一世一代のさぷらいず。

 

そのために、今日俺はここにきた。

 

 

ーー、後で二人きりで話がしたい。

 

 

ラビットハウスの中にいる彼女達。

そのうちの一人にぼそりと耳元で呟いた。

 

彼女はなんのことかわからない様子だった。

 

俺は、彼女がこれを渡したらどんな反応をするかと考えながらコートのポケットに入っている小箱を弄んだ。

 

 

 

 

 

_____________________________________________________

 

 

彼女にあの冬、指輪を渡してから早一年。

結婚後初めてのクリスマスを迎えた。

 

 

 

♢比企谷(保登)心愛の場合

 

「さ、さむぃ」

 

そんな情けない言葉とともに、俺は自宅の扉を開ける。

世の中はクリスマス真っ只中だと言うのに俺は本日も仕事でろくにクリスマスを楽しむことなどできなかった。

 

「たでーま」

 

えっ!?バタバタドタドタ。

 

そんな騒がしい声と音が部屋の奥から聞こえてきた。

亭主が帰ってきただけで何をそんなに焦る必要があると言うのか。

 

まさかとは思うが浮気ではないだろうか?

そうなれば泣き喚いて罪悪感を誘った後に慰謝料を踏んだくって離婚してやろうと決め、リビングの戸を開く。

 

「は、八幡くん、早いよぉ」

 

体の要所をリボンで隠しただけの格好の我が嫁。

比企谷心愛が倒れた大きめのプレゼントボックスの中に入っていた。

 

「……何やってんの。おまえ」

 

「……お、お帰りなさいあなた」

 

この流れで予定通りに話を進めようとする我が嫁の精神に脱帽する(予定があったかは知らないが)。

 

「ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」

 

「全部外で済ませてきた」

 

…………。

 

………。

 

……。

 

 

「………ぇ、ぇぇと、そっか」

 

あ、やばい。

ちょっとした八幡ジョークが真面目に受け取られてしまった。

待って待って!やめて泣かないで!

目尻に大粒の涙とか溜めないで!

 

「すまん、嘘だ」

 

「えぇ!?嘘なの!?クリスマスになんでそんな嘘つくの!」

 

「すまんと思ってる」

 

全く、八幡くんは全く、もー!とココアはぷんぷん怒ってますアピール。

非常に可愛いのだが、そんなことよりもココアの露出度の高さのことで俺は先程から頭がいっぱいである。

 

本当にリボンだけで自分の体のごく一部を隠しているらしく、怒ってますアピールをしているココアの双丘が揺れるのだ。

 

ゆさゆさ。

 

ぷるぷる。

ぼく、悪いスライムじゃないよ。

 

ぐっ、これが万乳引力か!

 

「もー、とりあえず、ご飯にするよ?」

 

「あ、あぁ」

 

前かがみになっていたのはバレていないだろうか?

クリスマスだからといってあんな際どい格好を許した覚えはお父さんありませんよ!

 

「召し上がれ♡」

 

ココアは自分の胸に飛び込んでこいとばかりに両手を広げる。

 

「で、ご飯は?」

 

「わ・た・し」

 

「チェンジで」

 

「なんでぇ!?クリスマスだよ!?性なる夜だよ?」

 

こいつはどこでそんな言葉を学んできたのだろうか。

もはやあざといとかそう言うレベルを通り過ぎてただのビッチに成り下がっている気がする。

 

「ていうか、この一連の流れ。誰の入れ知恵?」

 

「最近お友達になったいろはちゃん!八幡くんの八幡くんが元気になるって!」

 

聞き覚えがある名前が登場したがとりあえずスルーするのが正解だろう。

 

「はぁ。とりあえず、ご飯にしてくれ。お前を頂くと飯を食う前に寝落ちする」

 

「はーい」

 

ココアはそう言ってはだかリボンな状態のままエプロンをつけ、途中まで準備してあったらしい夕飯の支度を始めた。

 

え、その格好で料理するの?

俺、前かがみになっちゃうから。

前かがみになりすぎて地面に頭を擦り付けるまである。

 

グリグリ。

 

地面に頭を擦り付けても煩悩は退散しなかった。

 

もんもんと。

 

むらむらと。

 

台所に立つココアのふりふりと左右に動くおしりをなるべく、なるべく見ないようにしながら、俺は煩悩退散に勤めたのだった。

 

 

 

このあと、美味しくご飯(両方)を頂きました。

 

 

 

 

 

♢比企谷(香風)智乃の場合。

 

繋がれた俺よりも一回り小さい柔らかい手に俺は意識を向けながらイルミネーション輝く街中を二人歩いていた。

 

「どこへ行くんですか?」

 

二人きりのディナーを終えた俺とチノ。

俺は行きたい場所がある、とだけ伝えて手を握りながら先導していた。

 

「人が多いとこ」

 

チノが人が多い場所が苦手だと知りながらそう口にする。

 

「……八幡さんは意地悪です」

 

「何を今更」

 

チノと結婚してから一年程だが、結構な頻度でからかっている気がする。

 

だって、うちの嫁可愛いから。

そもそも、比企谷(・・・)智乃と呼ばれただけで未だに顔を赤くするチノが悪い。

 

「でも、嫌じゃないです」

 

そんなことを頬を赤らめながら言うのだからたまらない。

ココアがかつて妹にしたいと連呼していたのに共感してしまう。

 

いや、今は俺の嫁なのだけれども。

 

雪がしんしんと降る中でもつなぐ手は暖かくて、かつての俺ならこんな日は寒い!なんて言って外へ出なかったのに、今はチノと二人でならどこへだって言っても構わないと思える。

 

結婚とは人を変えるものだなと我ながら思ってしまう。

 

そんな馬鹿なことを考えながら歩いていると、いつの間にやら目的の場所へとたどり着いていた。

 

「着いたぞ」

 

「……ぁ、わぁ、すごい、凄いです!」

 

そこは先ほどチノに告げた様な人の多いところではない。

静かで、誰もいないような高台。

 

だが、そんな場所でも、クリスマスの夜景は美しく映る。

 

「会社の休み時間で昼飯を食うために街を徘徊してたら偶然見つけてな。たまにはこんなのもいいかな、と」

 

一時、俺とチノの間に会話は生まれなかった。

しかし、繋がれた手は更に硬く繋がれ、その手から自分もチノも体が熱くなっているのが感じられる。

 

「八幡さん」

 

先に沈黙を破ったのはチノだった。

チノは繋がれた手を振りほどき、俺の体の正面に立つ。

 

手を振りほどくなどチノにしては非常に珍しい行為だ。

それ故に俺はチノの行動を予測できなかった。

 

ちゅっ。

 

チノは恥ずかしやりなので、自分から愛情表現をすると言うことが非常に少ない。

だからこそ、一瞬自分が何をされているのか理解するのにに時間がかかった。

 

だが、答えはすぐに出る。

 

チノの綺麗な顔が鼻先にあり唇には柔らかい感触。

俺の胸元で服を握っている手も、精一杯背伸びをして俺と顔を近づけようと、頑張っていることも。

 

「……ぁ」

 

でもやはり、身長差からか、唇が触れ合ったのはほんの一瞬。

チノは顔を離すときに顔を赤らめながらも少し悲しそうな顔をしているのを見てしまった。

 

きっと彼女のことだから自分からも愛情表現がしたいとかそんな感じだろう。

 

俺は無言でチノの手を取って強引に引き寄せると膝を曲げチノに目線を合わせる。

 

そして、チノのピンク色の唇へと自らのそれを近づけた。

 

「メリークリスマス。チノ」

 

「メリークリスマスです八幡さん」

 

 

 

 

 

♢比企谷(天々座)理世の場合

 

世間は今クリスマス。

しかし結婚一年目の新婚さんな我が比企谷夫妻は外出をしておらず、家にてまったりしている。

 

だって昨日はあんなに買い物とかデートに連れ回されたし今日はいいかなって、いや、今日は勘弁してくださいって頭を下げました。

 

なので俺とリゼはソファに座りながらテレビをつけ二人手をつないでいるだけである。

 

だが、クリスマスという日は特に面白い番組を何か放送しているわけではない。

 

つまるところ、暇なのだ。

 

リゼは繋いでいない方の手で結ばれていない自分の髪を少し弄りながら口を開いた。

 

「なぁ、八幡」

 

「どうした?」

 

「子供、欲しくないか?」

 

んん?

 

「………唐突だな」

 

「そうでもないさ。私たちはラビットハウスでは保護者的立ち位置だっただろ?だから、子供がいたらこんなのかなぁって思ったりしたわけだ」

 

まあ、リゼは意外と世話焼きなので、言っている意味がわからないこともない。

 

でも、唐突に、子供欲しくない?なんて聞かれても返答に困ると言うものだ。

 

「で?」

 

「どうせ暇なんだし、ベッドで子作りに励んでもいいかなって」

 

「おいおい待てよ恥ずかしがり屋のリゼさんや」

 

「どうした?」

 

なんでだよ、いつもならこう言うことは顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら言っていたリゼさんがどうして今日に限って何事もないように口にできるんですかね。

 

「子供が欲しいって、詰まる所、そういう事をするってことでいいよな?」

 

「なんだ?恥ずかしいのか、今更じゃないか」

 

「いつも恥ずかしがってたお前が言うな!」

 

なぜだ?いつもならたじたじのリゼがなぜこんなにもぐいぐいと攻めてくるのだろうか。

 

比企谷リゼの覚醒なのだろうか。

目覚めちゃったのだろうか。

 

しかし、俺は目ざとく少し赤みがかかったリゼの耳に気がついてしまった。

 

なるほど、つまるところ、ポーカーフェイスと言うやつか。

先ほどまでの名誉挽回のため俺は反撃を開始する。

 

「そうだな、子供か。何人欲しい?サッカーできるくらい?22人?」

 

「二チーム分!?い、いや、確かにサッカーはその人数だけど、それは流石に」

 

「大丈夫、俺頑張るから。毎日毎日機械的に腰を振り続けるだけだからな!」

 

「まさかの作業!?い、いや、そんな愛がない行為はーー」

 

「大丈夫!俺はお前を愛してるからな!」

 

「この流れでそれは卑怯だ!」

 

ぐいぐいとまくしたてる俺に狼狽え、先程までの勢いは何処へやら。

華麗なる形勢逆転である。

 

はぁ、はぁ、はぁ、とツッコミ疲れたのか息を荒げるリゼ。

……冷静になると俺もとんでも無いことを口走っていた。

 

「……すまん、調子に乗った」

 

「いや、私が変なこと言ったから」

 

互いにキャラではないようなことをひたすらに口走ったせいで無駄に変な空気になってしまった。

クリスマスに俺たちは何をしているのか。

 

「……なあ、八幡。私との子供を作るの、嫌か?」

 

いきなり真面目な顔になって、繋いだ手を少し強く握りながらリゼはそう言った。

 

「どうしてだ?」

 

「……だって、お前、いつもゴム付けるじゃないか」

 

ふむ、詰まる所、俺がゴムをつけて行為に及ぶのはリゼとの間に子供を作りたくないと考えていると思われているらしい。

 

大切な嫁を不安にさせてしまったのは俺の失態である。

ならば、俺の本心を持ってリゼを慰めるしかないだろう。

 

「…もう少し二人の時間が欲しかったんだよ。言わせんな恥ずかしい」

 

「そ、そそ、そうか」

 

俺が歯の浮くようなセリフを口にするとリゼは安堵のため息をつく。

 

「でも、もう結婚一年だもんな。そろそろ頃合いか」

 

俺はそう言うと繋いでいた手を離し、リゼの膝下と背中に手を回しその体を抱き上げる。

所謂お姫様だっこである。

 

「へ?ちょ、な、何を!」

 

「この流れでわからんか?」

 

「い、いや、わかるけど!」

 

「今日はつけないから覚悟しとけよ」

 

「わかった!わかったから降ろしてくれ!これ結構恥ずかしいんだ!」

 

そんなリゼの叫びを無視して、俺は寝室へとリゼを運びこんだのだった。

 

 

 

 

 

♢比企谷(宇治松)千夜の場合

 

ふと、自分の腹のあたりに圧迫感を感じて目が覚めた。

すでに窓からは光が差し込んでいることから朝が来て嫁が起こしにでもきたのだろう。

 

「おはよう、八幡くん」

 

比企谷千夜。

我が嫁にして、絶賛俺の上にまたがっている天然小悪魔系の嫁である。

 

「おはよう。……で、何それ?」

 

現在の千夜の服装はいわゆるミニスカサンタ服というやつである。

胸元もかなり大きく開いており、千夜の巨乳がすでに溢れそうである。

 

「今日はクリスマスじゃない?だから私が八幡くんのサンタさんになってあげようと思って」

 

すでにその格好がプレゼントになっているとは死んでも言わない。

なぜなら黙っていればプレゼントがもらえそうだから!

 

「で?そのサンタさんは何をプレゼントしてくれるんだ?」

 

「……何が欲しい?」

 

「考えてなかったのかよ」

 

「だって、八幡くん何も欲しがらないから」

 

確かに俺は千夜の前で何かが欲しいと言ったことはないが人並みに物欲はある。

 

だが、今はそれ以上に性欲が勝ってしまいそうである。

これで、千夜が欲しい、なんて言おうものなら千夜はまず間違いなく了承する。

だがそれではまずい。

 

せっかくのリア充となって迎えたクリスマスを朝からそのような行為で棒に振るのはもったいないと言うものだ。

 

「千夜が欲しい」

 

だめだった。

理性が負けた。

むしろ理性なんてなかったと言わんばかりに戸惑いなく口からこの言葉が出た。

 

「ふふっ。そんなものでいいの?」

 

「立派なものだろ」

 

特にそのメロンとか。

 

おっと、今日の俺は一体どうしたと言うのか。

先程から性欲旺盛すぎて捻デレの「ひ」の字も見えないではないか。

 

いかんいかん。

気を引き締めねば。

 

「じゃあ、どうぞ♪」

 

「ちょ、やっぱ今のなし!」

 

だめだ。

やはりクリスマスなのだから楽しまなくては。

もっと外出とか色々あるだろう。

 

そうだ、今こそ脱引きこもり!

 

「その前に!デートに行こう!」

 

「?別にいいけれど、八幡くんの嫌いな人混みよ?クリスマスだから人も多いだろうし」

 

「大丈夫だ!問題ない!だからとりあえず俺の上から降りて着替えてくれ!」

 

「はぁい」

 

今日の千夜は聞き分けが良くて助かった。

たまに頑固になる時があるので、その時は梃子でも動かないのだ。

 

「八幡くん」

 

「どした?」

 

「どう?この服」

 

部屋を出て行く前に千夜がくるりと振り返り問いかけてきた。

 

そういえば、言ってなかった。

 

「世界一かわいいよ」

 

「ふふっ、嬉しい♪」

 

こうして、比企谷家にしては珍しく、賑やかにクリスマスを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

♢比企谷(桐間)紗路の場合

 

比企谷家のソファにて、俺とシャロは二人並んで腰掛ける。

時間は昼時。

だが、朝が早くなかったせいか、朝ごはんを食べてからあまり時間は経っておらず、昼食を食べるのは憚られる。

 

すると、俺の隣に座るシャロが口を開く。

 

「今日は絶対外には出ないわ!」

 

唐突に引きこもり宣言をしだす比企谷シャロさん。

一体どうしたと言うのか?

 

確かに彼女は俺だけに働かせるのは申し訳ないとか言う理由で自分も働いて家にお金を入れてくれる。

俺だけの給料でも十分養えるほど稼いでると自負しているが、シャロ的には金じゃないらしい。

 

「今日くらいは外に出ずに、家で怠惰に過ごすのよ!八幡」

 

「……文句はないが、一応今日はクリスマスだぞ」

 

「関係ないわ!外に出ると疲れるもの。八幡も人混みが嫌いだからいいでしょ?」

 

どうやら、日頃働いているから今日くらいは何もしたくないとそう言うことらしい。

 

「わかった。じゃあ、洗濯とかしてくるから用があったら呼んでくれ」

 

そう言って俺は立ち上がろうと腰をあげる。

 

きゅ。

 

しかしながら、シャロは俺の服の裾を掴んで離さない。

これではあまり動けないのだが。

 

「八幡も、今日くらいはいいわよ。洗濯物一日分なんて明日やればいいのよ明日」

 

普段のシャロからは考えられないような言葉が飛んできたことに俺は驚愕を隠せない。

 

几帳面で毎日欠かさず家事もこなし続けるシャロがこんな怠惰なことを言い出すなんて予想だにしていなかった。

 

「二人で、ゆっくり過ごしましょう。八幡だって昨日は仕事だったでしょ?」

 

「……そうだな」

 

しかし、あまり我が儘を言わない家内の言葉も無碍にはできない。

ならば黙って彼女に従うことにする。

 

シャロは俺が浮かせた腰を再び下ろすのを確認すると、俺の方に自分の頭を乗せてきた。

 

「あれから、一年ね。早いものだわ」

 

俺がシャロに指輪を渡してから一年。

シャロは何故か自らの指にはつけず首からチェーンで下げているのだ。

 

「なんで、指につけないんだ?」

 

シャロの首に光るチェーンを見ながら俺はシャロに尋ねた。

 

「だって、汚れちゃうじゃない。手につけてると」

 

「だから首に?」

 

「……なるべく心臓に近い方が、暖かいから」

 

中々に乙女チックな発言である。

指よりはもっと自分の命の源に近いところにつけることで、ありがたみを噛み締めると言ったところか。

 

「嬉しいことを言ってくれるな」

 

俺はそう言いながら隣に座るシャロを一度立つように促す。

 

クエスチョンマークを頭に浮かべながらも立つシャロ。

俺はそのシャロのすぐ後ろに座ると、シャロを座らせる。

 

するとシャロは自然に俺の股の間に腰を下ろす。

そのシャロの体にぎゅっと抱きつく。

 

所謂あすなろ抱きである。

 

「……あと五時間くらいこのままで」

 

「流石に腹が減るから無理だ」

 

「むぅ。じゃあご飯の後もまたこれやって」

 

「仰せのままに」

 

たまには、働き者の嫁をとことん甘やかすのもいいだろう。

 

ぎゅうっと、さらにシャロの体を強く自分の体に引き付ける。

シャロもそれに答えるように、シャロの体の前で組まれている俺の手に自分の手を添える。

 

結局俺のクリスマスはこれだけでほぼ一日を使い果たした。

 

 

 

 

 

♢比企谷(青山)翠の場合

 

かぽーん。

 

温泉独特の音が耳に響く。

 

ちゃぷん、と身を動かすと水音が聞こえる。

 

「あぁぁ〜」

 

体にお湯が染み渡る。

仕事で疲れた体にはやはり温泉が一番だと思う。

 

カラカラ。

 

今度は引き戸が開けられる音がする。

 

「どうですか?八幡」

 

「最高」

 

誰が来たかなど確認するまでもない。比企谷翠が体にバスタオルを巻いて脱衣所を出てきた。

 

現在俺たちはクリスマスに休日を取り、温泉旅行中である。

冬なのもあり、露天の所々には白く雪が積もっている。

 

ふぁさっ。

 

体に巻いてあるバスタオルを外すような音がする。

その音で少し翠の裸体を見たいという願望に囚われかけたが、温泉でそのような煩悩は無粋以外のなにものでもない。

 

「ふふっ、見たければ振り返ってもいいんですよ?」

 

「何を今更」

 

翠が俺の内心を見透かしたように後ろから話しかけてくるが、出来る限り冷静に返す。

 

「では、失礼します」

 

俺の隣にすっと片足ずつお湯に入れる翠。

白くスラッとした綺麗な足が目に入る。

次に太もも。そこから少しずつ翠の美しい体が視界にーーハッ、イカンイカン。平常心平常心。

 

そんなバカなことを考えていると、翠は肩までしっかりとお湯に浸かっている。

幸いなことに?お湯の色は乳白色なので、翠の体がはっきりと見えることはない。

 

「ふふっ、メリークリスマスですね八幡」

 

温泉にクリスマスとはお世辞にも合う組み合わせとは言い難い。

本当に翠は小説家なのだろうか。

 

「温泉に入りながらその言葉を聞くとは思わなかったな」

 

「サンタさんサンタさん。私は子供が欲しいです」

 

「サンタ俺かよ」

 

「他にいますか?」

 

「いねぇな」

 

俺以外の人間が翠に子供を授けようものならその人間をさんざん呪った後に殺してやる。

 

「私、婚期を逃した人間ですからそろそろ子供を産んどかないと体力的に心配なんです」

 

「なんでお前はこのタイミングでそれを言うかな」

 

「お互い裸だからです」

 

「場所を考えろって言ってんだ」

 

「じゃあ部屋に戻ったらいいんですか?」

 

「ここはごく普通の旅館だ。決してそのような行為に至るための場所じゃない」

 

全く、このマイペース過ぎる嫁のせいで毎日と振り回されたりと大変だったが、今年も終わりに近づいたところでこんな爆弾をぶち込んでくるとは思いもよらなかった。

 

ふにゅっ。

 

「おい、何をしている」

 

翠の双丘が俺の腕に押し付けられている。

ここは温泉。つまり、裸である。

 

そのような行為をしようと思えばいつでも出来る状態なのだ。

 

「ふふっ、当ててるんです」

 

「聞いてねぇし、分かりきってるわ。あんまし誘惑するなよな。理性がもたん」

 

「いいじゃないですか。旅行なんですし羽目を外しましょう」

 

「時と場合を考えろって言ってんだ。だからーー」

 

ちゅっ。

 

「とりあえず、これで我慢しとけ」

 

「はーい、旦那様」

 

翠の要望には答えられなかったが、それでも嬉しそうな翠の顔を見て幸せを感じる。

 

「そうだ、八幡、背中を流します。このスポンジを使えば綺麗になりますよ」

 

そう言って翠は自分のたわわに実った胸を腕で少し持ち上げる。

 

「……お願いします」

 

やはり、男というのは煩悩に勝てないのであった。

 

 

 

 

 

_____________________________________________________

 

 

 

 

 

クリスマス一週間前に一通の手紙が届いた。

 

【クリスマスの日、うちに来てください。お店のお手伝いもよろしくね!お客さんも八幡くんの事気にしてるみたいだし】

 

どうせ俺には予定なんてないし、せっかく彼女が招待してくれたのならと、一昔前なら断っていたはずのお誘いに乗り彼女の元を訪れることにした。

 

と言うよりも、俺があそこで働いたのは去年のクリスマス前後の一週間のみ。

 

なのになぜ、そんな俺の話が広まっているのだろうか。

 

 

 

◯保登モカの場合。

 

 

 

ワイワイガヤガヤ。

 

今日も今日とてベーカリー保登は大繁盛である。

 

今日はクリスマスということもあり、さぷらいずが大好きな俺の嫁兼ベーカリー保登の看板娘のモカ考案のクリスマスキャンペーンを実施中なのである。

 

そんなことで仕事が休みでダラダラするはずだった俺まで駆り出され絶賛仕事中である。

 

「おねぇちゃんこれくださーい」

 

小さな女の子がレジに立つモカに向かってトレイに乗せてあるパンを差し出す。

 

俺はそれをモカから受け取ると流れるように袋に詰める。

 

それをモカに返却するとお金の換算をちょうど終えたモカが女の子に手渡す。

 

「ありがとう、お姉ちゃん、お兄ちゃん!」

 

「八幡くん!まだまだお客さんはいるからね!ペース上げるよ!」

 

「……俺、会社員なのに。パン屋の店員じゃないのに」

 

ぶつくさ文句を言うが、モカには基本的に逆らえない俺は渋々とモカの指示通りに仕事を進めていく。

 

「文句を言いながらも働いてくれる八幡くんが大好きだよ!」

 

「じゃあ文句ましましで仕事量を減らそう」

 

「別に文句を言ってる八幡くんが好きなわけじゃないからね!?」

 

そんなくだらない話を仕事中だと言うのに口にしてしまうのはこの職場の空気が緩いからか、それを聞いているお客さんたちが微笑ましそうにこちらを見守ってくれるからかはわからないが、こんな職場も悪くない。

 

「あんたら、結婚しとるのかい?」

 

客をさばいていると、当然話しかけてくるような気さくなお客さんもいるわけで。

 

お年を召したおばあちゃんがモカに好奇心からか話しかけていた。

 

もちろん、それに対応するのはモカ。

俺は知らんぷりを決め込む。

 

ただ、今回は少し話題がマセた内容で、モカも戸惑っているらしい。

 

「え、えぇと、私と、後ろの人のことですか?」

 

「もちろんさぁ」

 

「まだ、結婚してないです」

 

あはは、と少し引きつった笑みを浮かべながらモカは対処する。

 

「あんた、だめだよ。ほら、そこのあんただよ!」

 

どうやら俺のことを言っているらしい。

困り顔でモカに助けを求めるが、モカは諦めて、といわんばかりの表情である。

 

「男見せなよ!モカちゃんきっと待ってるよ!なぁ?モカちゃん」

 

「えぇ!?……あの、そのぉ」

 

「ここに来る客はみんなモカちゃんのこと大好きだからね、泣かせたら承知しないよ!」

 

「……肝に命じておきます」

 

ここで返答を間違えたらきっと客全員から大ブーイングを食らっていただろう。

だが、おばあちゃんは今の俺の返答に満足したように頷いた。

 

「うんうん、結婚したら教えてよ!みんなお祝いするからさ。なぁ?」

 

あばあちゃんは店内にいる全員に同意を求めるようにくるりと振り返って呼びかける。

 

「モカちゃん!幸せになー!」「お姉ちゃんおめでとー」「羨ましいな!妬ましいな!」

 

おばあちゃんの呼びかけに答えるように客たちは答える。

これも、モカの人望によるものが大きいだろう。

 

気になるのは、結婚はしてないのに、した感じで話が進んでいるところである。

 

幸せにな!もなにもまだ俺はプロポーズしていないし、答えも貰っていない。

 

だが、ここまでくれば、もう言ってしまうしかないだろう。

 

「モカ、後で話がーー」

 

「ほら、あんたらも空気を読みな!さっさと出るよ!」

 

俺が後で二人で話をしたいと言う旨を伝えようとすると、その前におばあちゃんが遮った。

てか、後でって言ったのに。

今じゃねぇよ!

 

しかし、空気を読んでしまった客たちはゾロゾロと店内から出て行く。

 

最後におばあちゃんが出て行く前に、くるりと振り向き俺に向かって、グッと親指を立てる。

 

 

 

ここまで周りに気を使われて、周りに流されて。

 

きっと、俺は最後の一押しが欲しかったのだ。

 

俺が去年のクリスマスにモカに指輪を渡すことをためらい、結局渡せなかったのは、勇気がなかったから。

 

モカを俺なんかが、なんて卑屈にものを考えたせいだ。

 

でも、半ば強制とはいえここまで場を整えられてしまったら男を見せるしかないだろう。

 

「なぁ、モカ」

 

「は、はいっ!」

 

なんて言えばいいだろう。

結局のところ、これはこんなところで女性がときめくような洒落たセリフを言えない。

 

でも、それでも俺の気持ちを伝えるために、言葉を選ぶ。

 

「俺は、変われたかな?」

 

あぁ、俺は一体何を言ってるんだ。

違う、そうじゃない、そんなことを言いたいんじゃない。

 

「うん。変わったよ。すごく変わった。あの人を信じようとしなかった八幡くんが、こんなにも」

 

君の言葉で俺は救われた。

 

 

 

だから、一生かけて君に恩返しがしたい。

 

君の姉であろうとする在り方が好きだ。

 

君のどんな時でも笑顔で誰かのためになろうとする姿勢が好きだ。

 

君のやわらかで優しく、思わず見とれてしまいそうな笑顔が好きだ。

 

君の実は脆くて寂しがりやなところも好きだ。

 

 

 

だから、俺が君に送る言葉はただ一つ。

 

 

 

「俺の、本物になって欲しいっ(結婚してください)

 

ああ、情けない。

震えた声で、俺はモカに伝えた。

後は、君の答えを待つだけだ。

 

すると、君はその美しい顔に涙を浮かべて、俺がこの世で一番好きな笑顔を浮かべて口を開く。

 

「よろこんでっ」

 

俺たちはその言葉を皮切りにどちらからともなく互いに近寄りーー

 

 

 

ーーー熱く、口づけを交わしたのだ(本物を手にしたのだ)

 

 

 

 




一応、それぞれのヒロイン達にテーマがあったりするお話です。
……マヤとメグがいないって?
べっ別に時間が足りなかったとか文字数が多すぎるからカットしたとかじゃないんだからね!

おそらくこれが今年最後の投稿です。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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