東京は雪も降りましたし、皆さんお体にお気をつけください。
……あと、みんな感想で人妻攻略とか言いすぎぃ!
しないからね?ココア母攻略とかしないからね?
ココアのいないラビットハウスは、やはり静けさに包まれ、客もいない店内はただ店外の音のみが微かに聞こえるだけ。
そんな中、チノが、思い出したかのように話を切り出す。
「そういえば、今日からうちにマヤさんとメグさんが泊まりにきます」
「ココアがいない時に、アイツが喜びそうな事が起こるな」
リゼは少しココアに同情した様子で、ぽつりと呟いた。
ラビットハウスのムードメーカーのココアは千夜と勉強合宿をするためにラビットハウスを離れ、甘兎庵へと赴いているのだ。
「ココアがいなくてもあの二人がいればだいぶ騒がしくなるな」
「あの二人、八幡さんと遊ぶ!と言って楽しみにしていましたよ」
「お前、いつからそんな懐かれたんだ?」
「……心当たりがないとは言わんが、大したことはしてないぞ」
あのキャンプで、それなりに面倒見のいい八幡はマヤとメグと遊んでやったりしていた。
その結果、目は腐っているが優しいお兄さんとしてあの二人の中では定着したようだ。
バタン!
「たのもー!」
「こ、この店は私たちが占拠したー!」
噂をすればなんとやら。
マヤとメグは期待通り?に騒がしく入店。
「マヤさん、メグさん、とりあえずウチの制服に着替えて下さい」
開幕の渾身のギャグを思いっきりスルーされたことに驚くマヤとメグだったが、ラビットハウスの制服を久しぶりに着れると聞いて喜んで更衣室へ向かう。
その際、リゼの制服をマヤが着たがったため、リゼもしょうがないなぁ、とぼやきつつ更衣室へ。
「……客、いないけどな」
「やかましいわ!」
ガランとした店内を一瞥してから八幡はそう呟いた。
そのつぶやきに、反応したのはティッピー。
「客のいない喫茶店に店員五人。いつも思ってたんだが、経営の方大丈夫なの?」
「お主に心配されんでも、来るときは来る!」
「まぁ、バータイムもあるし、経営が落ち込むとは思ってない」
「なにおぅ!アイツに頼らんでもワシの喫茶店だけでやっていける!」
やはり、自分が建てた喫茶店を息子であるタカヒロが牛耳っていることに僅かながらも不満がある様子のティッピー。
「まぁ、店員の件はチノが友達を作るのに役立っておるから、減らすこともできんじゃろ」
「チノに甘いな」
「甘やかしたくもなるじゃろう?」
「否定はしない」
男二人?の奇妙な会話をしていると着替えを終えたマヤとメグが更衣室から出てきた。
マヤがリゼの制服。
メグがココアの制服。
リゼがバータイム用の女性用制服。
それぞれサイズが少しあっていないからかぶかぶかだったりする部分もあるが、様にはなっているのは、二回目だからなのか、風格が出てきたからなのかは定かではない。
「よーし!じゃあバリバリ働くよ!」
「が、頑張りまーす!」
「……なにを?」
ガランとした店内をまた一瞥してからぼそりとチノとリゼだけに聞こえるように呟いた八幡。
実質、皿洗いや掃除などは八幡たちがすでに終わらせているし、客がいない今やる事はない。
「ど、どうしましょうか。せっかく二人がやる気を出しているのでなんとかしてあげたいのですが」
ちらり、とチノがマヤとメグの方へ視線を向ける。
「見てー!メグ!ツインテール!」
「マヤちゃん可愛いー!私もリゼさんのマネしてやってみようかなー」
「やっちゃえやっちゃえ!」
別に仕事がない現状でも十分楽しそうである。
「なんか、このまま放っておいても良さそうじゃないか?客も今はいないだけだし、何人かはいつも通り来るだろ」
リゼの言い分が最もなので、頷いて答える八幡とチノ。
さて、と八幡は何かを思いついたかのように足を裏手の方へ向ける。
「その間はリゼが二人の面倒を見ておくんだぞ。俺は裏で客が来るときに備えて英気を養っとくから」
「逃げるな!お前もチマメ隊の相手をしろよ!」
「「「チマメ隊ってなに(なんですか)!?」」」
「え?ほら、ちっこいの三人でわかりにくいからまとめて呼ぼうと思って。……そんなことより八幡!私だけじゃこの園児たちの相手は出来ない!」
「「「園児!?」」」
先程からリゼがどんどんチマメ隊に対してぶっ込んでいくが、リゼは特に意識した様子もないことから、結構本心から出た言葉だったりするのだろうう。
「いやいや、リゼお姉さんがいればなんとかなるから問題ない。ほら、チマメ隊、お姉さんが遊んでくれるってよ」
「八幡さんまで!」
完全に子供扱いされているチマメ隊だが、やはり子供扱いしている二人は何食わぬ顔で会話を続けている。
「そもそも、私と八幡は同い年なんだからお姉さんもなにもないだろう!」
「なに言ってんだ、俺なんて常に童心を忘れない男だ。でもリゼはオシャレにも気を使っちゃう大人ぶってる乙女さんだから問題ない」
「まだあの時のことを引きずるか!」
ワイワイガヤガヤと普段そこまで店内でうるさくすることのない二人が騒いでいる事にチノはうろたえながら事の成り行きを見守っている。
マヤとメグはティッピーを箒片手に追いかけ回す。
やはり、ココアがいずとも、ラビットハウスに陽気は絶えない。
◯
ラビットハウスでの仕事もひと段落。
「温泉プールに行きたい!」
そんなマヤの発言をきっかけに一行は温泉プールへと訪れていた。
水着はレンタルして、早速飛び込むマヤとメグ。
リゼはやれやれと呆れつつも、保護者の様な立場に板についている。
「おじいちゃん、八幡さん、クラスメイトを家に泊めるのは初めてなので、どうもてなせばいいかわからないんです。どうすればいいでしょうか?」
「こういうのはぼっちの俺に聞くもんじゃねぇだろ。こういうのが得意なココアは今いないし、どうしたもんか」
チノと八幡は首を傾げる。
二人は積極的に人と関わることを苦手としている人種なので、このようなことには疎く、大人なティッピーへと意見の最速の視線を送る。
「ありのままのお前で接すればいい」
高く、女性のような声がティッピーから、発せられたかのように一瞬思い驚いた二人だが、すぐにその声の真の発生源に気がついた。
「青山さん!」
「なんでここにいんだよ。神出鬼没にもほどがあるだろ」
「執筆の息抜きに来ちゃいました」
「ここにはよく来るんですか?」
「アイデアを探しに時々来るんです」
そんな雑談をしていると、パシャパシャと水音を立てながらマヤとメグが近づいてくる。
「あれ?青山さんもいるー」
のほほんとした表情でそんなことを言うメグだが、その他にはそこそこ大きめの水鉄砲が握られている。
「リゼに買ってもらったんだー。六人いるし、二手に分かれて銃撃戦やろう!」
「ほら、水鉄砲」
リゼは遠目から青山さんのことを認識していたのかしっかりと六人分の水鉄砲を買ってきていた。
「後で払う」
「いいよ、これくらい。それにしても、久しぶりの銃撃戦かー!」
「子供かよ」
チーム分けの結果、
マヤメグ八幡チーム対チノリゼ青山チームになった。
「「頑張ろー!」」
「テンション高いな」
どうするどうする?と三人集まり作戦会議。
「隠れて後ろからバーン!でいいんじゃね?」
マヤのなんとも雑な作戦が提案される。
「わ、私、隠れるの苦手だよぉ〜」
「水の中に潜って近づけばいいだろ」
「その手があった!八幡、まさか天才!?」
「まぁな」
「よーし、じゃあ私は八幡さんについていくね!」
「今の作戦は!?」
茶番のような作戦会議を終え、試合開始のホイッスルが鳴る。
先ほどの作戦会議は何処へやら、三人とも散り散りになりそれぞれ身を隠す。
(この銃撃戦で気をつけなきゃいけないのはリゼ。どうっすっかな)
なんだかんだ言いつつも、サバゲーのようなこの状況をちゃっかり楽しんでいる八幡はまだまだ子供のようである。
壁に身を隠しつつ、リゼを捜索する八幡。
だが、リゼを探すことに気を回しすぎた八幡は、背後から近づいてくる別の影に気がつかなかった。
「動かないでくださいね」
ふにょり。
「ふあっ?」
なんとも間抜けな声を出した八幡の背後からクスクスと笑い声がきこえ、その声で誰かを判断。
まさかのダークホース青山翠である。
青山さんもマヤとメグから隠れつつ八幡の背後を取っているので、自然と体が密着し柔らかな感触をこの状況で楽しんでいる八幡。
「マヤさんとメグさんの居場所を教えてください」
「ぐ、ずるいぞ!そんな
「?」
なんのことかさっぱりな様子の青山さん。
天然でこんなことをされてはひとたまりもない八幡。
ここまでか、と八幡が諦める直前。
ぴゅっ、と青山さんの顔に水が発射される。
「あ、あらー」
「は、八幡さん、助けに来たよー!」
まさかのメグである。
それによって少し残念に思いながら八幡も
「やられちゃいました」
「助かった」
「えへへー!」
おっとりしているのであまりこのようなゲームは得意ではないメグは褒められて嬉しそうである。
「じゃあ、次はチノちゃんを倒しに行こう!」
「いや、まずはリゼだろ」
再び身を隠す二人。
今度は水中へ身を潜める。
最中から顔を少しだけ覗かせ、周囲を観察。
すると、ツンツン、と八幡はメグから合図を送られる。
ーーチノちゃん発見。
ーー了解、二手に分かれて挟み撃ち。
ーーわかったー!
戦場において合図とは最低限かつ的確に行われるべきものである。
それをこの素人たちは素人なりに上手くやりとりしている。
スススッ、と水中で移動し、メグはチノの正面から、八幡は背後から接近する。
ーーー今っ!
「チノちゃんかくごー!」
「えっ、メグさん!?」
唐突に現れたメグに驚いた様子のチノ。
そして、それに気を取られ背後の八幡には気がつかない。
もらった!
八幡とメグはそう確信した。
ビュピュッ。
「えっ!?あうぅ、やられました」
「やったー!二人目だ!」
「後は、リゼだけーーーメグっ!」
「えっ?あっ」
八幡はとっさにメグに声をかけるがそれも虚しく、メグは撃ち抜かれてしまった。
「やっぱりお前は残ってるか八幡」
「はぁ、勝てる気がしないが少なくとも、一矢報いてやるよ」
ゴゴゴゴゴ。
そんな効果音が付きそうな二人の対峙。
まず始めに動いたのは八幡だった。
軍人の娘のリゼに対して馬鹿正直に射撃しても避けられるだけ。
ならば、と八幡はリゼの足元に射撃。
リゼはそれをバックステップで華麗に回避。
八幡は追撃とばかりに、回避行動を取っているリゼの胴体を狙い射撃。水をあまり消費しないよう短く連射。
が、それもリゼの前には無力。
スライディングの要領でかがみ、銃弾はリゼの頭上を通過する。
そして再び対峙する形になる。
「今度は私からいくぞっ!」
すぐ射撃を回避できるよう身構えた八幡だが、リゼはその予想に反して射撃をせず接近。
八幡との距離を詰めにかかる。
八幡は接近戦では分が悪いと距離を離そうと試みるが、少し遅く、リゼは八幡の行動を制限するように八幡の両サイドを射撃。当たることはないが、横方向に身動きが取れない。
ならば、八幡が取れる行動は一つ、まっすぐ突っ込むことのみである。
二人は互いに向かって走り、銃を構えて射撃態勢に。
そして、二人はトリガーにかけた指をひくーー!!!
唐突ではあるが、ここは
当然、体を洗うための場も男女別の仕切と見えないようにするための仕切り、プール内でのルールと、その仕切りの場に見張りの人がいるとはいえ、
当然、体を洗うため、石鹸等を使用する。
そうなれば、当然泡が出るわけで。
つるっ。
「う、うわっ」
すると当然、床は滑りやすいわけで。
リゼは足を滑らせ、そのまま八幡へダイブ。
リゼを迎え撃とうと同じく走っていた八幡は抱きしめるように受け止めるが、勢いは殺すことはできず、リゼを抱いたまま、プールの中へとドボン。
「プハッ、ご、ごめん八幡」
「いや、俺もちょっと調子に乗った」
互いの無事を確認するとともに謝罪をする二人………もちろん身を寄せたまま。
しかし、そんなちょっといい雰囲気を壊す小さな存在が一人。
「くらえっ!」
ピュピュッ!
マヤの射撃によって味方である八幡もろともリゼを撃ち抜くマヤ。
「「うわっ」」
「やったー!私の勝ちー!」
マヤは一人勝ち残ったことを報告するため、メグの方へと勝利の報告へ。
八幡とリゼはしばし呆然とした後に、「「あっ!」」と今の状態がどんなことになっているかに気がついた。
「こ、この変態っ!」
ここまで密着していれば、やはりそのたわわに実った双丘は八幡の胸板に押し付けられている。
しかも、今は水着一枚という薄着。
羞恥心によってリゼは八幡に拳を向けた。
「……理不尽じゃね?ガクッ」
「………あぁ!ごめん八幡!つい!」
無事?に銃撃戦を終えた六人は一息いれるため休憩。
「せんせー、お風呂上がりにコーヒー牛乳のもー!」
メグはそういって抱えたコーヒー牛乳をリゼと八幡に差し出す。
「「先生?」」
「メグ、八幡とリゼのこと先生って!」
ケラケラとメグのたまにある言い間違いに笑う。
その指摘で自分の言い間違いに気がつきメグは顔を赤く染める。
「だって、八幡さんは国語の先生でリゼさんは体育の先生みたいなんだもん」
「……教官ではなく、先生、か」
「ちょっと嬉しそうだな」
「う、うるさい!……で、青山さんはなぜ隠れる?」
「……先生と言われて、編集さんが私を捕まえに来たのかと」
「……逃げてきたのか?」
八幡から、なんとも言えない圧力が発される。
それもそのはず、青山さんは次回作は八幡を主人公のモデルにすると言い切った。
ならば、モデルになった身としては手抜きなどは絶対に許さない。
サボって不出来なものになって仕舞えばそれは八幡の黒歴史が暴露されるだけのものになってしまうからだ。
「え、あ、あの、八幡、書いてますよ?書いてますけど、やっぱり休みって必要だと思いません?」
青山さんはものすごくうろたえながらも、八幡に弁解を始める。
「……あの二人仲良いね。……まさか恋人!?」
マヤが中学生特有のすぐ恋愛方向に持っていく現象が発生。
「どうしましょう八幡、恋人なんて言われちゃいました」
「青山さん、考え直せ!まだ間に合う!」
「恋人さんなんだー」
「おいリゼ、お前は俺をなんだと思ってんだ。あと、違うから」
恋人同士という事実を否定。
ちょーっと仲がいいくらいの関係であると八幡は認識している。
「さて、着替えて帰るぞ!」
「チノー!夜中はなにしようか!」
「えっ、な、なにをーー、く、クロスワードパズル?」
「一人用じゃん!」
そんな会話を始めたチマメ隊をよそに、八幡とリゼはひそひそと話を始める。
「八幡、あいつらのために、遊べるものを買ってやらないか?」
「……お前も甘いな」
「チノがそれで友達と楽しめるなら安いと思わないか?」
「水鉄砲分多く、俺が出す」
「お前も譲らないな」
「別に、一応男だからな。養われる気はあっても施しを受ける気は無い」
「はいはい」
もはや子供を甘やかす夫婦の図にしか見えないのはきっと気のせいではない。
八幡とリゼだけチマメ隊と別に帰宅するように見せかけ、二人でボードゲームを買って、タカヒロさんに渡してきたのだった。
「なんでタカヒロさんに渡したんだよ」
「……なんか、気恥ずかしいだろ?」
「恥ずかしがり屋め」
「お前だって、『リゼが手渡してこい。俺は待ってるから』とか言ってただろ」
あまり似ていない八幡のモノマネを織り交ぜながら八幡に反論するリゼ。
「……だって恥ずかしいだろ」
「恥ずかしがり屋め」
「「うっさい」」
そう言って、二人は笑いながら帰路に着いたのだった。
やはり出てきてしまう青山さん。
ぐっ、お、お前は好感度十分高いから後でいいんだよぉ!
あれ?最近ココアラビットハウスにいなくね?
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