ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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うーむ、ペースが中々上がらないなぁ。





第二十七羽

「見て見て八幡くん、私のティッピー!」

 

ココアは、ピンクの自転車を指差し、謎な発言をする。

ココアはこの自転車をチノがティッピーを頭に乗せているように頭の上に乗せるというのか。

 

「八幡、ココアの自転車の名前だ。ティラノピンク、略してティッピーらしい」

 

なにがどうなってそんな発想がココアの頭に浮かんだのかは全くわからない八幡だったが、問いただせば長くなると判断した八幡はこれ以上聞かないことにした。

 

「あ、そう。で、なんで急に連れ出した?」

 

「私、自転車乗れないから練習に付き合って欲しいんだ!」

 

「リゼ一人いればよくね?」

 

リゼは基本的になんでもできる女。

八幡が付き添う理由はない。

 

「ほら、リゼちゃんだけだと、ね?」

 

「あぁ」

 

八幡は先日のリゼ軍人モードを思い出した。

自転車の特訓ごときでそんなスパルタ訓練をされてはココアもたまった者ではないだろう。

だから八幡をストッパーとして呼び出したとそういうことらしい。

 

「とりあえず華麗にドリフトを決められるくらいには乗れるようになりたいな!」

 

「そんなの私もできないよ」

 

「「えっ」」

 

リゼがドリフトをできないと聞いて驚きの声を挙げる二人。

 

「おい、お前らは私をなんだと思ってるんだ」

 

「だってお前、休日とか自転車でその辺のチンピラ従えてドリフトとかウィリーとかやってんだろ?」

 

「やってない!」

 

「だってリゼちゃん休日はバイクで華麗に技を決めてるんじゃーー」

 

「免許持ってないし!」

 

「「さて、練習しようか」」

 

「投げっぱなしか!」

 

一通りリゼ弄りを済ませると自転車にまたがるココア。

サドルは意外と高くしてるように見えたのだが、余裕でココアは地面に足をつける。

 

足長い。

 

思えばココアも女子としてはなかなかの体をしているのだ。

いつものお馬鹿アンドあざといでココアを馬鹿にしてきた八幡ではあるが、そのことに今更気がついた。

 

「で、どうすんの?いきなり坂道でも全速力で下る?」

 

「えぇ!?私死んじゃうよ!」

 

「流石にそれは無理だろ。まずは足で地面を蹴ってバランスをとるところから始めよう」

 

「「普通だ!」」

 

「当たり前だ!」

 

………。

 

チラッ、チラッ。

 

………チラッ。

 

「なんだよ」

 

「後ろで支えてくれないの?」

 

またがったまま、足を動かさずに八幡とリゼの方ばかりに目線をやっているかと思えば、そんなことを期待していたようだ。

 

「リゼ」

 

「普通は男のお前がやるんじゃないのか!?」

 

「リゼちゃん!」

 

「……わかったよ」

 

「リゼちゃんはいい教官になれるよ」

 

「そ、そんなに褒めてもスピードしか出ないぞ!」

 

ギュオオォォォ。

 

そんな効果音がつきそうな勢いでリゼは自転車を押し始める。

 

「ちょ、り、リゼちゃんはや、速すぎ!は、八幡くーーーん」

 

だんだんと遠ざかっていくココアの悲鳴。

もうこのまま帰ってもいいのではなかろうかと八幡は考えたのだが、後で面倒な事態になっても困るので、歩いてついていくことにした。

 

 

 

それから数十分後。

ココアの特訓は順調に進み、とりあえず自分一人で走行することはできるようにはなったのだが、なにぶん不安定なので、未だにリゼと八幡はすぐにフォローできる位置に陣取っている。

 

すると、ココアはバイトに向かう途中のシャロを見つけ、近づいていく。

 

キキッ。がしゃん。

 

ブレーキをかけたのだが、そこでバランスを崩したココアは転んでしまう。

 

唐突に目の前に現れ、自転車で転んだココアに驚くシャロ。

そんなシャロにココアは自転車の荷台を親指でクイッと指差しながら一言。

 

「乗ってく?」

 

「今転んだわよね!?」

 

当然のツッコミである。

 

「すまんなシャロ。バイトまで時間はどれくらいだ?」

 

シャロに申し訳なさそうに問いかける八幡。

その声でシャロは八幡とリゼの存在に気がついたようだ。

 

「あ、八幡にリゼ先輩。えと、あと十数分ね」

 

「バイト先まで、ココアに付き合ってくれないか?二人乗りのコツを掴みたいらしくてな」

 

一人での走行すらも不安定なココアだが、目標は高く、チノを後ろに乗せて走行すること。

故に、今補佐がいるこのタイミングで練習しておきたいのだろう。

 

「まぁ、それくらいなら。その代わり、安全運転しなさいよ!」

 

「任せてよ!」

 

シャロを荷台に乗せ、走り始めたココア。

しかし、まだ慣れてもいないからか、グラグラと揺れながら自転車は進んでいく。

 

八幡とリゼは先程よりも早足ですぐフォロー出来るように並走する。

 

ぐらり。

 

「キャッ」

 

案の定、ココアの自転車のバランスは崩れ、後ろに乗っていたシャロの体は自転車から離れ横に投げ出してしまう。

 

八幡はすぐにそれに反応。

倒れて来たシャロの体をすぐに受け止める。

 

その結果、八幡の腕の中にシャロがいるという、道端で抱き合うカップルのように見えてしまってもそれは仕方のないことなのだ。

 

「大丈夫か?」

 

「え、えぇ、ありがとう」

 

すぐにシャロの無事を確認し、無事だったことにホッとする八幡。

シャロも、助けてくれた八幡の目をしっかりと見て礼をする。

 

その後数秒間、そのままの体制でじっと二人は見つめ合ってーー

 

「私の方も心配してよぉ!」

 

ココアの叫びでハッと我に帰る二人。

すると、今の状況を理解した八幡とシャロは顔を赤く染めてバッと体を離す。

 

「す、すまん」

 

「い、いや、べべ、別に大丈夫!」

 

「リゼちゃーん!八幡くんとシャロちゃんがラブコメしてて構ってくれないよぉ!」

 

「元々はお前が倒れたことがきっかけだろ」

 

リゼに泣きついたココアだがリゼにもあしらわれてしまい涙目のココア。

 

「さ、さあ!もう一度頑張るのよココア!」

 

恥ずかしさを誤魔化すように大きな声を出して、もう一度自転車の荷台に乗るシャロ。

 

「……いいなぁ」

 

ココアがポツリとそう漏らした言葉は幸いなことに、誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

シャー。

 

タッタッタッ。

 

無事シャロをバイト先に送り届けたココアはほぼ完璧に自転車を乗りこなせるようになっていた。

そのため、八幡とリゼはランニング。

 

あまり体力がある方ではない八幡としては困りものだが、リゼも同じ距離を走っているので、男子としては女子に負けたくはないという無駄なプライドによって走るのをやめなかった。

 

「すごいじゃないかココア。こんな短時間で自転車を乗りこなすなんて」

 

走りながらココアに話しかけるというなんとも余裕なリゼ。息もあまり乱れておらず、八幡はギョッとする。

 

「えへへ、リゼちゃんと八幡くんのおかげだよ」

 

「俺はほとんどなにもやってねぇだろ」

 

「そんなことないよ?転んでも八幡くんが受け止めてくれるって信じてるから転ぶのが怖くなかったもん」

 

恐怖心があるのとないのとでは上達速度が圧倒的に違うようだ。

 

「このまま気持ちよくて、どこまでも走れそうだよ」

 

「このままココアの家まで走っていくか!」

 

「行っちゃう!?」

 

「いや無理だろ。山とか登んないといけないだろ」

 

「それもそうだね。……あれ?八幡くんにうちの場所教えたっけ?」

 

「ん?……まぁ、なんでもいいだろ」

 

「そうだね!」

 

別にモカとのことを隠しているわけではないのだが、伝えたら伝えたで問いただされそうなので黙っている八幡。

 

「じゃあ、私の家は無理だから、リゼちゃんと八幡くんの家に寄ってから帰ろう!」

 

「「家にはいれないぞ」」

 

「送ってくだけだよ!?」

 

ココアのことだからずかずかと中に入っていくものかと、二人は思っていたのだが、流石のココアもそこまで常識がないわけではないらしい。

 

「じゃあまずリゼちゃんのお家だね!」

 

「よし、じゃあ、スピード上げるぞ!」

 

「よーし、負けないよ!」

 

唐突にスピードを上げたココアとリゼに、出遅れた八幡。

体力もそんなに残っているわけではなく、見失わないのに精一杯な八幡であった。

 

 

 

リゼを家に送り届けた八幡とココア。

つぎは八幡が家に帰るだけなのだが、先ほどまでのダッシュで体力のそこが尽きた八幡は、息を荒げ、リゼ宅から少し離れたところで息を整えるのに務めていた。

 

「はぁはぁ、なぜ休日にこんなに走らなければいけないのか」

 

「こ、ごめんね八幡くん。はい、お茶」

 

気を利かせて近くの自販機でお茶を買って来たココア。

流石に自分のために来てもらって走らせて、で申し訳なく思い始めたようだ。

 

「よし、八幡くん、私の後ろに乗ろう!」

 

「いや、なにがよし!だよ」

 

「八幡くんが疲れてるから私が乗せてってあげるってことだよ?」

 

「んなことはわかってる」

 

「なにがダメなの?」

 

恥ずかしいから、なんて八幡の口からはとても言えない。

なぜなら口にするのも恥ずかしいからである。

恥ずかしい、なんて言ってしまえば下心ありありなのがバレてしまう。

 

ココアにそれがバレるということは即ち八幡が変態であるという情報が急速で拡散されるのと同義である。

 

「………ほら、あれが、それで、これだから無理なんだよ」

 

「え?なに?もう一回言って?」

 

「………いや、いいわ」

 

なんとか誤魔化そうと試みる八幡だが、遠回しな拒否はココアには通じず、直接も言えない。

一体どうすれば良いのか。

 

別に誰かの後ろになること自体は、モカでも既に経験済みであるが、モカの妹のココアにまで手を出してしまえばそれこそ誑しみたいになってしまう(手遅れな気がしなくもないが)。

 

「さあ、乗って!」

 

「いや、だから」

 

「……お願い」

 

「う、ぐっ」

 

涙目で、上目遣いで八幡を見上げるように八幡にお願いという名の絶対遵守の力をココアは発動させる。

 

「わかったよ」

 

「やったっ、じゃあ乗って!」

 

自転車に跨りココアは前を向く。

 

「乗った?」

 

「ああ」

 

「よーし、しゅっぱーつ!」

 

ガッ!

 

…………ガッ!

 

…………ガッ!

 

 

「進まない!?」

 

ペダルをどれだけ強く踏み込んでも前に進まない事に驚いたココアだが、すぐに元凶が誰だか理解する。

 

「もー、なにやってるの!?」

 

「いたずら」

 

八幡は荷台に乗らず、荷台を掴んで踏ん張り自転車が動かないようにしていただけである。

 

これが八幡のせめてもの抵抗なのだが、すぐに打ち砕かれ、渋々と荷台に座る。

 

「ほら、八幡くん、捕まって!」

 

「……あ、あぁ」

 

ギュッ。

 

「えへへぇ。八幡くんはあったかいね」

 

「うるさい」

 

よーし!と気を取り直してココアはもう一度息を吸って一声。

 

「しゅっぱーつ!」

 

「し、しんこー!」

 

いつかのように、暖かい存在に抱きつきながら八幡は声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 




モカの時の再現ですね。
さすがは保登家。次は二人の母と同じことをやるに違いない(確信)

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